軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第770話 ホドの名産品と特殊スキル

道場の正門まで移動するライト達。

ライト達を見送るために、ハンザ以下幹部も皆ついてきていた。

「いやー、ここを出たらホド博物館に行くつもりだったんだが。そんな時間すっかりなくなっちまったな!」

「おお、それはすまない。私が特別稽古など頼まなければ、ゆっくり観光していけただろうに……本当に申し訳ないことをしてしまった」

「いやいや、気にすんなって。ホド博物館ならまたいつでも行けるし。それより何より俺自身、久々にここで思いっきり身体を動かせて楽しかったしな!」

「そう言ってもらえるとありがたい」

正午をとっくに過ぎた今、ホド博物館に立ち寄る時間など全くない。

せいぜいどこかの定食屋で、急いで昼食を食べていくくらいの時間しか残っていなかった。

「なぁ、ハンザ。このホドで昼飯を食ってからラグナロッツァに戻りたいんだが、ホドの名物って何だっけ?」

「ホド名物と言えば、パンプキンスライムを使った菓子類が一番有名だが……昼食で食べるなら、かぼちゃ料理が絶品の店が近所にあるから、今から皆でいっしょに食べに行かないか? 今日の特別稽古の報酬代わりと言っては何だが、私が奢ろうじゃないか」

「お、いいのか?」

「ちょうど昼食時だしな。それに、昼食を奢る程度では金剛級冒険者の数時間を奪った代償にもならんが。せめてホド名物の食べ物くらいは奢らせてくれ」

「なら遠慮なくお言葉に甘えるとするか」

特別稽古の報酬代わりに昼食を奢るというハンザ。

確かに世界一強い冒険者ともなれば、ほんの数時間とて貴重なものだ。もしこれが冒険者ギルドを通した正式な指名依頼ならば、数万Gは支払わなければならないだろう。

それを考えれば、師範代を含む全員分の昼食を奢る方がはるかに安上がりなのである。

「では我らも軽く着替えてくるから、五分か十分ほど時間をくれぬか?」

「おう、それくらいなら問題ない。俺達はどこで待っていればいい?」

「裏門から行く方が近いから、裏門付近で待っててくれるか。裏庭には番のカラスや犬なんかがいるから、もし良ければそれらを眺めていてくれ」

「了解ー」

正門まで来たライト達だったが、昼食を皆で摂ることになり状況が一転した。

ハンザ達は道着から普段着に着替えるために急いで本館や道場に戻り、ライト達はレオニスを先頭に裏門のある方に向かう。

裏門付近にはハンザが言っていた通り、広々とした裏庭があった。そこには一本の大きな木があり、下には犬小屋があって犬が昼寝をしている。

そして木の上には、鳥用と思しき大きな巣箱が三つあるのが見える。

「あれがここで飼っている犬とカラスのおうちかな?」

「だろうなー」

ライトとレオニスが木を見上げながら、そんな風にのんびりと会話をしていると、突如巣箱がガタガタと動きだした。

これは一体何事ぞ?と皆して見ていると、巣箱の中からカラスが続々と飛び出してきて、ライト達の前に降下したではないか。

「「「???」」」

カラス達の不思議な行動に、ライト達は首を傾げるばかりだ。

ライト達とカラス達は、しばし無言で対峙する。

すると、それまでラウルの両肩に留まっていたムニンとトリスがパタパタと飛び、カラス達の前に降り立った。

そして二羽の八咫烏姉妹の前にいた六羽のカラスは、ムニン達に向けて恭しく頭を垂れた。

「「「!!!」」」

その光景に、ライト達は激しく驚愕する。

カラス達はムニン達の正体を悟り、霊鳥八咫烏に対して敬意と恭順の意を示しているのだ。

ムニン達もそれが分かっているのだろう、うむうむ、とばかりにコクコクと頷いている。

「やっぱ八咫烏って鳥類の中でも偉い方なんだねぇ……」

「まぁな、神格の高い霊鳥とされるくらいだからな」

「ねぇ、ラウル。ここのカラス達と仲良くするために、焼き立てのたまごボーロをもらえる?」

「おう、いいぞー」

カラス達の行動を見たライトが、ラウルに先程焼いたばかりのたまごボーロをおねだりする。

空間魔法陣を開いたラウルがたまごボーロを取り出し、ライトの手にザラザラ……と手渡していく。

まだほんのりと温かいそれを手に持ったまま、ライトはカラス達の近くにしゃがんで差し出した。

「カラスさん、こんにちは。良かったら、ムニンちゃんとトリスちゃんといっしょに仲良く食べてね」

ライトの手の上のたまごボーロを、まずはムニンが一粒嘴で摘んで食べる。

その次にトリスが一粒食べて、八咫烏姉妹の二羽の後にヴァイキング道場のカラス達が啄み始めた。

ここでもムニンとトリスに先を譲るあたり、とても賢いカラス達である。

そうしてカラス達にたまごボーロを与えていると、着替え終えたハンザ達が来た。

「皆待たせたな。……って、うちのカラス達に餌をくれていたのか」

「おう、ここのカラス達はおとなしくて可愛いな!」

「いや、普段は道場生や配達なんかの顔馴染み以外の知らない人には、絶対に近づかないんですが……」

「初めての人からたまごボーロをもらうなんて、珍しいこともあるもんですねぇ」

「今日は鳥仲間の文鳥ちゃんがいるからですかね?」

「そうかもしれませんねー」

おとなしくて可愛いカラスだ、と褒めるレオニスに、コルセアや師範代達が不思議そうな顔をしている。

木の上から一目散に降りてきたカラス達は、どうやら普段は見知らぬ人には近づかないらしい。

やはりムニン達八咫烏の降臨?が原因なのだろう。

手の平のたまごボーロが全部なくなったところで、ライトがパン、パン、と軽く手を叩いて払ってから立ち上がった。

「さ、ムニンちゃん、トリスちゃん、行こうか!」

ライトの呼びかけに、八咫烏姉妹がパタパタと飛び上がりライトの両肩に留まった。

そうして一行は、皆で昼食を摂るべく裏門を潜って出ていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ヴァイキング道場の裏門から出て歩くこと約二分。

ハンザのオススメの店『唐瓜』に到着した。

案内役のハンザを先頭に、ライト達一行がぞろぞろと店の中に入る。ヴァイキング道場組が七人、ライト達が三人、計十人の団体客様である。

「いらっしゃいませー!……あ、ハンザ先生にコルセアさん達もようこそ!」

「女将、座敷は空いているかね?」

「はい、空いております、どうぞ奥にお進みください!」

「ありがとう」

ハンザの顔を見た店の女将が、明るい笑顔で皆を迎え入れる。

ハンザ自らがオススメするだけあって、ヴァイキング道場の面々とも顔馴染みのようだ。

大人数が座れる奥の座敷に入ったライト達。座敷に敷かれた座布団の上に適当に着席する。

「女将、今日のオススメは何かな?」

「かぼちゃグラタンとかぼちゃコロッケの洋風定食、かぼちゃの煮物と煮魚の和風定食、他にもかぼちゃのミートパイやかぼちゃ入り夏野菜カレーなんかもオススメですよ!」

「なら、そのオススメのものでとりあえず十人前持ってきてくれ。あと、酒七つとジュース三つを先によろしくな」

「はーい!」

ハンザが女将オススメの品十人前と飲み物を注文した。

その後すぐに飲み物類が運ばれてきた。

ハンザ達ヴァイキング道場組は全員ビール、ライトとレオニスとラウルは全員ぬるぬるドリンクパンプキン味。これは、午後から用事があるというレオニス達にハンザが配慮したものだ。

一行を代表してハンザが立ち上がり、乾杯の音頭を取る。

「では、今日の三年ぶりの再会を祝し、そしてまた再会を願って。乾杯!」

「「「乾杯ーーー!」」」

ビールのジョッキを高々と掲げたハンザに、他の面々も続いてジョッキやグラスを高く上げて周囲の人達と乾杯を交わす。

ハンザ達ビール組はグビグビと一気に飲み干し、ライト達ジュース組は一口二口軽く飲んでグラスを置く。

「お前ら、昼間っからそんなに飲んでていいの?」

「全く問題ないな。何故ならこれは、激しい稽古の後のエネルギー補給だからだ!」

「そうそう、ハンザ先生が飲んでんだから問題ナッシング!」

「いやー、稽古の後のビールは格別だなぁー!」

ぷはー!と満足そうに一息つきながら、空になったジョッキをタン!とテーブルに置くハンザ達。

確かにレオニスのツッコミも尤もなのだが、ヴァイキング道場の主にして頂点であるハンザから率先して飲んでいるのだから大丈夫なのだろう。

そしてライトはライトで、新種のぬるぬるドリンク『パンプキン味』なるものの分析をしている。

味のベースはオレンジ味で、その中にほんのりとかぼちゃ特有の甘みが感じられる品だ。

「ぬるぬるドリンクのパンプキン味って、ぼく初めて飲みました!」

「そうだろう、そうだろう。ホドの街の周辺にはパンプキンスライムという固有の魔物がいてな。そのスライムから得るぬるぬる成分で作るドリンクや菓子類が名産品なのだ」

「パンプキンスライムって、確かかなり特殊なスライムでしたよね?」

「おお、よく知ってるな。その通り、パンプキンスライムは物理攻撃も魔法攻撃も全く効かないのだ」

「やっぱり…………」

ライトはこのホド名物のもとだというパンプキンスライムなる魔物に、心当たりがあった。

それは、BCOの中で主にハロウィンイベントに出てくる臨時討伐の魔物であった。

ライトはぬるぬるドリンクパンプキン味をゆっくりと飲みながら、頭の中で考える。

『くッそー、あのパンプキンスライムはこのサイサクス世界ではホドの街に出るのか……そういや魔物図鑑にもパンプキンスライムのデータがあったっけ』

『確かにアイツは物理無効の魔法無効で、その手の魔物に唯一通用するのはファイパンとかの、いわゆる固定ダメージスキルだけだったんだよなぁ……』

『……そうすると、ここのパンプキンスライムはどうやって倒すんだ? ジョブシステムの中に、BCOの固定ダメージスキルのような効果を持つジョブなんてなさそうだし……』

ライトの知るBCOのパンプキンスライムは、物理攻撃も魔法攻撃も通じない特殊な臨時討伐モンスターだった。

そのHPは500という、一見そこら辺にいる雑魚モンスターにしか思えないスライム。だがその特殊耐性により、どんなに強力な剣戟や魔法を繰り出そうともダメージは一切発生しない。

固定ダメージスキル以外は、全てゼロ判定が出てしまうのだ。

唯一そのHPを削ることができるのは、ダメージ量が10とか20など一定量と決まっている『固定ダメージスキル』のみ。

そしてライトが思い浮かべている『ファイパン』、正式名称『ファイターパンチ』もその一つであり、一回のヒットで必ずダメージが10入るというスキルである。

それは人魔問わずで、対人戦だろうが魔物狩りだろうがレイドボス戦だろうが一切の例外はない。

そしてハンザの話を聞く限り、このサイサクス世界のパンプキンスライムもBCOと同様に、物理攻撃も魔法攻撃も完全無効らしい。

そうなると、その倒し方が俄然気になるところだ。

ライトがこの世界に来てから、固定ダメージスキルのような魔法や魔術の話を一度も聞いたことがない。

一体どうやってパンプキンスライムを倒すのだろうか?

「物理攻撃も魔法攻撃も効かないなら、一体どうやって倒すんですか?」

「それはな、大量の小石を使うんだ」

「…………小石??」

「そう、これくらいの小さな石をパンプキンスライムに投げつけるんですよ」

ハンザの意外な回答にライトが首を捻っていると、ハンザの横に座っていたコルセアが人差し指の爪を指し示しながら解説してくれた。

コルセアの話によると、人差し指の爪ほどの小さな石をパンプキンスライムに何度も命中させることで、少しづつダメージを蓄積させていくのだという。

「小石じゃなきゃダメなんですか? もっと大きな石をぶつける方が早く倒せるのでは?」

「それが不思議なことに、この人差し指の爪くらいの小石でないとパンプキンスライムにダメージが与えられないんですよ。だからパンプキンスライムを狩るには、この小さな小石を予め百個くらい用意して投げつける他ないんです」

「そうなんですかぁ……」

「詳しい理論は解明されていませんが、石の大きさや重さが一定以上になると、物理攻撃と判定されて弾かれるからではないか、というのが有力な説ですね」

小石を投げつけるのも物理攻撃の一種じゃないのか?とライトは思ったが、そうではないらしい。

確かに人差し指の爪ほどの小石をぶつけられたところで、眼球にでも直撃しない限りはHPの1も削られることはないだろう。

それがこのサイサクス世界における固定ダメージスキル代わりになっている、と考えればBCOを知るライトも納得である。

「でも、いくら小さな石でも百個持ち歩くなんて、結構大変そうですねぇ」

「そう、しかもパンプキンスライム一体につき小石を五十個以上当てないと倒せないから、それこそたくさんの小石を持ち歩かなければならないんですよ」

小石は物理攻撃として使う訳ではないので、力を入れて投げつける必要はない。だが、軽くでも何でもとにかく命中させなければ意味がないのだ。

小石百個を持ち歩くというのは、必要最低限の五十個を当てる以外の外れた分を見越して、余裕をもって多めに用意しておく、ということらしい。

確かにBCOの固定ダメージスキルもよく外れてたわなぁ、五十回当てて倒すのに毎回AP70とか80くらいは使ったもんな……とライトは内心で考察をしている。

BCOとは似て非なるサイサクス世界だが、それでもこうして様々な類似点が発見できるのはライトとしても面白く興味深かった。

そんな話をしているうちに、注文していたかぼちゃ料理各種が届けられ始めた。洋風定食に和風定食、ミートパイに夏野菜カレーなど、どれも美味しそうだ。

追加のビールやジュースも届き、座敷の中はさながらプチ宴会状態になっていく。

「さぁ、レオニス君達もどれでも好きなものを食べてくれ!」

「よし、じゃあ俺は洋風定食をもらうか」

「ぼくは夏野菜カレー!」

「俺はミートパイにしよう。パイ料理の新たな逸品の習得になりそうだからな」

レオニス達もハンザ達も、思い思いに好きな料理を取って自分の前に置いて食べ始めた。ハンザが一押しする店だけあって、どれも絶品料理である。

どの料理にもかぼちゃがふんだんに使われていて、その美味しさに舌鼓を打つライト達。さすがにメイン食材は本物のかぼちゃだが、煮物のあんかけやカレーの隠し味にぬるぬるドリンクパンプキン味が使われているようだ。

ホドの街の名物を存分に楽しんだライト達だった。