軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第589話 スペシャルな追加報酬

ラウルがユグドラツィと仲睦まじく過ごしていた頃。

レオニスはアイギスにいた。

カイやセイとともに、アイギスの奥の客室で商談中である。

「ふぇ、ふぇ…………へーッくしょい!」

「あらヤダ、レオってばさっきからくしゃみが止まらないわねぇ。花粉症?」

「ンにゃ……大方ラウルあたりが俺の噂でもしてんだろ……」

ズビッ……と鼻をすすりながら、くしゃみ連発の原因をラウルになすりつけるレオニス。

適当なことを言ったつもりだが、実は大正解である。

「ところで……早速なんだが、ラギロア島で話した例の件。受けてもらえるか?」

「もちろんよ。レオちゃんの依頼ですもの、どんなに忙しくてもちゃんと引き受けるし、断ることなんてないわ」

「すまんな、いつもありがとう」

カイの快諾に、レオニスは礼を言いながら空間魔法陣から一本の木の枝を取り出した。

それは、大神樹ユグドラシアの枝。ライトの春休み中に、マキシの八咫烏の里の帰郷についていって入手したものだ。

とりあえず先に余分な小枝や葉は切り落とし、太い枝だけの状態にしてある。

「まぁ……この枝も、何て立派なのかしら……」

「私ですら、強い魔力に満ちているのが分かるわ……」

「こんなに大きい枝なのに、すごく軽いし」

「しかも硬さもかなりあるわね……ホント、神樹の枝ってすごいわね!」

カイとセイが代わる代わるユグドラシアの枝を持ち、コンコン、と表面の硬さを試したり重さを確かめている。

二人が神樹の枝に触れるのは、これが二度目のことだ。

ユグドラツィの枝の時と同様、その素材としての素晴らしさに感動しているようだ。

長さ2メートル近くはあろうかという、太くて立派なユグドラシアの枝。

これだけの大きさなら、普通の樹木なら主要な太枝に相当するところだ。

だが、千年以上を生きる大神樹にとっては、毛先にできた枝毛程度のものでしかなかったりする。

しかも実際に手に取ってみると、見た目に反してかなり軽い。なのに硬さも申し分ないくらいあって、とても優秀な素材である。

「これを使って、いろんなアクセサリーを作ればいいのね?」

「ああ。前回のツィちゃんの枝の時と同じく、俺やライト、ラウル、マキシが身に着けられる装備品にしてもらいたい」

「そしたら、またタイピンやカフスボタン、バングルなんかでいい?」

「もちろん。ただ、パッと見ただけでツィちゃんの物とは違うと分かるように、デザインを変えたものにしてもらえるとありがたい」

「そうね。違う神樹の枝なのだから、見分けがつかないと困るものね」

ユグドラシアの枝の加工について、いくつかの要望を出していくレオニス。

特にデザインに違いを持たせることは、かなり重要なポイントだ。

どちらもレオニス達が身に着けるものだが、どれがユグドラツィのものでどれがユグドラシアのものか、一目見ただけで分かるようにしておいてもらわなければならない。

でないと、通信機代わりにアクセサリーに向けて声をかけた時に、相手を間違ってしまうかもしれないからだ。

いくら同じ神樹同士でも、さすがに間違い電話ばかりかけられたら困るし迷惑だろう。

「納期はどれくらいかしら? 早く仕上げた方がいい?」

「いや、そんなに急ぎじゃないから大丈夫。次に八咫烏の里に行くのは、多分ライトが夏休みに入ってからになると思うから」

「じゃあ、夏休みに入る前頃までに仕上げておけばいいわね」

「よろしく頼む」

納期に関しても、ちゃんと話し合っておくレオニスとカイ。

次にマキシが八咫烏の里に帰る時期は、今のところ全く未定。だがおそらくは、またライトやラウルもともに行くだろう。

そうなると、必然的にライトが通うラグーン学園が夏休みに入ってから、ということになる。

今から二ヶ月もあれば、いくつもの素敵な木製アクセサリーが出来上がるだろう。

これで、ユグドラシアの枝の加工に関する商談はほぼ完了した。

レオニスは出されたお茶を一口二口啜りながら、次の要件を話し始めた。

「今日はもう一つ、お願いがあるんだが」

「え、まだあんの? レオってば、本当に人使いが荒いわねぇ」

「すまんな。ていうか、これはセイ姉への依頼なんだが」

「私指名の依頼? 珍しいわね」

いくつもの仕事を頼むレオニスに、セイが軽く文句を言う。

文句と言ってもそこまで深刻なクレームなどではなく、ちょっとした軽口のようなものだ。

長姉のカイはいつも、それこそほぼ無条件でレオニスの頼みを引き受ける。可愛い末弟の願いなら、何でも聞いてあげる!というタイプだ。

対してセイは、カイよりもレオニスと歳が近いせいか、そこまでレオニスに甘くはない。

馴染みの依頼でもちゃんと報酬は要求するし、無理なものは無理!とはっきりと言う。

それでも他の顧客と比べれば、レオニスに対してはだいぶ甘い方ではあるが。

「わざわざ私をご指名する依頼って、一体何?」

「セイ姉には、宝石の原石の研磨をしてもらいたいんだ。アイギスでの宝石加工は、全部セイ姉の担当だろう?」

「ええ。原石からジュエリー用にまで研磨して仕上げるのは、全部私の仕事よ」

「今度から魔術師ギルドにも、宝石を卸すことになってな。ひとまずここら辺の原石の研磨を頼みたい」

レオニスが空間魔法陣から宝石の原石を取り出す。

ダイヤ、ルビー、エメラルド、サファイア、アメジスト、トパーズ、アクアマリン―――色とりどりの原石達がずらりと並ぶ。

大きさはどれも直径5cm程度、石ころとして見れば普通サイズだが、宝石の原石ともなると訳が違う。

研磨により多少サイズは小さくなっても、宝石となればその価値はグンと上がる。

5cmから3cmに小さくなったとしても、3cmの宝石なんてとんでもない値がつくことは間違いない。

「ンまーーー、これまたたくさんの原石を出してきたわねぇ。しかもこれ、いつも私達に卸してくれるのと大差ない品じゃない。何、魔術師ギルドでもパワーストーンとして売り出す予定でもあるの?」

「いや、これは魔術師ギルドでの魔導具開発に使われる予定なんだ」

「あー、魔導具用ね……確かに宝石類には、そういう要素としての使い道もあるわよね。魔石ほどじゃないだろうけど、魔力もそれなりにあるし」

レオニスの説明に納得するセイ。

レオニスもその用途がアイテムバッグ用であることは明かさず、ただ単に魔導具ということで伝えた。

そう、それらの宝石類の原石は、研磨後にカタポレンの森で魔力を充填してアイテムバッグの動力源として使われる予定である。

アイテムバッグのことは、別に秘密でも何でもない。その存在は、レオニスとフェネセンが作成した品を遺跡出土品という体で冒険者ギルドに提出したことにより、既に各方面でもかなり知られている。

だが、その他の一般層にまではまだ広くは知られていない。

いつ完成するかまだ定かではない品のことを、大っぴらに吹聴するのもどうかと思い、ここは魔導具ということで伏せたのだ。

そしてレオニスは、ここでセイに対する最大の切り札を繰り出す。

「もちろん研磨代はちゃんと支払う。それ以外にも、セイ姉専用のスペシャル追加報酬を用意してある」

「ン? スペシャル報酬? 何ソレ?」

「それはだな…………これだ」

「???」

レオニスが空間魔法陣から、徐に一枚の紙を取り出してテーブルの上に置き、セイに向けてそっと差し出した。

その紙には、何やらいろんな文字が書かれている。

セイは紙を手に取り、目を通していく。

「これ、何? シュークリーム十個とか、苺のタルトホールとか書いてあるけど……」

「それは、ラウル特製スイーツのラインナップだ。宝石研磨十個につき一つ、どれでも好きなものを進呈しよう。俺が宝石研磨を依頼する際に、セイ姉の好きなやつを一つ選んで教えてくれれば、納品時に代金支払いとともにセイ姉に渡そう。……どうだ?」

「乗った!!」

レオニスの提案に、間髪置かずに即答するセイ。

セイはラウルが作る極上スイーツの虜だ。それは三姉妹の中のみならず、世界で一番ラウルのスイーツを愛してやまない人と言っても過言ではないくらいの大ファンである。

そんなセイが、レオニスの出してきたこの提案に乗らない訳がない。

「そういうことなら宝石研磨の百個や千個、いっくらでも引き受けるわ!」

「ぉ、ぉぅ、百個はともかく千個も要るかどうかは分からんがな……」

「そしたら今から早速研磨に取りかかるわね!えーと、ここにある原石は、一、二、三……十五個? 数が半端ねぇ、あと五個出しなさい。そうすればスイーツ二種類選べるんでしょ?」

「ぉ、ぉぅ、ちょっと待ってくれな……」

セイの催促に、慌てて不足分の五個の原石を取り出すレオニス。

ウッキウキで催促したセイ、レオニスが追加の原石を出している間にスイーツのラインナップメニューを眺めている。

「これ、追加の五個な」

「じゃあねぇー、そしたらねぇー、私への追加報酬はぁー……コレとコレ!」

「アップルパイのホールに、レモンのプチタルト十個、な……よし、承った」

「やったー!レオ、ありがとうね!明日の午前中には仕上げておくから、明日のお昼以降に宝石を取りに来てね!」

「え? 明日?」

声だけでなく、全身全霊ウッキウキのセイ。

レオニスが出した計二十個の原石を、明日の午前中までに全部研磨し終えると言うではないか。

あまりにも迅速な即断即決に、レオニスの方がタジタジとなる。

セイが個別依頼を快諾するだろう、とはレオニスも思っていたが、まさか翌日に仕上げるから翌日報酬ちょうだいね!と来るとは予想だにしなかった。

セイへの貢物は、レオニスの予想以上の効果を発揮しているようだ。

「そうか……なら今日のうちに、ラウルからスイーツを譲り受けとかなきゃならんな……つーか、セイ姉、一度に二種類ものスイーツを持っていって大丈夫なのか?」

「大丈夫大丈夫!一応母屋の方には大きな冷蔵箱あるし。それに、明日と明後日のおやつにして皆で食べるもの、二日もあれば余裕で食べ切っちゃうわ!」

冷蔵庫や冷凍庫のないこの世界のこと、ホールケーキとプチタルト十個を一度に渡して大丈夫なのか?というレオニスの心配はもっともだ。

だが、セイ達が住む母屋の方には氷の魔石を使用した大型の冷蔵箱があるという。それこそ現代日本でいうところの冷蔵庫に似たようなものか。

さすがはアイギス、生活に便利な高級設備を整えるだけの稼ぎはあるようだ。

そしてセイは、自分専用の報酬であるラウル特製スイーツを、おやつに出して皆で食べるから大丈夫!と言った。

レオニスは、セイのことだからてっきりセイが独り占めするとばかり思っていたが、そうではないらしい。

セイにも『美味しいものは皆で分かち合おう!』という気持ちがちゃんとあり、家族や仲間を大切に思う心優しき女性なのだ。

そのことを知ったレオニスは、安堵の表情になる。

「そうか、なら安心だな」

「ええ!何なら明日の引き渡し時にも、また新しい原石を二十個くらい出してくれてもいいのよ?」

「そんなに毎日ラウルのスイーツを大量に食べてたら、皆太るぞ?」

「ンまッ!レオってば可愛くないことを言うわね!」

レオニスの太るぞ発言に、セイは頬を膨らませてプンスコと怒る。

女性相手に年齢と体重の話は 禁忌(タブー) なのだ。そこら辺、乙女心が理解できないレオニスは根っからの朴念仁である。

ただしその朴念仁なレオニスの言い分、毎日スイーツ食べ放題してたら太るぞ?という忠告も、実にド正論にして至極真っ当なものなのだが。

プリプリと怒るセイに、レオニスは宥めるように話しかける。

「いやいや、毎日食って飽きるよりは、週に一度のご褒美くらいにしといた方がいいんじゃね? その方がよく味わえて、より一層美味しく食えるってもんだろ」

「私、ラウルさんのスイーツなら、毎日食べても絶対に飽きない自信はあるわよ? でも、そうね……週一のご褒美ってのも悪くないわね!」

「だろ? じゃあ明日の午後にまた受け取りに来るわ」

「ええ、ラウルさんのスイーツ二種、よろしくね!」

花咲くような笑顔のセイに見送られながら、レオニスはアイギスを後にした。