作品タイトル不明
第617話 ライトの秘策
レオニスが天空島に行くために、シュマルリ山脈の中位ドラゴン達と親睦を深めたりあれやこれやと動き回っている頃。
ライトの方も、天空島関連のあれやこれやを思案していた。
「ンーーー……ルディが生まれてもうそろそろ二ヶ月になる頃だし、結構体格も大きくなってきたから天空島にも行けそうな気はするんだけど……」
「レオ兄ちゃん達と行くより先に、天空に住まう方々と会ったらマズいよなぁ……」
「光の女王様とか、ラウルと同じく絶対に嘘なんかつけないだろうし……もし万が一ぼくの方が先に女王様に会っちゃったら、次にレオ兄ちゃんといっしょに行った時に『あら、また来たのね』とか言われそうだ……さすがにそれはマズい、何としても避けなければ……」
ベッドの布団の中で、ゴロゴロと寝返りを打ちながら考え込むライト。
クエストイベントの最新ページを更新したのが、三月半ば頃。それからかなりの日数が経過したが、未だにそこから先に進めないでいる。
その原因はただ一つ。最新9ページ目No.41の『閃光草の針葉』にあった。
この閃光草というのは原産地が天空島で、サイサクス大陸には存在しない草である。
地上にいる限りは採取できない代物をクエストイベントの題材にするなんて、ホンットこの 創造神(うんえい) は鬼畜だよな!と心底思うライト。
だが、そんな悪態をついたところでどうにもならない。何とかして天空島に行くしかないのである。
そのためにライトはあれこれと思案を巡らせている訳だが、近々レオニスとともに天空島に行けることになりそうだ。
主目的は属性の女王である光の女王や雷の女王に会って、その身の無事を確認すること。
他の女王達のように地上に住まうのではなく、天空島に住んでいるため彼女達の安否は全く分からない。何事もなく無事ならば良し、何か異変が起きていたら何とか対処する。
兎にも角にも、まずは天空島にある天空神殿を訪れなければならない。
そして天空島に行ったついでに、素材採取として閃光草を取る。それがライトの秘密の目的である。
しかし、なるべくならば一日も早く閃光草を手に入れたいライト。停止したままのクエストイベントをいい加減進めたい。
他にも天空島に行く手段の一つとして、500CPで行える課金任務イベントが存在する。だがこの500CPを貯めるまでがまた果てしない道のりで、とてもじゃないが本当に数年はかかりそうだ。
ずっと考え込むのにも疲れてきたライトは、少しだけ弱気になる。
やっぱレオ兄といっしょに行けるようになるまでは、我慢して待たなきゃならないのかな……と、半ば諦めかけた、その時。
ライトの頭の中で、ふと一つの案が浮かんだ。
それが成功するかどうかは、全く分からない。だが、やってみる価値はある―――そう考えたライトは、次の週末休みに決行することにした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そうして迎えたとある週末の土日。
この日もライトは転職神殿に向かっていた。
ここ最近のライトの週末は、土日のどちらかに一度は転職神殿に行っている。
四体目の使い魔である黄金龍ルディの成長具合を見守ったり、ミーナが集めてきたお使いの成果をチェックしたり等々、ライトが直接出向いてその目で見ておかなければならないことが多いのだ。
「ミーアさん、ミーナ、ルディ、こんにちは!」
『ライトさん、いらっしゃい』
『主様、こんにちは!』
『パパ様、こんにちは!』
転職神殿の面々が、いつものようにライトを快く出迎える。
ルディのライトに対する呼び方が『パパ様』になってしまったのは、ミーナの『主様は貴方にとってはお父様であり、最も慕うべき尊き御方なんですからね!』という言葉がもとになっている。
前世では未婚だったのに、今世では十歳にもならないうちからパパになるとは、夢にも思わなかったライト。
だが、使い魔の卵を孵化させたのは、他ならぬライトである。
鳥の雛が一番最初に見たものを親だと思い込む、いわゆる刷り込み効果と思えばそれも活かし方ない。
『ところで主様。今日は何をなさいますか? 私達のレベルチェックですか? それとも先にお使いの成果を見ますか?』
「それももちろん後でするんだけど、今日はミーナとルディに聞きたいことがあるんだ」
『私達に聞きたいこと、ですか? 一体何でしょう』
「ミーナやルディは、天空島って知ってる?」
『天空島、ですか……?』
ライトからの質問に、不思議そうな顔をするミーナ。
どうやらパッとすぐには理解できないようだ。
「天空島っていうのはね、このサイサクス世界に実在する島で、その名の通り天空、つまり空に浮かぶ島なんだ」
『まぁ、そんな場所があるのですね!恥ずかしながら、主様からお話を聞くまで全く知りませんでした』
『ぼくも知りませんでした……』
「そっか、別に知らないからって悪いことじゃないから気にしないでね」
『『はい!』』
ライトの期待に応えられなかったことが無念なのか、少しだけ残念そうな顔で答えるミーナとルディ。
だが、ミーナやルディが天空島を知らないのも無理はない。彼女達は使い魔であり、冒険フィールドを自由自在に行き来する 勇者候補生(ユーザー) とは生まれも立場も全く違うのだから。
落ち込んでいるミーナとルディを、ライトが明るく励ましながら話を続ける。
「それでね、もし良かったらミーナとルディに天空島を探してもらいたいんだ」
『主様は、その天空島に行きたいんですか?』
「いずれは自由に行き来できるようになりたいけど、それより先に手に入れたいものがあるんだ」
ライトは話をしながらアイテムリュックを開き、一冊の分厚い本を取り出した。
それは、かつてライトがラグーン学園入学前にレオニスに買ってもらった【全世界植物大全/最新版】である。
ライトは本を開き、あいうえお順の索引から『閃光草』のページを探し出してミーナ達に見せた。
「これは『閃光草』と言って、天空島にしか生えていない植物なんだ。これを、とりあえず十本欲しいんだよね」
『へぇー、花だけでなく葉っぱも発光する草ですかぁ。とっても珍しそうですねぇ』
『とてもキレイな草花!ぼくも見てみたいです!』
『もし地上でも咲く花ならば、この転職神殿にも植えたいですねぇ』
ライトの横や上から本を覗き込むミーナ達。
何気にミーアが『転職神殿にも閃光草を植えたい!』と、大胆な意見を口にしている。
実際で言うと高山植物を平地に下ろすようなもので、その実現はかなり難しそうだ。
だが、希望を口にするだけならタダである。もし閃光草の株や種が入手できたら、是非とも一度は実践してみたい!とライトも内心で思う。
『主様はこの閃光草という植物が必要で、その植物は天空島というところにしか生えていないんですね?』
「うん。本当はぼくも、ミーアやルディのように空高く飛ぶことができたらいいんだけどね……」
ミーナが確認するように問うた言葉に、今度はライトがしょんぼりとする。
ライトの吐露した言葉は、嘘偽りない心からの本音だ。
ライトに天空島まで飛べる力があれば、自力で採取できるのに―――他者に頼ることしかできない、己の不甲斐無さを嘆くライトの悲しみに満ちていた。
だが、そんなライトを励ますようにミーナ達が努めて明るく声を上げた。
『主様、落ち込むことはありません!主様は人族なのですから、飛べないのは当然のことですもの!』
『そうです、ミーナ姉様の言う通りです。パパ様が行けない場所は、僕達が代わりに行けばいいだけなのです』
『ええ、ライトさんはいつも私達の力になってくださっていますもの。ライトさんだけでは解決できない、難しいことに直面したら……そういう時こそ、周りの者達を頼るべきですよ』
ミーナやルディ、ミーアの優しい言葉に、ライトの目は大きく見開かれていく。
「皆、ありがとう……この恩は、いつか必ず返すからね」
『主様ってば、ヤダー!いっつも主様のお世話になっているのは、私達の方ですよぅー!』
『うん!パパ様は、僕達にいつも美味しいご飯やおやつを食べさせてくれるもんね!』
『私だって、こんなに可愛い弟妹を与えてくれたライトさんには、一生をかけても返しきれない恩があります。これ以上ライトさんから恩返しなんてされたら、それこそ恩が溜まっていくばかりで私の方が困ります!』
ライトが呟いた言葉に、ミーナはきゃらきゃらと笑い、ルディはニコニコしながらミーナに同意し、ミーアは困ったフリしながら笑う。
『では、これからはお使いに出かけるだけでなく、まずは天空島探しをすることにしますね!ルディも私といっしょに天空島を探しましょう!』
『はい!なるべく高いところを飛ぶようにします!』
『では私は、いつか閃光草が採取できた時のために、この本に描かれている閃光草の絵と文章を書き写しておきましょう。ライトさん、紙とペンはお持ちですか?』
「あ、はい、今出します!」
ミーアの要請に、ライトが急いでアイテムリュックを開きスケッチブックとペンを取り出す。
空を飛べるミーナとルディは、天空島探しの即戦力。お使い以外の時間に暇を見ては空を飛んで、天空に浮かぶ島を探しに出かけることができる。
一方巫女であるミーアには、そうした働きは全くできない。
だがそれでもライトの力になりたくて、閃光草のデータを手許に置くべくライトが持ってきた【全世界植物大全/最新版】の書き写し役を買って出たのだ。
ライトからスケッチブックとペン、そして【全世界植物大全/最新版】を受け取ったミーアは、大全を膝に置きスケッチブックにサラサラと絵を描き込んでいく。
その絵はなかなかに達者で、大全の閃光草の絵をほぼ完璧に書き写しているではないか。
その絵の上手さに、ミーアの横や後ろから覗き込んでいたライト達が感心しながら呟く。
「ミーアさん、絵がすっごくお上手なんですねぇー」
『ミーアお姉様がこんなに絵がお上手だなんて、私今まで知りませんでした!』
『僕はペンを持つのも難しいから、絵が上手なミーアお姉様がとても羨ましいです!』
『そ、そんな……何だか恥ずかしいです……』
皆から大絶賛を受けたミーア、顔を真っ赤にして恥ずかしがっている。
ミーアが絵が得意というのは、実に意外なことだ。
だが、ゲーム内では転職ナビゲーターとしての役割しか表現されていなかっただけで、実はNPCであっても何かしらこうした意外な特技を皆持っているものなのかもしれない。
閃光草の絵が描き終わり、今度は大全の記述部分を書き記していくミーア。
ミーナやルディは絵だけでなく文字も書けないので、文字を書き写しできるというのはミーアだけが持つ利点だ。
ミーアには、天空島を探し当てるという直接的な貢献はできない。だが、こうした縁の下の力持ち的な役割を果たせるのがミーアの強みである。
『閃光草についての記述を、全部書き写し終えました。ライトさん、本をお返ししますね』
「はい!……あ、ページは破り取らないでください!そのスケッチブックとペンは、ミーアさんに差し上げます。他のページもミーアさんの好きなようにそのまま使ってください!」
『このままいただいてもよろしいのですか?』
閃光草を書き写したページを破り取ろうとするミーアに、ライトは慌てて止めに入る。
ミーアはスケッチブックも返却しようとしたが、ライトはそのままミーアに持っていてもらいたいようだ。
「はい!絵でも文章でも、好きなことをどんどん書いてください!」
『では、ライトさんのお言葉に甘えて、頂戴することにします。ありがとうございます』
『ミーアお姉様!そしたら私の似顔絵を描いてください!』
『あッ、そしたら僕も姿絵を描いてもらいたいです!』
ライトからスケッチブックとペンを譲ってもらったミーアに、ミーナとルディがさっそく似顔絵や姿絵のおねだりをし始めた。
ミーナの似顔絵はともかく、黄金龍のルディの姿絵とか壮絶に難易度が高そうだ。
そんな弟妹達の無理難題に、ミーアは怯むどころかいつもと変わらぬ穏やかな笑みを浮かべる。
『分かりました。では順番に、ミーナの似顔絵を描いたら次にルディの姿絵を描きましょうね』
『わーい、やったぁー!』
『似顔絵も姿絵も、出来上がったらパパ様にも見てもらいましょうね!』
長姉の快諾に、大喜びする次姉と末弟。
仲睦まじい兄弟姉妹の姿に、使い魔達のパパたるライトもほっこりとしている。
『では、これから皆で天空島探しと閃光草探しをして、ライトさんの御力になりましょうね』
『『はーーーい!』』
ミーアの呼びかけに、ミーナもルディも元気いっぱいな明るい声で返事をする。
ミーナやルディが本当に天空島を探し当てられるかどうかは、まだ分からない。使い魔である彼女達が、冒険フィールドの一つである天空島に関与できるかどうか、全くの未知数であり予想もつかない。
だが、ミーナもルディも自由意志があり、己の頭で物事を考えて行動する力を持っている。すぐに見つけることはできなくても、根気よく継続して探索すればきっと見つけられるに違いない。
転職神殿の皆が、進んでライトの力になろうとしてくれている。
ライトには、そのことが一番嬉しかった。