軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第655話 クエストイベントの下準備

エリトナ山遠征から帰ってきた翌日。

今日明日の二日間は、全員完全休暇日である。

もともとエリトナ山遠征は平地を三時間近く走ったり、シュマルリ山脈の山々を越えたりと体力消耗が激しく、帰還後は十二分に休息を取らねばならなかった。

そのために最初から丸二日は休む予定であった。

だが、帰りは行きと全く違うルート、エリトナ山から炎の洞窟に瞬間移動してプロステスからラグナロッツァに帰ることができた。

その後プロステス領主邸に寄り道し、結局ラグナロッツァに戻ったのはほぼ日が落ちた頃だったが、それでも帰り道でほとんど体力を使わずに帰ってこれたことは非常に大きい。

おかげでそこまで疲れることなく、休み二日を過ごすことができる。

このチャンスをライトが逃すはずはない。今のうちにクエストイベントをできるだけ進めておくために動き始める。

まずは午前中にスライム飼育場に向かい、『無色のべたべたの極み』を購入する。

殆どのスライム系素材は、ここスライム飼育場の売店で購入できる『ぬるぬるの素』『ねばねばの源』『べたべたの極み』で代用できるのがありがたい。これがあるおかげで、ライトは世界各地に散らばる様々な色のスライム達を狩り回る手間が省けるのだ。

無色のべたべたの極みの他にも、ナヌスの里へ手土産に持っていく黄色のぬるぬるの素や、他にも珈琲風味の茶色のぬるぬるの素もいっしょに購入していく。茶色のぬるぬるは、オーガ族の大人達に好評なのだ。

そして、ライトはこの売店で何度もぬるぬるやねばねばを購入しているので、売店の出入口近くにある会計係のおばちゃんともすっかり顔なじみだ。

「あらー、ライト君、こんにちは。今日はぬるぬるの他にもべたべたを買っていくの?」

「こんにちはー。夏休みの宿題に、この無色透明のべたべたを使って何か作ってみようかなー、と思いまして」

「あー、それはいいわねー。この時期になると学園に通う子供の宿題のために、ぬるぬるやねばねばをたくさん買っていく親御さんも結構いるのよー」

「そうなんですかー。ぼく以外にも同じようなことを考える人が多いんですねー」

ライトがぬるぬるやらべたべたを買う真の理由など話せないので、今日も咄嗟にラグーン学園の課題に使うということにしたライト。

だが、意外なことにライトの方便を本当に実践している人達も結構存在するらしい。

これは本当に夏休みの宿題の素材に使ってもいいかもしれない。……よし、クエストイベントの必要分を確保したら、残りの無色のべたべたで何か作ってみるかな!と密かに考えるライト。

スライム飼育場での買い物を済ませた後は、ラグナロッツァの屋敷に戻りラウルとお昼ご飯を食べる。

レオニスはどこかに出かけていて不在、マキシも今日は仕事に出かけているので二人きりの昼食だ。

「そういえばここの庭の温室、家庭菜園の方はどう? 上手く育ってる?」

「おう、こないだドライアド達に加護をもらったからな。おかげで植物魔法が使えるようになって、いろんな野菜をすぐに育てられるようになったぞ。この人参のグラッセも、昨日種蒔きして今日収穫したばかりのものを使ってるんだ」

「え。一日で野菜を収穫できるようになったの!? すごいね、ラウル!」

何気なくラウルの家庭菜園の様子を尋ねたライトだったが、種蒔きから収穫まで一日でできてしまうという話に心底びっくりする。

ラウルの力さえあれば、この世界に食糧危機など絶対に起こらないだろうな、とさえ思うライト。

「カタポレンの畑の方も、かなり順調だよね」

「おう、ライトが毎朝欠かさず水遣りしてくれているおかげだな」

「オーガの人達にも、美味しい野菜を食べてもらいたいもんね!」

「ああ。おかげでオーガ族にも野菜を使った料理が好評でな。明日も朝にカタポレンの畑で収穫して、その後オーガの里で料理教室をしに行く予定だ」

今カタポレンの畑では、トマトやキュウリ、茄子、ズッキーニなどの夏野菜を中心に育てている他、玉葱や人参などの年間を通して使える定番野菜も並行して作っている。

カタポレンの森の魔力を糧に育てているので、種や苗さえあれば季節の旬など関係なくいつでも作れるのが強味だ。

そしてその野菜を持って、明日オーガの里に行くというラウル。

その話を聞いたライトは、思わず身を乗り出しながらラウルにお願いをした。

「ねぇラウル、ぼくも明日いっしょにオーガの里についていっていい!?」

「おう、そりゃ別に構わんが……ライトは明日何かすることがあるんじゃなかったか?」

「それは別にいつでもできるし!せっかくだから、久しぶりにオーガの里にも遊びに行きたい!」

「じゃ、明日俺といっしょに行くか」

「うん!」

実は明日は、カタポレンの家でクエストイベント三昧するつもりだったライト。だがそれは、夏休みの間ならいつでもできることだ。

それよりは、出向く口実でもなければあまり行くことのないオーガの里に行って、オーガ族の人達と親睦を図る方が余程有意義だ、とライトは考えたのである。

「今日はスライム飼育場に行って、茶色のぬるぬるの素も買ってきたんだ。これ、オーガの人達が大好きだから、それも持っていこうね!」

「おう、ついでに俺達用の食器もいくつか持ち込むか」

「いいね!オーガ族とぼく達では、食器サイズも全然違うもんね!」

明日のお出かけに持っていくものを、次々と挙げていくライトとラウル。

久しぶりのオーガの里訪問に、ライトの胸も踊るのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ラウルと昼食を食べた後、ライトはカタポレンの家に戻り出かける支度をする。

これから行くのは目覚めの湖だ。イードに会って『クラーケンの吸盤』を譲ってもらうためである。

アイギス特製マントを羽織り、家を出て目覚めの湖に向かうライト。

エリトナ山遠征の疲れもなく、足取りは非常に軽い。

目覚めの湖の桟橋に辿り着いたライトは、いつものように湖の中央に向かって大きな声で呼びかける。

「おーい、イードー、いるー? ぼくだよー、ライトだよーーー!」

声をかけてから程なくして、イードやウィカ、アクアに水の女王もいっしょに出てきた。ここら辺の面子はもうほぼセット状態で、ライトやレオニスが呼べば全員いっしょに出てくるのがお約束である。

「キシュルル!」

「うなぁーん♪」

「クルルァ!」

『ライト、いらっしゃい!今日は一人?』

目覚めの湖の仲間達が、いつものようにライトを温かく迎え入れる。

「皆、こんにちは!今日はイードにお願いしたいことがあって来たんだ!」

『イーちゃんにお願い? 何ナニ、なぁに?』

「シュルリュ?」

ライトが珍しく自分に用があると聞き、触腕で己の顔を指すイード。何ともコミカルで面白い図だ。

イードがあまりにも賢いので、もしかして中の人がいる?と思うくらいである。

だが今のライトには、それを楽しむ余裕などない。

今からイードに向かって、酷なお願いをしなければならないからである。

「えーとね……ぼく、どうしても『クラーケンの吸盤』という素材を手に入れたいんだ。イード、申し訳ないんだけど……君の足の先を、ほんのちょっとだけぼくにくれる……?」

「キュイキュイ!」

おずおずと話を切り出したライトに、イードは『何だ、そんなこと?』とでも言うかのように頷く。

そして己の足のとある一本の真ん中あたりから捻り千切ろうとし始めたので、ライトは慌ててイードを止めに入る。

「イ、イード!そそそそんなにたくさんのお肉はいらないから!ほんの少しだけでいいの!だから、そんな上の方から千切らないで!!」

「シュルルゥ?」

「うん、本当にほんのちょっとだけでいいから!」

『えー、それだけでいいのー?』というような顔のイードに、ライトは懸命に止めている。

ライトもイードと出会ったばかりの頃は『イカ刺し食べ放題!』と大喜びしていたものだったが、今では絶対にそんなことは考えない。むしろイードが誰かに自分の足の肉を差し出す度に、その身を心配しまくるくらいだ。

これはイードの賢さ、優しさ、友を思う思い遣りの心などにすっかり絆されてしまったと言えよう。

イードは本当に心優しい、献身的なクラーケンなのである。

ライトの言う通り、触腕の先端の方を30cmほど千切ってライトに差し出すイード。

イカの足30cmといえばかなり大きそうに思えるが、イード自体が15メートルを超える巨躯なので然程大きく千切った訳でもない。

そしてそんなほんの少しだけの先端部でも、イカ特有の吸盤がいくつもついている。

クエストイベントのお題の中には、吸盤の大小の指定などは一切明記されていない。なので、クラーケンの吸盤ならば大きくても小さくても、どちらでもカウントされるはずだ。

イードに譲ってもらった吸盤付きの足を、ライトは大事そうにアイテムリュックに仕舞い込んだ。

「ありがとう、イード!足を千切るような真似をさせちゃって、本当にごめんね……お詫びにいつもの大好物をご馳走するから、皆でいつもの小島に行こう!そこで回復剤もちゃんと飲ませてあげるからね!」

「シュルシュイシュイ!」

「にゃうにゃう♪」

「クルキュァァ!」

『今日も皆でピクニックね!』

イードだけでなく、他の面子も大喜びで笑顔になる。

ライトは今日は久しぶりにイードの背に乗って、皆で湖中央の小島に移動していった。