軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第669話 人魚の鱗

海樹ユグドライアのもとを去り、海底神殿に向かうライト達。

途中までは男型の人魚も一応送ってくれて、とある地点で引き返して戻っていった。

男の人魚とはほとんど話ができなくて、少し残念に思うライト。ユグドライアのもとでは、とてもじゃないがのんびりと会話したり雑談できるような空気ではなかった。

だが、人間不信のユグドライアも最後にはライト達の再訪を許してくれた。これはライト達にとって大きな成果である。

これからゆっくりと時間をかけて親睦を深めていけば、きっと彼らとも気軽な会話ができる日が来るだろう。

その代わりと言う訳ではないが、海底神殿に向かう道中ではのんびりと歩きながら三人の女型の人魚と会話を交わす。

『ぃゃー、海樹の人族嫌いのこと、すっかり忘れてたわぁ』

『私達、普段はこっちにあまり来ないものねぇ』

『先に言っておけば良かったわね。ごめんなさいね』

海樹とレオニス達のやりとりを、あの場の片隅で終始見ていた彼女達。

事が終わって場を離れた今はあっけらかんと話す人魚達だが、あの空気の居心地の悪さは内心では相当冷や汗をかいていたに違いない。

「いえ、あれは話を聞けば無理もないと思います……でも、海樹の方も最後にはぼく達がまた訪ねることを許してくれましたし。これから仲良くなっていければいいと思います。ね、レオ兄ちゃん?」

「そうだな。俺達二人だけで人族の名誉を挽回できるとは思ってはいないが……それでも、他の神樹のように仲良くしてもらえるようになれるといいな」

人魚達の謝罪を快く受け入れるライトとレオニス。

道すがら、ふとライトの目にキラキラと輝く何かが落ちているのが映る。

何だろう、と思いつつ何の気なしに拾い上げてみるライト。それは何かの鱗のようだ。

「これ、もしかして人魚の鱗ですか?」

『ン? ……ああ、そうね、それは人魚の鱗ね。どこかにぶつかったり怪我をしたりした時に、たまに鱗が剥げることがあるのよね。ここら辺はまだ海樹の領域に近いから、おそらくはオス達の鍛錬中に出たものが流れてきたのだと思うわ』

ライトは己の手のひらの中にある、拾い上げた人魚の鱗をじっと見つめる。

その鱗は綺麗な楕円状ではなく、縁の方が少しギザギザに欠けている。おそらくは先程の人魚の解説通り、男の人魚の鍛錬中か何かの際に出たものなのだろう。

しかし、完全な形のものではないのに、その鱗はとてもキラキラとして美しく輝いている。

手のひらで青く光り輝く鱗を見つめながら、ライトはぽつりと呟く。

「人魚の鱗って、剥げ落ちたものでもこんなに綺麗なものなんですね……」

『そうよ!私達の美しさの基準は、見た目や姿形よりも鱗の艶やかさや美しさが最も重要視されているのよ!』

『とはいえ、私達人魚も歳を取るにつれて鱗の張り艶は徐々に衰えていくけど。それはそれで、今度は若い頃にはなかった味わい深さが増していくのよね』

『歳を重ねることでしか生まれない、美の極地ってやつね!』

怪我などで剥がれ落ちた鱗は、人魚達が身にまとう鱗に比べると色艶が格段に落ちる。ライトがたまたま見つけて拾ったものも、剥げ落ちてからかなりの月日が経っているのだろう。

だがそれでも、青い鱗は角度を変えれば虹色にも輝いて見える。

海の中で劣化した鱗でさえこんなに綺麗なのだ、一攫千金を狙って人魚を生け捕りにしようと企む輩が後を絶たないだろうな……とライトは密かに思う。

この綺麗な鱗を持ち帰って、カイさん達にも見せてあげたいな……と一瞬考えたライト。だが、今日はやめておこう、とすぐに思い留まる。

ユグドライアの信頼を得る前にそんなことをしたら、すぐに『金儲けのために俺達を利用するのか?』と言われかねないからだ。

もちろんライトには、人魚の鱗を高値で売るつもりなどこれっぽっちもない。だがそれはライトの主張であり、それを明確に証明できる手段などない。

彼に言葉だけで信じてもらうには、まだまだ信頼が足りない。

しっかりした信頼関係を築けてもいないうちから、彼の心証を損ねるようなことはしたくなかった。

ライトは鱗を拾った場所に近いところに再び置いた。

それを見た人魚達が、ライトに不思議そうに問うた。

『なぁに? その鱗、またそこに置くていくの?』

『持って帰らないの?』

『そこら辺に落ちてたものなんだから、今ここで黙って持ち帰っても誰も文句はいわないわよ?』

『そうそう、私達だって別に言いふらしたりなんかしないし』

人魚達は口々に、ライトを唆すような甘い言葉を囁いてくる。

いや、彼女達は別にライトを誘惑して堕落させてやる!とか企んでいる訳ではない。本当にいいの?誰も怒らないよ?という、いわば心からの親切心で言っているのだ。

だが、ここで彼女達の甘言に乗る訳にはいかない。

ライトはニッコリと笑いながら、人魚達に答える。

「大丈夫です。今すぐに欲しい訳じゃないし……もちろんこんなに綺麗なものだから、持ち帰れるものならそうしたいとは思いますけど……」

『でも、持ち帰らないのね?』

「はい」

『それは、どうして?』

本当に不思議そうに尋ねる人魚達に、ライトは迷わず答えた。

「いつかはもらえたらいいな、とは思いますけど。でも、それは今日じゃないから」

『今日じゃない? なら、いつなの?』

「海樹のユグドライアさんや人魚の皆さんともっと仲良くなって、お互いに信用できる仲になってからです!」

『『『…………』』』

ライトの答えに、人魚達は思わず息を呑む。

そう、ライトは人魚の鱗を『要らない』とは言っていない。むしろ『いつかはもらえたらいいな』という本心を隠さずに伝えている。

実はライトの本音としては、人魚の鱗は喉から手が出るほど欲しい。それは他のならず者達のような金儲け目当てではなく、純粋に皆への土産だったり、あるいは素材として使えるかもしれない、という観点からだ。

だがそれらとて、決して今すぐに欲しいという訳ではない。自分達人魚や海樹と仲良くなってからだ、と言う。

それは即ち、己の欲望よりも海の者達との絆を何よりも優先するのだ、というライトの意思表示であった。

「それに、ぼくがもらうばかりじゃ悪いですし。ユグドライアさんにはツィちゃん達の置き物を届けましたけど、人魚の皆さんには今渡せるようなお土産もないし……あ、アリッサさん達には渡すものがあるんですけど」

「だから、次にまたここに来る時には、人魚の皆さんにも喜んでもらえるようなお土産を持ってきますね!」

輝くような笑顔で、次回の訪問時の手土産持参を約束するライト。

その直後に「……ぁ、でも、海の中でも喜ばれるお土産って、何だろ?」「ぬーーーん……後でラウルに相談してみようかな……」と独り言をブツブツと呟いている。

陸と海では環境そのものが全く違うので、たかが手土産一つと侮ることはできない。

そんな風にコロコロと表情を変えるライトに、人魚達はたまらず『……ププッ』と噴き出す。

『こんな小さな子供なのに、すっごくたくさんいろんなことを考えてるのねぇ』

『でも、陸のお土産というのは、すっごく興味があるわ!』

『ねぇ、私達にもそのお土産をくれる?』

三人の美しい美女が、取り囲むようにして前後と左からライトに迫る。

その見目麗しい顔をズズィッ!と近づけてこられたライトも、思わず赤面してしまう。

「は、はい!ここら辺に一体何人の人魚さん達がいるのか分からないし、分かったとしても全員分を用意するのは無理ですけど……少なくとも今日ぼく達を案内してくれたお姉さん達には、今日のお礼として何かお土産を用意するつもりです!」

『まぁ、嬉しい♪』

『ホンット、可愛い子ねぇー♪』

『お姉さん達も、また君に会えるのを楽しみにしてるわぁ♪』

ライトの言葉に、破顔しつつ一斉に抱きつく人魚達。

流線型でボン!キュッ!ボーン!なナイスバディに圧迫されて、ライトもあわあわしている。

これはあれか、ライトの人生初のモテ期到来!というやつか。

「おーおー、ライト君はモテモテで羨ましいなぁー」

「レオ兄ちゃん!ナニその棒読み!他人事だと思って見てないで、助けてよぅー!」

「……あ、海底神殿が見えてきたぞー」

モテ男ぶりをレオニスに揶揄われて必死に抗議するライトだが、そんな抗議などどこ吹く風でスルーするレオニス。

そのうち海底神殿が見えてきたらしく、レオニスがスルーしがてら皆にそのことを伝えた。

すると、海底神殿の方から数人の人魚がライト達のもとに近寄ってきた。

人族であるライト達が近づいてきたことを察して出てきたのだろうか。

『ライトくーーーん!』

『やっほーーー!おひさーーー!』

『お姉さん達のこと、覚えてるぅーーー?』

『忘れてなんていないよねーーー?』

『忘れられてたら、泣いちゃうぞーーー!?』

きゃいきゃいと賑やかな声で話しかけてきた人魚達。

それは、前回の海底神殿訪問時に出会った五人の美女の面々。アリッサ、ボニー、キャサリン、ディアナ、エリーゼだった。