軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第618話 夏休みの予定

そうして皆が皆、多忙な中にも充実した日々を送っていた。

季節は梅雨時の六月を過ぎ、気がつけば七月も半ば手前。もうすぐ夏になろうとしていた。

「はーーーっ!ジメジメした梅雨が明けて、天気の良い日が多くなってきたね!」

「これからもっと暑くなっていくねー」

「♪もーーーいーーーくつ寝ーーーるーーーとーーー、夏ーーー休ーーーみーーー♪」

「リリィちゃん、楽しそうだね……」

ライトの机の回りに集まったライトの学友達。皆楽しそうに会話をしている。

特に唱歌『お正月』の音程で即興替え歌を歌うリリィ、実に楽しそうだ。

ラグーン学園二年A組の、何気ない日常風景のひとコマである。

「夏休みといえば、皆何か予定は入ってるの?」

「私はねー、おばあちゃんちにお泊まりに行くの!」

「イヴリンちゃんのおばあちゃんちって、どこにあるの?」

「エンデアンっていう、海のある街!」

「まぁ、結構遠い街ですねぇ」

「うん。遠いところだから年に一回、夏休みにしか行けないんだー」

ジョゼが夏休みの話題を振ると、早速イヴリンが自身の予定を披露する。

夏休みという最も長い休暇にあって『おじいちゃん、おばあちゃんの家にお泊まりに行く』というのは、最もメジャーな鉄板行事の一つであろう。

そしてイヴリンのおばあちゃんは、港湾都市エンデアンに住んでいるらしい。乗合馬車で行くなら、片道五日は馬車に揺られ続けるはずだが、だからこそ行くには夏休みが最も適していると言えよう。

余談だが、イヴリンに言わせると「馬車の中って、特にすることがないんだよね。だから仕方なく夏休みの宿題をするんだけど、結構これが捗っていいんだ!」とのこと。

寝て過ごす以外にも、読書感想文用の本を読んで文章を頭の中で練ったり、プリント問題を解いたり等々、馬車の中でもできることをして過ごすのだそうだ。

ちなみに読書感想文用の本は、夏休みに一人一冊だけ図書室から借りることができる。いつもは本の学園外への持ち出しは禁止だが、夏休みだけは例外で特別に解禁されるらしい。

もちろん夏休み明けには返却必須で、一定期間内に返却しないと大変なことになるとか何とか。

夏休み中に本を借りる借りないは生徒側の自由なので、もし自宅に感想文に適した本を持っている場合は借りなくてもいいという。

これを知った時のライトは、内心で『ラウルが冒険者登録の時にもらってきた小冊子、あれで読書感想文書けばいいかなー』などと考えていた。

その小冊子とは『冒険者の手引き~一流冒険者に至るための基礎知識とコツ~』のことだ。

こんなもんで読書感想文を書く初等部二年生など、見たことも聞いたこともない。正真正銘前代未聞である。

だが、冊子とはいえ一種の本であることに変わりはないし、そこにライトの将来の夢『冒険者に、俺はなる!』を絡めていけば、かなり立派な読書感想文が出来上がりそうな気がしないでもない。

ライトの夏休みの読書感想文、一体どのようなものに仕上がるのか今から楽しみである。

「ジョゼやハリエットちゃんも、どこか出かける予定あるの?」

「僕は、父様は普通にずっとお仕事してるし、やっぱ家でゴロゴロしてるかなー。出かけてもせいぜい近所の剣術道場くらいだと思う」

「私は冬休みと同じく、本家のあるプロステスに一家で行く予定ですの。いつもは冬休みだけなんですけど、今年は長年の悩み?が解決したから? 是非とも皆でそれを見に来てくれ!と、伯父様から直々にお達しがありまして」

「そっかー。夏のプロステスって、ものすごく暑そう!」

皆でわいわい話している中で、リリィだけがほっぺたをぷくーっ、と膨らませている。

先程まで唱歌を歌っていたご機嫌さはどこへやら、これももはやお約束の光景の一つだ。

「皆、お出かけの予定があっていいなー。私なんていつも通り、おうちのお手伝い三昧よ。でもまぁお手伝いはお昼からだから、午前中はゴロゴロできて気楽なんだけどさ」

「午前中はお手伝いしなくていいの?」

「夏休みの宿題をする時間ってことで、午前中は自分の部屋にいていいんだ!」

普段の土日は一日中お手伝いをしているリリィだが、夏休み中は昼からの手伝いだけでいいらしい。

その理由は『夏休みの宿題をする時間も必要だから!』ということらしい。確かに家の手伝いも大事だが、学園から出される長期休暇中の課題も大事だ。

家業と学業の両立、それをこの歳から成立させなければならないリリィ。本当に大変である。

「でもねぇ、夏休みもラグナロッツァは観光客が増えるもんねぇ」

「うん……もう夏休み中の宿泊予約はほとんど埋まってるって、パパとママが言ってた……」

「リリィちゃんちって、毎年常連の宿泊客がたくさん来るんでしょ? 常連さんがいる宿って、本当にすごいよねぇ」

聞けば向日葵亭の宿泊予約は、夏休み中はもう既にほぼ全日埋まっているらしい。

ライトが向日葵亭の人気ぶりを讃えるも、リリィはプルプルと身体を震わせている。

「……ンもーーーッ、観光客が来ない季節ってないのかしら!?」

リリィが頭を抱えながら、ウガーッ!と叫び天を仰ぐ。

観光業には繁忙期と閑散期がつきものだが、ここラグナロッツァは大陸一の大国アクシーディアの首都。特に何がなくても日々それなりに人も物も流通が多い。

アクシーディア公国生誕祭や長期休暇シーズンなどは、それこそ場所によっては人がごった返しになるほど混雑する。

故に、リリィの実家が経営する宿屋兼定食屋の『向日葵亭』には、超繁忙期はあっても閑散期はほぼないに等しかった。

「まぁ、忙しいのは分かるけど……観光客が来なかったら、リリィちゃんちは商売上がったりになるんじゃない?」

「泊まりの客がいなくたって、うちは定食屋としても人気あるもん!だから大丈夫よ!」

「本当に、宿屋さんって大変なお仕事なんだねぇ……ていうか、リリィちゃんちの向日葵亭って、一年中全くお休みないの?」

「一応あるよ!」

リリィの苦労を労うライトの質問に、リリィがその瞬間だけいつもの明るい声に戻る。

「九月と十月の間の三日間だけ、お店も宿も全部閉めてお休みする日があるの!」

「へー、そうなんだー。たまにはそういう連休もないとね!」

「うん!その三日間の真ん中の日が、私の誕生日なの!その日だけは、仕事もお手伝いも何もしなくていい日なんだ!」

花咲くようなリリィの笑顔に、聞いていたライト達もニッコリと微笑む。

きっとその三日間が、リリィにとっては何よりの楽しみなのだろう。

機嫌が直ったリリィが、今度はライトに質問してきた。

「そういえば、ライト君は夏休みの予定、何かあるの?」

「ぼく? えーっとねぇ、今年の夏休みはあちこち出かける予定がもういくつも入ってて、結構忙しくなりそうなんだよね」

「へー、どこに行くの?」

「えーと……まず氷の洞窟に皆で氷蟹の狩りツアーに行ってー、ファングの街でオーダーした品物を受け取ってー、エリトナ山の火の女王様のところにも行ってー、シュマルリ山脈の竜王樹にも会いに行ってー…………あ、プロステスの炎の洞窟にも行くよ!でもってラギロア島にもまた行くから、多分エンデアンにも寄ると思う!…………って、皆、どうしたの?」

「「「「………………」」」」

ライトが指折り数えながら夏休みの予定を羅列していく。

パッと思いつくだけ上げたところで、ふと顔を上げると他の四人が目をまん丸&点にしてライトの顔を凝視していた。

「何か今、いくつか変な場所入ってなかった?」

「ま、ライト君のことだからねぇ……しょうがないと言うか、当然というか……」

「ライトさんは、本当に私達とはスケールが違いますわね……」

ヒソヒソ声で話す、イヴリンにジョゼにハリエット。

皆一様にライトの顔を凝視していたが、中でも一番早くに正気に戻ったのはリリィである。

リリィはパァッ!と明るい笑顔になり、ライトに向かって話しかけた。

「ライト君、どこのでもいいから一つはお土産よろしくね!」

「うん、いいよ。リリィちゃんは夏休み中ずっと、おうちのお手伝いを頑張ってるんだもんね!」

「ありがとう!そう言ってもらえると、リリィもお手伝い頑張れる気がする!」

しれっとライトにお土産をおねだりするリリィ。これもいつものことではあるが、夏休みに学園がない代わりに家の手伝いに励むリリィをライトも心から応援したいと思っていた。

磊磊落落なリリィと、子供の目から見ても人外領域に片足を突っ込んでいるライト。案外馬が合う取り合わせなのかもしれない。

そんな二人の様子に焦った訳でもないだろうが、ハリエットがライトに向かって尋ねた。

「ライトさん、プロステスに来る際には領主邸にもまたいらっしゃるのですか?」

「ンー、どうだろ。そこら辺はまだ分かんないけど、炎の洞窟や炎の女王様の様子をレオ兄ちゃんが領主様に報告するかもしれないから、もしそうなったら立ち寄ると思うよ」

「そうですか。その時には是非とも私にもお声をかけてくださいね。多分私も伯父様のところに滞在してると思うので」

「うん、分かった、そうするね!」

「あっ、そしたら私もエンデアンでライト君に会っちゃうかも!?」

ライトとハリエットの会話に、今度はイヴリンが乱入してきた。

「イヴリンちゃんのおばあちゃんちって、エンデアンのどこら辺にあるの?」

「おばあちゃんは、昼間はエンデアンの海鮮市場で魚を売るお店を開いているの。だから私も、たまに昼間にお店のお手伝いをすることがあるわ!」

「そしたら、エンデアンの海鮮市場にも立ち寄ってみるね!ぼくもエンデアンに行ったことあるけど、エンデアンの海鮮って本ッ……当ーーーに美味しいよね!」

「うんうん!魚介類の美味しさだけは、ラグナロッツァにも絶対に負けないよね!」

女の子達ときゃいきゃいと会話するライト。

その後ろでジョゼが「……僕も将来、冒険者になろうかな……」と、誰にも聞こえない小さな声でぽつりと呟いていた。