軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第64話 愛称呼び

気を取り直して、朝食を食べ始めた四人。

レオニスはシーナに向かい、問いかける。

「アル達は今日はどうするんだ?氷の洞窟へ帰るのか?」

『そうですね、あちらの方もあまり長く留守にはできませんが……それでもせっかくここまで来たことですし、しばらくはこの近辺の散策でもしようかと』

「そっか、俺達はラグナロッツァに出かける用事があるから、昼前には出かけるが」

『でしたら私達は、昼前には御暇することにしましょう』

「ああ、急かすようで申し訳ないな」

『いいえ、お気になさらず。もともと泊まるほど長居するつもりもありませんでしたし』

二人は今日の予定を和やかに語り合う。

ライトはもうすぐアル達とまたお別れするのがちょっとだけ寂しく感じるが、こうしてアル達の方から遊びに来てくれただけでも十分だった。

「ねぇねぇ、アルのお母さん。また週末になったら、アルと遊びに来てくれる?」

『ええ、もちろん。アルも貴方のことが大好きなようですしね』

「本当?やったぁ!アル、またいつでも遊びに来てね!」

「ワォンワォン!」

ライトはシーナから快諾をもらえて、大喜びだ。

アルもそれが分かるらしく、ライトと同様に大喜びしている。

「良かったな、ライト。アルとアルのかーちゃんに、また美味しいものをご馳走してあげなくちゃな」

「うん!レオ兄ちゃん、また美味しいお料理たくさん作ってね!ぼくもたくさんお手伝いするから!」

今からウッキウキのライトに、レオニスも笑顔が綻ぶ。

そんな中、ふいにシーナが口を開いた。

『あの、ですね、レオニス。貴方にお願いがあるのですが……』

「ん?何だ?何か食いたいもんのリクエストとかあんのか?」

『いえ、そういうことではなくてですね……』

普段凛とした高貴な佇まいを漂わせるシーナが、何やら若干もじもじしながら言い淀む。

「何だい、はるか遠方からここまでわざわざ来てくれたんだから、土産でも何でも用意するぞ?」

『いえ、お土産が欲しいとかでもなくてですね……』

「?? 何か欲しいもんとか、してほしいこととかじゃないのか??」

一向に要領を得ないやり取りだが、レオニスは焦れることなく真摯に聞き返す。

シーナはその時、レオニスの言葉の中に何やら光明を見出したようで、パッ、と顔を上げた。

『……そう、私は貴方に、してほしいことがあるのです!』

「おう、俺にできることなら何でも言ってくれ」

『それはですね…………』

それまでもじもじしていたシーナ、意を決して口を開く。

『その、貴方の私に対する呼び方、「アルのかーちゃん」というのを、やめてもらえませんか?』

「ん? かーちゃん呼びが気に障ってたのか? そりゃすまんことをした」

『いえ、その、気に障るとまではいきませんが……確かに私はアルの母親ですし』

「うん、そうだよな?」

『ですが、私にもシーナという愛称があります。前回、貴方の方からわざわざ私に聞いてきたことですよ?』

シーナは少しだけ不満気な表情を浮かべながら、レオニスに抗議する。

「……ああ、そういや確かに俺の方から愛称とか呼び名を聞いたっけな」

『そう、せっかく教えたというのに、未だにアルのかーちゃん扱いが続くというのは、どうにも納得いきません』

「そっか、そうだよな。そりゃ悪かった。いや、本当にすまん」

『ですので、レオニス。貴方もこれからは、私のことはシーナと呼んでくださいまし』

「ああ、分かったよ、シーナ」

話し合いの末、シーナは己の希望をレオニスに認めさせた。

故にレオニスは、改めてシーナのことを愛称呼びしたのだが。それを聞いたシーナは、何故か一気に顔を赤らめる。

銀碧狼の姿の時は毛皮で皮膚が覆われているので、顔色はなかなか判別し難い。だが、人化の姿をとっている時は表情もほぼ人族のそれと変わらない。

なので、赤面すると途端に丸分かりなのである。

「ん?どうした、シーナ。顔が赤いぞ?」

『…………!!ななな何でもありません!!』

「そうか?ならいいけど……」

レオニスは不思議そうな顔をしつつ、シーナ自身が何でもないと言うならそうなのだろう、と引っ込む。

その横で、今度はライトがシーナに問いかける。

「じゃあ、ぼくもアルのお母さんのことを『シーナさん』て呼んだ方がいい?」

『ライト?ああ、貴方はまだ幼子ですし、お母さん呼びしても構いませんが……』

シーナはしばらく考えた後、再び口を開いた。

『……いえ、人の子の成長は早いですからね、今は幼子でもすぐに大人になることでしょう』

『ならば、このままお母さん呼びを続けるよりも、今からもう愛称呼びにしてもらう方が良いでしょう』

「そっか、じゃあぼくも、これからは『シーナさん』て呼ぶね!」

キラキラした笑顔で、嬉しそうに言い切るライト。

ライトのその究極的に愛らしい仕草に、思いっきり胸を射抜かれるシーナ。

仰け反るシーナの、クハッ!という小さな呻き声とともに、ズッキューーーン!という効果音がどこからともなく聞こえてきた、気がする。

『……ハァ、ハァ……何だかここにいると、寿命が伸びるような縮むような、訳の分からない感覚に陥るわ……』

「クゥン?」

若干前屈み気味に胸を抑えながら、荒い息を整えようと懸命に励むシーナ。

そのシーナの姿を見て、アルが不思議そうに己の母の顔を覗き込む。

レオニスはレオニスで、ライトとシーナのやり取りを眺めながら呟く。

「ククッ、アルのかーちゃ……いや、シーナって何だか面白ぇなwww」

シーナに聞こえたら何を言われるか分からないので、ごくごく小さな声で呟いた、はずだった。

だが、銀碧狼はその名の通り狼の一族だ。狼族の聴力を舐めてはいけない。その小声は、しっかりとシーナの耳に捉えられていた。

『……レオニス。今何か言いましたか?』

未だ赤らめた頬の色も消え遣らず、少しだけ頬を膨れさせるシーナ。

「おっと、何でもない。さ、朝食食い終えたら各自で皿を下ろしといてくれよな」

シーナの追求を逃れるべく、さっさと自分の食器を下ろしにいくレオニス。

そんなレオニスの姿を、少しだけ恨めしそうな目で見遣るも、何故か全く悪い気分になどならない己の心の内が摩訶不思議なシーナだった。