軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第568話 冒険者登録祝いの品

黄金週間も終わり、平穏な日常生活が戻ってきた。

昨日までの喧騒が嘘のように、ライト達にも穏やかな空気と時間が流れる。

五月病御祓いスタンプラリーの報酬は、各々の都合の良い時間帯に冒険者ギルド総本部で受け取ってきた。

ライトは週明け月曜日の学園からの帰り道に、レオニスはオークションの落札額が振り込まれた三日後の水曜日に、ラウルは月曜日の午前中に、マキシは月曜日の仕事帰りに、それぞれ受け取ってきた。

レオニス以外は初めてのスタンプラリー参加だっただけに、報酬であるエネルギードリンクを皆一日も早く手に入れたかったようだ。

月曜日の夜など、三人して「おおお、これがエネルギードリンク……」と言いながら、しばしその瓶を見つめていたくらいだ。

ちなみにこのエネルギードリンク、ライトがクエストイベントや使い魔のお使いの持ち帰り品で得るエネルギードリンクと全く同じものだ。

実際にはまだ服用していないので、その効果の程は不明だが。瓶の形状や中身の液体の色など、少なくともライトの目には外観的に完全に同じに見える。

スタンプラリーの報酬であるエネルギードリンクは、薬師ギルドの門外不出の製法で作られているはずだが、BCOシステムの報酬と全く同じ品というのが何とも不思議だ。

しかし、何はともあれ念願叶って全員でエネルギードリンクを得られたのは大変喜ばしいことである。

そんな平和な日々が続く、とある日のこと。

レオニスはアイギスを訪ねていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「よう、メイ。あれからラギロア島でのバカンスを堪能したか?」

「ええ、それはもうとってもぐーたらな日々を過ごさせてもらったわ!」

店に入ると、接客係のメイがいつものようにレオニスを出迎える。

温暖なリゾート地で過ごしたにしては、日焼けなど全くしておらずいつもと変わらないメイ。もちろんそこら辺は皆日焼け止め対策をバッチリしていて抜かりはない。

日焼けは美容の大敵、全力で退けるのは乙女の責務なのだ。

「そりゃ良かったな。皆いつも働き過ぎだからな、たまにはああして身も心もゆっくり休めないとな」

「そうね、レオのおかげで仕事増やしてもらってるものね!」

「うぐッ……そ、それは……すまん」

「ふふふ、冗談よ、冗談!レオの頼みごとなんて、仕事のうちにも入らないわ!それに、レオからは毎回いつも多めに報酬もらってるしね!」

メイがいたずらっぽく笑いながらレオニスを揶揄う。

揶揄われる方にしてみればたまったものではないが、レオニス自身アイギスにはいつも頼ってばかりいる自覚があるだけにぐうの音も出ない。

思えばレオニスは、アイギス以外で武器や防具を買ったことがほとんどない。今レオニスが身に着けているものだって、アイギス製もしくは遺跡などで得た激レア品ばかりだ。

日頃レオニスが如何にアイギス頼みであるかがよく分かる。

アイギス三姉妹は全員レオニスより年上で、レオニスより先に孤児院を卒院していった。そしてレオニスが卒院した時には、既に三姉妹はラグナロッツァで店を構えていた。

レオニスがラグナロッツァに出て、一番最初にアイギスを訪ねた時。カイ達から卒院祝いとして革製装備一式を贈られたことは、今でも鮮明に覚えている。

『カイ姉、セイ姉、メイ、ありがとう!これで俺もグラン兄のような、立派な冒険者になるからな!』

そう言いながら大喜びしていたのが、つい昨日のことのようだ。

後にレオニスがその才を存分に発揮し、冒険者としてメキメキと頭角を現す頃には、アイギスもまたその最高品質の仕事によって超一流ブティックの名声を確たるものにしていった。

双方ともに知名度は世界レベルに達しているが、何なら今でもレオニスよりアイギスの方が知名度は上かもしれない。

こうしてアイギスとともに歩んできたレオニスだが、今まで一度も他の武器屋防具屋を全く利用しなかった訳ではない。

他の店の品がどんなものなのかレオニスも知りたかったし、まだろくに稼げなかった頃にはもっと安い革製装備一式を買ってみたりもした。

だが、他の店の品を手にする度に、レオニスはその都度思い知る。カイ達に作ってもらったものが、如何に最良にして最高であるかを。

そんなことを何度か繰り返していくうちに、とうとうレオニスはアイギス以外の武器屋防具屋には行かなくなった、という訳である。

「ぁー、コホン。今日はラウルの装備品がどうなってるか、聞きに来たんだが」

「ラウルさんの冒険者登録祝いのアレね!ちゃんと出来上がってるわよ!」

「そうか、そしたら今日受け取っていってもいいか?」

「ンー、ホントはラウルさん自身にこの場で試着してもらって、着心地や丈の具合なんかを確かめてもらいたいところなんだけど……」

今日レオニスがアイギスを訪ねたのは、ラウルの冒険者登録祝いとして注文していたラウル専用装備の進捗状況を確認するためだった。

もう品物は仕上がっているようで、すぐにでも持って帰れるかと思いきや、メイは若干難色を示している。

確かにアイギス側にしてみれば、できることなら店内でラウル本人に試着してもらって着心地その他いろいろ聞いておきたいだろう。もし直してもらいたいところがあれば、その場ですぐに対応できるのだから。

レオニスもそこら辺の言い分は分かるので、メイに問いかけた。

「なら、日を改めてラウルを連れてきた方がいいか?」

「ンーーー……まぁ大丈夫でしょ。もし万が一不具合とかあったら、いつでもうちに持ってくるようにってラウルさんに言っといて。もちろんお直しは無料でするわよ」

「無料でいいのか?」

「もちろん!アレのお代に、あんな貴重なものをもらったんですもの。お直し程度でまたお金を受け取ったら、それこそ罰が当たるってもんだわ!」

無料でお直しするというメイに、レオニスが半ば驚きながら問い返す。

そんな戸惑い気味のレオニスに、メイが非常にご機嫌な様子で再び承諾の意を表す。

今回ラウルの装備一式の代金としてレオニスが渡したのは、【水の乙女の雫】と【火の乙女の雫】を一粒づつ。競売祭りに出品したのと同じものである。

「そういえばあの【水の乙女の雫】と【火の乙女の雫】、2000万Gと3000万Gで落札されたんですってね? 合わせて5000万Gだなんて、本当にすごい金額になったわね!」

「何だ、もうそんなことまで知ってんのか?」

「そりゃあ、ねぇ? 落札者の方々が早速うちに加工依頼にいらっしゃったし」

メイの話によると、何と競売祭りで落札された二種の乙女の雫がもう既にアイギスに加工依頼が出されているという。

今日は水曜日、黄金週間が終わって三日目。黄金週間が終わってまだ数日だというのに、これにはレオニスもびっくりである。

「もう注文しに来たのか、早いこった」

「二組とも、競売祭りの翌日に注文しにいらしたわよ? 乙女の雫を入手できたことが、よほど嬉しかったんでしょうね!」

「何に加工するのかはもう決まったのか?」

「それはお客様の個人情報だから秘密ー。いくらレオでも、そこまでは教えられないわ」

「そっか、そりゃそうだな。野暮なことを聞いてすまんな」

あの乙女の雫がどんな品に生まれ変わるのかは、顧客だけの楽しみとして決して外部に明かさないメイ。

それは高級品を取り扱う店として当然の対応であり、まさにプロフェッショナルな姿勢だ。アイギスの看板を担う一員として、メイの矜持でもある。

そのことを瞬時に理解したレオニスは、何の気なしに聞いてしまったことを反省する。

「そしたらラウルの装備一式をもらえるか」

「分かったわ、奥から持ってくるからちょっと待っててね」

一旦メイが店の奥に引っ込み、しばらくして品物を持って店内に戻ってきた。大きな箱に小さめの箱もある。

メイが徐に箱の蓋を開けて、その中身をざっとレオニスに見せていく。

「こっちがロングジャケットで、革のスラックスやお揃いのネクタイ、ベルトなんかも全部入ってるわ。で、こっちの箱にはブーツね」

「他にも何か小箱がたくさんあるが、これは何だ?」

「それはタイピンやカフスボタンなんかの小物類、私達からのサービスよ。私達だってラウルさんにお祝いしたいからね。是非とも受け取ってちょうだい」

「小物までつけてくれたのか、ありがとう。防御魔法なんかの魔法付与にも使えそうだな」

「ええ、私達もそう思ってお祝いの品にさせていただいたの。ラウルさんの身を守るために、レオが魔法付与してあげてね」

「ああ、是非ともそうさせてもらう」

大きな箱の中にいくつも小さな小箱があったが、それにはカイ達三姉妹からの祝いの品として小物類が入れられていた。

レオニスが小箱の蓋を開けて見ると、シルバーで統一されたタイピンやカフスボタンが入っている。どれも黒のロングジャケットによく映えそうだ。

また、それらは金属製なので、魔法付与のベースにするにももってこいだ。他のボタン類と合わせて、回復魔法に防御魔法、補助魔法などいくつも付与できる。

ラウルも今後冒険者活動を続けていけば、また先日のポイズンスライム遭遇事件のような危険な目に遭うこともあるだろう。

そうした事態に備えて、ラウルの身を守る策を少しでも多く講じるために―――カイ達も祝いの品として、それらを贈ってくれたのだ。

カイ達のそうした細やかな心遣いに、レオニスは心から感謝する。

「でね、ロングジャケットはレオとデザインが重ならないように、ラウルさんのは燕尾服をイメージして作ったの。ほら、ラウルさんってレオの屋敷の執事さんしてるでしょ? デザイン変更のモチーフとしてもちょうど良いかと思ってね」

「おお、なかなかに格好良いな」

メイが箱からロングジャケットを取り出し、縦に持ち上げて前と後ろを交互に見せる。

着丈は前身頃がかなり短めで、後ろが燕尾服スタイルになっている。革製だから普通の燕尾服に比べたら若干物々しいが、それでもスッキリとしていてとても見栄えが良い。

文字通り燕の尾のような滑らかな曲線を描いたバックスタイルがなにしろ美しい。如何にもの燕尾服で、実に万能執事に相応しいデザインだ。

これならば、レオニスが最も懸念していた『主従ペアルック』にはならなさそうだ。

メイにジャケットを見せてもらったレオニスは、心底安堵する。

「ありがとう。もしラウルにどこか直してほしいと思う箇所があったら、自分で頼むように言っておく」

「そうしてね。あっ、もしお直しするところが全くなくても、着ているところを私達に見せびらかしに来てくれてもいいのよ?」

「ハハハ、分かった、それもラウルに伝えておく」

メイに装備品を再び箱の中に綺麗に仕舞ってもらい、一式を受け取ったレオニスはアイギスを後にした。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

その日の夜。ライトとレオニスもラグナロッツァの屋敷で晩御飯を食べることにする。

ラウルとマキシも加えた四人で食事を終えてから居間に移動し、早速冒険者登録祝いの品を皆で見る。

箱を開けて、早速黒のロングジャケットを取り出し軽く羽織るラウル。

見たところサイズはぴったり合っていそうだ。

「着た感じはどうだ?」

「素材が天空竜の革だと聞いていたから、てっきりそれなりの重量があるもんかと思っていたが……予想より軽くて靭やかで、すごく動きやすいな」

「そりゃカイ姉達の仕立てだからな。他所じゃこうはいかん」

「ラウル、すっごく格好良い!」

「うん!ラウルによく似合ってるよ!」

天空竜の革で作られた黒のジャケットを着たラウルを見て、ライトもマキシも興奮気味に褒め称える。

ライトに至っては、あー、自分も将来冒険者になったらラウルやレオ兄みたいな格好良い装備が欲しい!と思いながら、その目をキラッキラに輝かせている。

「いくつもある小箱は、タイピンとかの小物類が入っている。それらはカイ姉達からの祝いの品だ」

「カイさん達も俺に祝いの品をくれたのか? それはありがたいな」

「他にも革のパンツやネクタイ、ベルトなんかの一式が入ってるから、後で一通り試着してみてくれ。もし丈や腹回りで直してもらいたいところがあったら、遠慮なくアイギスに持ち込め。タダでお直ししてくれるってよ」

「分かった。後できちんと確認する」

「ま、不具合がなくてもジャケットを着た姿を見せに行ってやってくれ。カイ姉達もきっと喜んでくれるからよ」

「了解」

アイギスからのいくつかの伝達事項をラウルに伝えるレオニス。

そして改めてレオニスがラウルに向かって言葉をかける。

「……遅くなったが、俺からの冒険者登録祝いだ。冒険者ってのは常に危険と隣り合わせの稼業だが、これから頑張れよ」

「ああ。ご主人様ほどとまでは言わんが、それなりにやっていけるよう精進することを誓う」

「ラウルなら絶対にできるよ!頑張ってね!」

「僕も応援してるよ!」

「皆、ありがとう」

ライト達からの祝福を受け、照れ臭そうにはにかむラウル。

それを隠すかのように、急いで装備一式を箱に仕舞い込んでから皆に声をかける。

「さ、俺の祝いの品のお披露目も無事済んだことだし。じゃあ今から俺の渾身のスイーツを皆にご馳走するとしよう」

「ラウル渾身のスイーツ!? やったー!」

「じゃあ皆でまた食堂に移動しましょうか!」

「なぁラウルよ、俺にもスイーツ作って持たせてくれや……」

ラウルが渾身のスイーツを振る舞うと聞き、大喜びするライトとマキシ。

その後ろで、レオニスが若干いじけてるような気がするが。多分気のせいだろう。キニシナイ!

その後も食堂でラウルの冒険者登録祝いの続きをするライト達。

今日もラグナロッツァのレオニス邸は賑やかな夜を過ごしていた。