軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第688話 得難き幸運

「いやー、炎の洞窟のマンティコアだけじゃなくて、このエリトナ山の鬼火や荒魂の核まで入手できるなんて!今日の小生、すんげーついてるなぁ♪」

鼻歌交じりで超ご機嫌に山を下るピース。

山の中腹辺りから、ぽちぽちと魔物に襲撃されるようになってきた。

エリトナ山で出現する魔物は、他の平原などに比べて格段に強い。だが所詮はリポップする通常魔物、そこは魔術師ギルドマスターたるピースの敵ではない。

火属性の魔物に有効な水魔法を駆使しながら、サクサクと鬼火や荒魂を倒しては核を拾得していく。

もちろん鬼火や荒魂以外の魔物も襲いかかってくるので、それらも水魔法で一撃で倒す。

攻撃魔法を見慣れていないライトは、その様子を眺めながらただただ感嘆しきりである。

「やっぱピィちゃんって、すっごく強いんだね!あんなに小さな魔法陣なのに、全部の敵を一発で倒しちゃうなんて!」

「そう? そんなこと言われたら照れちゃうー♪……でもね、小生は魔法使いとしてはそこまで強い方ではないのよね」

「そうなの? 一撃で倒せちゃうくらいなのに?」

「それはねー、小生が描いた呪符を使っていろいろ強化してるからだよん」

ピース曰く、彼自身の魔法使いとしての強さは『中の中の上』、平均値より少し上程度なのだそうだ。

今も目の前で荒魂を仕留めながらそう語るピースに、ライトは意外に思いつつもその根拠を聞いて納得もしている。

皆でエリトナ山山頂から下り始めた直後に、ピースが空間魔法陣からいくつかの呪符を取り出して真ん中から破り使用開始していたのをライトも見ていたからだ。

呪符を破ることで効力を発動するのは、10分間や30分間といった短時間の間だけ効果を発揮するタイプの呪符だ。

例えばそれは魔物除けだったり、盗聴防止の呪符だったり、自身の身体能力向上なども該当する。

ピースが先程使用していたのは、魔法攻撃力、魔法防御力、物理防御力、命中率、それらを向上させる呪符だ。

その向上倍率は何と十倍。一般的にその手の呪符で冒険者達が気軽に使えるのは、せいぜい二倍まで。二倍の上は三倍、五倍があり、市販品として買えるのは十倍が最上級である。

もちろんその値段も、性能に比例してどんどん上がり高くなる。

先程ピースが惜しげもなく使用していた十倍呪符は、普通に買えば浄化魔法の最上級呪符『究極』にも匹敵する超お高い呪符である。

だが、ピースはその最上級呪符を自らの手で描き出せる。

故にどれだけお高い呪符であろうとも、いくらでも自分で描いて使えるのである。

ライトにしてみたら、それは途轍もなく羨ましいことだ。だが、ピースにとっては別のことが気になるらしい。

鬼火と荒魂の核以外の魔物の残骸?をせっせとアイテムリュックに仕舞うライトを見ながら、心底羨ましげにピースが声をかける。

「てゆかさ、小生の戦闘能力とかそんなんどーでもええのよ。それよりも、ライっちの持ってるそのアイテムリュックだよ!」

「あー、これ? うん、ぼくにはまだ空間魔法陣は使えないだろうからってことでね、使用実験?も兼ねて使わせてもらってるんだけど」

「まさかあの遺跡出土品が、レオちんと師匠の合作だったとはね…………全く以て予想だにしなかったよ」

ライトが使うアイテムリュック。それは、ライトのおねだりから始まった夢の収納系アイテム。

今回ピースとお泊まりで出かけるにあたり、ライトが出土品と同等のアイテムリュックを所持していることをピースに明かしたのだ。

その理由としては、ライトが道中で堂々とアイテムリュックを使えるようにするためと、ピースになら作成に関する様々な経緯を明かしても大丈夫だろう、というレオニスの判断のもとに決めたことである。

特に制作者不明の遺跡出土品にしたことについて、首がもげるかと思うくらいに頭を縦にブンブンと振っていた。

制作者がレオニスやフェネセンであることを他者に知られれば、絶対に面倒くさいことになる。

それを回避するために、予防策として『遺跡から発見した品』ということにしたレオニス達の意図を、ピースも全面的に肯定していた。

「てゆか、レオちん、よくあんなすげーもん作れたね?」

「まぁ、そこは俺の力だけじゃないけどな。途中からフェネセンが来て、いろんなアドバイスをしてくれたからこそ完成したものだし」

「さッすが師匠!やはり小生の師匠は、世界一偉大な魔導師だーーー!……って、あの複雑怪奇で超捻くれた魔法陣を主に構築したのは、どっち?」

「俺」

「そうなんだー。レオちんって、魔法陣作成に関しては性格悪いんだねッ!」

「………………」

アイテムリュックの主な制作者がレオニスだということを知り、その性格の悪さを笑い飛ばすピース。

ここで言う『性格悪い』とは、魔法陣の術式の複雑さだけでなく執拗なまでの隠蔽度をも指している。

以前もアイテムバッグの魔法陣に関して、かつてピースはその制作者であるレオニスを目の前にして『術式組んだヤツは絶対に性格悪い』『性格捻じ曲がり過ぎ』『マジキチ頭おかしいレベル』と散々扱き下ろしていた。

その時ピースは『あんだけ捻くれた魔法陣展開するヤツの顔が見てみたいもんだよ、さぞかし意地悪な極悪面してるに違いないッ』とも言っていた。

だが、念願叶って制作者の顔を見ても平伏す訳でもないピースに、レオニスがため息をつきながらその理由を明かす。

「……仕方ないだろう。俺やお前が使う空間魔法陣のように、無尽蔵に物が入るアイテムバッグなんて作ってみろ、それこそ悪人どもにだって都合のいいように使われちまう」

「まぁねー。あれが世に広く普及すればするほど、どうしたって良からぬ企み事にだって使われちゃうことも増える訳だし」

「だろう? だがあの品は、他の善良な人々にとっても大きな利益をもたらすのは間違いない。一部の悪人のせいで全てを封印するのは、あまりにももったいないし馬鹿らしいからな」

「だからこそ簡単に改竄できないようにしたんだねー。納得納得、さすがはレオちん、脳筋族一の策士だねぃ!」

レオニスが語ることに、ピースも心底納得したようだ。

ただし、最後の褒め言葉は果たして本当に褒め言葉になっているかは甚だ怪しいが。

「ま、そんな訳だから、魔術師ギルドもこれ以上アイテムバッグの解析に拘らずに、世に普及させる方向に尽力した方がいいぞ」

「そだねー、その方が研究の労力も省けるし。何より我が師がレオちんの志に共感して、それを良しとしたのならば弟子たる小生もそれに従わなければね!」

「そうしてくれると助かる。もちろんあのアイテムバッグ本当の制作者のことは、これからも絶対に誰にも言うなよ? このことを知っているのは俺達だけで、他の者に教えるのはピース、お前が初めてなんだからな?」

「初めて秘密を打ち明けてくれたのが小生とは、光栄だねーぃ!もちろん秘密は絶対に守るよぅ!」

どこまでも軽いノリのピースに、レオニスはどんどん不安そうな顔つきになっていく。

「……ぉぃ、本当に大丈夫だろうな?」

「大丈夫だって!何なら我が家門と小生の真名にかけて誓うよ?」

「いや、そこまでしろとは思ってはいないが……だが、お前がそうまで言うなら安心だな」

不安そうなレオニスに、ピースはあっけらかんとした顔のままで真名にかけて誓ってもいいとまで言う。

真名を持たない人間にとっては、その名や家門に誓ったところでそれはただの口約束に等しい。破った時に何の罰則もない約束など、守られる保証はどこにもない。

だが、精霊を祖に持つピースは違う。脈々と受け継がれてきたその血に流れる精霊の力により、己の意思で交わした誓約を破った者には必ず何かしらの罰が下るのだ。

そしてそのことはレオニスも承知している。

だからこそ、ピースの口外しないという決意の強さを瞬時に受け取ることができたのだ。

「だってさ、これが他人に知れたらさ、レオちんや我が師にすっごく迷惑がかかっちゃうじゃん?」

「そりゃあな。この件が万が一にも外部に漏れて、俺やフェネセンにアイテムバッグ作成依頼が山程押し寄せて来た日にゃ、フェネセンは二度とこの国に足を踏み入れないだろうなぁ。俺だってカタポレンの森の中に引き篭もりまっしぐらだ」

「でしょ? 小生だってそんな事態を招きたくないからね!」

レオニスとの真面目な会話の最中にも、ピースは手を休めることなく魔物を倒し、ライトはピースが倒した魔物をアイテムリュックに収納していく。

それを少し後方の上空から眺めていた火の姉妹達も、ピースが繰り出す水魔法やアイテムリュックの収納ぶりを興味津々で見ていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

『妾達は多少の水を被ったところで、すぐにどうこうなりはしないが……それでもあのように水魔法をバンバンと食らいたくはないのぅ』

『ですねぇ……ただ、姉様は雨風などで水の耐性もかなりありましょうが、妾の洞窟にはほとんど水はないので……あの水魔法を一発受けただけでも、かなりキツそうです』

『でもって、あのアイテムリュック?とやらも、いつ見ても凄まじいものよのぅ……何しろここら辺にあった骨どもの残骸、それらを消し去った後に残った何千何百とあろう鎧やら盾やら剣を全て呑み込んでおったからな』

『何千何百の鎧に盾に剣……邪悪な骨のみならず、そんなものがこのエリトナ山に大量にあったのですね……何とお 労(いたわ) しや……』

気がつけばライト達は、つい先日まで死霊兵団の残骸があった辺りまで来ていた。

今はもうその面影もなく、すっきりとしていて石だらけの地面も普通に見える。だがそこには、かつて火の女王とこのエリトナ山を侵略すべく、廃都の魔城から遣わされた死霊兵団の残骸が山と積み重ねられていたのだ。

その凄惨な光景を知るのは、今となってはライトとレオニス、そして火の女王の三人しかいない。

特に火の女王にとっては、長年悩まされ続けてきた頭痛の種だった。それがこんなにも広々とした山肌となり、元の姿を取り戻せたことに火の女王の胸には新たな感動が広がる。

『人の子とは、愚かで弱い生き物だとばかり思っていたのだが……そうではないのだな』

『ええ……妾も人の子にこの命を救われるとは、夢にも思っておりませんでした』

『もちろん、あのように気の良い者達ばかりではなかろうが……それでも信に足る者達と出逢えたことは、僥倖であった』

『本当に……妾達は得難き幸運に恵まれましたね』

火の女王と炎の女王の眼下には、賑やかかつ楽しそうに会話をしながら魔物を屠る三人の人族達。

なかなかにシュールな図ではあるが、頼もしくもあるライト達を火の姉妹は優しい眼差しで見守っていた。