軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第763話 八咫烏姉妹の人里滞在二日目

ムニンとトリスを連れて、ラグナロッツァの市内観光をした翌日。

今日は皆でマキシが働いているアイギスを訪問する日である。

前日の晩御飯時にマキシが言うには、カイ達三姉妹に姉達の訪問の可否を尋ねたところ快く許可してくれたそうだ。

ただし、午前中は来客応対で忙しくなりそうなので午後、お昼ご飯を食べた後一時以降に来てくれ、とのこと。

そして今朝も四人と二羽は、ラグナロッツァの屋敷で和やかな会話とともに朝食を摂っていた。

「ぅぅぅ……今日は午後から姉様達がアイギスにいらっしゃるかと思うと、今から緊張します……」

「まぁ、マキシ、緊張することなんて何もないのよ? いつも過ごすようにしていてくれればいいのだから」

「そうよ、私達は普段の貴方がどんな風に過ごしているか、人里でのお仕事はどんなことをしているのかを見たいの!」

実姉達の職場訪問に、今から緊張を隠せないマキシ。

緊張をほぐしたいのか、マキシはライトの方に向かって問いかけた。

「そういえば、レオニスさんやライト君はアイギスに御用はあるんですか?」

「あー、前にカイ姉に頼んだ海樹の枝のアクセサリーが出来上がってるだろうから、それを受け取る予定だ」

「ぼくは紐を納品する予定ー」

「そうですか。ラウルはどうするの? さすがにラウルが買いたいようなものは、アイギスにはないよね……?」

ライトやレオニスには、ムニン達の実弟職場訪問に付き合う以外にもアイギスに用事があるという。

しかし、普段からアイギスと頻繁に付き合いがある二人と違い、ラウルにはアイギスに立ち寄る用事などほぼ存在しない。

だから、マキシとしてもラウルがアイギスに来ることはないだろう、と思いつつ一応尋ねてみたのだが。

ラウルからは意外な答えが帰ってきた。

「あー、確かにアイギスの品々は普段の俺にはあまり関係ないが。今日は俺もカイさん達と話をする予定だ」

「えッ!? ラウルがカイさん達と話すことなんてあるの!?」

「そりゃあるさ。俺の冒険者登録祝いにご主人様が贈ってくれた黒の革装備一式、あれはアイギスで作ってもらったものだからな。使い心地を伝えたり、今後のメンテナンスの相談なんかもしておきたい」

「ぁー……そ、そういえばそうだったね……」

ラウルの完璧なる正論に、マキシは若干言葉に詰まりながらも納得している。

そう、アイギスはラウルの普段の買い物ルートには全く含まれないが、レオニスからもらった黒の天空竜革装備一式だけは話が別だ。

革装備の手入れ方法だけなら現役冒険者のレオニスからも聞けるが、素材が特殊なので製造元であるアイギスに相談するのが一番いいのである。

「それに……俺もマキシの働く姿も見たいしな」

「えッ!? ラ、ラウルまでまたそんなこと言って……!」

「いやいや、だってこんな絶好の機会はなかなかないだろう?」

「そ、それは……」

ニヤリと笑いながら言い放つラウルに、マキシが焦っている。

結局のところ、ラウルもまたマキシの保護者のようなものなのだ。

ラウルにとってマキシは、かつてカタポレンの森で過ごしていた頃から無二の親友。そしてマキシが人里に出てきてからも、先輩として常にマキシを見守りつつあれやこれやと世話を焼き指導してきたのだから。

そうして和やかに過ごすうちに、マキシの出勤時間になった。

マキシは席を立ち、食器を下ろしがてら皆に話しかける。

「では、僕はそろそろ仕事にいってきますね!」

「おう、カイ姉達の言う通り午後一時以降に皆でアイギスに行くから、皆によろしく言っといてくれ」

「分かりました。……あ、そうだ、カイさん達も、ムニン姉様とトリス姉様に会えるのをとても楽しみにしてるって言ってました。きっと、僕以外の八咫烏に興味があるんだと思います」

「まぁ、そしたら私達も今日皆様方にお会いできるのを心より楽しみにしている、とお伝えしておいてちょうだいね!」

「分かりました!」

午後にアイギスで会うことを改めて約束し、マキシは食堂を出て出勤していった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

その後はライトとレオニス、ラウルの三人今後の予定を話し合う。

アイギスに行くまでの時間、午前中をどう過ごすか決めねばならない。

「さて、そしたら昼になるまでどう過ごそうか?」

「ンー……ラグナロッツァの中で気軽に行ける主な場所は、昨日一通り出かけたよねぇ」

「そうだなぁ、ヨンマルシェ市場に冒険者ギルド、孤児院に魔術師ギルド、昨日のうちに結構見て回ったしなぁ」

「そしたらさ、他の街に行かない? ツェリザークとかプロステスとかさ」

「他の街か?……あー、同じ場所に行くよりは、いっそのことそうしてもいいかもな」

「でしょでしょ!」

ライトの提案に、レオニスは少し考えてから同意した。

何度も同じ場所に出向くのも、別に悪いことではない。

だが、ムニンとトリスが人里にいられるのは明日まで。明日の昼には八咫烏の里に戻らなければならない。

そして丸一日出かけていられるのは今日だけ。ならば昨日見たところではなく、違う景色を見せてやりたい―――ライト達がそう思うのも自然なことだった。

しかしそうなると、今度はどこに行くかが問題だ。

これまでライトが出かけたことがあるのは、ツェリザーク、プロステス、ファング、ネツァク、エンデアン、ゲブラーなどである。

ちなみにディーノ村は除外してある。ディーノ村にはそもそも人がいなさ過ぎて話にならないためだ。

こんなことをクレアが聞いたら、小一時間どころか小一ヶ月はお小言を食らいそうだが。

「そしたらどの街にしよう?」

「ンー、時期的に言えばツェリザークが涼しくていいんだが……ツェリザークはこないだ行ったばっかだしなぁ」

「それ言ったら、エンデアンもファングもプロステスも行ったばかりだよねぇ」

「そうなんだよなー。どうせ出かけるなら俺達も初めて、もしくは久しく行ってない場所に行きたいよなぁ……」

「なるべく人が多くて、見どころのある場所だともっといいけど……」

ライトとレオニスが、上下左右に首を捻りながらうんうんと唸り続ける。

ちなみにラウルとムニン、トリスは、苦悩するライト達の顔を眺めつつおとなしく静観している。八咫烏姉妹はもとより、ラウルもラグナロッツァ以外の人里のことはあまり分からないのである。

そして、ライト達がここまで苦悩しているのには訳がある。

これから行く街は、ただ単に見どころがあれば良いというものではない。ムニン達の人化の術の勉強のためにも、人がそれなりに多数いて賑わいのある街でなければならないからだ。

この二つの条件を、首都ラグナロッツァ、城塞都市ツェリザーク、港湾都市エンデアン、商業都市プロステス等の大都市以外で満たすとなると、案外思いつかないものだ。

するとここで、レオニスがようやく何かを思いついたように口を開いた。

「……そしたら、ホドに行くか」

「ホド? えーと、何だっけ……あ、『天翔るビコルヌ』のバッカニアさん達の故郷、だっけ?」

「そうそう。ホドの近郊には街の名前でもある『ホド遺跡』があってな。ツェリザークほどではないが、北部寄りで夏は涼しいから避暑地としても人気が高い街なんだ」

「そうなんだ!ぼく、その街に行ったことないから一度行ってみたいな!」

「だよな。俺はホド遺跡に何度か足を運んだことがあるが、ここ数年は行ってないから久しぶりに行くのもいいかと思ってな」

レオニスの提案に、ライトは一も二もなく賛成する。

ライトとしても、既知の街より未知の街に行きたいと思うのは当然のことだ。

しかもこの『ホド遺跡』をライトは知っていた。

それは、BCOの中で出てきた名称だった。

『ホド遺跡か……懐かしいな』

『BCOでは、ホド遺跡は課金任務の場所として出てきていたけど……このサイサクス世界のホド遺跡は、どうなってるんだろ?』

『……ま、ゲームの課金任務のように『遺跡を調査していたら、巨大なモンスターが突如襲ってきた!』なーんてことにはまずならないよなー。そんな事態が起きたら、それこそ世界中が震撼しっぱなしになるし』

先日バッカニアの口から『ホド』という言葉が出てきた時点で、ライトはそれがBCOの課金任務の舞台となっている街であることに気づいていた。

そして今日、図らずもレオニスの提案によりホドに行けることになり、ライトの目は爛々と光る。

「そしたら今日は、そのホド遺跡にも行けるの?」

「ンー、ホドの街自体は避暑地兼遺跡がある街ってことで、そこそこ賑わいがあるんだが。ホド遺跡そのものは街からかなり遠いんだよなー」

「じゃあ、午前中に行って帰るってのは無理?」

「そうなんだよなー。だから、ホド遺跡は近いうちに行くことにして、今日はホドの街の様子だけ見に行くのがいいだろうな」

「そっかー、それは残念……」

ライトが喜んだのも束の間、今日はホド遺跡には行かずホドの街の散策に留まるという。

甚だ残念ではあるが、今日は午前中しか時間がないことを考えるとそれも致し方ない。

楽しみは次回にとっておくことにしよう、とライトは思い直すことにした。

「じゃあ、ホド遺跡はまた今度連れていってもらうことにして。今日はムニンさんとトリスさんのために、ホドの街の散策しよう!」

「ライト殿、我等のことをお気遣いいただき、本当にありがとうございます」

「マキシはこのように優しいお友達に恵まれて果報者ですね」

「ぃ、ぃゃぁ、そんな……」

ムニンとトリスに礼を言われたり褒められたりして、ライトが照れ臭そうに笑う。

本当はホドの街に対して下心ありまくりなライトなのだが、それでもこうして八咫烏姉妹に感謝されるのは悪い気はしない。

「じゃ、俺達も支度してホドの街に行くか。ライト、ラウル、身支度整えて九時半に玄関集合な。ムニンとトリスはラウルについててくれ」

「はーい!」

「了解」

「「分かりました」」

行き先も無事決まり、出かける準備を整えるべくライト達は食堂を出てそれぞれに分かれていった。