軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第781話 新たな出会い

ナヌスの里を出て、ユグドラツィのもとに向かうライト達。

長老のパウルとハンスと魔術師団団長のヴォルフがフギンに乗り、長老のドミニクと守備隊隊長シモン、同副隊長リックがレイヴンに乗っている。

残りの二人、族長ヴィヒトと魔術師団副団長のパスカルは、レオニスが両腕で胸元に抱っこしながら飛んでいる。

そしてラウルはというと、ライトをおんぶしながら飛んでいる。

いつもなら、レオニスがライトをおんぶするところなのだが。今回はナヌスの二人を抱えて飛ばなければならないので、初対面のラウルよりもナヌス達と面識のあるレオニスの方が適している、ということになったのだ。

フギンとレイヴンの背に乗ったナヌス達は、初めて空を飛んでいることに大いに歓喜している。

「おおおおお!こんなに高く空を飛んだのは初めてのことじゃ!」

「カタポレンの森を空から見るのも初めてじゃ!」

「空から見るカタポレンの森は、何と広く雄大なことよ!」

「冥土の土産話がまた一つできたわ!」

「ヒャッホー!!」

空を飛ぶ手段を持たないナヌスは、一度も空を飛ぶことなく地上で過ごしたまま生涯を閉じる者がほとんどだ。

だが今回はライト達がともに連れてきた八咫烏、フギンとレイヴンの申し出により空を飛ぶことができた。

生まれて初めて目にする、森の木々より高い空中からの眺め。その絶景にナヌス達が興奮するのも無理はなかった。

そんなナヌス達に、彼らを背に乗せているフギンやレイヴンが笑いながら話しかける。

「冥土の土産などと言わず、折あらばまた我等の背に乗って空からの眺めを楽しみましょう」

「そうですよ!土産話になんてする気にもならないくらい、何度も空を飛べばいいんですから!」

「そうじゃのう、そしたら儂らもそれくらい長生きせんとなぁ!」

「こりゃシモンの嫁を見るだけじゃ済まんな!」

「んだんだ、子供と孫まで見届けんとな!」

「「「ガーッハッハッハッハ!!」」」

フギン達の言葉に嬉しそうに笑う長老達。

豪快な笑い声がカタポレンの森の空に響き渡る。

しかし、そこで引き合いにされたシモンが即刻抗議した。

「おい、ハンスの爺様達まで何を言い出すんだ!」

「何じゃ、嫁は五百年待てば何とかなるんじゃろ? だったら子や孫とてそこからすぐにできるわい」

「俺の子孫がモテると思ってんのか!? 俺の子だって、嫁を迎えるまでに五百年以上は待ってもらうことになるからな!?」

自信満々で長老達に『千年待て!』と言い放つシモンに、長老達が心底呆れ顔になる。

「シモンよ……お前まさか、今からさらに千年以上も待たせる気か……」

「お主というやつは、本当に酷いやつじゃのぅ……儂らにあと千年も長生きしろってのか?」

「お主の家系は代々守備隊隊長を務める、由緒正しい家柄だってのに……今からそんなこと言うてては、血が途絶えてしまうぞぃ?」

スーン、とした顔で口々に愚痴る長老達に、シモンがこれまた得意気な顔で返す。

「フッフーン、俺にはカールという立派な弟がいるから問題ない!何なら妹のヘルミナの子に継がせてもいいしな!」

「シモン、今から弟妹をアテにするでない……」

「そうじゃぞ? お主とてまだ若いんだから……」

何とも賑やかな空の旅だが、本来なら騒がしい長老達にツッコミを入れるはずのヴィヒトはレオニスの胸元でカチコチに固まっている。

肩車同様の緊張もあるが、それ以上に生まれて初めての高所に言葉を失っているのだ。

ちなみに、ヴィヒトと同じくレオニスの胸元にいるパスカルは「おおおー、良い眺めですねぇー♪」と大喜びしている。

ナヌスの重鎮八人のうち、高所恐怖症の気があるのはヴィヒトだけかもしれない。

ナヌスの里を飛び立ってしばらくすると、はるか遠くに神樹ユグドラツィが見えた。

距離で言えばかなり離れているのだが、ユグドラツィは他の木々に比べて頭一つどころか樹高そのものが何倍も大きい。そして、他に遮るものがほとんどない。

故に、森の上空からならはるか遠くでもその姿がはっきりと視認できるのだ。

「おお……あれが神樹ユグドラツィか」

「かなり先にあるようだが、それでもこんなにはっきりと見えるとは……」

「我等が普段目にする木々とは全く違うのぅ……さすがは神樹じゃ」

ナヌス達が感嘆する中、八咫烏兄弟やレオニス、ラウルは順調に飛んでどんどん神樹に近づいていく。

神樹との距離が縮まるにつれ、ナヌス達の声が次第に消えていく。

想像以上の大きさに、皆絶句していた。

そうしてユグドラツィの根元近くに降り立ったレオニス達。

ユグドラツィに向かって早速挨拶をする。

「よう、ツィちゃん。久しぶりだな!」

「ツィちゃん、元気にしてたか?」

「ツィちゃん、こんにちは!」

『まぁ、レオニスにラウルにライトも、ようこそいらっしゃい』

ライト達はユグドラツィと仲良しなので、いつものように気軽に挨拶をする。

そしてユグドラツィの方も、友の来訪に嬉しそうに歓迎の言葉をかける。

レオニス達とともに降り立ったフギンとレイヴンも、まずは恭しく頭を下げながらユグドラツィに挨拶をした。

「ツィ様、お久しゅうございます。八咫烏一族族長ウルスが長男、フギンにございます」

「ツィちゃん様、こんにちは!フギン兄様と同じく、八咫烏一族族長が三男、レイヴンにございます!」

『フギンにレイヴン、ようこそいらっしゃいました。シア姉様の愛し子に会えて、心より嬉しく思います』

八咫烏兄弟の恭しい挨拶に、ユグドラツィも嬉しそうに応えている。

挨拶を終えた八咫烏兄弟は、背に乗っているナヌス達に声をかけた。

「さあ、皆様方、ツィ様のもとに着きましたよ」

「皆様方も降りて、ツィちゃん様にご挨拶を……」

フギンやレイヴンが降りるように促すも、何故かナヌス達からの返事がない。

ナヌス達全員、ユグドラツィを見上げながら呆然としていた。

「何と雄大な……これ程までに大きいとは……」

「こ、これが……森の守り神、神樹ユグドラツィ……」

『ツィちゃん』

「「「え"ッ」」」

ユグドラツィの雄大な姿に感極まっているナヌス達。

そこに容赦なくユグドラツィからのダメ出しが炸裂する。

相手が誰であろうと、ユグドラツィは自分のことを『ツィちゃん』という可愛らしい愛称で呼んでほしいようだ。

そこは可憐な乙女ならではの、ささやかな願いであろうか。

一方、愛称呼びでダメ出しを食らって固まってしまったナヌス達に、レオニスとラウルがそっと声をかける。

「ぁー……もし心理的に抵抗が少なければ、是非とも『ツィちゃん』と呼んでやってくれ。ツィちゃんがそう望んでるんだ」

「そ、そうなのか……? 神樹とは森の守り神であり、厳格な存在だと思っていたのだが……もしかして、違うのか?」

「ああ。このツィちゃんってのはな、見た目こそ大きくて立派な姿をしているがな。中身はとても可愛らしい女の子なんだぞ?」

「か、可愛らしい女の子……」

レオニスの言葉に、またも言葉を失いかけるナヌス達。

耳聡いユグドラツィは、ラウルの言った『可愛らしい女の子』という言葉に俊敏に反応した。

『ラウル……貴方はまたそうやって、私を揶揄おうとして……』

「いやいや、俺は本当のことしか言わんぞ? それはツィちゃんもよく知ってるだろう?」

『ぅぅぅ……そ、それは、そうですが……』

ユグドラツィの抗議に、ラウルは不思議そうな顔をしながらシレッと返す。

ラウルの天然砲に、今日も見事に返り討ちにされてしまったユグドラツィ。消え入りそうな声でモゴモゴと口篭っている。

そう、ラウルにこの手の抗議が届くはずもない。むしろ『照れるツィちゃん、可愛いなー』と思われて終わりである。

枝葉をワッシャワッシャと揺らして照れる?ユグドラツィを見ていたナヌス達も、だんだんと緊張が解けていく。

「……森の守り神様は、とても愛らしい性格をしておられるようだの」

「御名を『ツィちゃん』とお呼びすれば、神樹に喜んでもらえるのか?」

「そうすることで森の守り神に喜んでいただけるのであれば、我らに否やはない」

一同で輪になってしゃがみ、ゴニョゴニョと話し合うナヌス達。

ナヌスにとって、森の守り神である神樹は遠い存在だった。

敬いこそすれ、間違ってもお友達になれるようなものではない―――そう思っていたのだ。

だが、実際に会ってみるとそんなことは全くなかった。想像の中で神格化していた神樹は、とても親しみやすくて可愛らしい性格だった。

そして、ナヌス族自身もそこまで厳格な性格ではない。族長のヴィヒトや長老達、そして若き団長達の会話を見ていれば分かる。

当の神樹がそう望むのなら、願いを叶えてあげたい―――ナヌス達はそう思ったのだ。

ナヌス達の話し合いが終わり、全員すくっと立ち上がり横一列に並んでユグドラツィの方に向き直った。

「森の守り神であらせられる神樹ユグドラツィ、いや、ツィちゃん様。初めてお目にかかる。私は小人族ナヌスの族長を務めるヴィヒトと申します」

『初めまして、ヴィヒト。丁寧なご挨拶をありがとう。私の名はユグドラツィ。神樹族の末席に連なる者にて、堅苦しい言葉は要りませんよ』

「お心遣い、痛み入ります。森の守り神がこんなにも親しみやすい御方だとは存じませんでした。ツィちゃんにお会いできて、光栄の極みにございます。以後お見知りおきを……」

『ライト達が連れてきた者ならば、私にとっても信に足る者。どうか気を楽にしてくださいね』

友好的な挨拶を交わす、神樹と小人族。

互いにとって新たな異種族との触れ合い、そして新たな友との出会い。

ユグドラツィの喜びを表すかのように、サワサワと心地良い葉擦れの音が静かに響いていた。