軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第583話 懐かしい品々

今日の目的である『交換所機能の解放』を無事完遂させたライト。

後はラウルが迎えに来るのを待つばかりだ。

一息つきがてら、ライトは店主が出してくれたお茶を一口二口啜る。

「あ、そういえばまだちゃんとした自己紹介はしてませんでしたよね。ぼくはライトと言います。ヴァレリアさんから聞いてると思いますが、改めてよろしくお願いします」

「おお、これはご丁寧な挨拶、誠に痛み入ります。私の名はロレンツォと申します。こちらこそ今後とも末永いお付き合いの程、どうぞよろしくお願い申し上げます」

改めて自己紹介し合うライトとロレンツォ。

これからBCO仲間として、長く付き合う予定の二人。いつまでも『お客様』『店主さん』と呼び合うのもなんだかよそよそしい。

互いの名を知り呼び合うことで、より親睦が深められるというものである。

だが、ロレンツォの名を聞いたライトが何とも複雑そうな顔をしているのは何故だろう。

「あのー、ロレンツォさん。ぼく、一つ聞きたいことがあるんですけどー……」

「?? 何でしょう?」

「ロレンツォさん……BCOの世界でもそのお名前でしたけど、見た目というか姿形は全く違いますよねぇ……?」

ライトがおそるおそるロレンツォに尋ねる。

そう、今目の前にいるロレンツォは、ライトの記憶の中の交換所の店主と全く違うのだ。

BCOの交換所店主は、赤毛の髭モジャ面で頭にターバンを巻いていて、向こうの世界でいうところの中東風の五十代くらいの男性だった。

ずんぐりむっくりした体型で、いつも客に向かって手揉みしていて笑い声は『ウッシッシ』。

ぶっちゃけた話、見るからに壮絶に胡散臭さMAXなNPCとして描かれていたのだ。

だが、ルティエンス商会という表の看板を持つサイサクス世界の交換所店主は、それとは全く違う風貌をしている。

薄墨色の髪に青墨色の瞳、左眼に片眼鏡をかけている、一見して人当たりの良さそうな感じの初老の男性。

スラリとした体型で会話もスマートな今のロレンツォは、どうにもライトの知るNPCロレンツォとは別人で、背格好から雰囲気から何から何まで全然違うのだ。

それ故に、ライトもこのルティエンス商会がBCOシステムの一端を担っているなどとは、ヴァレリアに示唆されるまで全く気づけなかった。

不覚を取ってしまった格好だが、こんなん別人過ぎて絶対分からんて!とも思うライト。あまりにも面影が無さ過ぎて、見た目だけ比較したらとても同一人物とは思えないのだ。

そんな複雑な表情のライトに、ロレンツォは涼しい顔で質問に答える。

「ええ、あちらの世界とは見た目が全く異なることは自覚しております」

「どうしてそんな違う姿になっちゃってるんですか……?」

「私自身そう望んだ訳ではないですし、どういった経緯でこうなったのか私にもさっぱり分からないのですが……今のアバターも結構気に入ってますよ」

答えになるようなならないような、何とも曖昧な答えを返すロレンツォ。

涼しい顔のまま自身も茶を一口二口啜りながら、話を続ける。

「今の私は、真の役割である交換所店主とは別に、『ルティエンス商会店主』という表の顔も背負わされてますからねぇ。少しは見目整ったアバターにしてやるか、という 創造神(うんえい) の思し召しかも知れませんね」

「あー、確かにそうかも……」

「それに、前のアバターもちゃんとこの世界に受け継がれているんですよ?」

己の見た目のことを『アバター』と言うロレンツォ。何ともゲーム世界の住人らしい思考だ。

そして意外なことに、前のアバターである赤毛髭モジャもこの世界のどこかに受け継がれている、と言うではないか。

ロレンツォの言葉に、ピン!ときたライトがさらに尋ねる。

「……ぁー……もしかして、ラグナロッツァの薬屋さん、ですか?」

「ええ。ラグナロッツァの『ロレンツィ薬店』、あれは私の従兄弟が営む店でして」

「やっぱり!」

「ラグナロッツァにお住まいなだけあって、やはりご存知でしたか」

「はい、以前友達に連れていってもらったことがありまして。最初見た時は、もしかしてあの薬店が交換所なのか!?とか思いましたよ」

ライトの頭に浮かんだ人物は正解だったようだ。

以前ライトがイヴリン達同級生に、ラグナロッツァの街を案内してもらった時のこと。

普段イヴリン達平民がよく利用する薬屋として、ヨンマルシェ市場の『ロレンツィ薬店』に連れていってくれたのだ。

そこの店主は、まさしくライトが知るBCO世界の交換所店主の風貌と一致していた。

だからライトも最初『もしかして、ここが交換所!?』と思っていたのだ。

だがその後、何度かロレンツィ薬店に買い物に行ったのだが、交換所の片鱗すら伺えなかった。

故にライトは『アレとよく似た人、またはNPCデータの流用』と結論づけて、ロレンツィ薬店はBCOとは無関係という判断を下したのだった。

しかし、まさかそのロレンツィ薬店が交換所店主ロレンツォの親戚だとは、さすがのライトも思いつかなかった。

盲点どころの話ではない、予想のはるか斜め上大気圏外突破レベルの答えである。

「ロレンツォさんの従兄弟ということは、ロレンツィ薬店にも何らかのBCO的役割があるんですか?」

「いいえ、全く。従兄弟どころか私以外の親兄弟全て、私が持つ役割など全く知る由もなく。サイサクス世界の住人として、生涯平和に過ごしておりますよ」

「そうなんですか……」

聞けば聞くほど何とも不思議な話だが、ある意味当然の話でもある。

ゲームの世界では表に出てこないだけで、やはりNPCにも親兄弟や従兄弟といった血縁や関係者がちゃんと存在しているのだ。

「さて。結構時間も経ちましたし、そろそろ店の方に戻りましょうか。ライトさんのお連れ様もいらっしゃるかもしれませんし」

「あ、そうですね!もう重大な要件は無事済みましたし」

ロレンツォの提案に大きく頷くライト。

表の世界では絶対に大っぴらに話せない、BCO関連の目的はもう既に果たした。

後は店の中で適当に、のんびりと雑談してても良いのだ。

そうと決まれば話は早い。二人は客間から出て店に向かった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

客間を出て、再び店に戻る二人。ライトはロレンツォの後ろをついて歩く。

だが、一体どうしたことだろう。客間から店に向かおうと扉から出てほんの十歩程度で店の中の手前に着いてしまった。

店から奥の客間に向かう時は、客間に到着するまでものすごく長く遠く感じたはずなのに。

行きの時に三分も五分も歩いたとはさすがに思わないが、それでも少なくとも一分以上は歩いたつもりだったライト。

店に入った瞬間、本当に訳が分からない!といった顔になる。

『え、ナニ、行きと帰りで全然距離違くね? 何で??』と、まるで狐に 抓(つま) まれたような気がするライト。

あれ?アレ??何で???と、それはもう激しく上下左右に首を振りつつキョロキョロと辺りを見回す。

半ば混乱気味のライトに向かって、ロレンツォが話しかける。

「当店には、ライトさんが気になる品物がたくさんあると思いますよ。当店自慢の逸品を、どうぞ心ゆくまでご覧ください」

「……ぁ、はい!ゆっくり見させてもらいます!」

ロレンツォの言葉に、ライトはハッ!とした顔になり我に返る。

この店には、ヴァレリアが持ち込んだという品がたくさんあると言う。今まではよく目立つ『ハデスの大鎌』くらいしか気づかなかったが、探せば他にもBCO由来の武具やアイテム類などがあるはずだ。

普段目にするBCO由来のアイテムといったら、ポーションやエーテルなどの回復剤系くらいしかないが、この店ならもっとレアな品々をたくさん拝めるに違いない。

せっかくここまで来たのだし、見ていかなければ損損!というものである。

買う買わないは別として、早速店内にある品々を見に行くライト。前世の自分がよく見知ったアイテム類を探すのは、ちょっとした宝探しのような気分を味わえてなかなかに楽しい。

絶対にお宝を見つけてやるぞ!とワクワクが止まらないライト。

早速BCO由来の『紅龍偃月刀』や『精霊術師の外套』などを見つけては、「あッ、これ黄金龍クエストの報酬だ!」「これはゴミ箱白の当たりの品だ!」と、大はしゃぎしている。

ライトが思わず口にした『黄金龍クエスト』や『ゴミ箱白』という謎のワードも、もちろんBCO用語でイベント名や課金アイテムの名称だ。

BCOを知らない者からすれば、全く以て意味不明な言葉だが、今ここにはライトとロレンツォしかいないので問題ない。

そしてライトが見つけたそれらの品々は、BCO由来だけに他の武具屋では絶対に売っていない逸品である。職人の街ファングですらお目にかかれないだろう。

ライトの目がキラッキラに輝くのも無理はない。

壁にびっしりと掛けられた数々のお面にも、今度は好奇の目を向けたライト。数多のお面の視線に怯えていた、気弱なライトはもうどこにもいない。

そしてやはり見知ったアイテムがあったようで、「あッ、ごーれみゅマスク!」「悪魔将軍お面!」と叫んでは、ロレンツォに取ってもらって嬉しそうにお面をつける。

まるで縁日を楽しむ子供のようだ。

終いには「あああ、ゴミ箱とかホンッ……トに懐かしいぃぃぃ……ハズレのゴミ率高かったけど」とブツクサ言いながら、うっすらと涙まで浮かべるライト。

おそらく前世のBCOプレイ時の様々な思い出が、走馬灯の如くあれやこれやと浮かんでは蘇っているのだろう。

そんな懐かしい思い出に浸っていると、ふいに店の扉の鈴の音が鳴った。

思わず入口の方を見ると、ラウルが入店してきていた。

「あッ、ラウル!おかえりなさい!お仕事お疲れさま!」

「おう、ライト、待たせたな。良い子にしてたか?」

「うん!」

いつも以上に溢れんばかりの笑顔で、ラウルの帰りを迎えるライト。今までずっと宝探し気分を味わっていたので、今のライトはものすごく上機嫌なのだ。

幼子の眩しい笑顔の出迎えに、ラウルの顔も思わず綻ぶ。

「ライトの用事の方も、もう終わったのか?」

「うん、今店主さんといっしょにいろんな品物を見ていたところなんだ。すっごく珍しい品とかたくさんあって面白いよ!」

「そうか、そしたら俺もちょっと見てみるか」

ラウルはそう言うと、店内の品々を見歩き始めた。

「ほう……確かにライトの言う通り、面白珍しい物がたくさんあるな」

「でしょでしょ?」

「というか、何か異質な魔力みたいなものも感じるな? 品物ばかりじゃなくて、この店自体にも言えることだが」

「え? そ、そう? ま、まぁね、これだけ珍しい物なら出処も珍しい場所なのかもね?」

何気に鋭いラウルに、ライトは若干どもりながらも平静を装いつつ受け答えする。

ラウルが言う『異質な魔力』とやらに、思いっきり心当たりがあり過ぎるライト。思わず冷や汗をかいている。

やはり魔力感知に長けた妖精ならではの感覚なのだろうか。

内心心臓がバクバクしているライトの横で、ラウルはロレンツォに向かって声をかける。

「店主、ここには包丁とか料理に使えるような道具類はあるか?」

「はい、ございます。既に売約済みのもので良ければお見せできますが」

「売約済みでも構わん、見るだけ見たいから出してくれないか?」

「承りました。少々お待ちくださいませ」

ロレンツォはラウルの要請を快く受け入れ、一旦店の奥に入っていく。

しばらく待っていると、ロレンツォが店内に戻ってきた。

その手には大きなトレイを持っている。

「こちらが『出刃ソード』に『真菜シールド』にございます」

「ほう、出刃包丁とまな板にそっくりだな」

「はい。料理人用の剣と盾のセットでして、もちろん護身や戦闘にも使えますが調理器具としても使える逸品です」

「そうなのか。料理人用の剣盾とは、まさしく俺のためのセットのようなもんだが……売約済みなのが残念だ」

ロレンツォが奥から持ってきたトレイには、見た目がそのまんま出刃包丁の剣と、これまたまな板にそっくりの盾が乗せられている。

それを見たラウル、売約済みであることを残念がる。

確かに料理好きのラウルが好みそうな品だ。

ぁー、あれ、期間限定イベントの報酬品だよね……何だっけ、巨大な猫が無人島で鍋の具材となる野菜を作ってて? その野菜の収穫を手伝う? とかいう、実に妙ちきりんなイベントだったよな……BCOのイベントって、ホント謎いのばっかだよな……

残念がるラウルの横で、ライトはその調理器具セットの出処や由来を記憶の中からサルベージしていた。

「もしまた同様の出物が入荷しましたら、お取り置きすることも可能です」

「それは良いことを聞いた、是非ともよろしく頼む。ちなみに値段はどれくらいするんだ?」

「そうですね……ライトさんのお知り合いということですので、特別価格にさせていただきますよ」

ロレンツォは胸元のポケットからメモ帳とペンを取り出し、スラスラと金額を書いてラウルに見せた。

その金額を見たラウル、目がまん丸&点になる。

「ぉ、ぉぅ、オリハルコン包丁よりお高いのか……」

「滅多に表に出てこない幻の逸品、しかも剣と盾でお揃いですからねぇ。ですが、その分切れ味や防御力は抜群ですよ」

「そうか……よし、また冒険者稼業をこなして20万G貯めるか」

ロレンツォのセールストークに、ラウルは改めて貯金に励むことを決意する。

出刃ソード&真菜シールドの逸品セットの価格は、どうやら20万Gするらしい。

出刃包丁とまな板で200万円相当とか、それってどうなのよ?と思わなくもないが、BCO由来のレアアイテムなのでこの値段も妥当なのかもしれない。

そしてそれ以上に、ラウルの調理器具マニアぶりを侮ってはいけない。

普通の包丁ですら、様々な種類に渡り全て複数本所持しているのだ。こんな珍しい品々の存在を知ったラウルが、欲しがらない訳がないのである。

「じゃ、ぼちぼちラグナロッツァに帰るか」

「うん!ロレンツォさん、また来ますね!」

「またのご来店、心よりお待ち申し上げます」

恭しく頭を下げるロレンツォに見送られながら、ライトとラウルはルティエンス商会を後にした。