軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第632話 討滅戦と二体の守護神

レオニスの話を聞き終わった二人の女王。

ふぅ……と小さくため息をついた後、徐に口を開いた。

『今の地上は、そんなことになっているのね……』

『しかもあの邪竜の群れが、その廃都の魔城の四帝?という奴等の手駒として使われているなんて……絶対に許せないわ!』

『ええ、これは由々しき問題ね』

光の女王の話によると、このサイサクス大陸の邪竜とはもとから邪竜として生まれたものではないという。

普通のドラゴンの卵に、何らかの操作を施すことで邪竜を生み出すのだとか。

魔物の発生の原理に詳しくないレオニスは、その話を聞いてとても驚いている。

「それじゃ何か、俺達が邪竜と呼ぶ者達は、本来なら普通の飛竜や翼竜として生まれるはずのものだったというのか?」

『ええ、そういうことになるわね』

「何てこった……」

レオニスは愕然とした顔で呟く。

そしてライトも内心で驚きつつ、その話に納得する部分もあった。

思い返せば、前世でのBCOに雑魚モンスターの中で邪竜という種族は存在しなかった。いても邪竜の残穢などのレアモンスターくらいで、四帝の手頃な駒として使えそうな雑魚系の中にはいなかったのだ。

なのに、狩っても狩っても勝手にリポップする通常モンスターのように、手駒にして大量に送り込めるほどの量の邪竜を一体どこから用意してるんだ?と不思議に思っていたライト。

なるほど、そういうからくりだったのか……と、ライトは腑に落ちる思いだった。

『邪竜という種族には繁殖能力がないから、地上からドラゴン族の卵を拐ってきているのよ』

『孵化する前の卵の段階で邪悪な力を注ぐことで、強制的に邪竜に変貌させているの』

『邪竜が子を成せない代わりに、他の種の卵を用いて種の存続を図っているのだと思っていたから、その非道にも目を瞑ってきたけれど……』

『そうではなくて、他者を攻撃するための捨て駒として使われていただなんて……』

『それを知ったからには、このまま捨て置く訳にはいかないわね……』

二人の女王の曇っていた顔が、一気に険しいものとなる。

他者の卵を拐うというのは、何をどう取り繕っても悪行であることに変わりはない。だが、その目的によって度合いが変わってくる。

種の存続のために致し方なく拐うのと、兵隊代わりの捨て駒を量産するために拐うのとでは訳が違う。その悪行の度数は天地ほどに違うのだ。

これまでは前者だと思い、致し方なく目を瞑っていた二人の女王達。だが、実は後者だったと知った今では、絶対に見逃すことなど到底できなくなっていた。

それまでライト達の斜め後ろ、入口付近に控えていたパラスに向かって光の女王が問いかける。

『ねぇ、パラス。次に邪竜の島がこの天空諸島に最も近づくのは、いつ頃かしら?』

「はっ。詳細な日時までは分かりかねますが、前回の襲撃から四年は経過しております。ですので今から半年後、少なくとも一年以内には最接近の時を迎えるかと」

『そうですか。では半年の猶予があるうちに、邪竜の島の討滅戦に討って出られるよう準備を整えておきなさい』

「畏まりました!」

『絶対に、何が何でもあの邪竜の島は殲滅させるわ。そして二度と悪しき者達の手に渡らぬよう、我等の手に取り戻すのよ!』

「ははっ!」

光の女王と雷の女王の命を受けて、パラスが急ぎ駆け足で神殿を出ていく。

戦の下知が下されたのだ、半年の猶予があるとはいえすぐにも準備に取り掛かったのだろう。

慌ただしく動く天空島勢の様子を見て、レオニスが光の女王達に話しかける。

「邪竜の拠点に攻め込むならば、俺にも手伝わせてくれ。直接の戦力になれるかどうかは分からんが、四帝の手駒を叩いて奴等の戦力を削げる好機を黙って見ている訳にはいかん」

『……確かに貴方は空を飛べるようですし、戦力としても申し分ない働きを期待できそうですが……いいのですか?』

「ああ。廃都の魔城の四帝は俺にとっても仇敵であり、人族のみならず世界中の全ての者に仇なす存在。いつかは必ず殲滅させねばならん相手だ」

レオニスの並々ならぬ決意に、光の女王と雷の女王は互いに顔を見合わせつつ頷く。

『……いいでしょう。ただし、決して無理はせぬように。これは私達天空の者が担うべき戦いです。そこに人族を加えて怪我でもさせたら、私達の立つ瀬がありません』

「分かっている。それに、これを機に邪竜の群れを殲滅させるというのなら、俺達といっしょにここに来ている竜の女王、白銀の君も喜んで加わるはずだ」

『竜の女王が討滅戦に加わるなら、これ程心強い味方はないわね!』

「邪竜は白銀の君が『我が君』と言って慕う竜王樹、ユグドラグスのもとにも攻撃してくるらしいからな。それを殲滅できるとあれば、白銀の君は何をさて置いても真っ先に駆けつけると思うぞ」

レオニスが白銀の君の助力を得られるという話に、雷の女王が嬉々として喜ぶ。

先程も天空樹ユグドラエルのいる島でも、邪竜の話が出た際に白銀の君がレオニスに対して『邪竜の拠点に討って出るなら、その時はいつでも私に声をかけなさい』と言っていたくらいだ。天空諸島総出で邪竜の島に総攻撃をかけると聞けば、絶対に大喜びしながら陣に加わることだろう。

その話を聞いた白銀の君が、飛び上がって小躍りせんばかりに喜ぶ図が今から目に見えるようである。

討滅戦などとはきな臭い話に聞こえるが、実際にはきっと天空諸島側の圧勝で終わるだろう。

その討滅戦がいつ決行されるかはまだ分からないが、レオニスや白銀の君が加わる討滅戦に邪竜の群れ如きが敵う訳がないのだ。

廃都の魔城の四帝、その悪行を食い止めて殲滅させるための一手となる戦い。

必ずや成功させてみせる―――レオニスは強く心に誓ったのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

『さて―――あまり楽しくない話が続いてしまったわね。今度はもう少し楽しい話でもしましょうか』

『そうね、邪竜だの廃都の魔城だのの話ばかりではつまらないものね!せっかく珍しい客人が来たのだもの、何か面白い話でも聞かせてもらいたいわ!』

「ぇー、面白い話……?」

光の女王がポン、と両手を叩き、話題を変える。

それに雷の女王も同意するが、「面白い話をして!」と急に言われても、さて何を話せばいいものやら困るレオニス。

そこにライトが助け舟を出す。

「女王様達ならきっと、他の女王様達の話を聞きたいんじゃない?」

「そうだな。他の姉妹の話ならきっと喜ぶよな」

ライトの案に乗ったレオニス。二人して水の女王や火の女王、闇の女王に海の女王の話を聞かせていった。

光の女王と雷の女王も、二人の話をとても興味深そうに聞いている。

『まぁ、水の女王のいる目覚めの湖には、そんなに大きなイカや水神がいるのね!』

『火の女王でも焼き尽くせない骸……あの子も苦労しているのね』

『暗黒神殿にも守護神が生まれたのね、とても目出度いことね!』

『海の女王にも、あの子を慕ってくれる人魚がたくさんいるのね……友達が多いのは、とても良いことだわ』

他の属性の女王達の近況を知って、その都度一喜一憂する二人の女王。

やはり姉妹達のことを知ることができるのは、とても嬉しいようだ。

するとここで、ふとライトが二人の女王に質問をした。

「そういえば、この天空神殿やお隣の雷光神殿にも卵はあるんですか? ここには卵はなさそうですが……」

そう、これまでに出会ってきた属性の女王達にはそれぞれが住まう神殿を持っていた。

火の女王だけはエリトナ山の中腹まで自ら出てきたので、その神殿までは見ていないが、おそらくは山頂まで行けば彼女専用の神殿があるのだろう。

そしてどこの神殿にも、必ず巨大な卵もしくは守護神?がいた。その守護神というのは、BCOでいうところのレイドボスである。

これまでの例から考えて、ここ天空諸島にある神殿にも卵か守護神がいるはずなのだ。

今ライト達がいる光の女王の天空神殿には、ぱっと見たところ卵はない。ならばもう既に、海底神殿のディープシーサーペント(通称デッちゃん)のように孵化済みなのかもしれない。

いずれにしても、BCO知識を持つライトにとってはとても気になるところだった。

『卵はないけど、卵から孵化した守護神ならいるわ』

『ええ、我が雷光神殿の卵も既に孵化済みよ』

「どちらも既に守護神がいるんですね!いるなら是非とも見てみたいんですが!」

『いいわよ、いらっしゃい』

二人の女王によると、やはりどちらの神殿にも孵化済みの守護神がいるらしい。

既に孵化済みということは、ライトが孵化させる必要もない訳だ。それなら安心して守護神を拝めるというものだ。

守護神とのご対面を所望するライトに、女王達が快く応じる。

神殿の入口に向かう女王達の後を、おとなしくついていくライトとレオニス。

そして神殿の外に出た光の女王が、天空樹ユグドラエルのある方向を指で指し示した。

『天空樹ユグドラエルの上にいる二羽の鶏。金色に光る方がうちの子『グリンカムビ』よ』

『グリンカムビの横にいる、赤っぽく輝く雄鶏。あれがうちの子『ヴィゾーヴニル』よ』

二人の女王に言われて、ユグドラエルの頂上?をじーーーっ……と凝視するライトとレオニス。

よくよく見ると、確かにユグドラエルの天辺に光り輝く何かがいる。それこそが、天空神殿生まれのグリンカムビと雷光神殿生まれのヴィゾーヴニルであった。

「おお……確かに二羽の鶏がいるな……」

「あれがグリンカムビとヴィゾーヴニルなんだね……」

神殿二つがある場所から離れているのと、天空樹ユグドラエルが超巨木故にその二羽の鶏はとても小さく見える。

だがそれはユグドラエルが巨大過ぎる故の錯覚であり、もっと近くで見ればその二羽は白銀の君以上に巨大な鶏なのだ。

ライトとレオニスが感嘆しつつ、その神々しい守護神達の姿をしばし眺める。

レオニスにとっては天空島の守護神二体だが、ライトにとっては全く違う。その二体も、他の神殿同様BCOにおけるレイドボスに間違いなかったからだ。

『おおお……やっぱりこの天空神殿と雷光神殿にもレイドボスがいたんだな!』

『グリンカムビに、ヴィゾーヴニル……どっちも水神アープよりレベルが上のレイドボスだったな』

『きっと戦ったらものすごく強いんだろうな……ここではレイドボスじゃなくて神殿の守護神だから、戦って倒すなんてこと絶対にできないけど!』

久しぶりに見つけたBCO由来の守護神?に、ライトの心は踊りまくっていた。

そんな二人の様子に、光の女王と雷の女王が嬉しそうに解説する。

『あの二羽は、いつもユグドラエルの天辺にいるのが常なのだけど。私達が呼べばここに来るわ』

『どうする? ここに呼びましょうか?』

「はい、是非!」

二人の女王の嬉しい申し出に、ライトが食いつき気味に答える。

ディープシーサーペントのデッちゃんにはまだ会えていないが、会えるものなら是非とも間近で拝みたいところだ。

ライトの希望を受けた光の女王と雷の女王が、二羽の鶏に向かって声をかけた。

『グリンちゃん、こっちにいらっしゃーい』

『ヴィーちゃん、こっちおいでー!』

大きな声を張り上げた訳でもないのに、二人の女王が呼びかけた瞬間からすぐに二つの眩い光が神殿に向かってものすごいスピードで近づいてきた。

その眩い光の塊二つが神殿横に降り立つ。その大きさは、神殿そのものを何倍も上回る巨大さだ。

だがその巨大な鶏は、誰に言われるでもなく着地後すぐにシュルシュルと縮まっていき、普通の鶏サイズに変化した。

その発光も少し眩い程度に抑えられていて、直視しても大丈夫な輝きに収まっている。何とも賢い子達だ。

二羽の鶏はそれぞれの女王達のもとに飛び、その胸元にぽすん、と収まり女王達に抱っこされる。

『グリンちゃん、良い子ねー』

『ヴィーちゃん、今日もツヤッツヤに綺麗ね!』

二人の女王に褒められて、ご満悦そうな二羽の鶏。

その図だけ見ると本当に普通の鶏なのだが。やはりその強大な力は隠しきれないようで、レオニスが心底驚いたように呟く。

「この鶏、ものすげー強い力を持ってるな……神殿生まれの守護神ってのは、やっぱ伊達じゃねぇんだな……」

「そりゃそうだよ!水神のアクアやディープシーサーペントのデッちゃんと同じ、神殿の守護神だもの!」

「こんなすごい存在が二体もいりゃあな、そりゃ奴等の手に落ちる訳ねぇわな……」

グリンカムビとヴィゾーヴニル、二体の守護神を目の当たりにしたライトとレオニス。

普通に生きていたら、こんな格上の存在を目にすることなど絶対にないだろう。

冒険者冥利に尽きるとばかりに、二人ともその感動にしばし浸っていた。