軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第702話 天から遣わされた使者

アラエルがいる周辺の森を、少しづつ探索するライト。

あまり深入りするのは危険なため、少し分け入ってはまたアラエルのもとに戻り、を繰り返していく。

その間に首狩り蟲を何匹か見つけて仕留めたので、やはりどこかその辺りに蟲を転移させてくる装置のようなものがありそうだ。

そうして八咫烏達の回復サポートと並行して、何度目かの探索をしていた時。ライトの身体にゾワリとした悪寒が走った。

ライトはピタリと足を止め、森の奥の方をじっと見る。この奥には、絶対に良くないものがある―――ライトの本能がそう告げている。

これはレオ兄かラウルを呼んだ方がいい、とライトは頭の中で考える。

だが、先程ライトの身体を捕えた悪寒は未だ治まらず、足が竦んで動けない。

今すぐこの場を離れて誰かを呼ばなきゃいけないのに、まるで金縛りになったように身体が動かないのだ。

その間にも、森の奥から漂ってくる不気味さは強さを増していく。

これはマズい、何とかしなくちゃ……!と、ライトが思った、その瞬間。

突然空から眩い光が降ってきた。

「…………ッ!!」

遮る木々の枝葉の隙間から、強烈な光が降り注ぐ。その光はライトだけでなく、辺り一帯を明るく照らしている。

それは、今宵ずっとカタポレンの森を照らし続けている月明かりなどではない。それよりもっと赤く、もっと鮮烈な光がこの森を照らしている。

その光を浴びたおかげなのか、それまで石のように固まっていたライトの身体が動くようになった。

そのことに気づいたライトは、一目散で駆け出しユグドラツィのもとに戻っていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ライトが慌ててアラエルのもとに戻った頃。

森の中で転移装置を探していたレオニスやラウルは、突如現れた謎の光に一体何事かと思い、慌てて上空に飛び上がった。

周囲が煌々と照らされる中、互いの存在を認識したレオニスとラウルが合流し、空を見上げる。

「……ッ!!これは一体……!?」

まるで地平線から太陽が昇る朝焼けのような、神々しくも美しい光。

赤々と煌めく光をまとったそれは、一羽の巨大な鶏。

雷光神殿の守護神ヴィゾーヴニルであった。

「あれは……ヴィゾーヴニルじゃねぇか!」

「ヴィゾーヴニル? ……ああ、天空島で見たやつか!?」

「そう、それだ。何でヴィゾーヴニルがここに……?」

しばし呆然としながら、赤く光る巨大な雄鶏を眺めるレオニスとラウル。

すると、ヴィゾーヴニルの後ろから誰かが降下してきた。

それは、天空島の警備隊隊長を務めている天使パラスだった。

「誰か!誰かここにいるか!?」

「こっちだ!」

「おお、以前天空島を訪れし人族ではないか!ちょうど良いところにいた、状況を聞かせてくれ!」

パラスはレオニスの顔を見ると、すぐに駆け寄ってきた。先日ライト達が天空島を訪ねたばかりなので、レオニスの顔も覚えていたようだ。

パラスの要請に、レオニスは今ユグドラツィの身に起きていることをパラスに伝える。

今日の夜からユグドラツィに異変が起き始めたこと、八咫烏達とともに蟲退治をしていること。目に見える敵は首狩り蟲だけだが、ユグドラツィの幹の真ん中中央に謎の繭が潜んでいること、首狩り蟲はどれだけ狩り続けても一向に減らずに苦戦していること等々。

それまでレオニスの話を静かに聞いていたパラスは、徐に口を開いた。

「そうか……やはり神樹ユグドラツィ様に、途轍もなく大きな危機が迫っているのだな」

「もしかして……天空樹のエルちゃんも、この光景を見ているのか?」

「ああ。今日の日が暮れた直後くらいから、エル様が酷く取り乱しておられてな。一体何事が起きたのか、と光の女王様と雷の女王様もそれはそれは心配なさっておられた」

レオニスの推察通り、天空島にいる天空樹ユグドラエルも分体を通してこの惨状を見ているようだ。

八咫烏の里にいる大神樹ユグドラシア同様、ユグドラエルもまた末妹であるユグドラツィが生命の危機に脅かされていることに心を痛めているのだ。

「エル様があまりにも取り乱しておられて、詳しい事情を聞き出すまでにかなり時間がかかってしまったが……エル様の妹御の危機ということで、天空島に御座す二体の守護神のうち一体を救援に派遣することが決まったのだ」

「ああ、それでヴィゾーヴニルがここに来た、という訳か……」

「光の女王様も雷の女王様も、ご自身の守護神二体とも連れていっていいと仰ってくださったのだ。だがさすがに両方とも地上に遣わすとなると、天空島の防衛が薄くなり過ぎてしまうのでな……グリン様には天空島の守備として残っていただき、こちらにはヴィー様とともに私が遣わされたのだ」

「いや、一体だけでも十分にありがたい」

ヴィゾーヴニルは雷光神殿生まれの守護神であり、本来なら天空島にある雷光神殿や雷の女王のもとを長く離れられる立場にない。

だが今回の危機は、天空島の主の一柱である天空樹ユグドラエルの縁者の危機。世界に六本しかない神樹族の危機とあっては、光の女王や雷の女王も黙って見過ごす訳にはいかなかった。

ヴィゾーヴニルは、北欧神話では朝を告げて時を紡ぐ鶏。

今の時刻は、真夜中の零時を過ぎたあたり。夜明けの時間にはまだ程遠い。

だが、ヴィゾーヴニルが放つ夜明けの如き明るい光を浴びた黒い炎の勢いが、若干ではあるが弱まっているように見える。

これまでずっと浄化魔法をかけ続けてきたが、なかなか思うようにその瘴気を減らすことができずにいた。

あの禍々しい瘴気が僅かなりとも怯むのは、初めてのことだ。これを絶好の好機と捉えたレオニスは、パラスに向かって話しかけた。

「そしたらパラス、すまんがこのままヴィゾーヴニルとともにツィちゃんを照らし続けてくれるか。できればもっと至近距離から照らしてくれるとありがたいが、もしヴィゾーヴニルがあの瘴気に近づくのを嫌がるようだったら、今くらいの位置にいてくれるだけでも構わん」

「承知した。私も先程から見ていて驚いたのだが……神樹から漂うあの悪しき氣、その邪悪さは尋常ではない。あんなものが身の内に巣食っていたら……如何に神格の高い神樹といえども、長くは耐えられぬであろう」

レオニスの要望は、ヴィゾーヴニルの光でユグドラツィの樹体を照らし続けること。

今の位置でもそれなりに効果が見えるので、できることならもっと至近距離で照らしてもらいたいところだ。

だが、もしヴィゾーヴニル自身が瘴気の大元に近づくことを拒むなら、無理強いはできない。あくまでも協力してもらう立場なのだから、ヴィゾーヴニルにとっても無理のない範囲で尽力してもらうのが一番である。

パラスもレオニスの要望に頷き承諾しながら、ユグドラツィの身を案じる。彼女は眉を顰めつつ、ユグドラツィが置かれている現状を心から憂いている。

彼女も天使なだけあって、ユグドラツィを包む黒い炎の悍ましさを敏感に感じ取っているようだ。

「ああ、だから一刻も早くあれを排除しなきゃならない。ヴィゾーヴニルが照らす光は、幸いにもあの瘴気の大元にもかなり効いているようだ」

「ヴィー様が発する御光が、神樹ユグドラツィ様を救う手立てとなるならば幸いだ。そしたらお前達は、これからどうするのだ?」

「俺達は、ツィちゃんを襲っている蟲どもを転送しているもとを探している。もともとこのカタポレンの森には、あんなカゲロウとカマキリを足したような虫型魔物はいないんだ。あれをここに送り出し続けている装置が、この近くに必ずあるはずだ」

地上を見下ろすレオニスの視線につられて、パラスも改めて地上を見遣る。

そこには今もユグドラツィの枝葉や幹を刈り取ろうと、あちこちで首狩り蟲がユグドラツィに群がり蠢いていた。

「あの蟲どもか。確かにあんなにうじゃうじゃいては、何をするにも邪魔でしかないな……お前達はそれを送りつけてくる元を探し出して潰そう、という訳だな?」

「ああ。これまでは暗い中で探すのに手間取っていたが、ヴィゾーヴニルの光でこれだけ明るく照らされれば、見つけるのも今より容易くなるはずだ」

「承知した。では私は今からヴィー様とともに、ユグドラツィ様を覆う悪しき炎を抑えよう」

「頼んだ!」

早速パラスはヴィゾーヴニルのもとに飛び、何か話しかけている。パラスはヴィゾーヴニルと会話ができるようだ。

パラスの頼もしい承諾を得たレオニスは、ラウルに向かって檄を飛ばす。

「よし、ラウル、蟲どもの転送装置を見つけ出して全部潰すぞ!」

「おう!!」

「あと、装置を見つけてからのことだが、もし一人で潰せそうにないと思ったら一度撤退して俺を呼べ。俺も一人じゃ無理だと思ったら、位置を覚えてからお前と合流するようにする」

「分かった!」

レオニスの檄と的確な指示に、ラウルもまた力強く返事をする。

二人はそれぞれにエクスポーションやアークエーテルを取り出し、一気に飲み干す。ユグドラツィを救うためには、まだまだこれからも踏ん張り続けなければならない。

そうして体力や魔力を回復したレオニスとラウルは、再びカタポレンの森の中に飛んでいった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

森の中の危機から逃れ、再びアラエルのもとに戻ったライト。

空に現れた神々しい雄鶏の姿を見て、大凡のことを察する。

『あれは、雷光神殿のヴィゾーヴニル、だよな……多分エルちゃんがツィちゃんを救うために寄越してくれたんだろうな』

天空に輝くヴィゾーヴニルを眺めながら、当たらずとも遠からず、といった推測をするライト。

しばらくすると、マキシが浄化魔法のかけ直しのために戻ってきた。

マキシは他の誰よりもユグドラツィの枝葉の奥に入り込み、積極的に首狩り蟲を退け続けている。それだけに、アラエルのもとに戻ってくる頻度も高かった。

「あッ、マキシ君!いいところに戻ってきた!」

「ライト君、どうしたんですか? 何かあったんですか?」

「うん。この後ろにある森の中に、何かすごく良くないものがある!」

「そうなんですか!?……って、ライト君、まさか森の中に探りに行ったんですか?」

「えッ!? ライト君、そんなことしてたの!? 無茶なことしちゃダメよ!」

ライトの話にマキシはびっくりしつつ、すぐにライトの取った行動を察する。

半ばジト目になりつつあるマキシの目は『そんな危険なことしちゃダメですよ!?』というお叱りのオーラがダダ漏れである。

ライトが時折抜け出していたことに気づかなかったアラエルも、マキシの言葉を聞いてライトを叱る。

「ぇ? ぁ、えーとね、この後ろからも何匹も蟲が飛び出ていくのが見えたんだ。蟲達はぼく達には目もくれないで、ツィちゃんの方に飛んでいくから、ぼくやアラエルさんが襲われたりはしてないんだけど……」

「そうだったんですか!? ……そうですね、僕がライト君や母様を守らなければならないというのに……気づかなくてすみません」

ライトの言い訳込みの話を聞き、マキシがすぐに頭を下げて謝る。

皆ユグドラツィを救うためとはいえ、回復拠点であるこの場所に全く誰も配置しなかったのは落ち度があると考えても仕方がない。

もっとも、アラエルはともかくライトはそこまで腕力的にも弱くはないのだが。見た目はまだ子供なので、庇護されるべき存在として認識されているのだ。

「いやいや、ぼくもレオ兄ちゃんやラウルほどじゃないけど、それなりに戦えるから心配しないで!」

「でも……」

「……それよりも、マキシ君。レオ兄ちゃんかラウルを見つけて、すぐにこのことを知らせてくれる? 多分この近くに、あの蟲が出てくる穴のようなものがあると思う」

「…………!!」

ライトの話にマキシの顔が驚愕に染まる。

首狩り蟲がどこかから転送されている、ということはマキシはまだ知らない。ユグドラツィの枝葉の奥の奥で懸命に蟲退治を続けていたため、ラウルやレオニスとは全然話をしていなかったのだ。

しかし、ライトの話を聞けば腑に落ちる。八咫烏達が懸命に蟲を狩り続けているというのに、未だにその数が減ったという実感が得られなかったのだから。

無我夢中で蟲退治に励んでいたマキシも、冷静になればライトの推察が正しいことはすぐに理解できた。

「分かりました。では僕は今からラウルかレオニスさんを探して、先に見つけた方をここに連れてきます!」

「うん、お願いね!」

事の重大さをすぐに察したマキシは、アラエルの浄化魔法を受けて再び飛び立っていく。

マキシに願いを託したライトは、雄々しく飛び立つマキシの後ろ姿をずっと見守っていた。