軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第656話 水の女王の切なる願い

ライト達は湖中央の小島に移動し、早速ピクニックの支度に入る。

と言っても、ライトが懸命に敷物やら食べるものを用意するだけなのだが。

ライトがいそいそと準備をしている間、水の女王はその傍でウィカを抱っこしながらワクテカ顔で待ち、イードとアクアは小島周辺でのんびり優雅に泳いでいる。

「準備できたよー!皆おいでー!」

ライトの呼ぶ声に、それまでゆったりと泳いでいたイードやアクアがザババババー!と物凄い勢いで小島に寄ってくる。

小島の浜辺には、二者用のスペシャルミートボールくんが置いてある。そこを目指して突進してくるのだ。

「こっちがアクアので、こっちはイード用ね!今日はイードに吸盤をもらったから、足を治すためにイードの方が多めだよ。イード、ミートボールくんを食べる前にエクスポの方を先に飲んでね」

「シュルシュル!」

「マキュモキュクルルァ!」

いつもはだいたい同じ量を用意するのだが、今日はイードに『クラーケンの吸盤』を譲ってもらった分イードの方が多めだ。

多めに積まれたミートボールくんの横には、木製バケツに並々と注がれたエクスポーションが置かれている。

巨大なイードにとっては、バケツ一杯ではお猪口程度にしかならないかもしれない。だが、これでもエクスポーション五十本分が入っている。

エクスポーション五十本分というと、人間で言うところのHP40000回復に相当する。これだけあれば、イードの傷もすぐに治るはずだ。

ライトに言われた通りに、エクスポーションの方を先に飲むイード。

バケツには巨大なストロー?のようなものが入れてあって、イードはそれを器用に使ってエクスポーションをゴキュゴキュと飲んでいく。

その後はイードが大好きなメインディッシュ、スペシャルミートボールくんを美味しそうに食べている。

そんなイードの様子を見て、ライトは安心しながら今度は水の女王に話しかけた。

「そういえば、水の女王様。天空島から帰ってきた後はどうでしたか? 体調が悪かったとか、そういうのはなかったですか?」

『ええ、この通り大丈夫よ!』

「ぅなぁ~~~ん?」

ライトの質問に、明るい笑顔で応える水の女王。

だが、水の女王の横にいたウィカが、ジト目をしながら尻尾で水の女王の太腿をペシペシと軽く叩く。

何やらウィカは水の女王に抗議しているようだ。

「ン? ウィカ、どうしたの?」

「うなにゃにゃ、うにゃにゃ!」

『うぅー……ごめんなさいぃー……ホントはちょっとだけ寝込んでましたぁー』

「えッ!? 寝込むほど具合悪かったんですか!?」

プンスコと怒ってるようなウィカを見て、誤魔化しきれないと悟った水の女王が早々に白状する。

寝込んだなどという穏やかではない話を聞いたライト、びっくりしながら水の女王の顔を見ている。

『う、ううん!そんな、寝込むってほどのことの大袈裟なことでもなかったのよ!? ただ……ライト達が帰った後、褥に戻ったら急に眠くなっちゃって……半日くらいぐっすりと寝ちゃってたの』

「半日も寝てたんですか?」

『うん……でも、ほら、あれは私にとって初めてのお出かけだったし!しかも天空樹のエルちゃん様にも謁見したりしちゃったし!すっごく緊張したから、その分きっと疲れが出ちゃったんだと思うわ!』

「…………」

慌てながらあれこれと言い募る水の女王を他所に、ライトは懸命に考えている。

水の女王には、この目覚めの湖に常時居続けなければならない、という強制力のようなものが働いていると思われる。

そんな水の女王が、その自由意志を以て目覚めの湖の外に飛び出した———これはゲームとして考えると、バグ扱いされてもおかしくないことだ。

そしてゲーム内でバグが見つかったら、即時修正されるのが世の常である。

バグの内容によってはそのまま放置されることもあるかもしれないが、それはあくまで運営側が『この程度なら直さんでもいいだろ』という判断のもと見逃されているだけであって、もし運営側が『これは重大なバグだ』と判断すれば早急に手直しされるだろう。

ライトは運営側の中の人ではないので、それらはあくまでも個人的な推測でしかない。

だがライトは、このサイサクス世界がゲームデータをベースにしたソシャゲ世界であることを知っている。そしてその 創造神(うんえい) がやりそうなこと、考えそうなことも嫌という程熟知している。

それだけに、今聞いた話を取るに足らない些事とスルーすることは到底できなかった。

「……水の女王様、お願いがあります」

『なぁに?』

「もう、こないだみたいな無茶はしないでください」

『……うん』

「目覚めの湖の外にはもう一歩も出ちゃいけない、とまでは言いません。ですが、ウィカやアクアについてくる時には、必ずウィカとアクアの了承を得てからにしてください。でないと皆、すっごく心配するし」

『……うん。こないだもね、半日寝て起きてから、皆にすっごく怒られたの……』

ライトの懇願に、水の女王がしょんぼりと俯きがら答える。

あの日ライト達と別れた後、翌日改めて皆からこってりと絞られたようだ。

「それだけ皆、水の女王様のことが大好きなんですよ。大好きだからこそ、急に消えたらとても心配するし、そのせいで体調が悪くなったら怒りもするんですから。ね?」

『そうよね……うん……ウィカちー、ホントにごめんね……』

「うなにゃにゃーん」

『アクア様も、イーちゃんも、心配させてしまってごめんなさい』

「クルルィ、キュァキュァ!」

「キシュルリァ!」

改めて仲間達に謝る水の女王。しおらしく謝るその姿に、皆笑顔で応える。

普段から仲が良いだけにとっくに許してるし、何だかんだ言ってウィカもイードもアクアも、皆水の女王には甘いのだ。

『あ、そうだ、ライト、聞いて。こないだね、皆から散々怒られた後に、アクア様が私に魔力を分け与えてくださったの!』

「そうなんですか? それは良かったですね!」

『しかもね、私だけでなくウィカにも労いとして分け与えてくださって……ほら、ウィカちーの毛艶もとっても良いでしょう?』

「……言われてみれば確かに。ウィカの毛並や色艶が、今日はいつもよりすっごく綺麗でツヤツヤしてる……」

「うなにゃにゃぁーーーん♪」

その場の空気を入れ替えるかのように、水の女王が明るい声でその後のことを話す。

水神アープであるアクアが魔力を分け与えるというのは、何気に凄いことだ。水神より下位の存在である水の女王やウィカにしてみれば、それはもう尊くも畏れ多いことに違いない。

水の女王からそんな話を聞き、改めてウィカをまじまじと見つめるライト。確かに水の女王が言う通り、ただでさえウィカの艶やかで美しい毛並が今日は殊更に光り輝いているのが分かる。

当のウィカもそれを自覚しているのか、それはもう誇らしげなドヤ顔である。

『これからは皆に心配かけないようにするわ。でも……たまには、ほんのちょっとだけ、お出かけするのを許してくれると……嬉しいな』

「もちろんです。短時間で無理のない程度に、少しづつ外の世界を見ていきましょうね」

『うん!ありがとう、ライト!』

お出かけそのものを禁じることなく理解を示すライトに、水の女王が嬉しそうに抱きつく。

真夏の暑い昼下がり、水の女王の身体はひんやりとしていて気持ちが良い。

そしてまた皆で仲良くピクニックのおやつを食べるライト達だった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

『へー、火のお姉ちゃん、炎のお姉ちゃんのところに移動できたんだ。すごいわね!』

「はい。火の女王様は炎の女王様を『我が妹』と呼んでいて、二人とも直接会えたことをすっごく喜んでいましたよ」

『それは良かったわね!聞いている私も嬉しくなってきちゃった!……でもさぁ、火のお姉ちゃんも無茶するわねぇ。火のお姉ちゃんだって、本当ならエリトナ山から動けないでしょうに』

「ハハハ……ま、まぁ、それは、ね……うん」

ライトが先日のエリトナ山遠征の話を皆に聞かせていたところ、水の女王が喜びつつも火の女王の行動力に呆れつつ驚いている。

ぃゃ、あの、こないだウィカに無断でついてきて天空島まで行くって無茶したアナタが、それ言うの?とライトは内心で思うが、決して口には出さない。ただただ密かに心の中で『本日のおまいう大賞、決定』と呟くだけである。

『でも……いいなぁ。火のお姉ちゃんと炎のお姉ちゃん、火の姉妹同士が直接会ってお話ができたなんて……とても羨ましいわ』

「そうですねー、女王様達は基本的にいつもいる場所から動かないというか、動けませんもんねー」

『私の場合でいえば、同属性の姉妹は氷の女王ちゃんや海の女王ちゃんになるのよね。氷の女王ちゃんは氷の洞窟にいて、海の女王ちゃんはラギロア島の向こうにいるんだ……私もいつか、二人に会いたいなぁ』

水の女王がため息をつきつつ、火の姉妹の邂逅を心底羨んでいる。

水の女王は、火の女王と同じく四大元素の一つ、水を司る女王だ。四大元素から派生する属性も複数あり、水が低温になることで凍ってできる氷や塩分が混じる海水がそれに相当する。

氷の女王も海の女王も、いわば水の女王の妹分、という訳である。

「そういえばぼく、夏休みの間にレオ兄ちゃんとラギロア島と氷の洞窟に行くんですよねー」

『えッ!? それホント!? いつ行くの!?』

「え、えーと、氷の洞窟はもう少し先の話で、日程はまだ分かんないんですけど……ラギロア島の向こうの海底神殿には、明後日出かける予定です」

『私も行きたい!ついていっていい!?』

「えッ!? それは……うーーーん……」

『ライト、お願い!私、どうしても……どうしても海の女王ちゃんや氷の女王ちゃんに会いたいの!』

ここでライトがついぽろりと零してしまった今後の予定を聞き、水の女王が食いつくようにして身を乗り出す。

水の女王の同属性姉妹がいる二箇所に行く予定があると聞いては、水の女王だって居ても立ってもいられないはずだ。

必死に頼み込む水の女王の切なる願いに、ライトはしばし考え込む。

ライトが黙り込んで思案し始めてから、一分や二分は経過しただろうか。

ライトの次の言葉を、ただただじっと待つ水の女王。

誰も言葉を発しない、静寂の時がしばし流れる。

そしてライトは静寂を破り、水の女王の方を向きながら徐に口を開く。

「……いいですよ。多分レオ兄ちゃんもダメだとは言わないだろうし」

『ホント!? やったー! ありがとう、ライト!』

「でも、条件があります」

『どんな条件?』

「まず、ラギロア島ですが。ぼく達は帰りにエンデアンの街に寄り道したりするので、道中ずっと水の女王様達といっしょにお出かけはできません」

『うんうん』

ライトが語る条件に、コクコクと頷きながら真剣に聞き入る水の女王。

水の姉妹達に会うためには、ライトの言うことを聞かなければならないので、真面目に聞きながらも既に全てを承諾する気満々である。

「なので、ぼく達が海底神殿に着いた時点でウィカを呼ぶことにします。そして、ぼく達が陸地に戻る時にいっしょに海底神殿から出ましょう。それなら外での滞在もそんな長時間にならないでしょうし」

『分かったわ!他にはある?』

「後は、そうですね……万が一にも具合が悪くならないように、出かける前にアクアからたくさん元気をもらっておいてください」

『うん、アクア様にいっぱい元気を分けてもらっておくわ!』

ライトの要望に、水の女王は元気よく返事をする。

目覚めの湖から長時間離れることは、水の女王にとっておそらく良くないことだ。それは体調面での問題だけでなく、水の女王の想定外の行動がバグ扱いされる危険性も懸念されるからだ。

ライト達のエンデアン行脚はいつも通り早朝からの出立になる、そんな長時間のお出かけに水の女王を同行させる訳にはいかない。

今回水の女王が目覚めの湖の外に出る理由は、あくまでも『海の女王に会うこと』なので、海底神殿に着いてからウィカを呼んで、ライト達が海底神殿を退出すると同時に目覚めの湖に帰る。

これならばライト達の目も行き届くし、何よりお出かけの時間を最小限にするための最善策である。

「あとですね。海水も氷も同じ水ではありますが、海水には塩分が含まれていて目覚めの湖の水とは成分的に全く違います」

「そして氷は氷で水の固体状態ですが、水の女王様が凍ったら困るというか洒落になりません。水の女王様が凍ったら氷の女王様になる、なんてことは絶対にあるはずがないので」

「もし少しでも体調に異変を感じたら、絶対に誰かに伝えてください。ぼくでもレオ兄ちゃんでも、ウィカでも構いません。とにかくすぐに目覚めの湖に戻って休むこと。……これを絶対に守ると約束してくれますか?」

水の女王を他の属性の女王達に引き合せるのは吝かではないし、むしろ普段不自由な思いをしているであろう彼女の望みはなるべく叶えてあげたいとライトは思う。

だがそれは、決して彼女の体調や健康を害してまで叶えるべきものではない。

特に海水や氷など、水の女王が普段いる淡水湖の目覚めの湖とは水質や温度が全く違う。水の女王が行くことによって、どんな異変が起こるか―――全く誰にも予想がつかない。

異変が起きないに越したことはないが、こればかりはその場になってみないことには分からないし、何かが起きてから慌てていては事態が悪化するばかりだ。そう、何かあってからでは遅いのである。

故にライトは口を酸っぱくして、水の女王の身の安全が最優先であることを訴え続けているのだ。

そんなライトの気遣いや心配を、水の女王もよく理解しているのだろう。

いつになく真剣な顔つきでコクリと頷く。

『私の我儘で連れていってもらうんですもの、絶対に皆に迷惑はかけられないわ。だから、今ライトが言ったことは全部守るし、少しでも異変を感じたらウィカちーにお願いして、すぐに目覚めの湖に戻る。水の女王の名にかけて誓うわ』

「……分かりました。そしたら明後日、ぼく達といっしょに海底神殿にいる海の女王様に会いに行きましょうね!」

『ありがとう、ライト!恩に着るわ!』

水の女王の真剣な決意に、ライトも微笑みながら明後日の同行を承諾した。

水の女王の熱意に押し負かされたようなものだが、ライトとしてもできる限りのことをしてあげたいと思う。結局ライトも、アクア達と同様に水の女王に甘いのだ。

我儘な望みを受け入れてもらえた嬉しさに、水の女王は再びライトに思いっきり抱きつき、全身で喜びを表すのであった。