軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第538話 五月病御祓いスタンプラリー

翌日曜日。

この日から黄金週間に突入する。

魔石回収や森の警邏などの朝のルーティンワークを終えたライトとレオニス。今日は鑑定祭りの第一部を見に行くために、ラグナロッツァの屋敷でラウル達とともに朝食を摂っていた。

「レオ兄ちゃん、今日の鑑定祭りって何時から始まるの?」

「あー、確か午後の一時から夕方の五時までだったか?……うん、やっぱりそうだ」

ライトの問いに、レオニスが空間魔法陣からプログラム表を取り出して時間の確認をする。

「それ、鑑競祭りのプログラム表?」

「そう、昨日ラグナ官府で鑑競祭りの最終打ち合わせがあってな。そん時にもらったんだ」

「そうなんだー、ぼくにも見せて!」

「いいぞ、ほれ」

レオニスから鑑競祭りのプログラム表を受け取るライト。

二つ折りのそれを開いて、中に書かれている進行表などの詳細をじっくりと眺める。

「へー、お宝鑑定の審査員にパレンさんやピィちゃんも出るんだね!」

「ああ、冒険者が持ち込むアイテムも多いしな。普通の人には何が何だかさっぱり分からんような品でも、実はものすごい貴重な品だってことも結構ある。そういうのが分かる目利きでないと、鑑定の審査員なんて務まらんさ」

「そっかー、そうだよね。その点パレンさんもピィちゃんもギルドマスターだから、レアなお宝もすぐに分かるよね!」

「そゆこと」

鑑定祭りの審査員に名を連ねるパレンとピース。パレンに至っては、審査委員長という肩書きまである。

確かに冒険者が拾得したお宝系ならば、彼らほどの適任者はいないだろう。

玉石混交の鑑定祭りにおいてもその目利きを発揮して、価値ある物とそうでない物を瞬時に見分けるに違いない。

その後ライトはさらにプログラム表を読み進めていく。

「開催場所は……花の森公園でやるんだね」

「花の森公園はラグナロッツァでも指折りの大きな公園だからな。見物客が多いイベントを開催するにはもってこいなんだ」

鑑定祭りの会場、花の森公園。

それはラグナロッツァ北東部にある、自然豊かな公園である。

四季折々の花を咲かせる広大なその公園は、ラグナロッツァの観光名所の一つにもなっているくらいに有名な場所だ。

「鑑定祭りが午後一時からなら、午前中は何する? もしかして、午前中から花の森公園に並んで席取りした方がいい?」

「ぃゃー、そこまでしなくていいだろう。中には徹夜で席取りしてる連中もいるが、俺達ゃ別に最前列で見なきゃならんもんでもないしな」

「それもそうかー。……って、徹夜してまで席取りする人達もいるの!?」

「おう、マスターパレンの熱狂的なファンが毎年最前列にいるってのは聞いたことあるぞ」

「そ、そうなんだ……パレンさんって、本当に人気者なんだね……」

レオニスの言葉にライトがびっくりしている。

確かに観覧席があるイベントというのは、出演者見たさにより前の列に行きたがるものだ。

だが、鑑定祭りでもそうした現象があるというのは驚きだ。

しかもそれがマスターパレン目当てとは、二重に驚きである。

しかし、公国生誕祭の時の冒険者ギルドの出店。あの時も、マスターパレン目当てにたくさんの客が押し寄せていた。

あの熱気を思えば、マスターパレンが超一流芸能人並みに大人気を誇ることは明白である。

「そしたら午前中はどうしよ。家でお昼ご飯食べてから行く?」

「それでもいいが、街中には結構露店も出てるし、何なら『五月病御祓いスタンプラリー』も一つ二つ回れるぞ?」

「スタンプラリーもあるの?……って、五月病御祓い?」

「この時期は五月病が流行るだろう? まぁ五月病なんてのは、実際の疫病とは違って精神的なもんだが」

ここでレオニスが『五月病御祓いスタンプラリー』に言及する。

クレア曰く、『五月病御祓いスタンプラリー』は黄金週間の三大ビッグイベントの一つであるらしい。

名前からして実に胡散臭さMAXである。

ここでまず、五月病について説明しよう。

四月に新社会人になった者や、進級や進学、人事異動などで新しい環境に変わった者などが、その新たな環境に馴染めずにそのストレスで心身に不調を来たすことを指す。

正式な病名でも医学用語でもないが、古くから伝わる精神的な病として知られている。

そしてこのサイサクス世界の五月病も、現代日本のそれと同義である。

「スタンプラリーでスタンプ集めると、五月病に効く何かがあるの……?」

「おう、そりゃもう霊験あらたかなエネルギードリンクがもらえるぞ!」

「エネルギードリンクって何だ?」

「ああ、ラウルはエネルギードリンクはまだ見たことはないか。エネルギードリンクってのはな、やる気が出ない、動きたくても動けない、なんて時に飲む回復剤だ」

エネルギードリンクという耳慣れない言葉に、ラウルが耳聡く反応する。

そしてそれはラウルだけではない、ライトもそれを聞き内心でびっくりしていた。

このサイサクス世界で生まれて初めて『エネルギードリンク』という名のアイテムがこのサイサクス世界にも存在すると知ったからだ。

ライトの知るエネルギードリンクとは、本来はSP、スキルポイントを回復するアイテムだ。BCOでは、このSPがなければ各種スキルを発動させることができない。

SPは一分につき1ポイントが自動回復するが、討伐や冒険での戦闘の最中に自動回復を待つなんて悠長なことはしていられない。そんなのんびりとしていたら、獲物に逃げられるか自分が魔物に殺られて戦闘不能に陥ってしまう。

すぐにでもSPを回復したい時に、エネルギードリンクを服用するのだ。

そのエネルギードリンクが、何と五月病という精神的な病に効くというではないか。

だが、『SP=やる気』と考えればそれも納得できるかもしれないな、とライトは密かに思う。

やる気=気力がなければ、人間どう足掻いても動けなくなるものだ。

「へー、ポーションやエーテル以外にもそんな便利な回復剤があるんだな。でも俺、結構長いこと人里に住んでるが、エネルギードリンクなんて今まで一度も見たことないぞ?」

「そりゃそうさ、エネルギードリンクは市場とかじゃ市販されてねぇからな」

「そんな貴重な品なのか?」

「ああ。エネルギードリンクってのは薬師ギルドの門外不出の品で、その製法はギルドマスターにしか伝えられんもんなんだと。もちろん普段から売ってるもんじゃないし、冒険者御用達のジョージ商会ですら取り扱ってない代物だ」

「そんな品が手に入るって、その『五月病御祓いスタンプラリー』ってのはすげーイベントなんだな」

「おう、そのエネルギードリンクのために黄金週間中はあちこちを駆けずり回る冒険者も多いくらいだぜ」

ラウルの疑問に答えていくレオニス。

BCOでもエネルギードリンクはGでは買えない、特殊なアイテムだった。

エネルギードリンクを入手するには、課金したりイベントをこなして報酬で得るしかない。

実際ライトもクエストイベントの報酬で、これまでに何本ものエネルギードリンクを入手してきている。

「エネルギードリンクが景品なの……」

「お、ライトもエネルギードリンクを知っているのか? ラグーン学園で習ったのか?」

「う、うん、ラグーン学園で聞いたことあるよ!」

「そうなのか。ラグーン学園ってのは本当にすげーとこなんだなぁ」

思わず溢したライトの呟きにレオニスが食いつき、咄嗟に肯定するライト。そしてレオニスはいつものように、ラグーン学園の叡智に感嘆する。

もちろんライトはラグーン学園でエネルギードリンクの話など一度も聞いたことはない。

というか、そもそも初等部の子供達が日頃からそんな特殊アイテムの話などするはずもないのだが。

今日もラグーン学園はライトに都合の良い隠れ蓑である。

「スタンプラリーっていうくらいだから、何箇所も回るんだよな?」

「ああ、全部で十箇所だな。ラグナロッツァや大都市なんかは、観光名所や重要施設なんかにスタンプが設置されている。スタンプ一個でポーション、二個でエーテル、三個目以降の細かいところは忘れたが……そうやってスタンプを集めれば集めるほど、良いものがもらえるんだ」

「そのエネルギードリンクってのは、スタンプ何個でもらえるんだ?」

「スタンプ五個でハーフサイズのエネルギードリンクが一個、十個全部集めるとフルサイズが一個もらえる」

何とエネルギードリンクにはハーフサイズもあるらしい。

それはBCOで言うところの『エネルギードリンクハーフ』だな、とライトは密かに考察する。

エネルギードリンクは特殊アイテムだけに、他のポーションやエーテルと違ってハーフやミニなど多種多様なサイズか存在する。

しかし、レオニスの話を聞いたライトは微妙に渋い顔をする。

イベント報酬でエネルギードリンクダースを獲得しているライトに言わせれば、十箇所も回ってフルサイズ一個しかもらえんのか……という感覚になってしまうのだ。

だがそれはBCOを知るライト独自の感覚であり、この世界の住人にとっては貴重な非売品アイテムが入手できる絶好の機会なのだろう、ということも理解していた。

これまでずっと皆の話をおとなしく聞いていたマキシが、少しだけ興奮した様子で口を開いた。

「僕もそのエネルギードリンクというのが欲しいです。黄金週間中に皆で回りませんか?」

「それいいな、俺も見たことないから一つ欲しいわ」

「レオ兄ちゃん、ぼく子供だけど、子供でもスタンプ集めればエネルギードリンクもらえるの?」

「もちろんもらえるさ、誰でも参加できるイベントだからな」

ラウルやマキシにとって、エネルギードリンクは未知の品なので是非とも入手したいようだ。

ライトも職業習熟度上げでエネルギードリンクを使うこともある。例えもらえるのが一個であろうとも、ライトもエネルギードリンクは欲しい。お金同様に、いくらあってもいいものなのだ。

それに、自分がクエストイベントでもらうエネルギードリンクと、薬師ギルドが作る同名のアイテムを是非とも見比べてみたい。色や味、効果なども全部同じなのか、ライトとしてはとても気になるところだ。

そして何よりも、皆でスタンプを集めてラグナロッツァ中を歩き回るのも楽しそうだ。

「じゃあ、午前中は皆でスタンプラリー回りしよう!」

「「「おー!」」」

午後の鑑定祭りの前に、スタンプラリー回りをすることになったライト達。

早速各々が出かける支度をするために、各自自室に向かっていった。