軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第758話 深い感銘と初めての勝利

冒険者ギルド総本部に向かったライト達一行。

レオニスの右肩にムニン、左肩にトリスが留まっている。

道中でレオニスがムニン達に説明がてら、様々なことを話しているためだ。

「今から向かうところは『冒険者ギルド』と言ってな、俺の職場だ」

「そこにもたくさんの人族がいるのですか?」

「ああ、この時間だと人は少なめかもしれんがな。それでもかなりの冒険者がいるはずだ」

「レオニス殿も、その『冒険者』というものなのですか?」

「その通り」

ムニン達の質問攻めに、レオニスが適宜答えている。

さすが知性が高いと言われる八咫烏だけあって、理解や飲み込みが早い。

そして最も彼女達が気になっている質問が、トリスの口から飛び出した。

「その冒険者ギルドというところに、私達の人化の術の参考になる女性もたくさんいるのですか?」

「いや、残念なことに冒険者における女性の割合はかなり低い」

「では、私達が見るべきところは少なめ、ということですか?」

「そうでもないぞ?」

トリス達の質問に、レオニスが軽い口調で答える。

「確かにムニン達の人化の術の参考となる部分は少ないだろう。だが、見るべきところは女ばかりじゃない。男の顔もたくさん見ておいた方が絶対にいい」

「何故ですか?」

「そうすれば、ウルスやフギンが人化の術で変身した時に、あんた達も意見が言えるだろう?」

「ああ、なるほど、そういうことですか。確かにそうですね!」

レオニスの答えに、ムニンもトリスも納得しきりといった表情になる。

人化の術の会得のために動いているのは、何もムニンやトリスだけではない。いずれ父ウルスやその子フギン、ケリオン、レイヴンも人化の術を会得しに人里見学に出る。

今ここでムニンやトリスも『人族の男性の顔とはどのようなものか』をしっかりと覚えておけば、父や兄弟にアドバイスしてあげられる、ということだ。

そのことを早々に理解したムニンとトリスは、張り切りながらレオニスに話しかけた。

「レオニス殿の深いご配慮……このムニン、甚く感銘いたしました!人族の顔貌だけでなく、人里にあるあらゆる物事を隅から隅まで余すところなく観察いたします!」

「そうですよね!私達のことだけでなく、父様や兄様、弟達の役に立てるよう、一生懸命頑張ります!」

「ははは、張り切り過ぎて疲れない程度に頑張ってな」

己のことだけでなく、他の家族皆のためにもなれるように―――レオニスの何気ない言葉に込められた意図に、ムニン達は深く感銘を受けている。

思いを新たに張り切る二羽の決意表明に、レオニスはカラカラと明るく笑いながら励ました。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

そんな話をしているうちに、冒険者ギルド総本部に着いた。

早速中に入り、周囲を軽く見渡すレオニス。既に日も高い時間なので、あまり混雑してはいないようだ。

しかしレオニスが冒険者ギルド総本部に入ると、他の冒険者達が目聡く見つけてわらわらと寄ってきた。

「おお、レオニスさんじゃねぇか、久しぶり!」

「何だ何だ、こりゃまた珍しい人が来たもんだな」

「今日はどうした、情報収集にでも来たんか?」

顔馴染みの冒険者達が、レオニスに矢継ぎ早に挨拶したり質問したりしている。

それに対しレオニスは「おう、久しぶり」「珍し過ぎてありがたいだろ? 手を合わせて拝んでもいいぞ」「いンや、今日は金下ろしに来たんだ」等々、ちゃんと一人一人に受け答えしている。

レオニスの人気者っぷりがよく分かるというものだ。

そんな中、一人の冒険者がムニンとトリスの存在に目を留めた。

「お? 今日は坊ちゃん以上に可愛らしいお連れさんを連れてんな」

「おう、知り合いから数日の間だけ預かることになったんだ」

「黒い文鳥か? しかも二羽も連れてるなんて、両手に花ならぬ両肩に花だな!」

「まぁな。どっちも女の子なんだ。どうだ、羨ましいだろ?」

「何ッ、両方とも女の子だとぅ!? レオニスにもとうとうモテ期到来か!?」

「くーーーッ、羨ましいぞ!!」

レオニスを中心に、ワイワイと他愛もない話を繰り広げる男達。

文鳥相手に両手に花だのモテ期到来だの、傍から聞いていたら無性に侘びしくなる内容だ。

だが冒険者達は、皆一様に大真面目にレオニスのことを羨ましがっている。どうやら彼らは本気で『レオニスにもモテ期が!!』と思っているようだ。

だが、レオニスの両肩に留まっていたムニンとトリスはびっくりしている。

人族の中でも強面揃いの冒険者達にいきなり囲まれて、何が何やら訳が分からず固まっているようだ。

人族の男性も、穴が開くほど観察してやる!と張り切っていたものの、いざ大勢の強面に取り囲まれるとやはり緊張して動けなくなっていた。

「おいおい、ただでさえお前らのツラは怖ぇんだから、あんまジロジロ見ないでくれ。お前らの威圧で萎縮しちまうじゃないか」

「お、おう、そうか。おい、野郎ども!可愛こちゃんを怖がらせるんじゃねぇぞ!」

「そうだそうだ、皆笑顔になれ!」

「「「ニィーーーッ!!」」」

固まってしまった小鳥達の緊張をほぐそうと、冒険者達が精一杯の笑顔でムニン達に笑いかける。

巻き舌で威勢の良過ぎる掛け声の後の、強面男達のニヨニヨ笑顔は実に、実に胡散臭い。

もし幼い子供が見たら、確実にギャン泣きしながら猛ダッシュで逃げていくところだ。

だが、冒険者達の懸命の好意がムニン達にも伝わったのか、固まっていた身体から緊張が解けて翼をパタパタと動かした。

「おおッ!可愛こちゃん達が喜んでくれてるぞ!」

「やっぱり動物は、俺達のことを顔だけで判断したりしないよな!」

「ああ、きっと魂の善良さを見抜くんだな!」

ムニン達の愛らしい仕草に、冒険者達の顔が一気に明るくなる。

臆面もなく己が魂の善良さを自ら主張するのもどうかと思うが、実際中身は気の良い者達なのでそこら辺は許してやってほしい。

クレナの窓口に並びながら、そんな雑談をしていたレオニス達。

そろそろレオニスの番が回ってきそうなので、レオニスが冒険者仲間達に話しかける。

「お、そろそろ俺の番になりそうだ。お前ら、また今度な」

「おう、レオニスの旦那もまたな!」

「またいっしょに飲もうぜ!」

「俺は酒飲めねぇっての……」

別れを告げるレオニスに、一人の冒険者がふと何かを思い立ったように声をかける。

「……そうだ、そしたらあすこにいる兄ちゃんの冒険者登録を祝って、盛大な飲み会でもしねぇか?」

「ン? ラウルのことか?」

「そうそう。その兄ちゃん、ラウルっていうんか? 冒険者登録したばかりだってのに、かなりの実力者だって聞いてるぜ!」

何とその冒険者仲間は『ラウルの歓迎会をしよう!』と言い出したではないか。

それを聞いた他の冒険者仲間達も、すぐにラウルを取り囲み「おお、そりゃいいな!」「俺も参加するぜ!」といった賛成の声を上げている。

ちなみに今ラウルは、ライトとともにのんびりと依頼掲示板を眺めている。

いつもは他の都市で殻処理関連ばかりしているラウルだが、このラグナロッツァに住んでいる以上は総本部ギルドの依頼も見て勉強しておかねばならないのだ。

そんな勤勉なラウルに、窓口付近にいるレオニスが大きな声で呼びかける。

「おーい、ラウルー、ちと話があるからこっち来てくれー」

レオニスに名を呼ばれたラウル、『ン?』という顔をしながら振り返る。

右手を高く掲げて左右に振るレオニスを見て、自分のことを呼んだのだと理解したラウルは素直に窓口の方に向かった。

「どうした、ご主人様。何かあったのか?」

「いや何、こいつらがお前の冒険者登録を祝うための歓迎会をしたいって言っててよ」

「俺の歓迎会??」

レオニスの話に、目をぱちくりとさせながら驚くラウル。

突如話題に上げられたラウルは、あまりにも突然のことに戸惑いながら周囲の冒険者達に話しかける。

「それは非常にありがたいことだが……俺みたいなド素人の新人に、歓迎会なんて大層なもんを開いてもらってもいいのか?」

「もちろんだぜ!つーか、兄ちゃんはもともとレオニスの旦那んとこの屋敷の執事してんだってな?」

「ああ、レオニスに雇われてラグナロッツァの屋敷の管理その他を任されている」

「ならレオニスの旦那の身内も同然だろ? レオニスの旦那の身内が冒険者になったってんなら、そりゃもう絶対に俺達だって大歓迎だぜ!」

「そうそう、そしたら兄ちゃんのための盛大な歓迎会だってしなくちゃならんよな!」

「それに、このラグナロッツァに強い冒険者が増えるのは喜ばしいことだしな!」

ラウルの肩に腕を回し、馴れ馴れしく接してくる冒険者達。

ラウルと彼らにはほとんど面識はなく、直接会話をするのはこれが初めてのことだ。

だが、冒険者達にとって『ラウル=レオニスの身内=俺達にとっても仲間!』という図式が、彼らの中で既に出来上がっているのだ。

そんな冒険者仲間達に、レオニスが呆れたような顔で問い詰める。

「お前ら、そんな調子の良いことばっかり言いやがって……本当はただ単に、大勢で飲み食いする口実が欲しいだけだろ? ラウルは簡単に騙せても、俺には通じんからな?」

「うおッ、誰もそんなこと言ってないのに何故分かる!?」

「分からいでか」

「レオニス、お前もしかして……とうとう読心術でもマスターしたんか?」

「ンな訳あるか」

「だよなー」

レオニスに歓迎会の真の目的を看破されて、冒険者仲間達が心底驚いたような顔をしている。

果てはレオニスに読心術会得の疑いまでかけられたが、レオニス本人に即座に否定されてすぐに引っ込む冒険者達。

ホッとした顔をするあたり、読心術会得疑惑は冗談ではなく本気で言っていたようだ。

安堵した冒険者仲間達が、口々に好き勝手なことを言い始める。

「いくらレオニスがバケモン並みに強いからって、さすがにそこまで人外じゃねぇよなー」

「全く全く。レオニスの旦那、とうとう人間やめちまったのか!?とか一瞬思っちまったもんなー」

「ま、そこまでできたらもはや人間じゃねぇよなー」

「「「なーーー!」」」

「「「ワーッハッハッハッハ!!」」」

思いっきりふんぞり返りながら、破顔するとともに高らかに大笑いする冒険者仲間達。彼らの豪快な笑い声が、冒険者ギルド総本部の大広間中に響き渡る。

彼らの言っていることは、割とというかかなり失敬な内容なのだが。世界最強の実力を誇るレオニスが人外認定されているのは、もはや今更である。

「お前ら、ホントに失敬だね……でもまぁ、ラウルの歓迎会をしてくれるというその気持ちはありがたい。なぁ、ラウル?」

「ああ。冒険者になったばかりの俺に、先輩達が歓迎会を開いてくれるなんて思ってもいなかった」

「よし、そしたら九月以降にお前の冒険者歓迎会を開くとするか。ラウル、お前が主賓になるが、いいか?」

「もちろんだ。皆が俺を快く歓迎してくれるというのに、断るはずなかろう?」

ラウルの歓迎会開催を承諾したレオニスとラウルの会話に、周囲の冒険者仲間達が一斉に湧いた。

「おお!さすがはレオニス、話が分かる男だな!」

「兄ちゃんが酔い潰れるまで飲もうぜ!」

「日が決まったら教えてくれ!絶対に行くからよ!」

男達が大喜びしているところに、 受付嬢(クレナ) の可愛らしい声が響き渡る。

「はーい、皆さーん、窓口に注目ー。盛り上がっているところ申し訳ありませんが、レオニスさんの番ですよー。素早く窓口にお越しくださーい」

「おお、俺の番だ。お前らすまんな、歓迎会の話はまた今度な」

「おう、九月入ってからだな、楽しみにしてるぜ!」

歓迎会の開催が決まったので、冒険者仲間達はレオニスのいる窓口付近から去っていった。

手を振りながら去っていく彼らの顔は、実に機嫌良さそうだ。大勢での宴会開催決定が余程嬉しいのだろう。

一方レオニスは、急いで窓口に向かう。

「待たせてすまんな、クレナ」

「本当ですよ、全くもう。皆さん、大広間ではもう少し静かにしてくださいね?……って、冒険者の方々にそう言っても守られた試しはほとんどありませんが」

「まぁな、あいつらに静かにしろと言って本当に言い聞かせられるのは、ぶっちゃけクレアくらいのもんだろ」

「ですねぇ……私もまだまだ未熟者、クレア姉さんの足元にも及びません」

レオニスの論に異を唱えることなく、ふぅ……とため息をつきつつ完全同意するクレナ。

クレナも敏腕受付嬢として名を馳せるが、彼女自身も 彼(か) の実姉には到底及ばないと思っているようだ。

「……ま、私の未熟さなどどうでもいいんです。さて、レオニスさんの本日の御用向きは何でしょう?」

「俺の口座から金を下ろしたい。とりあえず50万G出してくれ」

「承知いたしました。ではギルドカードの提出とともに、こちらの依頼用紙に必要事項をご記入ください。その間に金子の用意をしてきますので」

「承知した。よろしくな」

ようやく本来の目的である資金調達にこぎつけたレオニス。

50万Gといえば日本円にして500万円、かなりの大金である。

ちなみにこのサイサクス世界の冒険者ギルドでは、口座から10万G以上の金額を下ろす場合には本人確認の手続きが要る。

それがギルドカードの提出と申請書類への記入である。

手慣れた様子でサラサラと記入事項を埋めていくレオニス。

全てを書き終えた頃には、クレナが50万G分の金貨を用意して戻ってきた。

「クレナ、書類書いたぞー」

「ではチェックさせていただきますねー。…………はい、問題ありません。ではこちらをお受け取りください」

すんなりと申請が通り、クレナが差し出した革袋を受け取ったレオニス。

さっと中を見ただけで、早々に空間魔法陣を開いてそのまま放り込む。

「ありがとう、手間をかけてすまなかったな」

「いえいえ何の。この程度のこと、手間にもなりませんよ。それよりレオニスさん、革袋の中身をきちんと確認しなくていいんですか?」

「ン? クレナのする仕事に間違いなどないだろう?」

「それはそうですが……もしかしたら、ここに持ってくる間に私が金貨の一枚や二枚くすねてるかもしれませんよ?」

フフッ、といたずらっぽく笑うクレナに、レオニスは一瞬だけきょとんとした顔をした後に、大笑いし始めた。

「ハッハッハッハ!それこそ天地がひっくり返ってもあり得ねぇな!」

「……そこまで信頼していただけて、ありがとうございます……と言うところですか?」

「いやいや、ここは俺が『受付嬢ともあろうお人が、何を寝言吐いてるんです?寝言は寝て言うものですよ?』と言わなきゃならんところだな!」

「ンもー、私としてはレオニスさんの不用心さを指摘しただけですのに……」

珍しくレオニスにやり込められてしまったクレナが、ぷくー、と頬を膨らませて拗ねる。

レオニスがクレア十二姉妹相手に『寝言は寝て言うものですよ?』を言えたのは、正真正銘これが初めてのことだ。

もしかしたら———いや、もしかしなくとも、今日はレオニスがクレア十二姉妹相手に舌戦で初めて勝利した日かもしれない。

目尻に涙を滲ませながら腹が捩れるくらいに笑い続けるレオニスを見ていれば、クレナも拗ねようというものだ。

一頻り大笑いして気が済んだのか、レオニスが人差し指で涙を拭いながらクレナに声をかけた。

「いやいや、すまんな。大雑把な俺のことを心配してくれての助言だってのは、よく分かってる。ありがとうな」

「分かってらっしゃるなら結構です」

「つーか、よく確かめもせずに放り込むのは、お前達の窓口でだけだ。他のヤツの時にはきちんと枚数を数えるさ」

「……是非ともそうしてください」

レオニスが暗に『クレア十二姉妹だからこそ信頼しているのだ』ということを仄めかす。

もちろんクレナもそれをすぐに察し、膨れていた頬が元に戻っていつもの穏やかな笑顔になる。

「じゃ、俺はこれからこの二羽の文鳥達と市内観光してくる。クレナも仕事頑張ってな」

「はい。レオニスさんも良い休日をお過ごしくださいねぇー」

ラウルの買い物資金を無事調達できたレオニス。

小さく手を振るクレナに見送られながら、冒険者ギルド総本部を後にした。