軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第665話 別ルートと一つ目の目的

エンデアンの外壁門を潜り、郊外に出たライトとレオニス。

前回のラギロア島訪問時には、玄関口であるウスワイヤの街に出向き、そこから出ている船の定期便でラギロア島に渡った。

だが今回は、ライトともよく話し合った結果、別ルートで行くことにした。

名付けて『海から直接海底神殿に行っちゃおう!大作戦』である。

作戦名こそ仰々しいが、要は前回の海底神殿訪問が成功のうちに終わったので、今後はもう陸上の正規ルートはカットしちゃってもいいよね!ということである。

ぶっちゃけ、ウスワイヤの街を通って一日三本の船便で行き来するのが面倒くさい、というだけの話なのだが。

ラギロア島から見た海底神殿の位置はレオニスもだいたい把握したし、ライトもレオニスも勲章類のおかげで海中散策できるので、もう普通の陸上ルートをなぞりながら行く必要性はなくなったのである。

二人は海沿いに走りながら、エンデアンの外壁が遠くにうっすらと見える程度の位置まで離れた後一旦足を止める。

「ここら辺まで来ればいいか」

「うん、ちょっと待っててね」

ライトがアイテムリュックを下ろし、何やらゴソゴソと漁って探し物をしている。

そしてすぐにお目当てのアイテムを取り出した。

「じゃじゃーーーん!」

「おお、その笛で人魚達を呼び寄せるのか」

「うん!前に人魚のお姉さん達にもらったやつだよ!」

ライトが取り出したのは、法螺貝の形をした笛である。

見た目は法螺貝そのままだが、大きさはライトの手のひらにすっぽりと収まるホイッスルサイズだ。

ライトが手に持つそれを、レオニスが興味深そうに覗き込む。

「へー、かなり小さいんだな。音はちゃんと出るのか?」

「うん、一応カタポレンの家で試しに何度か吹いてみたことあるよ」

「どんな音が出るんだ? 大きな音が鳴るのか?」

「ううん、ピィー……って小さな音が鳴るだけで、どんな吹き方しても音の大きさはほとんど変わんなかったよ」

「そうなんだ……人魚達にちゃんと聞こえるといいがな」

ラギロア島からの帰り道、人魚達からもらった小さな笛。人魚達が仲間を呼ぶ時に使う呼び笛だという。

これを海の近くで吹けば、必ず人魚が現れるらしい。

ライトはこの笛をもらった後、どんな音が出るかカタポレンの家で試しに吹いてみたが、法螺貝やホイッスルのように大きな音は出なかった。

試しに目覚めの湖の仲間達の前でも吹いてみたこともある。人魚と同じく水棲仲間繋がりで、何か効果や影響があるのかを知りたかったのだ。

だが、水の女王やアクア、ウィカ達も特に何かを感じることもなかったようで『小さい音が聞こえるってだけで、特に何ともないわねー』という残念な返事をもらっただけだった。

どうやらこの笛は、人魚だけに効くもののようである。

ライト達の周囲に、人や動物などがいないかをキョロキョロと見回すライトとレオニス。動物はともかく、人魚が出現するところを他人に見られてはマズいからだ。

辺りに誰もいないことを確認してから、ライトは呼び笛を吹いた。

ピィー……という小さな笛の音が、法螺貝ホイッスルもどきから発せられる。その音はライトが言っていたようにとても小さく、ともすれば海のさざ波に掻き消されてしまいそうだ。

一回吹いただけでは、人魚達の耳に届くかどうか心もとないので、ライトは二回、三回と笛を吹いた。

そうして三回目に吹いた直後に、海の向こうから近寄ってきていた何者かが姿を現した。

『……あら? 誰もいないじゃない?』

『ていうか、人魚じゃなくてニンゲンがいる?』

『今のは仲間の呼び笛の音よね?』

ライト達の目の前に現れたのは、見目麗しい三人の女性型の人魚だった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「皆さん、こんにちは!ぼくは、人族のライトっていいます!こっちはレオニスといって、ぼくのお兄ちゃんで同じ人族です!」

「この笛は、以前海底神殿に行く時にお友達になった、アリッサさんやボニーさん、キャサリンさんにディアナさんにエリーゼさんからもらったものです!」

「またこの海に来る時には、これを吹けば仲間の人魚の誰かが迎えに来てくれるって、アリッサさん達に聞きました!」

浜辺から少し離れた海の中にいる人魚達に向かって、ライトが大きな声で語りかける。

今現れた人魚達はライトとレオニスのことを知らないので、警戒して遠巻きに見ているのだ。

『アリッサ達が言っていたニンゲン達……?』

『そういや確かに少し前に、ボニーやキャサリンが話してたわね。大きくて無愛想なオスと、小さな可愛らしいオスの二人組が、海底神殿にいる海の女王ちゃんを訪ねて来たって……』

『じゃあ、あのニンゲン達は、その時の二人組……ってこと?』

どうやらこの人魚達は、前回ライトと仲良くなった五人組の人魚達とも知り合いのようだ。

ゴニョゴニョと話していた三人の人魚達は、ゆっくりと浜辺の方に近づいてきた。

三人のうちの一人が、ライトに向かって話しかけた。

『今吹いた笛を見せてくれるからしら?』

「はい!」

人魚の要請に応じ、呼び笛を手に持ち高く掲げるライト。

それを見た人魚達は、その笛が人魚達だけが持つ笛であることを確信した。

同族が持つべき笛を渡したならば、その者は同族が認めた者であることの証ともなる。

友好の証を確認した人魚達は、浜辺のギリギリのところまで寄ってきていた。

『貴方達の話は、アリッサ達から聞いているわ』

『海の女王ちゃんの客人として、海底神殿で正式に迎え入れられたんですってね?』

『海の女王ちゃんからも直々に勲章をもらった、とも聞いたけど。念の為に、海の勲章も見せてもらえる?』

何気に用心深い人魚達のさらなる要請に、ライトもレオニスも快く応じてそれぞれ海の勲章を取り出して人魚達に見せた。

赤色と桃色が混ざりあった、美しい珊瑚のような色をした海の勲章。

それを見た人魚達は、今度こそライト達のことを信用したようだ。

『どうやら貴方達は、海の女王ちゃんの信頼を得たニンゲンのようね』

『私達が使う呼び笛だけでなく、海の勲章まで持っているなら間違いないわよね』

『今日も海底神殿に行くために、ここに来たの?』

海のギリギリ限界、波打ち際まで来てライトに声をかける人魚達。

ここまでくれば、人魚達の信頼は勝ち取ったと思ってよさそうだ。

「はい、今日は海の女王様のいる海底神殿と、他にもいくつか用事があって来ました」

『そうなのね。じゃあ今日は私達が案内してあげるわ!』

「ありがとうございます!よろしくお願いします!」

人魚達と話がついたライト達は、早速ザバザバと海の中に入っていく。

はぁー、こういう時のライトは本当に交渉事が上手いよなぁ……さすがはグラン兄とレミ姉の子だ!……って、グラン兄はそんなに口が上手い方じゃなかったし、むしろ典型的な口下手で、口より身体の方が先に動くタイプだったが……そこら辺は、頭の良いレミ姉に似たのかな?

レオニスはそんなことを思いながら、先を歩くライトの後をついていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

『まずは海底神殿に行くの?』

「いいえ、今日は他にも寄りたいところがあるので、海底神殿はその後に訪ねる予定でして」

『他にも寄りたいところって、どこ?』

「海底神殿の向こうに、海樹がありますよね? 今日は海の女王様だけでなく、海樹にも会いに来たんです」

『あー、海樹ね……確かに海底神殿の少し向こう側にあるわよ』

海の中をのんびりと歩きながら、人魚達と雑談するライト達。

人魚達に行き先を聞かれたライトは、素直に今日の目的を話した。

今日のライト達の目的は、海底神殿にいる海の女王に会う他に『海樹に会う』という重大な目的があった。

前回海底神殿を訪問した時には、海の女王の無事の確認が最優先で海樹のある場所までは立ち寄ることはできなかった。だが今日は人魚達との交渉もスムーズに進んだし、それなりに時間の余裕もある。

故にライトとレオニスは、神樹族の一つ、海樹に会おう!という話をしていたのだ。

『海樹の周辺にはオスの人魚がいて、海樹を守っているわ』

「そうなんですか? そういえば前に、オスとメスは縄張りが違うって話をアリッサさん達に聞きました。メスは海の女王様がいる海底神殿を守っていて、オスは海底神殿の向こう側にいるって」

『そうそう。私達メスは基本海底神殿周辺にいて、オスは海樹周辺にいるの。それぞれが神殿と海樹を守る役割を担っているのよ』

前回ライト達が女型の人魚しか見なかったのは、男型の人魚は海底神殿から少し離れた場所にある海樹の方にいたからであった。

今回はその海樹のもとに行くので、男の人魚にも会えるはずだ。

BCOの中では海を舞台としたストーリーはなく、せいぜい季節限定イベントの『海で遊んでアイテム拾いをしよう!』的なものしかなかったので、BCOをよく知るライトであっても人魚がどんな姿をしているのか全く知らない。

それだけに、男型の人魚に会うのが今からとても楽しみである。

『ところで貴方達、海樹にどんな用事があって来たの?』

「ぼく達が住む家の近くに、ユグドラツィという神樹がありまして―――」

ライト達が海樹に会う目的を、人魚達に聞かせていく。

近所にユグドラツィという神樹があり、ライトもレオニスもその神樹の友達であること。神樹は世界に六本しかなく、全ての神樹は互いを掛け替えのない家族だと思っていること。自ら動くことのできない神樹達のために、分体入りのアクセサリーや置き物を届けに回っていること等々。

何の気なしにその目的を尋ねた人魚達だったが、ライトの語る話をうん、うん、と頷きながら聞き入っている。

『そうよね、私達は行こうと思えばどこでも好きなところに行けるけど……海樹はそうはいかないもんね』

『考えてみれば、そこから一歩も動けないって、すっごく辛いことよね……』

『樹なんだから、動けないのは当たり前、と言ってしまえばそれまでだけど……そんな言葉で片付けていいものではないわよね……』

人魚達がしんみりとしながら呟く。

彼女達は今までそんなことを考えたこともなかったようだが、ライトからユグドラツィの話を聞いて思うところがあったらしい。

『……思えばオス達があちこちの海に出かけて回るのは、海樹に土産話を聞かせてあげるためなのかもね』

『話だけじゃなくて、遠くの海の珍しい物を拾ってお土産に持って帰ることもできるしね』

『オス達って、いっつも遊び呆けてばっかりだと思ってたけど……もし海樹のためにしてたんだったら、オス達のことを見直すわ』

そういえば、前回アリッサさん達も『オス半分くらいは年がら年中狩りや探索に出かけてて、不在なのも多い』とか言っていたな……とライトは心の中で思い出す。

先日の白銀の君が竜王樹ユグドラグスのために、たくさんの土産話を持ち帰るために天空島に出かけたように、男の人魚達も海樹のために働いているのかもしれないな、と思うライト。

そんな話をしているうちに、一人の人魚が『あっ』という声を発した。

『ほら、海樹が見えてきたわよ』

「あれが、海樹……」

遠目からでも、その巨大な姿が見える。

それはまるで陸上にある樹のように、大きな枝がいくつも四方八方に広がっている。

海底から天に向かって聳える巨大な珊瑚―――それこそが海樹ユグドライアだった。