軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第721話 熱い男の決意

ライトとユグドラツィの誕生日を盛大にお祝いした三日後。

ライト達は念願の氷の洞窟に行くことになった。

誕生日の時点で、ライトの夏休みは残り二週間。氷の女王に会うには、やはり氷の洞窟の環境が最も人族にとってマシな夏のうちが一番良い。

今が最も最良の時期であり、ライトのスケジュール的にも夏休みのうちに一度は行っておきたい!という話になったのである。

それまでの二日間は、各々が思い思いに過ごしていた。

ライトは夏休みの宿題の仕上げ、ラウルはオリハルコン包丁を使って巨大野菜の下拵え、マキシはアイギスで通常勤務に戻り物作りの修行に励んでいる。

そして、レオニスはというと―――

「よう、バッカニア。やっと見つけたぞ」

「……うげッ、レオニスの旦那じゃねぇか!何でこんな片田舎にッ!?」

「何でって、そりゃお前。お前ら『天翔るビコルヌ』を探しにはるばる来たんだ。俺といっしょに氷の洞窟に行く約束してただろ?」

「してねぇしてねぇ!そんなもん、俺は絶対にした覚えねぇぞ!」

ここはサイサクス大陸の最南端の小さな港町、ウスワイヤ。

今この街にバッカニア達のパーティー『天翔るビコルヌ』がいることを突き止めたレオニスが、バッカニア達に会いに来たのだ。

ちなみに今のバッカニアは、ウスワイヤの街の中の警備員兼ラギロア島行き定期便港口の切符切りをしている。

今の時間はラギロア島からの帰りの便が来る直前なので、港口で待機していたところだった。

レオニスの顔を見た途端、バッカニアがものすごーく渋い顔をしているように見えるが、それは多分というか絶対に気のせいではない。

「俺は今仕事中なんだ!話なら後で聞くから、今はどっか向こうにでも行っててくれ!」

「何だよ、つれないヤツだ。……でもまぁな、仕事の邪魔しちゃ悪いもんな。大人しく待つことにするか」

シッ、シッ!とばかりにレオニスを手で追い払おうとするバッカニアに、レオニスも大人しく従い少し離れた場所に移動する。

しばらくすると、海の方から船が向かってきて到着した。

船から続々と乗客達が降りてくる。どの客も小綺麗な身なりをしていて、如何にもバカンスを楽しんできた富裕層だというのが分かる。

そんな中、船の上から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「皆様、お足元にお気をつけ下さいねぇー……キヒッ」

全ての乗客が降りた後、黒いローブの顔色の悪い痩せぎすの男が最後に船から降りてきた。

他の乗客が全てウスワイヤの街の中に散っていったことを確認してから、レオニスがその黒ローブの男に声をかける。

「よう、ヨーキャ。お仕事お疲れさん」

「おー、レオニス君じゃない!どうしてここに……?ムムム?」

「お前らがウスワイヤにいると聞いてな、迎えに来たんだ」

「そっかー、バッカ兄を捕まえに来たんだね!キシシ☆」

レオニスの姿を見たヨーキャ、レオニスの目的を早々に理解して笑う。

ちなみにレオニスは、バッカニアが入っている切符売り場の掘っ立て小屋の入口のドアを塞ぐようにして立っているので、バッカニアが逃げる隙はどこにもない。

「おい、ちょっと!レオニスの旦那、そこ退いてくれよ!俺が小屋から出られんじゃねぇか!」

「ヨーキャ、スパイキーはどこだ?」

「あー、スパイキー君はねぇ、あの風貌だから接客業には向いてなくてねぇ。街の警備員兼清掃員として、ウスワイヤの街中をずーっと彷徨いてるよ……ククッ」

「お前ら!俺の話を聞け!」

レオニスは切符売り場の入口にガッツリと凭れかかったまま、ヨーキャにスパイキーの居所を尋ねる。

ヨーキャの話によると、スパイキーだけはこの定期便関連の仕事をしていないようだ。

「そうか。まぁあの強面じゃあそれも仕方ないな。性格は穏やかで常識もあって、すっごくいいヤツなんだけどな」

「そうなんだよねー。ボクは体重軽いから、定期便の警備員してるけど。スパイキー君は体格も体重も重量級だから、船の警備員は絶対無理なんだよねぇ……フゥ」

「だから!お前ら、俺をシカトすんじゃねぇ!」

三人いっしょの職場で働けないことに、小さくため息をつきながら残念がるヨーキャ。

レオニスの言うように、スパイキーはとても真面目で善良な性格で、風貌こそ超絶強面だが中身は常識的で至極真っ当な人物である。

だがしかし、如何せんその風貌が強面過ぎるのだ。

スパイキーの外見は、モヒカンに鼻ピアスをした上半身ほぼ半裸のゴツい巨体の男。世紀末な世界でバイクに乗りながら「ヒャッハー!」と叫んでいそうな風貌である。

大抵の一般人はもちろんのこと、チンピラ893ですらも面と向かって対峙したら「ヒィィィィ!」と叫びながら尻尾を巻いて裸足で逃げ出す始末である。

スパイキー自身はまだ何もしていないうちから、それこそ一言も発していないのに皆勝手に怯えて逃げてしまうのだ。何とも哀れである。

レオニスとヨーキャがそんな話をしていると、レオニスを上回る巨体にモヒカン半裸の大男がこちらに向かってやってくるではないか。

どうやら噂の主のご登場のようだ。

「お、レオさんじゃねぇか!久しぶりだな!」

「よう、スパイキー。元気にしてたか?」

「ああ、それなりに三人でやってるぜ!」

「そりゃ良かった!」

お互いに肩を叩き合いながら、再会を喜ぶレオニスとスパイキー。

レオニスを見て露骨に嫌な顔をするバッカニアとは大違いである。

「何だ、レオさんもラギロア島へバカンスしに来たのか?」

「いや、ここ最近何かとラギロア島近辺には縁があるが、今日ここに来たのは他でもない、お前らに会いに来たんだ」

「そうなのか、そりゃ嬉しいことを言ってくれるじゃねぇか!」

「だからさぁ……お前ら、俺の話もちったぁ聞いてくれよぅ……」

にこやかに話すレオニス達の後ろで、切符売り場の掘っ立て小屋に閉じ込められたバッカニアが凹んでいる。

レオニスのみならず、『天翔るビコルヌ』の一員であるヨーキャやスパイキーまでがリーダーであるバッカニアをスルーしているのだ。バッカニアが萎れるのも無理はない。

地味に凹むバッカニアに、レオニスが軽い口調で言い放つ。

「ンだってお前、黙ってここから出したら速攻で逃げ出すだろう?」

「おおー、さすがはレオさん。うちのリーダーのことをよく分かってらっしゃる」

「ホントホント。バッカ兄は全てが優秀だけど、中でも逃げ足はピカイチだからね!ウヒョヒョ」

「お前ら!俺を一体何だと思ってやがる!『天翔るビコルヌ』のリーダーだぞ!?」

レオニスの言い分に、スパイキーとヨーキャがコクコクと頷きながら全面的に同意する。

パーティーメンバー二人の、リーダーをリーダーとも思わぬ発言にバッカニアだけがキーキーと怒っている。

「ところでレオさん。わざわざ俺達に会いに来たってのは……アレか? 例の件か?」

「そうそう、ぼちぼち氷の洞窟に行こうと思ってな。お前らも誘いに来たんだ」

「あー、やっぱりー? とうとうその時が来ちゃったかぁ……ウヒィィィィ」

「俺は行かんぞ!当分このウスワイヤで仕事が入ってんだからな!」

スパイキーの問いを肯定したレオニスに、バッカニア一人だけが必死に抵抗している。

やはりスパイキーもヨーキャも、レオニスの真の目的をとっくに察していたようだ。

「仕事か……お前ら、一番近い休みはいつだ?」

「あー、明日と明後日は休み取ってるぜー」

「おい、スパイキー!そんな馬鹿正直にホントのことバラすんじゃねぇ!」

「じゃあ、明日は準備期間としてラグナロッツァで買い物なんかをして、明後日氷の洞窟に行くか」

「買い物かー。氷の洞窟に行くなら、夏でも防寒対策しなきゃだよねぇ……ブルブル」

「おい、ヨーキャ!何でお前、買い物に行く気満々なんだよ!」

バッカニアだけがキーキー叫び続ける中、スパイキーとヨーキャは実に前向きな姿勢でレオニスと打ち合わせをしている。

するとここで、レオニスがクルッ!とバッカニアの方に向いた。

「ほれ、バッカニアもそろそろこっちに出てこい」

「で、出てこいって……レオニスの旦那が今まで閉じ込めてたんじゃねぇかよぅ……」

掘っ立て小屋の入口のドアから退いたついでに、レオニスが扉を開けてバッカニアに出てくるように促した。

スパイキーも合流した今なら、パーティーリーダーとしてメンバーの前で逃げ出すことはないだろう、とレオニスは判断したのだ。

レオニスに振り回されっぱなしのバッカニア、ブチブチと文句を言いながら掘っ立て小屋の中からおずおずと出てきた。

するとレオニスがバッカニアの肩にガシッ!と左腕を回し、肩を組んで諭すように語りかける。

「なぁ、バッカニア。安心安全な仕事もいいが、そろそろ冒険者の本分たる冒険探索もしようじゃないか」

「レオニスの旦那、無茶言わんでくれ……俺達『天翔るビコルヌ』が引き受ける仕事の九割は、ボランティア活動とか警備員なんだぞ?」

「ボランティア活動をたくさん引き受けるのは立派なことだが、さすがに九割ってのは……割合的にちと多過ぎやしねぇか?」

冒険者として甘い囁きを語りかけてくるレオニスに、バッカニアはがっくりと項垂れながら実情を盾に反論する。

冒険者ギルドに認定されている階級は、バッカニアが白銀級でスパイキーとヨーキャが黒鉄級。階級だけ見れば、典型的な中堅パーティーで実力もそこそこあるはずである。

だが、バッカニアに言わせれば、自分達の階級がそこそこ上なのは、ボランティア活動や下水道清掃などの地域社会貢献を数多くこなしてきたからだ、と言うのだ。

その言葉の裏には『自分達には氷の洞窟に行くような実力などない』という、自信の無さが表れていた。

そんなバッカニアに、レオニスが力強く励ます。

「ま、一割でも探検してりゃ立派な冒険者だ!バッカニアももっと自信持てって!」

「でもよぅ……氷の洞窟探索なんて、俺達にゃ荷が重過ぎるって……」

「心配すんな!俺もいっしょに行くし、ラウルだって行くから戦力的には全く問題ないぞ!」

「ラウルの兄ちゃん? えぇー……あの兄ちゃん、冒険者登録したばかりの新人なんだろ? それで戦力問題ない!とか言われても……」

レオニスの懸命な励ましに、しおしおと力無く萎れながらも反論を続けるバッカニア。

バッカニアの横にいるスパイキーとヨーキャが「ラウルの兄ちゃん、ホントに氷蟹目当てでついてくんのか……すげーな」「全くですヨ、ボクらにゃ絶対に真似できませんて……ハァ」と小声でヒソヒソ会話している。

バッカニア達はラウルの実力を全く知らないので、戦力として今一つ信用しきれないのも無理はない。

レオニスはバッカニアの肩に組んでいた腕を離し、今度はバッカニアの真ん前に立ち両肩に手を置いて真っ直ぐ見つめる。

「バッカニア、俺は知ってるぞ。お前が誰よりも熱い心を持つ冒険者だってことを」

「……レオニスの旦那……」

「その熱い心は、普段から常に弱者に向けられていることも知っている。お前達のおかげで、シスターマイラや孤児院の子供達も助けられているんだよな」

「…………」

普段のレオニスは、同業者に対して手放しで褒めるということはあまりない。金剛級冒険者から褒められることで、相手が変な自信をつけて慢心してはいけないからだ。

冒険者たるもの、常に危機と隣り合わせであることを忘れてはいけないのである。

そんなレオニスが、バッカニアのことを真剣に褒めている。

そのことがバッカニアには不思議なことに映るようだ。

「でもな、バッカニア。たまには冒険探索の方で活躍してもいいんじゃないか? 俺は、バッカニア達だって氷の洞窟を踏破する実力を十分持っていると思うぞ?」

「そ、そうかな……?」

「そうだとも!それにバッカニア、お前そろそろ黄金級に上がる頃だろ? 黄金級以上になるには、地域社会貢献の点数だけじゃ足りんことはお前も知ってるよな?」

「そ、それは…………」

レオニスの問いかけに、バッカニアは言葉に詰まる。

確かにボランティア活動や公的事業関連の依頼は、冒険者ギルドの実績評価点数が高く設定されている。

しかし、黄金級以上になるには探索や討伐などの実力面での評価点数も求められるようになる。

黄金級以上の肩書を得て名乗るには、実力面でもそれなりの力を示さねばならないのだ。

もちろんそれはバッカニア達だって重々承知している。

バッカニアが白銀級から黄金級に上がるには、今のままではいけないことも分かっているのだ。

レオニスの言葉を静かに聞いていたスパイキーが、徐に口を開いた。

「バッカニアの兄貴……レオさんの言う通りだ。兄貴が黄金級になるには、今の警備員の仕事やボランティアばかりじゃダメだ」

「うん……バッカ兄はボクらの身の安全のために、危険な仕事はほとんど引き受けないもんね……ごめんよ、バッカ兄。ボクらの力不足のせいで、バッカ兄の足を引っ張ってばかりで……グスン」

「そ、そんなこと言うな!俺はお前らとパーティーを組んで生活していけるだけでいいんだ!」

しょんぼりとしょげるヨーキャに、バッカニアが慌てるように否定する。

バッカニアが言ったことは、正真正銘心からの言葉だ。

バッカニアとスパイキーとヨーキャ、三人で組む『天翔るビコルヌ』。それはバッカニアの生きる拠り所であり、気心の知れた仲間であるスパイキーとヨーキャはなくてはならない存在だった。

いつも喧嘩したり言い合いしているように見えて、実はとても仲の良いパーティーなのだ。

それはスパイキーとヨーキャも同じで、だからこそバッカニアに向けてなおも言い募る。

「バッカニアの兄貴が俺達のことを大事に思ってくれてるように、俺達もバッカニアの兄貴のことを尊敬している。だからこそ、バッカニアの兄貴には一日も早く黄金級になってもらいたいんだ」

「そうだヨ!バッカ兄は今よりもっと、もっともっと上に行ける人なんだ!だから、レオニス君と氷の洞窟探索に行って、たくさんの魔物を狩って持ち帰って、冒険探索の評価点数を上げようヨ!ボクは、バッカ兄に黄金級になってほしいんだ!……グハッ」

「お、お前ら……俺のことを、そんな風に思ってくれてたのか……」

スパイキーもヨーキャも、バッカニアへの思いをいつになく熱く語る。ヨーキャに至っては、あまりに熱く語り過ぎて最後の方では咳き込んで咽てしまっているくらいだ。

仲間達からの熱い思いに、バッカニアの目頭も熱くなってくる。

熱くなった目頭を誤魔化すかのように、バッカニアは手の甲で目をぐしぐしと擦る。

そしてグッ!と前を向き、意を決したように話し始める。

「そうだよな……これからもお前らを引っ張っていくには、俺がもっともっとしっかりしなきゃいけないよな。……レオニスの旦那、氷の洞窟に俺達も連れてってくれ。俺達の力じゃ、三人分合わせたってレオニスの旦那の足元にも及ばんが……それでも、冒険者として高みを目指したいんだ」

「おう、任せとけ!お前らだって長年冒険者をやってきたんだ、頼りにしてるぞ!」

バッカニアの決意表明に、レオニスもニカッ!と満面の笑みを浮かべながら心から喜び賛辞を贈っている。

もちろんレオニスだけでなく、スパイキーやヨーキャもバッカニアの決意に綻ぶ。

「バッカニアの兄貴……やっぱ頼もしいな!」

「うん、バッカ兄はやっぱカッコイイ!ボク達一生バッカ兄についていくヨ!キヒヒ」

「おう、お前らには俺がついてるからな!氷の洞窟の魔物が何だってんだ!よーし、久しぶりにいっちょ俺様の魔法と剣技をお前らに見せてやるぜ!」

思いっきりヨイショして持ち上げるスパイキーとヨーキャ。

バッカニアも二人のヨイショに気を良くしたのか、いつも以上にやる気が漲っている。

やる気満々で右手を高く掲げるバッカニアの、何と頼もしきことよ。後光が指さんばかりに輝いているバッカニアの背後で、スパイキーとヨーキャがニコニコ笑顔で拍手喝采している。

「じゃあ明日と明後日のお前らの休みを、氷の洞窟探検に充ててもいいな?」

「おう!明日はラグナロッツァで念入りに準備するぜ!まずはスパイキー、お前の上着の調達だ!」

「そりゃありがてぇ。俺、このままの格好で氷の洞窟に潜ったら夏でも凍死する自信あるわ」

「バッカ兄、ボクもそろそろローブを新調したいんだけど……予算は足りるかな?カナ?」

「こういう時のために、俺の貯金口座が火を噴くぜ!5000GまでならOKだ!」

「バッカ兄、ありがとーぅ!キャー☆」

バッカニアとスパイキーとヨーキャ、三人できゃいきゃいと盛り上がっている。

派手な二角帽子を被り右眼に黒薔薇の眼帯をした筋肉質の男、モヒカンに鼻ピアスをした上半身ほぼ半裸のゴツい巨体の男、目のクマが壮絶に濃い顔面蒼白な黒ローブを着た痩せ型の男がキャッキャウフフしている図は、傍から見たら実に胡散臭い。

だが、見た目はともかく中身はとても気の良い男達なのだ。

彼らの仲睦まじさを見て、レオニスもまた微笑みながら話をまとめに入る。

「じゃあ、お前らの今日の仕事が終わったら、エンデアンに移動して転移門でラグナロッツァに戻ろう。それまで俺もお前らの仕事上がりを待ってるから」

「何ッ!? 俺達が転移門を使ってもいいのか!? 三人分だぞ!?」

「全然問題ない。今回の氷の洞窟行きに関して、転移門の使用料は全て俺が持つから。……つーか、ウスワイヤから歩きでラグナロッツァに戻ってたら、それだけで一週間以上かかるだろうがよ……」

「「「…………あ"」」」

転移門を使うと聞いて、真っ先に驚いたバッカニア。

彼らは普段から転移門を使わずに、徒歩や馬車で移動する。なので、転移門を使うこと自体が滅多にないなのだ。

だが、明日支度を整えて明後日氷の洞窟に行くには、転移門無しでは成り立たない。

そのことに気づいていなかったのは、バッカニアだけではないようだ。

バッカニア、スパイキー、ヨーキャ、三人が三人とも口をポカーンと開けて呆気にとられていた。

「……とにかくだな。今日のお前らの仕事が終わったら、俺といっしょにラグナロッツァに戻るぞ。泊まる場所がなけりゃ俺の屋敷に泊まっていってもいいから」

「ホントか!? レオニスの旦那の屋敷って、貴族街にあるんだろ!?」

「お貴族様の住むところに、俺達なんかが泊めてもらっていいのか!?」

「ドレスコードとかないヨね!? ウヒーン!」

「ンなもんねぇよ……俺だって普通の平民だぞ?」

レオニスの提案に、またも驚愕するバッカニア達。

そもそも三人とも、ラグナロッツァの貴族街になど足を踏み入れたことすらない。故にドレスコードなどというとんでもない勘違いまでしているようだ。

するとここで、スパイキーがふと我に返りバッカニア達に声をかけた。

「……おっと、そろそろ皆仕事に戻らなきゃ」

「お、おう、そうだな、そろそろ定期便の行きの最終船の準備をしなくちゃな」

「ボクも定期船の点検しなくちゃ!アワワ」

レオニスが登場してから結構長く話し込んでしまったが、バッカニア達も仕事に戻らねばならない。

バッカニアは切符売り場の掘っ立て小屋に入り、スパイキーは街中に向かって歩き出し、ヨーキャは停泊中の定期船に向かって駆け出していく。

「じゃ、俺はこの近くで適当に時間潰ししてるから、お前らも仕事終わったらこの切符売り場に集合な!」

「「「アイアイサー!」」」

レオニスの大きな呼びかけに、バッカニア達も元気よく返事を返しながら仕事場に戻っていく。

バッカニア達がそれぞれの持ち場に戻る中、レオニスは三人の背中を頼もしく思いながら見つめていた。