軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第658話 鬼人族の行商

オーガの里に辿り着いたライトとラウル。

里に入ると、出会うオーガ達が皆ラウルに向かって声をかける。

「あら、ラウル先生、いらっしゃい!」

「おっ、ラウル先生じゃないか!こないだの新しい野菜、すごく美味しかったぜ!」

「ラウル先生だー!今日もお料理教室するのー?」

老若男女問わず、気さくに話しかけてくるオーガ達。

ラウルもその声に応えて「おう、久しぶり」「そりゃ良かった、また持ってきたぞ」「そうだぞー、今日も族長の家で料理教室だ」等々返事をしている。

そのモテモテぶりに、ライトは何となく嬉しくなる。

ラウルがこのオーガの里で、料理教室の先生としてオーガ達に様々な料理を指南するようになってから、早いものでもうそろそろ四ヶ月が経とうとしている。

だいたい週一ペースで通っているので、ラウルももうすっかりオーガ達とは顔なじみなのだ。

そうして道すがらオーガの民達と交流しながら、族長であるラキの家に辿り着いたライトとラウル。

玄関から中に入り、大きな声で呼びかけた。

「おーい。ラキさんかリーネさんはいるかー?」

そのまま玄関でしばらく待っていると、奥からドタドタと駆けてくる足音が聞こえてきた。

玄関に迎えに出てきたのは、この家の家主であるオーガ族族長ラキとリーネの二人である。

「ラウル先生!ようこそいらっしゃった!」

「今日はライトといっしょに来たぞ」

「ラキさん、リーネさん、こんにちは!お久しぶりです!」

「ライト君もようこそ!お久しぶりね!」

「おお、ライトもいっしょか!久しいな!森の友カーバンクルも、ようこそ我が里へいらした。心より歓迎する」

「フィィィィ」

まずは呼びかけた声の主であるラウルに挨拶をし、続けざまにライトだけでなくフォルのことも大歓迎するラキ。

相変わらず心配りが細やかで気さくな族長である。

「ラウル先生、私今から奥様方を呼んできますね!」

「ああ、そうしてもらえるとありがたい」

「貴方、ラウル先生達と厨房で待っててね」

「承知した」

「じゃ、いってきまーす!」

「いってらっしゃーい、お気をつけてー」

リーネはリーネで、料理教室に呼ぶ奥様方に声をかけてくるという。

ラウルの料理教室はご婦人方に大変好評なので、声をかければ皆こぞって参加するらしい。

玄関からいそいそと出ていくリーネを見送った後は、皆でいつも料理教室を開催しているラキ家の厨房に向かう。

そこには何やら様々な調理器具がテーブルの上に置かれていた。

「ラウル先生、見てくだされ!これは先日帰ってきた我が里の行商達が仕入れてきた、調理用の新品の道具ですぞ!」

「おお、オーガサイズの鉄鍋に大きな寸胴に三徳包丁か。どれどれ…………ふむ、なかなかにいい品じゃないか」

「南方に住む、とある鬼人族は近所に住むドワーフ族と同盟関係にありましてな。まぁ、我が里とナヌスの里と同じようなもんなのですが。その関係で、我ら鬼人族が使う大きさの調理器具も豊富に所持していましてな。それを今回特別に仕入れてきた、という訳でして」

新しく仕入れてきたという数々の調理器具を、ラウルが空中浮遊しながら興味深そうに見ている。

それらはどれも身体が大きい鬼人族が使うに適したサイズで、ラウルはともかくライトには絶対に使いこなせなさそうな代物だ。

ラキの話によると、それらはオーガの里の外に出ていた行商達が、南方にある鬼人族の里で買い付けてきた品だという。

しかもそれは、近隣のドワーフ族が鬼人族用に作製したというではないか。ドワーフ製の調理器具なら、さぞかし頑丈で使い勝手が良いに違いない。

妖精族だってラウルのプーリア族以外の種類も存在するように、鬼人族も世界中に何種類も存在していて、それぞれが鬼人族の里を形成している。

そうした同族の里同士で、品物の売り買いをしたり物々交換したりするのが行商の役目である。

そして今回もオーガの里の行商達は、良い仕事をしてきたようだ。

あー、そうだよなー。このオーガの里以外にも、鬼人族の里はいくつもあるよねー。ライトはそう思いながら、ラキに尋ねる。

「ラキさん、オーガ族の行商というのは、他の里と行き来するのに何日くらいかかるんですか?」

「そうだな……早ければ三十日、長くなれば百日くらいかけて他の鬼人族の里に出かける。行った先で良い品物を見つけたら、交渉して譲ってもらったりするのだ」

「へー、そんなに時間がかかるんですか!大変なお仕事なんですねぇ」

「まぁな。でも、外の世界を見る絶好の機会でもあるから、主に若い者が中心となって交代で行商に出るのだ」

行き来に最低でも三十日=一ヶ月はかかると聞き、ライトは驚嘆する。

しかしそれはライトがあまり知らないだけで、実際には人族も同じようなものだったりする。

鉄道や大型トラックなどが存在しないこのサイサクス世界では、隊商と呼ばれる商人の団体が大きな荷馬車を複数率いて街と街の間を行き来している。それと似たようなことを、オーガ族も徒歩で旅をしながら各集落を回っているという訳だ。

「行商って、普段はどんなものを仕入れてくるんですか?」

「これまでは織物や武器、防具なんかが中心だったのだがな。以前宴を催した時に、レオニスからもらったアイテムバッグ。あれのおかげで食品類も扱えるようになって、様々な品が手に入るようになったのだ」

「あー……行き来に三十日とか百日もかかるなら、日持ちしない食べ物は持って帰れませんもんねぇ」

「そうなのだ。だから今までは、外からこの里に乾物以外の食品を持ち帰ることはほとんどできなかったのだ」

オーガ族の行商というものに興味が尽きないライト、様々な話をラキから聞いては納得している。

特に食品関連は、普通の行商では取り扱うのは厳しいだろう。

余程日持ちするものでなければ、オーガの里に持ち帰る前に傷んで腐ってしまう。

だがその問題を解決してくれたのが、アイテムバッグだ。

結界運用開始を祝う宴の際に、レオニスがラキに祝いの品として進呈した品。それがこうしてオーガ族の役に立っているというのは、ライトとしても嬉しいことだ。

「じゃあ、これまでは持ち帰ることができなかった食べ物も、いろいろと取り寄せることができるようになったんですね!」

「ああ、おかげさまでな。今では皆の食卓に様々な品が並ぶようになった。これもレオニスやライト、そしてラウル先生のおかげだ」

いつの間にかライトの肩からラキの手のひらの上に移っていたフォルを、右手人差し指でそっと撫でるラキ。

ラキの手のひらの上にいるフォルは、それこそ手乗り文鳥の卵か雛かと思うようなミニサイズにしか見えない。くしゃみ一つで吹っ飛んでしまいそうな小さなフォルを、極太の指の腹でそっと撫でるラキの眼差しはとても柔らかく温かい。

フォルもラキのことが全く怖くないようで、目を細めながらその優しい撫で撫でを堪能している。

そんなラキに向かって、今度はラウルが問いかけた。

「今回の行商は、何か面白そうな食材はあったか?」

「食材に関しては、今回はあまり目ぼしいものがなかったようでしてな。ただ、南方の里の者達から聞いた話によると、そこからさらに十日ほど歩いたところに獣人族の里があるそうな。その里には、独自の調味料?があるらしいので、次回はそこを目指して出かけるか、という話になってはおります」

「ほう、調味料か。もし仕入れることができたら、俺にも少し分けてくれ」

「もちろん!我らの食卓を飾るより先に、まず真っ先にラウル先生に進呈いたす所存。是非ともラウル先生の料理道のお役に立てていただきたい」

ラウルが聞きたかったのはアイテムバッグがもたらした恩恵、食材の持ち帰りの成果だ。

だが、ラキの話によると今回は特に目ぼしい食材は手に入らなかったらしい。

思うような成果が得られなかったのは残念だが、代わりに新情報という別の成果は得たようだ。

しかもその新情報とは、別の獣人族の里独自の調味料だという。

調味料―――それは料理の味をより繊細に、より大胆に変えてくれる重要なアイテムだ。料理好きなラウルも調味料には目がないので、早速おすそ分けのおねだりをしている。

今日もちゃっかりとした妖精である。

「今日はトマトにキュウリ、茄子、ズッキーニなんかを持ってきたぞ」

「おお、これはまた実に赤々として美味そうなトマトですな!」

話をしながらラウルが空間魔法陣を開き、先程収穫したばかりの巨大野菜をテーブルの上に置いていく。

ラキ達はもうトマトの味を知っているので、ラウルが持ってきた赤く瑞々しいトマトを見て大喜びしている。

そこに、オーガ族のご婦人方が続々とラキ邸に集まってきた。

「ラウル先生、こんにちは!」

「子供達からラウル先生がいらしたと聞いて、取るものもとりあえず馳せ参じました!」

「私の家には奥方様が呼びに来てくださいました!」

「今日も族長のお宅にて、ラウル先生のお料理教室をなさいますのよね?」

元気溌剌なご婦人方が、ラキ邸の厨房に押しかけるように入ってくる。

オーガの里ではもう既に『ラウル来訪=ラキ宅で料理教室開催』という図式が完全に成立しているようだ。

明るく賑やかなご婦人方を、ラキも喜んで迎え入れる。

「もちろんだ。今日もラウル先生の美味しい料理を皆で学ぼうぞ」

「「「はいッ!」」」

「では各自持ってきた道具を出して、準備に取りかかるように。時にラウル先生、本日はどのような料理をお作りになられるので?」

「今日は見ての通り、新鮮なトマトがたくさん採れたからトマトを使った料理を作っていこう。トマトのマリネにカプレーゼ、ミネストローネにボロネーゼも作るか」

「おお、どれも初めて耳にする料理ですな!」

本日のメニューを聞いたラキが、ワクテカ顔で目を輝かせる。

どれもまだオーガの里では一度も披露していない、ラウルご自慢の逸品だ。

今日はカタポレンの畑でたくさんの巨大なトマトが採れたので、トマト尽くしの贅沢メニューという訳である。

そしてワクテカ顔なのは、何もラキだけではない。厨房にいるご婦人方全員、それはもうキラッキラの瞳でラウルを見つめている。

「ラウル先生の新しい料理ですって!」

「これは是非とも覚えて帰らなければ!」

「ラウル先生の作るものなら、子供達も喜んで食べてくれるわ!」

「うちのおじいちゃんの偏食もなくなってきたしね!」

ご婦人方のラウルに寄せる期待は、想像以上のものがある。

子供の食べ物の好き嫌いや年寄りの偏食で悩むのは、古今東西異世界異種族を問わない共通の問題らしい。

「ところで、ライトはどうする? このまま料理教室に参加するのか?」

「うーん、ラウルの料理するところを見ていたい気もするけど、結構たくさんの人が来たから邪魔になるかなぁ?」

「なら、フォルといっしょに外で子供達と遊んでくるか?」

「……うん、そうする!」

ラウルの問いかけに、ライトは悩みつつも外で遊ぶことを選択した。

ライト自身もいずれはラウルに料理を習うつもりではいるが、今日の料理教室の主役はオーガの里の者達だ。

自分は習おうと思えばいつでもラウルに習えるのだから、オーガの人達の邪魔にならないようにしよう、とライトは考えたのだ。

「じゃ、ぼくは外で遊んできますね!」

「里の外れの鍛錬場にルゥや他の子供達がいるはずだから、そこで子供達と遊ぶと良い」

「分かりました!」

ラキから鍛錬場にオーガの子供達がいると聞き、ライトは早速ラキ邸を出て鍛錬場に向かっていった。