軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第604話 鋼鉄竜との出会い

レオニスとウィカがシュマルリ山脈での探索を開始してから三日目。

ますます険しくなっていく地形とともに、出現する魔物達もどんどん強くなっていった。

飛竜の巣を危うく破壊しかけた辺りから、飛竜の他にも中型のドラゴンがぽつぽつと出始める。極炎竜に鋼鉄竜、氷牙竜に迅雷竜などだ。

背の高さは5~6メートルあり、下位種より一回りも二回りも大きい。

手足には鋭い爪、大きな口には鋭利な牙。典型的な西洋型ドラゴンで、翼も皮膜型の一対である。

これらも風貌はほぼ同じで、基本的に色違いコピペなのだが、皮膚や鱗の質感などが若干違う箇所がある。そこら辺は、グレードアップによる色塗りの梃入れでも入っているのだろう。

それらは強力な個体が多いが、個体数自体も少なく生息域がかなり狭い。

レッドドラゴンやアースドラゴンなどの下位種は、シュマルリ山脈の広範囲に渡り生息しているが、獄炎竜などの中位種になると途端に数が少なくなる。

BCOでは時折エンカウントする中ボス扱いのレアモンスターである。

下位種相手なら遭遇しても軽くあしらう程度で済むが、中位種以上になるとそうはいかない。

ここから先は、何が起きてもおかしくない。気を引き締めていかんとな……とレオニスは内心思う。

ただ、中位種ともなると知性もそれなりに上がるようで、下位ドラゴンのように問答無用で襲いかかってくることはないのが救いだ。

その巨躯ははるか遠くからも視認できるので、レオニスも遠くから様子を眺めるように伺っていると、ドラゴンの方もレオニスの存在に気づく。

だが大半はレオニスのことを無視して、フイッと視線を逸し別方向に移動してしまう。それはまるで小さな虫でも見たかのような、歯牙にもかけないといった反応だ。

その大半に属さない、極一部は興味津々といった様子でレオニスに近寄ってくる。いわゆる『変わり者』というやつか。

一番最初にレオニスに話しかけてきたのは、一頭の鋼鉄竜だった。

皮膚の色が鋼鉄のように黒光りしているのが特徴で、その名の由来にもなっているドラゴンだ。そしてその皮膚は、色が鋼鉄に似ているというだけでなく、実際の鋼鉄以上に硬いとされている。

レオニスから遠く離れていた鋼鉄竜は、レオニスの存在を感知するとのっしのっしと歩いて近づいてきた。

レオニスの5メートルくらい前まで来た鋼鉄竜。その艶やかな皮膚は黒々と光り、琥珀色の双眸がレオニスを見下ろす。

とても立派な体格をしていて、脆弱な人族などひと捻りで潰せてしまうだろう。

鋼鉄竜はレオニスを下に見て、レオニスは鋼鉄竜を見上げる。

至近距離で対峙する二者、視線をバチバチと交わし続ける。

「オマエ、何者ダ?」

「俺はレオニス、人族だ」

「ソノ肩ニ、乗ッテイルノハ、猫……デハ、ナイナ?」

「ああ、これはウィカ。水の精霊ウィカチャだ」

「うなぁーん♪」

鋼鉄竜がレオニス達に鋭い視線を向ける中、レオニスから紹介を受けたウィカ。いつもと変わらぬ愛らしい糸目スマイルを浮かべながら、愛想良く返事をする。

尋ねた鋼鉄竜の方も、ウィカがただの猫ではないことを一目で見抜くあたり結構賢いようだ。

「精霊ヲ、連レタ、人族、カ……ソノヨウナ、小サキ者ガ、何用デ、ココニ来タ?」

「あー、ここには二つ用事があってな」

「二ツ……ダト?」

鋼鉄竜の目が少しだけ見開かれる。

ただでさえこの地に足を踏み入れる人族などいないというのに、二つも用事がある、とレオニスが堂々と言い放ったことに驚いたようだ。

レオニスは物怖じせず、己の用事を伝える。

「まず一つ目は、竜王樹に会うためだ。ここら辺に竜王樹と呼ばれる神樹がいるはずだが」

「竜王樹カ……確カニ、此処ヨリ少シ、先ニ、進ンダトコロニ、アルガ……竜王樹ニ、何用ダ?」

「俺の住む家の近くにも、ユグドラツィという神樹があってな。竜王樹より年上だから、竜王樹にとっては兄ちゃん姉ちゃんてことになるんだが」

「竜王樹ノ……兄チャン、姉チャン……?」

竜王樹に会うためだ、という意外な内容、さらにはその竜王樹の兄ちゃん姉ちゃんという謎の言葉に、鋼鉄竜はますます『訳ガ分カラナイ』といった様子だ。

「俺はその神樹ユグドラツィ、ツィちゃんの友達なんだ。今回俺がシュマルリ山脈南方に出かけるってことで、せっかくだからツィちゃんの弟妹の竜王樹にも会って渡したいものがあるんだ」

「フム……デハ、本来ノ目的ハ、別ニアル、トイウコトダナ?」

レオニスの話を聞いた鋼鉄竜が、レオニスをチラリと見遣りつつ問うた。

ここまでのレオニスとの会話だけで、そうしたことまですぐに察するこの鋼鉄竜、やはり知能はかなり高いと見える。

「まぁな。一番の目的は別のところにある」

「ソレハ、一体何ダ?」

「いや何、ドラゴンと友達になりたいと思ってな!」

「ト、友達……?」

レオニスはニカッ!と爽やかに笑いながら、正直にその目的を明かす。

物怖じしないどころか、屈託のない笑顔でとんでもないことを言い放ったレオニスに、鋼鉄竜はただただ呆気にとられるばかりだ。

「ソノヨウナ、小サキ身デ、我ラ竜族ト、対等ナ友ニ、ナロウ、ト言ウノカ?」

「友達になるのに、身体のデカさは関係ないだろう? 友達になれるかなれないかなんてのは、話や気が合うかどうかが一番の問題なんだし」

「ソ、ソレハ、ソウダガ……」

「それに俺、オーガ族とも友達なんだぜ? あいつらも俺よりはるかにデカいけど、族長のラキとは親友の間柄だしな!」

レオニスが鋼鉄竜と間近で対峙しても、全く臆することがないのには理由がある。

そう、レオニスは普段から自分よりはるかに大きい者達との交流があるのだ。その代表格がオーガ族である。

彼らは皆レオニスよりはるかに大きな体躯を持ち、子供ですらレオニスと同じくらいの背丈がある。

中でも族長のラキは身長5メートル以上あって、オーガ族屈指の体格を誇る。

身長5メートルと言えば、今レオニスの目の前にいる鋼鉄竜もそれくらいか、もしくは若干大きい程度だ。

つまり、そんな者達との友誼があるレオニスにとっては、己よりはるかに巨大な者達を相手に顔を見上げることなど日常茶飯事なのである。

しかし、鋼鉄竜としては竜族である自分と鬼人族を同列に語られるのは面白くない。鋼鉄竜にとっては、竜族こそが地上最強の生物である、という自負があるからだ。

竜族のプライドが甚く傷ついたのか、フン、と鼻で笑いつつ揶揄するような物言いになる。

「タカガ、鬼人族ト、我ラ竜族、同ジモノト、思ッテモラッテハ、困ル」

「あっ、そんなこと言っていいのか? そしたら今度ここにラキを連れてくるぞ? あいつだってすげー強いんだからな?」

鼻白んだような物言いの鋼鉄竜に、レオニスが速攻で食ってかかる。たかが鬼人族、などと下に見るような言い方は、親友のラキを馬鹿にされたも同然だからである。

しかし、レオニスよ。ラキをここに連れてきてどうする気だ。

まさかこの鋼鉄竜と世紀のタイマンバトルでもさせるつもりか。

「……ソノ、強イ鬼人ト、親友、トイウコトハ、オマエモ、強イ、トイウコトカ?」

「ン、まぁな。人族の中ではそれなりに強い方だと思う」

「ナラバ、言葉ダケデナク、ソノ 力(チカラ) ヲ、我ニ示セ」

「……やっぱそうくるか」

鋼鉄竜の言葉に、レオニスは右手で己の頭をガシガシと掻きつつため息をつく。

レオニスの右肩に乗っていたウィカに「ウィカ、今からここは危なくなるから、安全なところまで離れててな」と伝え、避難を促す。

ウィカもそれに従い「うにゃう」と一言だけ返事をした後、レオニスの肩から降りてトトト……と遠くに離れていく。

「信ズルニ、値スル力。ソレヲ我ニ、示スコトガ、デキタナラ、我ガ、直々ニ、竜王樹ノ、モトニ、連レテイッテヤロウ」

「そういうことなら致し方ない。受けて立とうじゃないか」

「人族如キガ、示セル力ナド、タカガ、知レテイルガナ」

「そう言っていられんのも、今のうちだけだぞ?」

双方不敵な笑みを浮かべる中、レオニスは背に背負った大剣を剣帯ごと身体から外して空間魔法陣に仕舞う。

どうやらレオニスは、大剣は使わずに拳で勝負するつもりのようだ。

「何ダ、剣ヲ使ワナイ、ツモリカ?」

「あんたの鋼鉄の鱗で刃毀れしちゃ敵わんからな。それに、男が力を誇示するには拳一つありゃ十分だ」

「ソノ意気ダケハ、褒メテ、ヤロウ。褒美トシテ、後悔ヲ、クレテヤル」

「この言葉、そっくりそのまま返してやるぜ」

大剣を外し、身一つで身軽になったレオニス。

空間魔法陣からアークエーテルを取り出して手に持ちながら、身体強化魔法を立て続けに複数回かける。

腕力上昇と敏捷上昇、物理防御上昇に魔法防御上昇。これらをそれぞれ二回づつ重ねがけしていくレオニス。

ちなみにこのサイサクス世界のバフおよびデバフは、重ねがけすることが可能だ。

身体強化のバフはプラス効果100%まで、デバフはマイナス効果100%までという上限下限はあるが、重ねがけすることでバフデバフの効果がより強力なものになる。

これらはBCOでも同様のシステムで、ライトが職業システムで得たスキル類も同じ使い方ができる。

BCOシステムがサイサクス世界の魔法法則に、そのまま用いられて反映されている形だ。

今回のレオニスは、己のバフをそれぞれ二回づつかけた。これは50%の能力アップに相当する。

あと二回かければ上限の100%まで引き上げることができるが、まずは様子見といったところだろう。

中位種相手に初手から全力でぶつかるよりは、まず50%アップで戦ってみて、もしパワーが足りないと感じたら追加していけばいい。

そもそもレオニスは、鋼鉄竜を討伐しにここまで来たのではない。話し合いを経て友誼を結ぶために来たのだ。

鋼鉄竜の方はヤる気満々だが、レオニスの方は鋼鉄竜を瀕死に追いやる訳にはいかなかった。

レオニスが身体強化魔法をかけてパワーアップしたことで、鋼鉄竜の目は大きく見開かれていく。

もともとただならぬ空気をまとっていたレオニスが、己の目の前でさらに明らかに強くなったのだ。鋼鉄竜が驚愕するのも無理はない。

各種バフ魔法をかけ終えた後、レオニスは手に持っていたアークエーテルを一気に飲み干してすぐにMPを回復させる。

戦闘前に身体強化魔法で消耗したMPを、相手の目の前でちゃちゃっと即時回復させるとは。実にちゃっかりとしていてベテランらしい堅実さだ。

「オマエ……ヤハリ、只者デハナイ、ナ?」

「ン? んなこたぁないぞ? さっきも言ったが、俺はただの人族だ」

「…………」

口の端から垂れるアークエーテルを親指で拭いつつ、ペロリと舌なめずりをするレオニス。

今日もレオニスは、己をただの人族扱いしようとする癖が直らないらしい。

目の前でそれを聞いている鋼鉄竜も、スーン……とした呆れ顔である。

「デハ、ソノ只ノ人族、トヤラニ、身ノ程ト、イウモノヲ、教エテヤロウ」

「フッ、そりゃこっちの台詞だ。人族の底力ってもんを教えてやるぜ」

「手加減ハ、一切、セヌゾ」

「望むところだ」

「死ンデモ、恨ムナヨ」

「安心しろ、俺はここで死ぬつもりなんざ微塵もねぇ」

それまで両手を腰に当てながら、堂々とした姿勢で鋼鉄竜とのやり取りを楽しんでいたレオニス。ここから拳を構える。

口角を上げてニヤリと笑うレオニスのその顔は、何とも自信に満ちていて危機感など全く感じさせない。

鋼鉄竜相手でも負けるつもりはないようだ。

今レオニス達が立っているのは、山と山の合間の窪地。木々はなく剥き出しの岩や石ばかりが転がる荒涼とした地。

ここならレオニス達が多少暴れても、特に被害が出ることもないだろう。

ウィカもどこにいるのか、視認できないくらいに遠くに避難した。二者の戦いを遮るものは何もない。

空には雲一つなく、レオニスと鋼鉄竜の真上で太陽が燦々と輝いている。

しばしの静寂が辺り一帯に流れた後、二者はほぼ同時に動き出した。

「おりゃぁ!」

「ガァァァァッ!」

両者が同時に前に飛び出し激突する。

こうしてレオニスと鋼鉄竜の激闘の火蓋が切られていった。