軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第686話 精霊の子孫

しばしピースを抱擁していた炎の女王。

一旦身体を離し、ピースの肩に手を置きつつ優しい微笑みを向ける。

『さあ、そしたら今から皆で火の姉様に会いに行こうぞ』

「あ、ここから火の渦を通ってエリトナ山のマグマから火口に向かうってヤツ?」

『そう、先日火の姉様がそうして妾に会いに来てくださったのだ』

「その話はレオちんから聞いてるよ!マグマを通って行き来できるなんて、小生すんげー楽しみー♪」

『レオニス、ライト。二人ももこっちにおいで。ともに姉様のところに向かおうぞ』

「はーい!」

少し離れたところにいたライト達に向けて、手を差し伸べる炎の女王。

麗しの炎の女王の誘いを断ることなど、ライトにとっては何が何でも絶対にあり得ない。喜び勇んで炎の女王達のもとに駆け寄っていく。

四人は最奥の広間の隅で最も強く燃え盛る火の渦の前に行き、横一列で繋がるようにして手を繋ぐ。

炎の女王の右手にはピース、左手にはライト、そしてライトの左手にはレオニス、という順番だ。

『皆それぞれの手をしっかりと繋いで、離さぬようにな』

「「はーい!」」「おう」

『では、火の姉様のもとに行くぞ』

炎の女王が火の渦に一歩足を踏み入れると、四人の身体は音もなく火の渦の中に溶け込んでいった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「「「……おおおお……」」」

火の渦からエリトナ山のマグマに移動するライト達一行。

ほんわかとした温かさの中、赤い光が満ちた空間をゆったりと泳ぐ。

この世にも珍しい空間に、初めて見るピースはもちろんのこと二度目のライトとレオニスもまた感嘆する。

そしてマグマの中から地上に顔を出した時には、そこは既にエリトナ山の火口だった。

炎の女王は、他の三人を連れたまま火口の中からふわりと飛んで火口の縁に降り立つ。そこでようやく全員が手を離すことができるようになるのだ。

炎の女王達が地上に出てきたと同時に、マグマの中にいた火の女王が顕現した。

『皆、よく来たの』

『火の姉様!お久しゅうございます!』

『其方も息災そうで何よりだ』

火の女王の出迎えに、炎の女王が嬉しそうに火の女王に抱きついた。

抱きつかれた方の火の女王もまた、炎の女王の頭を優しく撫でつつ再会を喜ぶ。

前回火の女王がエリトナ山から炎の洞窟に移動し、火の姉妹が初めて対面したのは五日ほど前のこと。

久しぶり!というほどの期間も空いていないのだが、炎の女王にとっては火の女王と再会できる日を一日千秋の思いで待っていたのだろう。

大きな妹が小さな姉に甘える、何とも微笑ましい光景である。

再会の喜びを分かち合ったところで、火の姉妹はライト達の方に向き直る。

『レオニスにライトも、よう来たの』

「はい!火の女王様、こんにちは!」

「おう、約束通り皆で来たぜ」

「火の女王様、初めまして!」

ライト達に声をかけた火の女王に、それぞれが挨拶をする。

まだレオニスから紹介もされていないピースまで、ニッコニコの笑顔で右手をピシッ!と高く掲げながら火の女王に挨拶をしている。

炎の洞窟では、炎の女王に会う直前までかなり緊張していたピース。その緊張感は一体どこへやら。

炎の女王に歓迎されたことで、すっかり気を良くしていつもの調子を取り戻したようだ。

ピースの元気の良い挨拶を受けて、火の女王がピースの真ん前にまでゆっくりと歩み寄っていく。

『……其方が、妾の妹とエリトナ山を救いし者か?』

「えーと、炎の洞窟やエリトナ山に直接出向いて、いろんな危機を乗り越えて救ったのはレオちんとライっちだけど……そこで使った浄化魔法の呪符を描いたのは小生だから、小生も皆の危機を救う手助けの一端を担えてはいる、と、思うます!」

火の女王からの問いかけに、控えめな答えで肯定するピース。

ここでライトとレオニスを先に立てるのは、彼には 師匠(フェネセン) という真っ先に立てるべき存在がいる故か。

いずれにしても、このピースという魔術師は存外控えめな性格なのかもしれない。

『そうか。……此度は妾達火の姉妹を救ってくれて、本当にありがとう。心から礼を言う』

「どういたしまして!小生の仕事がこんなにも褒められるなんて、初めてのことですんげー嬉しい!」

本日二度目の絶賛の言葉に、ただただ破顔するピース。

だが、そんなピースが何の気なしに漏らした言葉に、火の女王が怪訝そうな顔をして問いかける。

『何? 其方の呪符とやらは、妾から見てもそれはもう素晴らしいものだというのに。誰からも褒めてはもらえぬのか?』

「うん。小生ね、魔術師ギルドの長なんてもんしてるからか、普段誰かから仕事を褒めてもらえることってあんまりないんだよね」

『そうか……それが上に立つ者の宿命、なのかもしれぬな』

少しだけ口を尖らせながら、現状を解説するピース。挨拶を終えて安心したせいか、もうすっかりタメ口である。

いや、実のところを言えば、決してピースの仕事が役に立っていない訳ではない。ただ、普段は書類に目を通したりその決裁をしたりなど、書類仕事がほとんどなのだ。

それらは組織の頂点に立つ者にしかできない仕事であり、同時に『ギルドマスターなんだから、やって当たり前』ということになる。

故に、改めてピースを褒めてくれる者など周囲にはいないのだ。

『ならばこれからは、我等姉妹が其方をたくさん褒めてやろう』

「ホント!?」

『ああ。其方は類稀なる才を持った、実に素晴らしき魔術師ぞ』

『そうだとも。妾の命だけでなく、火の姉様とエリトナ山をも救った功績は未来永劫語り継がれるべき偉業ぞ』

『然様。妾達姉妹の命は、決して安くはないからな?』

火の女王だけでなく、炎の女王もピースへの礼賛に加わる。

うんうん、としたり顔で頷く炎の女王に、フフッ、といたずらっぽい笑顔でそれを肯定する火の女王。その麗しさは、姉妹が並ぶ相乗効果で天井知らずの爆上がりだ。

あまりの麗しい光景に、ピースの後ろにいるライトが目眩を起こしてクラクラしているような気がするが。多分気のせいだろう。キニシナイ!

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「はぁー……眼福、眼福♪」

火の女王とピースの初対面が無事済んだところで、ライト達は昼食を摂ることにした。

時刻は正午を少し過ぎた頃、まさしくお昼ご飯時である。

なるべく平らな地面が広いところを選び、大判の敷物をいそいそと敷くライト。先程の火の姉妹の麗しさを存分に堪能し、とにかくご機嫌である。

レオニスも空間魔法陣からハンバーガーやらサンドイッチやら、手軽に食べられるものを次々と出していく。

「お昼ご飯の支度ができました!ささ、女王様達もいっしょにどうぞ!」

『おお、妾達にも何かくれるのか?』

『では、先日もらった、ほっとここあ?なるものを出してもらえるか?』

「分かりました!」

自分達の昼食だけでなく、火の姉妹達にも声をかけるライト。

火の女王からのリクエスト、ホットココアを早速二人分用意してマグカップをそれぞれに渡す。

ホットココアを初めて見る炎の女王。ライトからマグカップを受け取った後、横にいた火の女王に不思議そうに尋ねる。

『姉様が所望したこれは、一体何ですか?』

『これはな、人族が飲む飲み物で『ほっとここあ』というのだ。実に美味なる液体ぞ』

『おお、そうなのですか……姉様は何でもご存知なのですねぇ』

『妾も先日ライトに馳走になっての。美味なる極上の味わい、きっと其方も気に入るであろう』

妹の問いに、ドヤ顔で答える火の女王。

火の女王がホットココアを飲むのはまだ二回目で、姉の威厳をこんなところで示すのもどうかとは思うが。属性の女王のドヤ顔というのも、それはそれでなかなかに微笑ましいので許されるだろう。

「おおー、ハンバーガーにサンドイッチ、唐揚げに俵型のプチおむすび……すんげー豪華だねぃ!」

「これね、全部うちの執事のラウルが作ってくれたご馳走なんだよ。すっごく美味しいから、ピィちゃんもたくさん食べてね!」

「そんなに美味しいのん?……ッて、ホントにどれも美味しそう!うわー、どれから食べよう?」

敷物の上に並べられた、ラウル特製のたくさんのご馳走。

どれも美味しそうで目移りするピースに、レオニスが待ったをかける。

「まずは食事の挨拶からだぞー」

「あッ、そだねー、何事も挨拶は大事だねッ」

「そゆこと。はい、じゃあ皆で手を合わせてーーー」

「「「いッただッきまーす!」」」

『『???』』

レオニスの挨拶指導に、火の姉妹も何となく従い合掌だけしている。

挨拶の言葉こそ分からずに唱えられなかったが、周囲に合わせて咄嗟にペコリと頭を軽く下げられただけでも十分立派である。

そして各々好きなものを手に取り、お昼ご飯を食べ始めた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「……ライっちの言う通り、全部美味しいね!」

「でしょでしょ? うちのラウルの作るお料理は全部美味しくてね、特にスイーツはご近所さんにもすっごく大好評なんだ!」

「ほえー、レオちんやライっちのお家って、貴族街にあるよねぇ? 貴族の舌をも唸らせるスイーツって、何気にすごいことだよ?」

「食後のデザートも出すから、ピィちゃんもいっしょに食べようね!」

「うわーい、楽しみー♪」

エリトナ山の山頂で、のんびりと昼食を食べるライト達。

火の聖地たるエリトナ山、その頂きから眺める絶景とともに摂る食事の何と美味なことか。

晴れ渡る空の下で楽しむ優雅なひと時。ホットココアを美味しそうにチビチビと飲む火の姉妹。

するとここで、火の女王がピースに向かって話しかけてきた。

『時に其方、ピースと言うたか? 其方のその顔の模様は、刺青か?』

「ン? 小生のコレ? これはねぇ、ネザン家の直系に稀に出る痣よー」

『痣、か……其方には精霊の血が流れておるのか?』

「うん。小生の先祖に、精霊を娶った人がいるらしくてね? それ以降、その精霊が持つ紋様の痣を持つ子孫が時折生まれるようになったんだってー」

ピースの顔にある、刺青のような模様。目尻とこめかみから頬に向けて、流線型の赤茶色の模様が左右対称で入っている。

ピース曰く、その模様は刺青ではなく生まれ持った痣であるという。

その痣は、かつてピースの何代か前の先祖が娶った精霊の肌に刻まれていた紋様であり、それと同じ形の痣を持つ者は極めて高い魔力と非凡な才能に恵まれるのだという。

「小生の家は、代々魔術師を輩出する家門なんだけどね。中でもこの紋様の痣を持つ子は、そりゃもう家門の期待を一身に背負わされちゃうのよ」

「あー、ピースの家は昔から有名な魔術師がたくさん出てるもんな」

「そうなんだぁ……それは大変だね」

ピースの生家、ネザン家―――高位の魔術師を何人も輩出してきた、魔術師界きっての名門として名を馳せる。その高名さは、レオニスでも知っている程だ。

そんな名門一家の期待を一身に背負う重圧は、如何ばかりか。

前世(むかし) も 今世(いま) も生粋の平民のライトには、きっと想像もつかない厳しいものに違いない。

「まぁねー。でも、この痣を持ってて良かったこともあるんだー」

「そうなの?」

「てゆか、うちの家門の場合、ご先祖様の精霊に 肖(あやか) るために、模様がなくても成人したら刺青を入れるのがしきたりなんだけどさ。小生、痛いのキライだから、刺青とか無理無理無理無理ィ!」

「…………???」

「つまりね、刺青を入れる必要がなかったこと。これがこの痣を持ってて一番良かったこと!」

きゃらきゃらと笑いながら、あっけらかんと明るく笑い飛ばすピース。

痣を持ってて良かったこととは、一体どんなすごいことなんだろう? 魔力の高さ? それとも特殊なスキルでも使えたりするのかな? そんな推測をしつつ、身構えながら聞いていたライト。ピースの意外な答えに、若干拍子抜けする。

だが、これくらい楽観的でなければ、一身に背負った期待に押し潰されてしまうだろう。

そう考えると、結果的にはピースの性格がこのように明るいもので良かったのかもしれない。

そういえば、職人の街ファングの杖職人ユリウスも、祖先に木の精霊ドライアドと契りを交わした人がいると言っていたな……とライトはふと思い出す。

人族でありながら精霊の子孫でもあるというのは、今のところユリウスとピースの二例しか知らないが、案外よくある話なのかもしれない。

ライト達はこうして属性の女王達と交流があるが、普通の人間にはそんな機会はほとんどない。

普段の生活では、精霊と直接触れ合うことなど滅多にないのだ。

だが、こうして精霊の子孫がいるのを目の当たりにすると、ライトの心が何となく温かくなってくる。

これからも、もっといろんな精霊達と知り合ったり、仲良くできるといいな―――そんなことを思いながら、エリトナ山での贅沢なひと時を楽しんでいた。