軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第584話 四回目の孵化作業

翌日曜日。

この日もライトは朝早くに起きて、ルーティンワークをこなした後に早速グランドポーション作りに取りかかる。

まずは素材集めで採取した魔物の解体。

ディソレトホークやギガントワームなどの魔物の死骸を、特殊スキル【解体新書】と解体新書専用特殊アイテム『解体千本刀』を用いてテキパキと捌いていく。

血抜きや腑分けもスキルの力で全て自動振り分けされていくので、実に有用でありがたいスキルだ。

魔物の解体を全て自力かつ手動で捌くとか、絶対無理!もう【解体新書】なしには魔物の解体なんてできない!と心底思うライト。

もし将来、冒険者引退後に薬師になるのが無理だったら、冒険者ギルドの解体部門に雇ってもらえばいいか……とまで考える昨今。

今世のライトの就活は、もはや盤石にして万全である。

魔物の解体を一通り終えて、グランドポーションに使う以外の各素材を一旦マイページに全て収納するライト。

次はグランドポーション生成の本番だ。

まずはグランドポーションのレシピ生成に必要な材料の用意。

マイページのアイテム欄から取り出して一個分づつに小分けしておく。

作業に入る前に、バケツや籠などに材料をひとまとめにしておくと投入時に便利なので、ライトはいつも下準備としてそうしている。

今日も大きめの笊のような籠に、荒原鷹の斬爪5個、イノセントポーション3個、闘水2個、巨大蜈蚣の硬皮3個を1セットとして、まず十個分を先に用意しておく。

今日はグランドポーションを二十本用意できればいいので、前半と後半で十個づつ作るという計画だ。

材料を小分けにしたら、次は生産職スキル【遠心分離】で仕上げていく。

遠心分離器の中に材料を入れて、最後の仕上げに魔法のスポイトでエネルギードリンクを2滴垂らしたらスキルの開始ボタンを押す。

三秒ほどで遠心分離作業は完了し、その後器の中の有用成とその他の水分をそれぞれ洗浄済みの空き瓶に収納していく。

これでグランドポーション一個が完成だ。

【解体新書】に【遠心分離】、どちらもSPを消費するので時折SP回復のためのエネルギードリンクを飲む。

くぴっ、と一口飲めばSP50回復する。今日の作業で三口、瓶一本のうち三分の一程度飲んだ。

先日の黄金週間のスタンプラリー報酬で得た、サイサクス世界のエネルギードリンク。イベント報酬のものとの飲み比べに開けてみようかなー、と一瞬だけ思ったものの、もったいないからまた今度にしよう!となるのはいつものことである。

グランドポーション二十本分を作り上げ、道具類も全て片付け終えた頃には時刻はお昼寸前。

少し早めだが、ラグナロッツァでお昼ご飯を食べるために移動した。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「ラウル、昨日はお疲れさまー」

「おう、ライトもご苦労さん」

厨房で鼻歌交じりでお昼ご飯の支度をしていたラウルに、ライトが声をかける。

今日のラウルはいつにも増してご機嫌だ。

それもそのはず、昨日のツェリザークで依頼報酬の他にぬるシャリドリンクを三十四本も手に入れたからだ。

昨日ルティエンス商会を出た後、ラグナロッツァに帰還するために冒険者ギルドに向かったライト達。

転移門で移動する前に、ラウルが引き受けた依頼の達成報告をしにクレハが座る受付窓口に向かう。

ラウルの姿を見たクレハ、それはもうキラッキラの瞳でラウルを見つめる。

その熱い眼差しは、傍から見たらまるで恋する乙女のようだ。

もっともその実態は『殻処理王子に寄せる絶大な期待』という、色気もへったくれもない残念無念なものなのだが。

ラウルが差し出した三枚の依頼書を、順次確認していくクレハ。

問題なく依頼完了の認定を受けた後、クレハが三枚の紙切れを別途ラウルに差し出す。その紙切れには『ラウルさん専用・ぬるシャリドリンク10本分引換券』と書かれてある。

もちろん全てクレハの手作りで、手書きの文字が何ともチープで微笑ましい。何だか小さな子供が父母の誕生日に作って渡す『肩たたき券』と大差ない作りだ。

だがその表面と裏面の両方に、冒険者ギルドツェリザーク支部の印が捺されている。

肩たたき券もどきには不釣り合いな、とても立派な捺印。それこそが、この引換券がツェリザーク支部公認の正式文書と同等の権限を持つことを表しているのだ。

その手作り感満載の引換券を売店に持っていき、追加報酬のぬるシャリドリンク三十本分を一気にゲットしたラウル。それはもうホクホク顔である。

ちなみにこのぬるシャリドリンク、通常価格は1本25G。他の通常のぬるぬるドリンクは1本20Gなので、少々割高である。

だが、氷蟹エキス入りの本格的な味わいが売りなので、コスト面やご当地ドリンクという面でも若干お高くなるのは致し方ない。

その25Gのぬるシャリドリンクを別途三十本、750Gが儲かった計算だ。

だがそれ以上に、未だにお一人様一本のみの購入制限付きの品を一気に三十本ももらえたことがかなり大きい。

ラウルがご機嫌になるのも当然である。

そんなラウルが出してきた本日の昼食、氷蟹のムニエルや氷蟹の蟹肉サラダ、蟹肉たっぷり混ぜご飯などの氷蟹フルコースを堪能するライト。

ラウルもライトの向かいで同じものを食べる。昼間から何とも豪勢な食事だ。

美味しいご飯を食べて、しっかりと腹拵えしたライト。

二階の宝物庫の転移門に移動し、カタポレンの森の家に帰るフリをしつつそのまま転職神殿に向かった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

転職神殿に移動したライト。

そこにはいつもと変わらず、ミーアとミーナが仲睦まじく話をしているところだった。

「ミーアさん、ミーナ、こんにちは」

『ライトさん、ようこそいらっしゃいました』

『あッ!主様!こんにちは!』

ライトの姿を見て一目散に駆け寄ってくるミーナに、その後ろをゆっくりと歩いてくるミーア。

ライトに寄っていく様子一つだけでも、二人の性格が如実に現れていて面白く感じるライト。

『主様、今日こそ私の弟妹に会えるのですか?』

『これ、ミーナ、そんなにライトさんを急かすものじゃありませんよ』

「ははは、ミーアさんもお気になさらず。そうだよ、ミーナ。ようやく餌の準備が整ったからね、卵の孵化をしに来たんだ」

『やったぁー!主様、約束を守ってくださってありがとうございますー!』

「おわッ!」

飛び上がって喜ぶミーナ、その勢いでライトに思いっきり抱きつく。

全力で抱きつかれたライトは思わず蹌踉けるも、何とか踏ん張りつつ堪える。

あまりにも大喜びしているミーナの姿に、言動を軽く窘めたミーアも苦笑いしている。

「ミ、ミーナ、く、苦ちぃ……」

『あッ、ごめんなさい!』

「……ぷはぁッ!」

ギュウギュウに抱きつかれて窒素寸前のライトが、ミーナの背中をギブギブ!とばかりにペチペチと叩く。

ライトのギブアップに気づいたミーナが慌ててライトから離れると、ライトはようやくまともに息を吸えた。

美麗な天使の抱擁は嬉しいが、あまりにも熱すぎる抱擁というのもなかなかに大変なものである。

ミーナから解放されたライトは、早速アイテムリュックから使い魔の卵を取り出す。

使い魔の卵は立派なBCO由来のアイテムなので、いつもならアイテム欄に仕舞うところだ。だが、ミーナが拾ってきた卵だけはそれと分かるように、わざわざアイテムリュックに収納して区別していたのだ。

「はい、ミーナ。これがミーナの拾ってきてくれた卵だよ」

『ああ……いつ見ても可愛らしいですねぇ』

「今からこの卵のご飯を出すから、ちょっと待っててね」

『はい!』

ライトはミーナに使い魔の卵を手渡した後、間を置かずにアイテムリュックからグランドポーションを次々と取り出して地面に置いていく。

その数五十本、この日のために揃えたライト渾身の珠玉の回復剤である。

「ミーナ、今から卵にご飯をあげるから、しばらくしっかりと持っててね」

『はい!何があっても絶対に、私の命に替えてもこの卵を守り続けてみせます!』

「ぃゃ、命まで懸けなくてもいいからね……」

意気込むミーナの両手に乗った、うずらの卵ほどの小さな使い魔の卵にライトがそっとグランドポーションをかけていく。

一本、二本、三本……グランドポーションを与える毎にどんどん卵が大きくなっていく。何回見ても不思議な光景だ。

そして三本目がかけ終わる頃には、卵はミーナの両手以上の大きさになっていた。

「ミーナ、そろそろ卵を地面に置いて。急に重たくなって落としても困るからね」

『分かりました!』

ライトの指示に従い、ミーナが卵をそっと地面に置く。

その卵をライト、ミーナ、ミーアの三人でしゃがんだ姿勢で取り囲む。

「この卵、大きくなるのが早いですよねぇ……」

『ええ、ミーナの時よりも明らかに大きくなる速度が早いですねぇ』

「あ、やっぱミーアさんもそう思います?」

『ええ。あの時私もライトさんの横で、卵にご飯を与える様子をずっと見ていましたので』

ずっとワクテカ顔で卵を見守るミーナの横で、ライトとミーアがこしょこしょとひそひそ話を交わしている。

そう、卵の成長速度がこれまでの孵化に比べて明らかに早いのだ。

一回目のフォルや二回目のウィカだって、こんなに大きくならなかった。むしろ三回目のミーナの時よりももっと小さかったくらいだ。

ミーナを孵化させた時と比較すると、今ライト達の目の前にあるの卵の大きさは五本目の時に相当する大きさだ。

与えているグランドポーションはまだ三本目だというのに、二本分も早く同じ大きさになったことになる。

「んー、やっぱりコズミックエーテルの時とは全く違う種族が生まれそうだなぁ」

『ライトさんが以前仰っていた、大型種族ですか?』

「ええ、多分。こんなに早く大きくなるというとは、その可能性が高いかと」

『主様、卵ちゃんがご飯まだですかー?って待ってますよ!早く続きをあげてください!』

「うひゃッ」

ゴニョゴニョとひそひそ話を続けるライトとミーアに、ミーナがワクテカ声で二人に話しかける。

基本空気を読まないミーナの催促に、びっくりして驚くライトとミーア。慌てて卵の方を見ると、ミーナが言うようにカタカタと小刻みに震え動いているではないか。

これは確かに『早くご飯ちょうだい!』と卵が言っているように見える。

「あッ、うん、待たせてごめんね」

『この卵ちゃん、食いしん坊さんなんですねぇ。私の弟妹だけに、私に似たんでしょうか?』

『ふふふ、そうかもしれませんね』

ライトが慌てて四本目のグランドポーションを与え、ご飯投入の再開をする。

目に見えてどんどん大きくなっていく卵に、ミーナは感心しながら『自分似かも?』と呟いている。ミーナには、自分が食いしん坊だという自覚があるらしい。

そんなミーナの呟きに、ミーアが微笑みながら頷く。いつもミーナの横で、たくさんのスイーツや食べ物をパクパクと食べる様子を見ているだけに、ミーナの食いしん坊説は決して否定しないようだ。

そうしてグランドポーション四十本目を与え終えた頃には、横幅がレオニスの身長をはるかに上回る巨大な卵になった。

その長さおよそ3メートル、高さも2メートル近く。ちょっとした軽自動車サイズである。

ここまで大きくなるとは、予想していなかったライト。何が生まれてくるか、もう今からドキドキしっぱなしである。

こうなると、ライトの身長では卵の上から液体をかけてあげられなくなるので、二十本目を超えたあたりからミーナに役目を代わってもらっている。

力天使であるミーナなら、卵の上を飛んでグランドポーションをかけてやることなど造作もないことだ。

そして四十五本目を与え終えた時に、ようやく卵の殻に罅が入った。

この罅の入るタイミングは、ミーナの孵化の時と同じである。この観点から、完全に孵化するのもおそらくミーナと同じ五十本目を与え終えた時だろう。

「ミーナ、卵の中にグランドポーションがよく染み込むように、罅の間にかけてあげてー」

『分かりましたー!』

ライトの指示通り、卵にグランドポーションを与えていくミーナ。

とうとう五十本分全てをかけ終えた、その時。

鋭い爪を持つ小さな手が、卵の殻を突き破って出てきた。

その小さな手は、突き出した周囲の殻をどんどん割って落としていく。

そうして卵から姿を現したのは、黄金色の龍だった。