軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第784話 各種測定と健康診断

その後ナヌス達は、いろんなデータを採取していった。

ユグドラツィの根元から再び森になるまでの平地の距離、ユグドラツィの根元を含む大凡の直径の長さ等々。

また、それらも含めて地形調査もしているようだ。

ユグドラツィから他の木々までの距離を、長い紐のようなものを使って東西南北毎に計っていく。

それは約10メートルくらいありそうな紐で、聞けばその長さはだいたい一本の木の高さを表すようだ。

その紐を八人のうち二人、魔術師団団長ヴォルフと副団長パスカルが所持しており、二人一組になって広大な平地をテキパキと計測していく。

計測と記録をしているのは、主に族長長老三人、そして守備隊正副隊長の六人。

その間魔術師団団長と副団長は何をしているかというと、レオニスから空間魔法陣の理論を教わっていた。

ナヌスも空間魔法陣が使えるようになれば、この先何かと便利になるだろうから、というレオニスの配慮によるものである。

ちなみにフギンとレイヴンはユグドラツィの上部、幹より上の枝葉に異変がないかをチェックするために飛び回って確認している。

上空から飛んで眺めるだけでなく、繁みの中にも入って事細かくあちこちを見て回っている。

襲撃事件後のラウルの献身的な看病により、ユグドラツィの枝葉の樹勢は前にも増して大きく緑豊かになった。

その分見て回るのも大変そうだが、もともと二羽は八咫烏の里で、ユグドラシアの枝葉の間に自分の部屋を持っているので、木の枝の隙間を縫うように飛ぶのは得意だ。

それに、一羽だけでなく二羽の目で見れば異変を見逃すことなく確実に発見できるだろう。

一方ライトとラウルは、ユグドラツィにツェリザークの氷の洞窟の氷を振る舞っていた。

氷の洞窟で直接採取した、氷の女王の魔力をたっぷりと含んだ氷。ラウルはそれを惜しげもなく空間魔法陣から取り出し、ライトとともにユグドラツィの根元の隙間に置いていく。

この氷は、ウォーハンマーでガンガン砕いただけのものなので、大小様々な塊が入り混じっている。

そして夏の熱い空気に触れて、ユグドラツィの根の上でみるみるうちに解けて水となってじんわりと染み込んでいく。

「ツィちゃん、久しぶりのツェリザークの氷はどうですか?」

『ええ、とても……とても美味しいです』

「それは良かったです!」

『これは氷の塊だから、今他のものは何も入っていないのですよね?』

「はい。久しぶりのツェリザークの氷なので、まずは素材そのもののお味を堪能してもらおうと思いまして」

とても美味しい、というユグドラツィの言葉に、氷の味の感想を尋ねたライトの顔が綻ぶ。

氷を融かした水になら、いくらでもアークエーテルやら何やらを混ぜることができる。だが、先日ツェリザークの氷の洞窟を訪問したばかりなので、水にまで融かしたものはまだ用意してなかったのだ。

そのため、ライトは内心『もしかして、味が薄めかも?』と憂慮していたのだが、そんなことはなかったようで一安心していた。

「ツィちゃん、何か混ぜてほしい回復剤とかはありますか? もしあればここですぐに作ります!」

『いいえ、このままでも十分です。むしろ、今まで飲ませてもらっていた雪解け水よりも、はるかに濃密な魔力を感じます』

「そうなんですか!? ……あー、でもそれもそうかも。この氷、氷の洞窟で直接採取したものだし」

『ああ、そういえば貴方方、先日は氷の洞窟を訪問していましたものね……氷の洞窟から直接いただいてきた氷なら納得です。氷の女王が発する魔力をふんだんに含んでいるでしょうからね』

今までの水よりも美味しい、というユグドラツィの評価に喜ぶライト。

横にいたラウルを見上げながら話しかけた。

「ねぇ、ラウル。これからは、氷の洞窟の氷をたくさんもらってくるようにしようか?」

「そうだな。俺が普段の料理や飲み水なんかに使う分には、今まで通り洞窟近辺の雪でもいいが、ツィちゃんにあげる水や氷は氷の洞窟から直接採取した方が良さそうだな」

『ライト、ラウル……気持ちはとても嬉しいしありがたいですが……私のために危険な地に赴くのはなるべく控えてくださいね?』

ライトとラウルの相談に、それを聞いていたユグドラツィが申し訳なさそうに二人に話しかけてくる。

世界中の景色を見せてやる!とユグドラツィに誓ったライト達だが、ユグドラツィにしてみればライト達が自分のためにその身を危険に晒すのは本意ではないのだ。

二人のことを心配するユグドラツィに、ライトもラウルもニッコリと笑いながら返事をする。

「大丈夫ですよ、ツィちゃん。氷の洞窟にはたくさんの魔物が出てきますが、レオ兄ちゃんもラウルも普通の魔物に負けるほど 柔(やわ) じゃないですし」

「そうだぞ、ツィちゃん。もともと俺はひ弱な妖精で、魔物との戦闘はおろか喧嘩すらも全く得意じゃなかったが。ツィちゃんやシアちゃんがくれた加護のおかげで、自分の身を自分で守れるくらいにはなったしな」

『ラウル……戦闘や護身はともかく、喧嘩が得意になってはいけませんよ……』

ライトの論はともかく、ラウルの『喧嘩』という言葉に反応して軽く窘めるユグドラツィ。

実際ラウルを始めとする妖精プーリア族は、カタポレンの森に住む者達の中では最弱の部類に属する。

だが、そんなラウルも今では神樹や属性の女王達の加護を得て、メキメキと強くなっている。

「大丈夫、心配すんな。そもそも俺は平和をこよなく愛する妖精だ。売られた喧嘩は時と場合により買うが、俺から無闇矢鱈に喧嘩を売りまくることなど絶対にない」

『なら良いですが……』

変わらず優しい笑顔で微笑むラウルに、ユグドラツィも渋々ながら引っ込む。

かつて軟弱者を自称していたラウルだが、今は守りたいものもたくさんある。

そのためには、いつまでも 強者(レオニス) の後ろに隠れて守られるばかりではいられないのだ。

そんな話をしているうちに、上部の枝葉の点検に飛んでいたフギンとレイヴンがライト達のもとに戻ってきた。

「ツィ様、ただいま戻りました」

「ツィちゃん様の上部の枝葉を隈なく見て回りましたが、特に異変が起きている箇所はどこにもありませんでした!」

「それは良かった!」

「八咫烏の目で見て大丈夫というなら、これはもう安心だな」

上部の枝葉に異変なし、と告げるフギンとレイヴン。

朗報に喜ぶライトとラウルに、ユグドラツィも二羽に対して礼を言う。

『フギン、レイヴン、ありがとう。私は自分で自分の枝葉を見ることはできないので、貴方方に見てもらった上でお墨付きをいただけたら安心です』

「ツィ様のお役に立てますこと、光栄に存じます」

「これ以上ツィちゃん様の身に何かあったらいけませんからね、フギン兄様とともに隅から隅までよーく見ましたよ!」

ユグドラツィからの労いの言葉に、フギンもレイヴンも嬉しそうに応える。

生真面目なフギンは、ユグドラツィのことをユグドラシアと同じく『ツィ様』と呼んでいるが、レイヴンは『ツィちゃん様』と呼んでいる。

畏まった『ツィ様』と砕けた『ツィちゃん』を混ぜていいとこ取りしたような、絶妙なハイブリッド感漂う独自の呼び方。それはレイヴンの明るく朗らかな性格を反映しているようで、なかなかに面白く微笑ましい。

『ふふふ、二羽とも本当にありがとう。シア姉様は、貴方方のような誠実な民に恵まれてとても幸せですね』

「そんな……そう言っていただけると我等も嬉しいです」

「フギン兄様、これは里に帰ったらシア様に褒めていただけますね!父様や母様達にも良い土産話ができました!」

「レイヴン、お前は本当に調子が良いな……でも、良い土産話ができたというのには同意だ」

ユグドラツィに褒められて、胸を張る八咫烏兄弟。

特にレイヴンの方は鼻高々で、ウッキウキの嬉しそうな声で喜んでいる。

そんな弟の様子に、フギンは兄として若干呆れつつも結局は良い土産話になったことを認める。

そんな八咫烏兄弟達に、ライトとラウルが和んでいると、レオニスと八人のナヌス達もライト達のもとに来て合流した。

「おー、皆仲良くやってるなー」

「あ、レオ兄ちゃん、おかえりー!ナヌスの皆さんもお疲れさまです!」

「皆お疲れー。ちと時間は早いが、ここで昼飯にするか?」

「おお、そうするか。今後結界作りをどうしていくか、飯を食いながら打ち合わせできるしな」

諸々の作業を終えて戻ってきたレオニス達を労うライトとラウル。

早めの昼食を摂ろうというラウルの提案に、レオニスも賛成しながら早速ヴィヒトに向かって話しかけた。

「ナヌスの皆も、良ければ俺達といっしょに昼飯にしないか? できれば結界作りの話し合いもしたいし」

「そうだな……我等もきっと今後もレオニス殿達の力を借りねばならぬだろうしな。しかし、我等は昼食の支度など何も持ってきてはいないのだが―――」

「よし、決まりだな!ライト、ラウル、昼飯の支度をするぞ」

「はーい!」

「了解ー」

ヴィヒトの了解を得られるや否や、とっとと昼食の準備を始めるライト達。

ほとんど手ぶらで来たナヌス達は、ポカーン、と口を開けたまま呆気にとられている。

そう、ナヌス達はライト達がこれまでのお茶会やらピクニック等で培ってきた食事の準備スキルの高さを知らないのである。

敷物を三枚、向かい合うように三角形に敷いて、それぞれにナヌス用、八咫烏用、そしてライト達用の昼食や飲み物を出していく。

皆でいっしょに昼食を食べよう!と決まってから、三分も経たないうちに全ての支度が整ってしまった。

「ささ、ナヌスの皆さんはこちらにどうぞ!」

「さすがの俺も、小人族用の食器は持ってないからサンドイッチを小さく切った。すまんが、手掴みで食ってくれ」

「ぃ、ぃゃぃゃ、ここまでしてもらえるとは思っておらなんだ……我等のためのお気遣い、誠に痛み入る」

ナヌス用に用意した敷物に案内するライト。

そこには人間用の小皿の上に、サンドイッチを細かく切ったものが乗せられている。

人族とナヌスは体格が全く違うので、食べ物のサイズも当然違う。

この場でできる即席の対応として、人間用のサンドイッチを急遽ラウルが細切れに加工したのだ。

そこまでライト達がしてくれるとは思っていなかったナヌス達。

ライトの誘いに従い、おずおずと敷物の上に入り輪になって座った。

ちなみに八咫烏兄弟は、もうとっくに八咫烏用の敷物の上で座って待っている。

「皆、揃ったな。じゃ、皆で昼飯にしよう。いッただッきまーーーす!」

「「「「いッただッきまーーーす!」」」」

カタポレンの森、神樹のお膝元でレオニスが音頭を取る『いただきます』の唱和が和やかに響き渡った。