軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第567話 鑑競祭り 第二部

『まずは本日最初の出品物、ロットナンバー1、【水の乙女の雫】の登場です!』

司会のアナウンスに、それまで静かだった会場内が一気にどよめく。

それとほぼ同時に、舞台のスクリーンに映像が大きく映し出された。

指の爪サイズの【水の乙女の雫】の拡大映像で、ゆっくりと動きながらいろんな角度で撮影されている。

カイ達が見てうっとりした、雫の中でゆらゆらと輝く煌めきもちゃんと見えるくらいに鮮やかな映像だ。どういう仕掛けで映し出しているのか分からないが、国家の威信をかけたイベントだけに最新鋭の技術が用いられていると見える。

おおお、これもうほぼカラーテレビやプロジェクターじゃん!サイサクス世界の映像技術すげー!とライトが内心で驚愕する。

もちろん映像を観ている他の入札者達も、映し出された【水の乙女の雫】の美しい煌めきや色合いに皆「ほぅ……」と嘆息を洩らしている。

乙女の雫の拡大映像とともに、司会が手元の資料を見ながらその詳細を語っていく。

『こちらの品は、水属性の精霊の頂点である水の女王が生み出した、世にも貴重な逸品です』

『魔術師ギルドが発行した正式な鑑定書もございますので、真贋を疑う余地など一切ございません。正真正銘、水の女王がもたらした【水の乙女の雫】です』

『そしてさらに何と!この【水の乙女の雫】の出品者はレオニス・フィア、世界にその名を馳せる現役金剛級冒険者その人であります!』

鮮明な映像とともに流れる解説アナウンスに、その都度会場内が騒然とする。

特にレオニスの名が出た時には、一際大きなどよめきが起きた。やはり出品者のネームバリューは注目を集める効果も抜群のようだ。

そして舞台袖から、出品物を載せたワゴンが女性職員の手によって運ばれてきた。

ワゴンの上には宝石箱に入れられた【水の乙女の雫】、魔術師ギルドの鑑定書、そしてチケットのようなもの、計三点が置かれている。

『さらにこちらの品には、あの超一流ブティック『アイギス』でのアクセサリー加工権利という特典もついております』

『しかもアイギスでの加工権利は、該当品に限り優先的に作成依頼が可能となっております。これは当オークションだけの購入特典です!』

『この美しい【水の乙女の雫】で、指輪、ネックレス、ブレスレットなどはもちろんのこと、タイピンやカフスボタンなどの男性向けのアクセサリーを作ることもできるでしょう』

『もちろんどんな細工を施すかは、落札者様の自由。世界に一つだけの高貴なジュエリーを手にするチャンスです!』

あのチケットのようなものは、どうやらアイギスへの加工権利を表す品のようだ。その解説に『アイギス』の名が出た途端、会場内のざわめきはさらに強くなる。

場内のあちこちから「えっ、アイギスで加工してもらえるの!?」「あのアイギスで!?」「しかも予約待ちなし!?」という声が聞こえてくる。

入札者側には貴族も多いので、必然的にアイギスの顧客も多い。

貴族達の中で、アイギスの品を持つことが一種のステータスになっているくらいに、アイギス三姉妹の作る品は富裕層に大人気だ。ドレスに至っては、年単位で待つ予約も多い。

故に彼らは『アイギスでの優先的加工権利』というオプションが、がどれほど価値があるかを十全に理解していた。

『【水の乙女の雫】、魔術師ギルド鑑定書、アイギスでの加工権利、以上の三点がセットとなっております』

『この品が如何に素晴らしいものであるかを、ここにおられる皆様方には十分にご理解いただけたかと思います』

『ではこれより、入札を開始いたします。200万Gからのスタートです!』

入札開始を告げるアナウンスとともに、カーン!というオークションガヴェルの音が高らかに響く。

入札が開始された途端「250万G!」「300万G!」「500万G!」という入札の声が続々と上がる。

熱狂的な入札の光景に、ライトとレオニスはただただ圧倒されるばかりであった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

『2000万Gでの落札に決定です!』

再びオークションガヴェルの音が高らかに響く。

レオニスが出品した【水の乙女の雫】は、2000万Gでの落札が確定した。

落札したのは、前方に座る紳士のようだ。

「うはー、あれ一粒に2000万Gの値がつくんか……」

「すごい値段になったね……水の女王様に感謝だねぇ」

「全くだ」

次の出品物までの短いインターバルの間に、ライトとレオニスが半ば呆然としたような気の抜けた声で会話している。

ライトが見たアイテム欄での詳細では『売価:1000万G』となっていたが、オークションでは倍の値段になったのだ。驚き桃の木山椒の木である。

唖然としているライト達の横で、アレクシスが軽快な声で笑い飛ばす。

「ハッハッハ、【水の乙女の雫】ならば当然のことだろう。あの美しさ、色艶、輝き、どれをとっても宝石以上の素晴らしさだからな」

「ええ、私も乙女の雫の実物なんて生まれて初めて見ましたが……あの拡大映像からだけでも、その美しさは十分に伝わってきましたからね」

「あれと比べたら、大粒の宝石すら石ころと化してしまうだろうなぁ」

「全く以て兄上の仰るです」

ウォーベック兄弟は入札にこそ参加しなかったが、乙女の雫の価値の高さをちゃんと理解しているようだ。

「しかし、【水の乙女の雫】ですらあんなに美しいとは……【炎の乙女の雫】ともなると、どれほどの輝きを発するのか……」

「想像するのも畏れ多いことです……」

早くも【炎の乙女の雫】に思いを馳せるウォーベック兄弟。

まだレオニス達が入手してもいないうちから、何とも気の早いことである。

そんなウォーベック兄弟に、レオニスが何気なく問うた。

「なぁ、もし【炎の乙女の雫】を入手できたら、あんた達も2000万G以上出してでも買うのか?」

「もちろんだとも!炎の女王の生みし雫ならば、プロステスを代々治めてきた我等ウォーベック家にこそ相応しい!」

「そうですとも!我等ウォーベック家以上に【炎の乙女の雫】を持つ資格のある家は他にありません!」

「うおッ!そ、そうか……」

アレクシスとクラウスから、予想以上に気合い入りまくりの答えが返ってきた。二人のあまりの勢いに、思わずレオニスも気圧され仰け反る。

炎の女王を崇拝するプロステス魂は、とどまるところを知らないようである。

「……ま、いつかは入手できると思うんで、気長に待っててくれ」

「ああ、レオニス君からの連絡を心より待っているよ!」

「ウォーベック家の家宝になること間違いなしですね!」

そんな話をしていると、次の出品物の用意ができたようだ。

『皆様大変お待たせいたしました。ロットナンバー2、『魔凶剣ザッハーク』を開始いたします!』

司会のアナウンスに、会場内は再び息を呑むように舞台を見つめる。

こうして競売祭りは順調に進んでいった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「はぁぁぁぁ……やっと終わったぁぁぁぁ」

「金ってのは本当に、あるとこには唸るほどあるもんなんだなぁ……」

競売祭りの全ての出品が終わり、気どころか魂まで半分抜けかけたようなライトとレオニス。

500万Gや1000万Gなどという大金がポンポン飛び交う空間なんて、本来なら二人とも一生縁のないような場所である。

正真正銘生まれて初めての経験であり、生粋の平民二人が気疲れでぐったりするのも致し方ない。

そんなライト達の姿を、アレクシス達が微笑ましく眺めつつ労う。

「レオニス君、ライト君、お疲れさま。君達はこうした場所は不慣れだろうに、最後までよく頑張ったね」

「ああ……俺達とは住む世界が全く違うが、こういう世界もあるんだなってことを知れたのは良かったよ」

「ぼくも普段の生活とは全く違う空気に触れることができて、すごく勉強になりました!」

入札者がホールを出ていく中、レオニスはまだ椅子に座ったまま腕を真上に上げて思いっきり背伸びをする。ライトもその横で、首や肩を自分の手で軽く揉みほぐしている。

如何に人外ブラザーズといえど、やはりこうした慣れない場ではかなり緊張していたようだ。

ちなみにレオニスの二品目の出品物【火の乙女の雫】は3000万Gにて落札された。

3000万Gは今回の出品物の中での最高落札額であり、大トリを飾るに相応しい額である。

落札したのはどこかの豪商のようで、落札が確定した時にはものすごく喜んでいた。

一方ウォーベック兄弟は何も落札しなかったが、乙女の雫を始めとして数々の貴重なお宝類を見ることができて満足しているようだ。

「それにしても、二つ合わせて5000万Gって本当にすごいな。無駄な贅沢しなければ、一生遊んで暮らせそうだ」

「ン? 俺はあんな金くらいで冒険者稼業を引退する気はねぇぞ?」

「そりゃもちろんそうだろうね。レオニス君が冒険者を引退する姿なんて、全く想像もつかないよ。でもそしたら、今日の5000万Gは一体何に使うんだい?」

「ラグナロッツァの孤児院再建に全額使うつもりだ」

5000万Gといえば、日本円にして5億円。よほど豪遊したり下手な散財などしなければ、一生働かずに暮らしていけるだろう。

しかしアレクシスとしても、この程度の金でレオニスが冒険者引退するなどとは微塵も思ってはいない。ならばその金は何に使うのだろう?と気になって問うたところのレオニスの答えに、アレクシスもクラウスも感心する。

「そうか、孤児院の再建に使うのか……何ともレオニス君らしい使い道だな」

「自分の食い扶持を稼ぐだけなら、この腕一つありゃいいからな。だが孤児院再建となると、とんでもねー大金が要る……水の女王や火の女王のおかげで、何とか孤児院に恩返しができそうだ」

「念願叶って恩返しができて良かったな。水の女王や火の女王にお会いできただけでなく、貴重な雫まで賜ることができたのはレオニス君―――きっと君の人徳の賜物だよ」

アレクシスからの思わぬ言葉に、レオニスが少しだけ驚いたような顔をする。

普段レオニスが褒められることといえば、直接的な強さを称えられることがほとんどであり、これまでに人徳を褒め称えられたことなどただの一度もなかったのだ。

その照れ隠しなのか、レオニスは慌てて否定する。

「ぃゃぃゃ、女王達から雫をもらえたのは主にライトのおねだりのおかげであってだな……」

「それも全て引っ 括(くる) めた上での君の人徳だよ。ライト君の育ての親は、他ならぬレオニス君なのだからね」

「…………」

アレクシスの言葉に、レオニスは思わず言葉に詰まる。

ライトの手柄は、ライトをそういう子に育てたレオニスの功績でもある―――アレクシスはそう言っているのだ。

ライトはもともと賢い子で、レオニスが特に何をせずともすくすくと育っていってくれた。これはひとえに、生みの親であるグランとレミが優秀だったからだ、とレオニスは思っていた。

だが、生まれ持った性格や気質だけで人は形成されていく訳ではない。育ての親や周囲の環境、そうしたものの影響が全くないはずがないのである。

「そうか……俺も少しはライトの成長に良い影響を与えている、と思ってもいいのかな」

「もちろんだとも!なぁ、ライト君?」

「はい!今のぼくがあるのは、全てレオ兄ちゃんのおかげですから!」

大人達の会話を静かに聞いていたライトに、アレクシスが同意を求める。

もちろんライトもその意見に異論などない。今ライトがこうしてここに居られるのも、全ては赤子の時に他国に渡っていたライトを見つけ出し、引き取って育ててくれたレオニスのおかげなのだから。

破顔しながら答えるライトに、レオニスだけでなくウォーベック兄弟もまた頷きながら微笑んでいた。