作品タイトル不明
第606話 激闘の翌朝
鋼鉄竜との激闘を繰り広げた、翌日の朝。
テントの中で目が覚めたレオニス。ふぁぁぁぁ……と大きな欠伸をしながら上半身を起こす。
枕元に置いておいた懐中時計を手に取り見ると、時刻は八時少し前。もうとっくに日が昇っている時間だ。
いつものレオニスなら、もっと早い時間に起きているのだが。昨日の鋼鉄竜との激闘で、思っていた以上に疲れて気が抜けていたらしい。
両腕を真上に伸ばし、ンーーーッ……と思いっきり背伸びをするレオニス。
しかし、テントの中は薄暗い。外の天気があまり良くないのだろうか。
はて、昨日は雲一つない快晴だったが、今日は曇りか? まぁ雨は降ってないようだからまだいいか。
つーか、ドラゴン達が来てもおかしくない時間だよな。さっさと朝飯食うことにするか……
そんなことを考えながらのそのそと起き上がったレオニス、ひとまずテントの外に出た。
するとそこには何と、既に昨日の中位ドラゴン達がレオニスのテントを取り囲んでいた。
獄炎竜に氷牙竜、迅雷竜、巨大なドラゴン達の姿を目にしたレオニス。びっくりして思わず飛び上がりかける。
「おわッ!」
「ヨウ、人間。コノ山ノ中デ、熟睡タァ、イイ度胸シテンナ」
「ココデ、朝寝坊デキルトカ、ホンット、スゲェナ」
「俺ラニ、踏ミ潰サレテモ、知ランゾ?」
「あ、ああ、すまんな……昨日の戦いで結構疲れちまってたようだ。全く以て面目ない」
テントから出てきたレオニスを覗き込むように、一斉にドラゴン達の視線を浴びせられたレオニス。寝起きドッキリのように心底びっくりしたが、何とか気を取り直して平静を装う。
テントが翳っていたのは、どうやらこの中位ドラゴン達の影になっていたせいらしい。
真上を見上げると、そこには昨日と同じ快晴の空が広がっていた。
ドラゴン達に朝寝坊を揶揄われて、恐縮しつつ謝るレオニス。
明日の朝ここに来てくれ、と言った張本人が思いっきり寝坊してテントから出てこないとは、赤っ恥もいいところである。
だがドラゴン達は、レオニスを責めるでもなくカラカラと笑い飛ばす。
「ナァーニ、気ニスンナ。鋼鉄ノ、ヤツダッテ、マダ来テネェカラナ!」
「鋼鉄モ、マダ、グースカ、寝テンジャネ?」
「誰カ、チョックラ、鋼鉄ノネグラ、見テコイヨ」
「エー、ヤダヨ、アイツ寝起キ 悪(ワリ) ィモン」
わいわいと会話する中位ドラゴン達。確かにこの中に、鋼鉄竜の姿はない。
中位ドラゴン達が言うように、きっとまだ 塒(ねぐら) で寝ているのだろう。
レオニスは鋼鉄竜に、竜王樹までの案内をしてもらう約束をしている。
鋼鉄竜が来なければその約束は果たされないので、レオニスは鋼鉄竜が来るまでの間に朝食を摂ることにした。
「すまんが、鋼鉄竜が来るまでの間に朝飯食ってるわ」
「オウ、ソシタラ、俺達ハ、昨日ノ、可愛コチャント、ココデ、遊ンデテ、イイカ?」
「ウィカのことか? ウィカ、ドラゴン達にご指名されてるけどどうする?」
「うなぁーん♪」
レオニスの問いかけに、糸目の笑顔で応えるウィカ。
中位ドラゴンと遊ぶことに何ら躊躇はないようだ。
ウィカは早速ドラゴン達のもとに駆け寄り、地面に向けてそっと差し出された手の爪の上にちょこんと乗る。
一番最初に手を差し出したのは氷牙竜。ウィカと遊ぶ順番は、レオニス達が起きてくる前に円満な話し合い?で決めておいたようだ。
「オオオ……ヤッパ、可愛エエ……」
「氷牙ノ、絶対ニ、今ココデ、クシャミナンカ、スルナヨ?」
「ソウダゾ!コンナニ、チッコインダ、鼻息デモ、吹ッ飛ンジマウカラナ!」
「爪ニ、乗セテル間ハ、ズット、息ヲ、止メトケ!」
「ンナ無茶、言ウンジャネェ」
ウィカと中位ドラゴン達が戯れている間、レオニスは特大おにぎりなどを急いで食べて朝食を済ませる。
特大おにぎり十個をお茶三杯とともに胃に収め、寝袋やテントを空間魔法陣に仕舞うレオニス。
その間約五分、本当に超特急の朝ご飯である。
荷物を全て仕舞い終えた頃には、ウィカはここにいる全ての中位ドラゴン達の爪や肩に乗ってさらなる親睦を深めていた。
「待たせたな」
「イヤイヤ、何ノコレシキ、待ツウチニモ、入ラン」
「ソウダゾ、何ナラ、モット、ユックリシテテモ、イイゾ?」
「ソウスリャ、ソノ分、俺達モ、コノ可愛コチャント、ユックリ、遊ベルシナ!」
すっかりウィカにメロメロの中位ドラゴン達、ウィカと遊べて大層上機嫌である。
そんな中位ドラゴン達に、レオニスが申し訳なさそうに答える。
「ゆっくりしていきたいのは山々なんだがな。俺も用事があってここに来たから、まずはそれを先に済ませなきゃならないんだ」
「アー、ソウイヤ、昨日、ソンナコト、言ッテタナ」
「竜王樹ニ、会イニ、行クンダッケ?」
「そうなんだ。竜王樹に渡したいものがあってな」
「鋼鉄メ、マダ寝テヤガンノカ?」
そんな噂をすれば何とやら、遠くからこちらに来る一頭のドラゴンの姿が見えた。
「オ、鋼鉄ガ、来タゾ」
「ヨウヤク、オ出マシカ」
「オーイ、鋼鉄ノ!遅ェジャネェカ!」
中位ドラゴン達が口々に鋼鉄竜に声をかける。
それでも歩くペースを崩さず、のっそのっそと近づいてくる鋼鉄竜。鋼鉄竜もまた結構なマイペースのようである。
そうしてレオニス達と合流した鋼鉄竜。
それでも一番遅くに来たという負い目があるのか、モゴモゴとした小さな声で挨拶をする。
「オ、遅クナッテ、スマンナ……」
「全クダ。日ガ、真上ニ、ナッテモ、来ネェノカト、思ッタゼ」
「サスガニ、ソレハ、ナイガ……如何セン、昨日ノ、アレハ、我デモ、キツカッタ……」
「マァナー。アンナ、激シイ、戦イハ、久シブリニ、見タゼ」
「アレト、戦ウノガ、俺ジャナクテ、ホンット、良カッタ!ト思ッタネ」
「ホント、ホント。鋼鉄ヨリ、先ニ、チョッカイ、出サンデ、マジ、良カッタワ」
まだ若干疲れが残っているっぽい鋼鉄竜に、他のドラゴン達が労いの言葉をかける。
もっとも後半の方は、もはや労いですらなかったような気がするが。多分気のせいだろう。キニシナイ!
「……デ? 我ヲ、待ツ間ニ、貴様ラハ、アレト、戦ッタノカ?」
「ン? 戦ッテナンテ、イネェヨ?」
「ナ、何ッ!? 何故ニ、マダ、戦ワンノダ!?」
「イヤ、ダッテホラ、俺達、コノ可愛コチャント、遊ブ方ガ、忙シイシ。ナァ?」
「ソウソウ。俺達、コレト、戦ウヨリモ、可愛コチャント、遊ブ方ガ、ズット大事ダカラナ!」
「キ、貴様ラ……」
他のドラゴン達が一向にレオニスと戦う気がないことに、鋼鉄竜はわなわなと震えている。
ウィカに骨抜きにされてしまった他の竜達はアテにならん!とばかりに、今度はレオニスの方に向き直る鋼鉄竜。
鋼鉄竜はレオニスに向かって、吼えるように訴えかける。
「オイ、人間!オマエ、竜族ト、友達ニ、ナリニ、ココマデ、来タノダロウ!? ナラバ、コイツラトモ、存分ニ、戦エ!」
「あー、そりゃまた今度な」
「ナ、何ッ!?」
「それより鋼鉄竜、あんたとの約束の方を先に果たしてもらわなきゃならん」
「ヤ、約束……?」
またも己の訴えを華麗にスルーされてしまった鋼鉄竜。
憤慨しかけたところに、レオニスに約束の件を持ち出されてピタリと動きが止まる。
「ほれ、俺があんたとの勝負で力を示したんだから、竜王樹のもとに直々に連れてってくれるんだろう?」
「……ァ」
「ぉぃぉぃ、まさか一晩寝ただけで忘れちまったんじゃないだろうな?」
「ソ、ソンナ、コトハ、ナイ……チャ、チャント、覚エテ、オル」
「ホントかぁーーー?」
途端に挙動不審になる鋼鉄竜に、レオニスが半目でジロリンチョ、と見遣る。
どうやら鋼鉄竜は、レオニスを竜王樹のもとに案内するという役目をすっかり忘れていたようだ。
「俺がここに来たのは、あんた達ドラゴンと友達になるという目的もあるが。竜王樹に会うのも、それと同じくらいに大事な用事なんだ。忘れてもらっちゃ困るぞ?」
「モ、モチロンダトモ!サァ、今カラ、竜王樹ノ、モトニ、皆デ、行クゾ!」
「エ、俺ラモ、行クノ? マジ?」
「マァ、面白ソウダカラ、イイケドヨ」
竜王樹の案内役という役割に、突如巻き込まれた他のドラゴン達。
一瞬呆気にとられるも、結局は軽いノリで了承している。
だがレオニスとしては、若干心配になる。
「大人数で押しかけて大丈夫なのか?」
「アー、ソコラ辺ハ、大丈夫。竜王樹ノ旦那ハ、トッテモ、穏ヤカデ、優シイカラ」
「そうか、ならいいが……」
「竜王樹ノ旦那ガ、怒ッテル、トコロナンテ、俺、一度モ、見タコト、ネェモン」
ドラゴン達の話では、竜王樹は穏やかで優しい性格だという。
この中位ドラゴン達だって、それなりに齢を重ねているだろうに、竜王樹が怒るところを一度も見たことがないという。
数百年は生きているであろうドラゴン達が、口々にそう讃えるくらいだ。この大人数で竜王樹のもとに押しかけても、本当に大丈夫なのだろう。
「タダ……ソレデモ、竜王樹ノ、トコロデハ、注意シナキャ、ナランコトガ、一ツダケ、アル」
「ン? それは何だ?」
「ソレハ、行ク道デ、話シナガラ、教エテヤルヨ」
「分かった。じゃあ、案内をよろしく頼む」
竜王樹が優しい性格だと聞いて、ほっと安堵していたレオニスに、それでも注意事項があるという。
それは道中で聞かせてくれるというので、レオニスも素直にその言葉に従う。
四頭の中位ドラゴンとともに、レオニスとウィカは竜王樹のもとに向かっていった。