軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第689話 エリトナ山の守護神

ピースが望むだけの魔物の核を得た後、ライト達は再びエリトナ山山頂に戻った。

「さて、そろそろ俺達はプロステスに戻りたいんだが。火の女王に炎の女王も、いいか?」

『ああ。我が妹も炎の洞窟から長く離れるのはあまり良くなかろうしな』

『姉様、お気遣いいただきありがとうございます……そしたら帰る前に、このエリトナ山のマグマを浴びていってもよろしいでしょうか?』

『おお、存分に浴びてゆくが良いぞ。このエリトナ山に漲る魔力たっぷりのマグマを浴びれば、長年に渡り傷ついてきた其方の身体も癒えよう』

『ありがとうございます!』

名残を惜しむ炎の女王が咄嗟に申し出た、マグマ浴の願い。

それに快く応じる火の女王に、炎の女王の顔も綻ぶ。

『では早速、姉様も行きましょう!』

『うむ。レオニスにライト、ピース、其方達も妾達とともにマグマ浴に行くか?』

「ぃゃ、俺達がマグマ浴なんてしたら、骨も残らず溶けちまうと思うんだが……」

火の女王からのお誘いに、頬を引き攣らせながら遠慮するレオニス。

だが、レオニスの横にいたライトは目を輝かせながら火の女王に問いかける。

「火の女王様!炎の洞窟からここに来た時のように、女王様達手を繋いでもらえばマグマの中でも大丈夫ですか!?」

『もちろん。というか、其方達は既に妾達からの加護を受けているのだから、手など繋がずとも全く問題はない。世のあらゆる火はもちろんのこと、マグマですらももはや其方達を害することはできぬぞ?』

ライトの問いに、さも当然のように答える火の女王。

ライト達は火の姉妹二人からの加護を受けている。火属性の頂点たる女王二人、火の姉妹からの加護が重複しているライト達には、もはやこの世における通常の火属性ダメージは通らないのである。

「そうなんですか!? ……でも、せっかくだから女王様達とも手を繋ぎたいです!」

『ふふふ、可愛らしいことを言うてくれるの』

炎の洞窟との行き来だって大丈夫なんだから、マグマ浴だって大丈夫だよね!とばかりに火の女王に確認するライト。もはやマグマ浴をする気満々である。

ご機嫌でキャッキャウフフしているライトと火の姉妹の横で、レオニスとピースは信じられないものを見るような目つきで眺めている。

「ライっちってば、豪胆だなぁ……これもレオちんの教育の賜物?」

「馬鹿言え、いくら俺でもそこまで命知らずじゃねぇわ……」

「じゃあライっちのあの胆の太さは、生まれついてのものなんだねぇ」

「おう、ありゃ親の血をガッツリ受け継いでるからだ。さすがはグラン兄の子だ!」

ライトの豪胆さにただただ感心するピースに、自分の教育の成果説を速攻で否定しつつライトの実親グランを賞賛するレオニス。

だがしかし、いくらグランがレオニスが尊敬して止まない兄貴分とはいえ、さすがにマグマ浴まではしないのではなかろうか。

というか、火の姉妹の加護を持たないグランがマグマに飛び込んだら普通に死んでしまう。

ライトのとんでもない言動の数々、その責任の所在のほぼ全てを背負わされるグラン。さぞや草葉の陰でびっくり仰天&焦っていることだろう。

「レオ兄ちゃん、ピィちゃん、早く皆でマグマ浴しようよー!」

「……ま、火の女王ちゃん達が大丈夫だって言うなら大丈夫っしょ!」

「ピース、お前も師匠に似て大概軽いよね……」

『もたもたしていると、置いていってしまうぞ?』

「へいへい、今行きますよー」

ライト達の催促に、レオニスとピースも火口横に移動する。

海水浴や森林浴、岩盤浴ならぬマグマ浴とは、これ如何に。

まかり間違っても人間が成せる 業(わざ) ではないはずだが、もはやこの人外ブラザーズにそうした常識を当て嵌めてはいけない。

今日もライト達の人外度は順調に加速しているようで、何よりである。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

早速エリトナ山火口からマグマの中に飛び込んだライト達。

ライトは火の姉妹と手を繋ぎ、レオニスとピースは火の女王の言葉を信じてそのまま単身で飛び込んだ。

結果はもちろん皆無事で、赤いマグマの中を悠々と泳いでいる。

エリトナ山のマグマは、今日も沸々と煮え滾っていて熱気がすごい。

だが、火の姉妹の加護を持つライト達には、ぬるめのお風呂くらいの温度に感じる。

何ならプロステスの夏の気温よりも低くて、まるで快適な温泉にでも浸かっているかの心地良さだ。

これなら本当に『マグマ浴』として、ライト達の健康増進にも良いかもしれない。

『ああ……マグマの熱が身体の隅々にまで行き渡って、とても心地良いです……』

『炎の洞窟に帰る前に、ありったけの魔力をここで回復していくが良いぞ』

『ありがとうございます、火の姉様……』

特に炎の女王は、マグマの持つ強大な熱量を浴びてうっとりとしている。

炎の女王の回復の邪魔をしないように、そっと手を離してやるライト。まるで宇宙遊泳でもしているかのように、炎の髪はゆらゆらと優雅に揺れ動く。ふわふわとマグマの中を揺蕩う炎の女王は、本当に美しい。そして何より気持ち良さそうな姿に、ライト達も思わず和む。

ライト達が炎の洞窟調査に赴き、ピースの呪符で炎の女王の命を救ったのが約半年前のこと。

彼女の身体に植え付けられた穢れは、その時にもう完全に取り除いた。だがそれでも、まだ半年過ぎた程度ではその傷は癒えきってはいないのかもしれない。

そうして橙色に輝く不思議な温かい空間をしばらく堪能していると、下の方に何かがあることに気づいたライト。

それは何やら楕円形の物体で、その後ろに紐か尻尾のような何かがついているのが見える。

不思議に思ったライトは、火の女王に問うた。

「火の女王様、下に何かあるようですが……あれは何ですか?」

『ああ、あれはこのエリトナ山の守護神であるガンヅェラだ』

「えッ!? ガンヅェラ!?」

火の女王の答えに、ライトは驚愕しつつ慌てて再びその物体をまじまじと見た。

楕円形に見えたそれは亀の甲羅に似た胴体で、紐か尻尾に見えたそれはまさしく尻尾。ずんぐりとした胴体からは、これまたずんぐりとした極太の手足が生えていて、頭の額部分には先端が折れた小さな角が見える。

ライトはそのガンヅェラと呼ばれたものを知っている。

それは前世でも散々見てきた、紛うことなきBCO最古参レイドボス―――ガンヅェラであった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

後ろから追いついてきたレオニスとピースが、ガンヅェラを見てびっくりしながらライト達の話に加わってきた。

「おお、ありゃまさしくガンヅェラじゃねぇか!普段はこのエリトナ山にいるのか?」

『然様。額の角が小さなうちは、このエリトナ山でおとなしく眠りについておる』

「あー、確かにねー。歴史的にガンヅェラの出現地域ってのは、いっつもシュマルリ山脈北部だったねー」

「ガンヅェラの住処がエリトナ山だってんなら、それも納得だな」

レオニス達の話によると、ガンヅェラは人族の間では別名『禍龍』とも呼ばれ、最大の災禍の一つとして今でも警戒されている超大型の魔物だ。

数十年から数百年に一度、不定期周期で人里に現れては大暴れしていく最大級の脅威。古い文献にも『あの龍が目覚めれば一国が壊滅する』とすら記録されているという。

そこら辺は、黄金週間中に催された鑑競祭り第一部にて、ガンヅェラの角がお宝として出された時に解説があった。

だがこのガンヅェラも、サイサクス世界では海底神殿のディープシーサーペント同様、ただの魔物ではなくエリトナ山の守護神だったようだ。

眠っている間なら、どれ程近づいても大丈夫!とばかりにライト達はどんどん下に行き、ガンヅェラの本体に近づいていく。

そうして間近で見るガンヅェラは、競技場をはるかに上回るほどの超巨体だった。

「これ、たまに目覚めて外に出てくることあるよな?」

『ああ。折れた角が完全回復すれば眠りから覚めて、すぐに外に出たがる子だからの』

「前に角が折られたのは、五十年くらい前だったか」

『ほう、よく知っておるのう。その通りぞ』

想像以上の大きさに、ガンヅェラの横で首を真上に上げながら呆然とするライト達。

こんな巨大なもの、到底人族だけで討伐できるような代物ではない。できて角を折るくらいしかできないだろう。

だが幸いなことに、その角こそがこの禍龍の大きな弱点の一つであり、『角を折ればガンヅェラは巣に引き返す』という伝承が人族の間に伝わっている。

そして一番最近ガンヅェラが出たのは、今から約五十年ほど前のこと。その記録は、当時対処に当たった冒険者ギルドや魔術師ギルドなどにも残されていた。

『この子が生まれてから、幾星霜が過ぎたことか……もはや細かくは覚えておらぬが、今から数百以上の季節は遡るか』

「冒険者ギルドで閲覧できる記録には、『禍龍は千年以上生きている』と書かれてあったが……」

『おお、もう千は超えておったか? 妾としては、まだ五百歳程度かと思っておったが……そんな記録まで取ってあるとは、人族とはなかなかにまめな性格をしておるのだな』

「そりゃあな、こんなデカいもんが襲来したら絶対に末代まで語り継がれるわ……」

「うんうん。その時の対処の結果とか残しておかないと、次にまた来た時に対応できないもんねー」

ガンヅェラの正確な年齢を把握してなかった火の女王が、人族の記録癖?に感心している。

だが、人族にしてみればガンヅェラは天災にも等しい災禍。その出現は、人類の歴史に必ず刻まれる重大事件なのだ。

ここでライトはふとガンヅェラのステータスが気になり、『アナザーステータス』と【詳細鑑定】でこっそり見てみることにした。

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【名前】―

【種族】ガンヅェラ

【レベル】70

【属性】火

【状態】睡眠

【特記事項】単独接触禁忌指定第一種

【HP】59100

【MP】24000

【力】11280

【体力】12750

【速度】2950

【知力】3540

【精神力】5050

【運】2140

【回避】2220

【命中】5660

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【ガンヅェラ】

山のような巨大な体躯に、亀の甲羅の如き頑強な硬い殻鱗を持つ最凶無比のドラゴン。別名『禍龍』。

普段はエリトナ山の火口内で静かに眠っているが、一度目覚めて外に出れば周辺のものは全て燃え尽くされて、完全な焼け野原と化す。

まさしく『歩く災禍』であり、その脅威は計り知れない。

しかし、最大の弱点である額の角を折れば、休眠するためにエリトナ山に戻るとされている。

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『ンー? 千年以上生きているって割には、レベル70ってそこまで高くないんだな……ちょっと意外だ』

『……だけど、千年以上生きてるっていっても、そのほとんどがここエリトナ山で眠っている訳だから、そこまでレベルが上がらないのも当然っちゃ当然か』

『ていうか、ゲームの時は武器防具を強化してレベルアップもして、騎士団のメンバー数十人でかかればガンヅェラにだって勝てたけど……現実としてこんな巨大なもん、何十人何百人と束になってかかっても勝てる気がしねぇぞ……』

ガンヅェラを眺めるフリして、その各種ステータスや詳細を見たライト。頭の中であれこれと考察している。

実際のところ、このガンヅェラとはBCOにおける最初期のレイドボスである。

ライトもBCOでは様々な強化やレベルアップの末に、単独ソロプレイでもガンヅェラを倒せるようになった。それは、ガンヅェラが最初期のレイドボスだったが故に、月日が経つとともに弱体化していったせいでもある。

だが、このサイサクス世界で現実としてのガンヅェラを目の当たりにすると、とてもじゃないが自分一人で挑んで勝てる気など全くしない。何しろ巨大なのだ。

体育館や競技場よりも大きな代物を、一体どうやって倒すというのか。ライト自身、ガンヅェラ相手に単独で勝てるビジョンが全然浮かばない。

いや、もしかしたらレオニスなら倒せるかもしれない。

自由自在に空を飛び回れるレオニスならば、背後や死角から火属性に強い水魔法を連続して当てることできっと倒せるだろう。

いずれにしても、今のライトでは無理だ。少なくともレオニスと肩を並べられるくらいにならなければ、それは叶わない。

そしてそれ以外にも、今のライトにはガンヅェラに対する願望が一つあった。

「海底神殿のデッちゃんのように、お話ができるといいのに……」

「そうだな。だけどこのガンヅェラってのは、一度目覚めたら全てを破壊し尽くすまで暴走は止まらない、とまで言われてるからなぁ」

「うん、お話するには起きている時でないと無理だし、起きてたらずっと暴れてるとかじゃ話をするどころじゃないもんね……」

ライトの願望とは『ガンヅェラと話をしてみたい』というものだった。

これまでライトが出会ってきたBCOレイドボスは、その全てが属性の女王とともにある守護神だった。手ずから卵を孵化させたアープやノワール・メデューサ然り、その他にもディープシーサーペントやグリンカムビ、ヴィゾーヴニル然り。

天空島にいるグリンカムビ、ヴィゾーヴニルとはまだ会話はできてないが、それ以外の守護神達とは会話ができている。

ならばここにいるBCO最古参レイドボスのガンヅェラとも、できるものなら会話をしてみたい―――ライトがそう思うのも自明の理であった。

しかし、ガンヅェラと会話するには、当然のことながらガンヅェラが起きていなければ始まらない。

そしてそのガンヅェラが起きて目覚めているということは、再び災禍が起きることも意味していた。

それを思うと、ガンヅェラとの会話は到底不可能なことだった。

そんなことを考えていたライトは、ふと疑問が湧いて火の女王に尋ねた。

「そういえば、火の女王様は守護神のガンヅェラがずっと寝てて、寂しくはないんですか?」

『寂しい?』

「はい。他の神殿の守護神は、皆その神殿にいる属性の女王様達と仲良く過ごしていることが多いので……」

『そうさな……全く寂しくないと言えば嘘になるかの』

ライトの素朴かつ直球の質問に、火の女王は小さく笑いながら答える。

すごく寂しいという訳でもないが、それでもやはり一抹の寂しさはあるようだ。

『本当は起きて話したり、戯れたりできれば一番良いのは間違いないが……何しろこの子は、完全に覚醒したらすぐに外に出たがるやんちゃな子でのぅ』

「そ、そうなんですか……確かに、あんまり、頻繁に、お外に出てこられても、困る、かなぁー……」

『であろう? 妾としても、この子の行く先々が尽く燃え上がった挙句、草木一本生えぬ死の大地となるのを見るのは忍びないのでな』

「……ですよねぇー……」

ガンヅェラが完全覚醒することの危険性を、火の女王も重々承知しているらしい。

ガンヅェラと話をしたいがために眠りから起こして、その結果がサイサクス大陸滅亡では洒落にならない。

『ただし、ガンヅェラもずーっと眠りこけている訳ではないぞ?』

「え、そうなんですか?」

『角が半分くらいまで伸びてくると、たまーに寝ぼけ 眼(まなこ) でもにゃもにゃと話すことがあるのだ』

「ホントに!? どれくらい話せるんですか!?」

『『お腹空いたー』とか『まだねもいー』とか、ほとんど寝言だがな』

「ガンヅェラの寝言……聞いてみたいー!」

火の女王の意外な話に、ライトが思いっきり食いついている。

角が完全に治れば完全覚醒に至るというのなら、その半分くらいまで治ればうたた寝程度になって稀に起きる、ということなのだろうか。

ふと今のガンヅェラの角を見ると、レオニスどころかオーガ族族長のラキくらいはあろうかという長さになっている。

だが、競技場よりも大きな身体からしたらだいぶ小さな角だ。前回角を折られたのが五十年ほど前のことなので、まだまだ完全回復には程遠いのだろう。

「今のあの角の長さは、完全な状態と比べてどれくらいなんですか?」

『あれでようやく四半になるかどうか、といったところか』

「じゃあ、完全に治るまではあと百五十年ほどかかるんですねー」

『そういうことになるの』

ガンヅェラの完全覚醒は百五十年は先のことかー。半分まで伸びるとしても、あと五十年はかかるのか……こりゃ生きてお目にかかることはできなさそうだ。ちと残念……などとライトが考えていると、レオニス達も同じことを思ったようだ。

「今から百五十年も先じゃ、そんな頃には俺達はとっくにお陀仏だな」

「そだねー。小生達が生きているうちに、起きてるガンヅェラにお目にかかれそうにないのは残念だけど……ガンヅェラのお相手は、その頃の若き子孫達に任せるとしようかー」

『人の子の生とは、誠に短きものよのぅ……』

『ほんにのぅ……妾達の加護でもう二百年、いや、五百年くらいは長生きできぬのか?』

「ンな無茶言わんでくれ」

自分達はとっくに死んでるので、ガンヅェラ退治は子孫に任せると言うレオニスとピースに、火の姉妹は寂しそうな顔をする。

炎の女王に至っては、自分達の加護効果であと五百年は長生きしろと言い出す始末である。

「でも……こうして寝顔を見ているだけなら、ガンヅェラも可愛らしいものですよねぇ」

『ああ、妾の神殿エリトナ山の守護神だからな。起きれば破壊神だが、寝ている間はマグマの熱を吸収して噴火を抑える役目も果たしてくれる、とても良い子なのだぞ』

スピスピと眠るガンヅェラの頬を、右手でそっと優しく撫でる火の女王。やはりガンヅェラは彼女とともにある守護神だけに、慈しむ心は人一倍強いようだ。

常に会話をすることは叶わないが、こうして日々優しく語りかけているのだろう。

火の女王とガンヅェラの、優しくも確固たる絆を垣間見たライト達。

和やかな中にも、ほんのちょっぴり切なくなる光景だった。