軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第783話 結界の仕組み

ユグドラツィの根元で早速会議を始める八人のナヌス達。

その後ろでは、ライト、レオニスからラウル、そして八咫烏のフギンとレイヴンが静かにその会議の様子を見守っている。

「やはり従来型の結界だけでは、上空の方までは賄えないであろうなぁ」

「そこは魔法陣をより大きくすればいいのでは?」

「もちろんそれもするが、果たしてそれだけで補いきれるかどうかが問題だな」

「何しろ結界の上辺に結べる点がないのが厳しいのぅ」

あれやこれやと意見を出し合うナヌス達。

年齢や立場の差など関係なく、忌憚無き意見交換ができるというのは好感が持てる。

ナヌス達の話を聞いていたレオニスが、ナヌス達に質問をした。

「ナヌスの結界も、上辺に魔法陣が要るのか?」

「ああ。今までの例で言うと、我等の里やオーガの里は周囲の木々の上にも魔法陣を敷くことで、地上の魔法陣と線で繋ぐようにして結界を作っていたのだ」

「あー……もともとナヌスもオーガも空を飛ぶ種族じゃねぇもんな」

ヴィヒトの答えにレオニスも納得する。

カタポレンの森の木々は、小人族のナヌスはもちろん巨躯を誇る鬼人族オーガよりもはるかに大きい。

そしてこの二種族は飛行種族ではないので、里を守る結界も木々より高くする必要もない。

ぶっちゃけた話、彼らが住んでいる屋根の上に魔法陣を敷いても問題ないくらいなのである。

だが、今回の護衛対象である神樹ユグドラツィの場合はかなり勝手が異なる。

ユグドラツィの樹高は、オーガよりも大きい他の木々よりもさらに何倍も高く抜きん出ている。そして周囲は見渡す限り樹海。

そう、ユグドラツィの周辺には彼女と同等もしくはそれ以上に大きいものが一切存在していないのだ。

それ故に、ナヌス達の今までの結界の作り方ではユグドラツィの上部をカバーできないのである。

するとここで、ヴィヒトがレオニスに問い返した。

「レオニス殿、今『ナヌスの結界 も(・) 』と言っていたが……人族が用いる結界も我等のものと同様なのか?」

「ああ。ラグナロッツァ……ああ、ラグナロッツァってのは一番大きな人里の名前なんだが―――」

レオニスの話によると、ラグナロッツァには街の外周四ヶ所、東西南北に結界のための塔があり、さらに北西北東、南西南東の四ヶ所にも結界のための魔法陣があるという。

そして街の中央には最も高い建物があって、その九つの点を結ぶようにして結界を張っているのだそうだ。

「レオ兄ちゃん、それって黄金週間の時にスタンプ集めで回った、あの四つの塔だよね?」

「そうそう。ラグナロッツァの街からもよく見えるのが、その四つの塔。そして四つの塔のそれぞれの中間地点、これが北西北東、南西南東になるんだが。そこにも結界の魔法陣があるらしい。これは街を囲む外壁のどこかにあるそうだ。要は八角形で結んでるってことだな」

「でもって、中央の最も高い建物って、ラグナ宮殿?」

「そそそ。ラグナ宮殿以上に大きい建物なんて、ラグナロッツァには存在しねぇからすぐ分かるよな」

東西南北の四つの塔のことは、ライトも知っていた。

それは、黄金週間の三大イベントの一つ『五月病お祓いスタンプラリー』のスタンプ設置場所として回ったからだ。

だが、それとは別に四つの結界魔法陣があるとは知らなんだ。

それもそのはず、その四ヶ所は具体的な設置場所が明かされていないのだ。

レオニス曰く、そこら辺はいわゆる国家機密扱いで、詳細を知っているのは極一部の者に限られるという。

ラグナロッツァの結界は、もともと国家元首を筆頭として全ての住民を守るためのもの。当然それはテロリスト集団などにとっても恰好の標的となり得る。

万が一にもテロリストに狙われても対処できるよう、結界に関する情報は秘匿されている部分の方が圧倒的に多いのだ。

「人族も我等のような結界の作り方をしているとはな。実に興味深い」

「とりあえず魔法陣さえ設置できりゃ、多少形は 歪(いびつ) でも箱型の結界が容易に作れるからな」

「そう、だからこそ今回そこが最も問題なのだよ……」

「だよなぁー……」

ナヌスとレオニスが眉間に皺を寄せながら目を閉じ、ぬーーーん……と唸る。

箱型の結界は、地面に敷く魔法陣以外にも上辺となる魔法陣が設置できてこそ成り立つ代物。ユグドラツィの場合、その上辺の魔法陣が設置できないのだ。

口をへの字にしながら、うんうんと唸り悩むレオニス達に、ラウルが素朴な疑問をぶつける。

「ご主人様達よ、どうしても上の方にも魔法陣が要るのか? 地面に敷くだけじゃダメなのか?」

「そりゃな? 絶対にダメってことはなかろうが、地面からどこまでの高さまで結界の効果が出てるか、分かり難いのが難点なんだ」

「うーーーん……そういうもんなのか?」

レオニスの答えに、ラウルはいまいちピンとこないようだ。

そんなラウルのために、レオニスがさらに解説していく。

「例えばの話、野外の風呂。温泉なんかの湯気を想像してみ? お湯の近くは湯気がたくさん出てるが、湯面から離れて上にいくに従って湯気は薄くなっていくだろ? それと同じようなもんだ」

「あー、なるほど……そう言われりゃ分かるわ、上の方にも魔法陣があれば、浴室のように湯気を逃さずに湯気で満タンにできるってことだな?」

「そゆこと」

非常に分かりやすいレオニスの例えに、ラウルは目から鱗が落ちたかのような顔をしている。

箱型結界の利点は、実は設置のしやすさだけではない。魔法陣という点と線で結ばれた明確な箱型の閉鎖空間を作ることにより、外敵を弾く魔力を箱型空間の中に十分に充填させることができるのだ。

「しかし、ここには上の方に常時魔法陣を展開できるようなもんがないからなぁ……」

「ツィちゃんの一番上の枝に魔法陣を書く……のは無理だよなぁ。さすがに一番上の枝はかなり細いだろうし」

「上の枝に魔法陣を書き込んだ魔導具を吊るす……のも現実的じゃないよなぁ。雨風で下に落っこちたり、万が一その枝が何かの拍子に折れたら意味ねぇし」

レオニスに加え、ラウルもまた非常に渋い顔をしながら悩み込む。

二人がブツブツと呟いているように、ユグドラツィの枝葉に直接魔法陣を書いたり魔導具を吊るすのは、不確定要素が強過ぎるのだ。

ライトもレオニス達の横でいっしょに考えていたが、同じく良い案が思い浮かばない。

『ツィちゃんより高いものがないなら、ドローンみたいなものをツィちゃんの上に飛ばせばいいんじゃね?』とも思ったが、このサイサクス世界にドローンは存在しない。

それに、そもそもそんな目立つものが空中に浮いていたら、それこそ敵の恰好の的となって真っ先に破壊されてしまうだろう。

結局誰も妙案が浮かばないまま、時間だけが過ぎてゆく。

そうしてしばし無言となった会議の場の中で、最初に口を開いたのはラウルだった。

「上に蓋ができないなら、結局下―――地面の魔法陣だけで、結界の魔力を下から上に向かって結界の魔力を放出し続けるしかないんじゃないか?」

「そうだなぁ……今すぐツィちゃんの周囲に塔を建てるって訳にもいかんし、逆に塔なんて目立つもんを建てたら、それこそまた廃都の魔城の四帝に目をつけられて壊されちまう」

ラウルの問いかけに、レオニスも渋い顔をしながら同意する。

それまでレオニス達の問答を聞いていたナヌス達も、口々に追従し始めた。

「レオニス殿達の言う通りだな。我等の結界は上に楔を作るのが常ではあるが、楔を作ろうにもその依代となるものは空中にはないし」

「そして、依代も無しに常時空中展開できる魔法陣は我等には作れぬ」

「そうさな。作れぬものは潔く諦めて、我等でも作れる地上の魔法陣を強化すれば良いのじゃ!」

「そうですね!幸いにして周辺は大きく開けてますからね、大きな魔法陣もたくさん描けるでしょう!」

一時はとても難しい顔をしていたナヌス達。

レオニスやラウルの意見を聞くことによって、活路を見い出したようだ。

問題解決の光条を見い出したナヌス達の顔も、次第に明るくなっていく。

「そしたら地上の魔法陣をいくつ描けばいいかを計算するか!」

「魔法陣の大きさも、どれくらい大きく描けばいいかを考えねばな!」

「発動方法も手を加えた方がいいかもしれん、儂はそこら辺の改良案を考えるとしよう!」

俄然張り切りだしたナヌス達。その頼もしさに、ライト達は嬉しそうな笑顔で見守っていた。