軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第753話 派遣再開と約束の履行

ミサキの人化の術の修行の成果を見たら、次は他の面々の状況が気になるというものだ。

早速ライトが先陣を切ってウルス達に質問していた。

「他の皆さんも、人化の術は覚えられそうですか?」

「いや、ミサキほどは進んでなくてな」

「我等は日々の鍛錬を優先しているので、なかなかそこまで手が回らないのだ」

「それに、見本となる人族をまだろくに見れてもいないし」

「「「……ぁーーー……」」」

聞くところによると、ミサキ以外はまだ誰も人化の術を会得できていないらしい。

フギンやムニンは護衛の要として日々の鍛錬を最優先していて人化どころではないらしいし、他の八咫烏達も手本となる人物像がなくて今ひとつ人化のイメージが固まらないようだ。

それに、よくよく考えれば人族の見学と称して人里に出たのは今のところミサキとアラエルだけで、他の八咫烏達はまだ一度もこの里から外に出たことがない。

そして、今の彼らが人化の見本として挙げられるのは、ライト、レオニス、ラウル、人化したマキシ、この四つのサンプルだけ。

これは非常に重大な問題を孕んでいた。

「見本が少なすぎて、俺らにそっくりな顔になられてもマズいよなぁ……」

「そうだな……マキシの親父さんや兄ちゃん達が、軒並み俺やご主人様に生き写しになるとか……洒落にならん」

「そしたらさ、一日も早くマキシ君のお父さんやお兄さん達もラグナロッツァに来てもらって、人族の観察をさせた方がいいんじゃない? ぼくも夏休みがまだ一週間くらいあるから、夏休みのうちならぼくもラグナロッツァ観光に付き添ってあげられるし」

「そうだな……そうした方が絶対にいいだろうな」

「「「?????」」」

ライトとレオニス、ラウルの三人でゴニョゴニョと話し合う様を、ウルス達が不思議そうに見ている。

ここでもしウルス達が、こぞってレオニスやラウルを手本として人化の術を会得したら―――皆レオニスやラウルのそっくりさんになってしまうではないか。

これは途轍もなく非ッ常ーーーにマズい事態である。

このままでは、第二第三のクレア十二姉妹レベルのそっくりさんがサイサクス世界に爆誕してしまう……!!

ミサキの人化の術を見て、そのことに思い至ったライト達。早急に対策を考えねばならないことに気づいたのだ。

「なぁ、ウルス。人化の術を会得するための修行として、皆も人里見学に来ないか? 人里にはたくさんの人族がいるから、良い勉強になると思うぞ?」

「うーーーむ……それはそうなのだが、里の守備を薄くする訳にもいかぬし……」

「父様、二羽づつ交代で見学なさっては如何ですか? それなら里の守りも薄くなり過ぎることはないでしょうし」

「そうだな……フギン、マキシの案をどう思う?」

レオニスやマキシの提案に、考え倦ねるウルス。

次期後継者の最有力候補である長兄フギンに意見を求めた。

「はっ、二羽づつ交代での見学派遣はよろしいかと思います。父様、私、ムニンの何れか二羽が里に残っていれば、里内で何事か起きても問題なく対処できるでしょう」

「うむ、それもそうだな。……レオニス殿、また我等家族がお邪魔してもよろしいだろうか?」

「もちろん!下手な化け方を覚えられる前に、きちんと学んでくれた方が俺達としてもありがたいからな」

「ご理解いただき感謝する。では、行く順番を今から皆で話し合う故、少々お待ちくだされ」

「おう、何なら今日からうちに来てもいいからな。皆でよく話し合ってくれ」

父ウルスに意見を求められたフギンが最適な回答をする。

フギンの答えに納得したウルスも決心したようだ。

ミサキとアラエルを除く六羽で、ラグナロッツァに行く順番を話し合いを始めた。

里内の秩序や指揮系統を維持するため、族長ウルスと長兄フギン、長姉ムニンは必然的に別グループにしなければならない。

そして、二羽でいろいろ見て回るなら同性同士で組んだ方が相談もしやすくていいだろう、ということで、以下のような順番と組み合わせに決定した。

一組目:長女ムニン&次女トリス

二組目:長男フギン&三男レイヴン

三組目:父ウルス&次男ケリオン

話し合いが完了し、ウルスが改めてレオニスに頼み込んだ。

「レオニス殿、まずは一組目として長女のムニンと次女のトリスを遣わしたいのだが、よろしいだろうか?」

「おう、いいぞ。こっちとしても、ライトの学園が始まるとライトが案内できなくなるんでな。早速今日から来てくれると都合が良いんだが」

「承知した」

その後さらに話を詰めていくウルスとレオニス。

宿泊期間は、ミサキ&アラエルの時と同じく三泊。二日目と三日目に人里見学や異種族文化に触れる経験をし、四日目昼に帰郷して次の組がラグナロッツァに行く。これを三組分繰り返す、という訳だ。

一組目に決まったムニンとトリスが、レオニスに声をかけた。

「レオニス殿、今日から先陣として私とトリスが人里に行くことになりました。よろしくお願いいたします」

「人里どころかこの里の外に出るのも初めてのことなので、何かとご迷惑をおかけすると思いますが……ムニン姉様ともどもよろしくお願いいたします」

二羽してペコリと頭を下げる八咫烏姉妹。

礼儀正しい彼女達の姿に、レオニスも思わず微笑む。

「向こうで分からないことや、聞きたいことがあれば何でも聞いてくれ。俺に限らず、ライトもラウルも協力できることは何でもするし、弟のマキシもいるからな」

「「はい!」」

レオニスの温かい歓迎の言葉に、ムニンもトリスもシャキッ!とした姿勢で返事をする。

そしてレオニスがクルッ!と後ろを向き、フギンに向かって声をかけた。

「よし、そしたらラグナロッツァに行く前に八咫烏の兵達に稽古をつけてやるか!」

「「ウキョッ!?」」

「ン? 何を驚いてるんだ? こないだそういう約束をしただろ?」

「「そ、それは……」」

「俺は交わした約束は必ず守る男だからな!さ、早いとこ鍛錬場に兵達を集めてくれ。昼飯の後の腹ごなしといこうじゃないか」

爽やかな笑顔とともに、信じられない言葉を放つレオニス。

フギンだけでなく、ムニンまでも思わず変な声を上げている。

確かに先日のユグドラツィ襲撃事件にて勝利を収めた後、八咫烏達が帰る間際にレオニスがそんなことを言っていた。

だが、まさかここで本当にそれを実行しにかかるとは夢にも思っていなかったフギン達。

目を丸くして絶句していたが、ハッ!としたように我に返り慌てて懇願しだした。

「な、ならば!せっかくの良い機会ですので、他の者達も参加させてもらってもよろしいでしょうか!?」

「他の者ってーと、誰だ?」

「前回のご指南に同席していなかった、父様やトリス、ケリオン、レイヴンです!」

「おう、いいぞ。まとめて訓練してやる。何羽でもどーんと来い!だ」

フギンの提案にムニンも即刻同調し、ウルス達の鍛錬参加を提案する。

ムニンの指名を受けたウルス達の顔が『え、何ナニ? 何の話?』という顔をしているが、フギンとムニンは必死である。

これはあれか、『死なば諸共』的な『皆も道連れにしてやるー!』ということであろうか。

だがその道連れのメンバーの中に、母アラエルと末妹ミサキを含めないあたりまだ良心が残っていたとみえる。

レオニスとしては、お呼ばれの御礼として稽古をつけるつもりなので、鍛錬の参加者が何羽増えてもオッケー!である。

「じゃあ、早速鍛錬場に行くか」

「私達は急ぎ衛兵達を集めますので、レオニス殿は父様といっしょにゆるりと鍛錬場に向かってください!」

「トリス、ケリオン、レイヴン!貴方達は里の衛兵全員を鍛錬場に集めなさい!もちろん貴方達も衛兵達とともに鍛錬場に来るのよ!いいわねッ!?」

「は、はい……」

衛兵達を集めるという、フギンとムニンの双眸がギラリと光る。

兄姉達の有無を言わさぬとんでもない圧に、トリス達弟妹が抗えようはずもない。

フギン達五羽が方々に散っていく姿を、アラエルやウルスが見守りながら呟く。

「まぁ……あの子達、すっごく張り切ってるわねぇ」

「レオニス殿の稽古とは、それほどまでに良いものだったのだろうか?」

「きっとそうですわ!貴方も是非鍛錬頑張ってくださいまし!」

「ああ。シア様をお守りするには、もっともっと力が要るからな。私も子供達に負けてはおれん、さらなる精進を重ねなければな」

子供達の頼もしい姿を喜び、自分も負けじと精進を誓うウルス。

その後ろで全てを見ていたライトだけは、フギンとムニンの企み?に気づいていたが。ここでそれをバラすほどライトも野暮ではない。

ライトはラウル達の方に向かい、話しかける。

「じゃあ、レオ兄ちゃんが皆と鍛錬している間、ぼく達はミサキちゃんとアラエルさんの人化の術の訓練に協力しよっか!」

「そうだな。ご主人様達が鍛錬している間、俺達だけのんびりのほほんとしてる訳にはいかんもんな」

「ライトちゃん、ラウルちゃん、ありがとう!マキシ兄ちゃんもいっしょに見ててね!」

「うん、いいよ。母様も人化の術の練習しましょうね!」

「分かったわ!」

ライト達もここで人化の術の練習を手伝うことになった。

皆が皆、己のすべきことに真っ向から向かう姿は実に素晴らしい。

妻や末娘の明るい笑顔を見ながら、ウルスがレオニスに声をかけた。

「レオニス殿、我等も鍛錬場に向かうとするか」

「ああ、そうだな。先に行って衛兵達を出迎えてやらんとな。ライト達も、ミサキちゃんといっしょに練習の手伝い頑張れよ」

「うん!レオ兄ちゃんも、いってらっしゃーい!」

ウルスとともに鍛錬場に向かっていくレオニスを、ライト達は元気に見送っていた。