軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第690話 悲しい勘違い

マグマ浴を存分に堪能し、エリトナ山の守護神ガンヅェラにも会うという幸運に恵まれたライト達。

先に進むにつれて、マグマの赤い色が次第に薄れ炎の橙色が濃くなっていく。そろそろ炎の洞窟に戻る時がきたようだ。

『姉様、今日も妾達のためにもてなしていただき、本当にありがとうございました……』

『何、此度のことは前から約束してあったことだし、気にせずとも良い。……妹よ、そんな顔をするでない』

再び別れの時が近づいていることに、炎の女王の顔はどんどん沈んでいく。

普段は気高い炎の女王だが、姉たる火の女王の前では甘えん坊で寂しがり屋なただの一人の妹になってしまうようだ。

そんな妹を火の女王は優しい眼差しで見つめつつ、頬や髪を撫でながら宥める。

『其方もこうして元気になったのだから、いつでもこのエリトナ山の姉のもとに遊びに来るがよい。妾もたまに其方の顔を見に、炎の洞窟に出向く故に』

『ええ、いつでも遊びにいらしてください!……でも、あまりエリトナ山を疎かにする訳にもいきませんでしょうから、たまにでいいですからね?』

『其方とて、炎の洞窟を疎かにする訳にもいくまい?』

『……フフッ、そうですね。妾達は精霊の女王ですものね』

『そういうことぞ』

火の女王の宥め方が上手なのか、しょんぼりとしていた炎の女王も最後には笑顔になる。

自分の住処や縄張りを疎かにすることができないのは、火の女王も炎の女王もお互い様である。だが、こうして時折短い時間だけでも顔を合わせて、互いの無事を確認し合うのもいいだろう。

姉妹の絆がより一層深まったところで、火の女王が『ああ、そうだ』と言いつつ、ピースのもとに近づいてきた。

『妾達の恩人である其方にも、これを授けねばな』

「ン? 何ナニ、何かいただけるのん?」

『姉様だけでなく、妾からも授けよう』

火の姉妹は手のひらの上に、それぞれ勲章を作り出してピースに手渡した。

「これ、なぁに?」

『これは『火の勲章』と言うてな、妾が認めし者にだけ授ける特別な証じゃ』

『妾のは『炎の勲章』、火の姉様と同じく妾が認めし者に授けるもの。汝だけでなく、そこな二人も持っておるぞ』

「そなの!? そんないいもんもらっちゃっていいの!?」

『もちろんだとも。あのような凄まじき呪符なるものを生み出せる其方には、十二分にその資格がある』

「ありがとう!こんな素敵なプレゼントをもらえるなんて、ピィちゃん感激ッ!」

火の姉妹からスペシャルなご褒美をもらえたことに、ピースは頬に手を当て高速でクネクネしながら全身で喜びを表す。その高速クネクネの舞いは、相変わらず師匠フェネセンのそれと全く同じである。

嬉しそうにクネるピースに、うむうむ、と得意げに頷く火の姉妹達。

さらに続けて何か褒美をくれるようだ。

『ああ、あとは、これもやろうか』

『レオニスやライト達も、何やらこれが好きなようだからな。存分に持っていくがよい』

火の姉妹達はそう言うと再び手のひらを翳し、指先から強大な魔力を放出しては凝縮していく。

そうして出来上がった【火の乙女の雫】と【炎の乙女の雫】をそれぞれ立て続けに十粒づつくらい作っていった。

それを事も無げに、ザラザラザラ……とピースの手のひらに渡していく火の姉妹達。

受け取る方のピースは、目を大きく見開きながら己の手のひらの上に転がる雫をガン見している。

「うわぁ……これ、レオちんがうちのギルドに鑑定に出してた、乙女の雫ってヤツだよね? ふぁぁぁぁ、こんな風に作られるものだったんだぁ……」

「お、良かったな、ピース」

「うん……すっごく綺麗だぁ……」

目をキラッキラに輝かせながら、乙女の雫を眺めていたピース。

しばし眺めて満足した後、空間魔法陣を開いて仕舞い込む。

そして改めて女王達に礼を言う。

「火の女王ちゃん、炎の女王ちゃん、こんなに素晴らしいご褒美をたくさんくれて、本当にありがとう!小生の宝物にするね!」

『どういたしまして。其方の数々の功績に比べたら、ほんのささやかな礼にしかならんがな』

『ええ、全くです』

ピース達は、今からここエリトナ山を出立し炎の洞窟に戻る。

彼らと先に別れる火の女王が、ピースをそっと包み込むように抱きしめる。

『……またいつでも遊びに来るがよい。其方達なら、いつでも大歓迎する故』

「うん!……って、小生なかなかまとまったお休み取れないけど……また皆で遊びに来るからね!」

火の姉妹からたくさんの褒美をもらったピース。

頬を紅く染めながら、満面の笑みで火の女王を抱きしめ返す。

そして頭を散々よしよししてもらった後、火の女王がそっとピースから離れていく。

そうしてピースは炎の女王やライト達とともに、再び炎の洞窟に戻っていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

火の女王と別れてから数瞬後。

気がつけば炎の洞窟の最奥の火溜まりの中にいた。

「エリトナ山、すっごく楽しかったー!」

「ピィちゃん、たくさん褒めてもらえて良かったね!」

「うん!小生の頑張りが認めてもらえて、すっごく嬉しかったよ!」

火溜まりから洞窟内に上がったライト達。

特にピースはものすごく上機嫌である。

あれだけ火の女王に褒めてもらえたのだ、今回の訪問目的である『たくさん褒めてもらう!』はしっかり達成されたと言えよう。

「じゃ、俺達はこのままプロステスの街に戻るか」

「うん!」

「……あ、レオ兄ちゃん、ちょっと待ってくれる? 街に戻る前に、炎の女王様に一つ聞きたいことがあるんだ」

「ン? そりゃいいけど……何だ?」

そのままプロステスに戻ろうとしたレオニス達に、ライトが待ったをかける。

するとライトは炎の女王に向かって話しかけた。

「炎の女王様、ぼく、ずっと気になってたことがあるんですが……」

『何だ?』

「この炎の洞窟には、守護神はいるんですか?」

「「『!!!!!』」」

ライトがずっと気になっていて、炎の女王に聞いてみたかったこと。

それは『炎の洞窟に守護神=BCOレイドボスはいるのか?』であった。

水の女王を始めとして、これまでライトが出会ってきた数々の属性の女王達。そこには必ず神殿があり、守護神がいた。

そして、そのどれもがライトがよく知る前世のソシャゲBCOに出てくるレイドボスであった。

エリトナ山や炎の洞窟は、その場所自体が神殿扱いとなっていて建物はない。

だが、今回エリトナ山にも守護神ガンヅェラがいることを知ったライト。

ならばこの炎の洞窟にも、絶対に守護神がいるよね!?と考えるもの当然のことだった。

だが、ライトの問いかけを聞いた途端、炎の女王の顔が曇る。

そして徐にさの口を開いた。

『炎の洞窟の守護神、か……いるにはいるのだが……』

「やっぱりいるんですね!?」

『それが…………まだ卵から孵化していないのだ…………』

炎の女王の顔が翳った理由。

それは、卵からまだ孵化していないからであった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

しょんぼりと沈み込む炎の女王に、ライトがそっと話しかける。

「……炎の女王様、その卵はどこにあるんですか? この部屋にはないようですが……」

『卵はこの部屋のさらに奥に安置されておる。大事なもの故に、これまで誰の目にも触れさせてはいないのだ』

「そうなんですか……」

『本来なら火の姉様のところのように、とっくに孵化していてもおかしくないのに……きっと妾が女王として未熟過ぎて至らないが故に、卵も孵化しないのであろう……』

あまりにも落ち込む炎の女王に、ライトは諸々を察した。

炎の女王は、自身が女王としての資質を欠いているから守護神が降臨しない、と思っているようだ。

だが、実際はそうではない。卵が孵化するためのエネルギーが足りないだけなのだ。

悲しい勘違いをしている炎の女王に、ライトは堪らず大きな声で話しかける。

「そんなことはありません!炎の女王様は、立派な女王様です!」

『……気遣ってくれてありがとう。汝はほんに心優しき子だの』

「違います!そうじゃないんです!卵を孵化させる方法が、ちゃんとあるんです!」

ライトの懸命に訴えを、ただの慰めだと思っている炎の女王。

だが炎の女王にとっては、ただの慰めであってもその気持ちが嬉しかった。

だからライトの心優しさを褒めたというのに、何とライトは『卵を孵化させる方法がある』と言うではないか。

思いがけない言葉に、炎の女王の目がだんだんと見開かれていく。

『…………今、何と言った? 卵を孵化させる方法が、本当にあるというのか?』

「はい!ぼくは目覚めの湖で、湖底神殿の卵から水神アープが孵化するところを見ましたし、レオ兄ちゃんも暗黒神殿の卵を孵化させたことがあるんです!ね、レオ兄ちゃん!」

「ああ。ライトは卵の孵化に二度立ち合ったことがあるようでな。俺は暗黒神殿での一回しか携わっていないが、暗黒神殿の卵からはノワール・メデューサが生まれたのは知っている」

『何と……卵のまま守護神を迎えられずにいたのは、妾だけではなかったのか……』

ライトとレオニスの話に、炎の女王は驚きを隠せない。

卵が孵化しないのは自分が未熟なせいで、守護神が降臨を拒んでいるのだ。そしてそんな未熟な女王は、きっと属性の女王の中で自分だけなのだ―――炎の女王はそう思い込んでいた。

しかし、ライトやレオニスの話では他の神殿でも卵のままだったという。

神殿の卵および守護神の他の事例を知り、炎の女王の顔は驚愕から次第に期待の色に染まっていく。

『ならば……妾のところの卵も、これから孵化させることができるのであろうか……?』

「もちろんです!ぼく達は、その方法を知っています!」

『ライト、レオニス、是非ともその方法を妾に伝授してはもらえぬか? 妾もこの炎の洞窟に守護神を迎えたいのだ』

炎の女王が期待のこもった眼差しでライトを見つめる。

彼女の切なる願いに対し、ライトとレオニスに否やはない。

「レオ兄ちゃん、いいよね?」

「おう、もちろん。俺で協力できることなら何でもするぞ」

「え、何ナニ、小生もここにいて見てていいのん?」

「もちろん!ピィちゃんも世紀の瞬間をぼく達といっしょに見よう!」

『ありがとう……本当にありがとう……』

快く協力を申し出るレオニスに、ピースもともにその瞬間を見よう!と誘うライト。

ピースにしてみれば『卵? 守護神? ナニそれ美味しいの?』的な状況で、ほとんど意味が分かっていないが、何やら面白そうだということだけは分かる。

そうと決まれば話は早い。

ライトが早速炎の女王に声をかける。

「炎の女王様、卵のあるところに案内してもらえますか?」

『分かった。褥の奥の壁に隠し扉があって、その扉の奥の部屋にある』

「そこは皆で入れるくらいの広さはありますか?」

『高い祭壇があって、そこに卵が置かれてあるのだが、広さも十分にある』

「じゃあ、早速皆で行きましょう!」

「「おー!」」

ライトの掛け声に、レオニスもピースも気勢を上げて応える。

早速炎の女王が褥の奥の隠し扉を開き、四人で奥の隠し部屋に入っていった。