軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第532話 黄金週間の予定 その二

すっかり春めいた陽気になってきた四月下旬。

アクシーディア公国最大の大型連休である黄金週間も、もうすぐそこまでやってきている。その初日まで一週間を切り、街の景色も黄金週間ムードが漂う。

さて、ここでひとつ、サイサクス世界の黄金週間のことを解説しよう。

といっても、ぶっちゃけた話が現代日本のゴールデンウィークそのまんまである。

バレンタインデーやホワイトデー等四季折々の行事やイベント同様に、ゴールデンウィークもまた現代日本とほぼ同じ仕様で存在するのだ。

黄金週間と呼ばれる期間は、毎年4月29日から5月5日まで。その間学校や役所などの公的機関は、一部のギルドを除きほぼ全てが祝日として休みになる。

祝日の内訳は『新緑の日』『メーデー』『大公即位記念日』『端午の日』などである。祝日の名前や由来も現代日本のそれとよく似ているのが何とも面白い。

こういうところは前世の習慣や知識がそのまま活かせるので、ライトとしてもありがたいところだ。

ちなみに今年は4月29日は日曜日。土曜日が休みのライト達は、4月28日から5月6日まで九連休となる。

そして超大型連休ということで、経済活動も活発になる。

各地で独自の大きな祭りやイベントが開催されたり、長期休暇を利用して里帰りしたり短期旅行に出かける貴族なども大勢いる。

街と街の間を移動する乗合馬車も繁盛し、冒険者ギルドでもそうした移動に対する護衛やイベント設営などの依頼が激増するという。

観光業や商人達だけでなく、冒険者稼業を生業とする者達にとっても稼ぎ時なのだ。

ライトが登下校に通る道にある商店街も、黄金週間中に行われる各種イベントの準備で大忙しな風景をちらほらと見かけるようになってきた。

街の空気だけではない、ライトが通うラグーン学園の教室の中でも黄金週間の話題でもちきりである。

もちろんライトの周りも例外ではない。

今日は朝からイヴリンに「あッ、ライト君、今日はイベントのチラシ持ってきたからね!お昼休みは図書室行かないで、皆で教室で見ようね!」としっかり釘を刺されている。

そうして迎えた昼休み、イヴリンの机の周りに皆で集まっていた。

「あと三日で黄金週間入りよねー。もう今からすっごい楽しみー!」

「ねぇねぇイヴリンちゃん、私にも行けそうなイベントある?」

「うん、これなんてどうかしら?」

実家の宿屋兼食堂の手伝いをしなければならないリリィ、今回はぶーたれることなく期待の目をイヴリンに向ける。

イヴリンは自分の鞄の中から何枚かのチラシを出し、机の上に広げる。その中の一枚を取り、皆に見せた。

「ほら、これ、『シリウス大サーカス』のチラシ。『めくるめく夢のようなひと時をあなたに!』ですって!」

「場所は……ああ、公国生誕祭でレインボースライムショーが開かれたのと同じ広場だね」

「まぁ、それならリリィさんのおうちからも近いですわね!」

「それならリリィちゃんも行けるんじゃない?」

「そうね!今日おうちに帰ったら、早速パパとママにお願いしてみるわ!」

レインボースライムショー同様、ほとんど休めないリリィでも行けそうなイベントがあることに皆で喜ぶ。

「そのサーカス、いつからいつまでやってるの?」

「えーとねぇ……黄金週間中毎日開催で、日によって演目が変わるみたいよ?」

「演目が違うんだ。そしたら何日目の公演に行きたいか、先に皆で決めておかないとだね」

「そうですわね、皆さんはどれがいいと思います?」

「「「うーーーん……」」」

リリィの問いかけに、チラシを持っているイヴリンが裏側を見ながら内容確認している。

それによると、シリウス大サーカスは4月29日から5月6日まで開催で、日によって演目内容が変わるという。

確かに同一人物が一週間ぶっ通しで公演に出続けるというのは、体力的にも非常に厳しいだろう。

プログラム内容をローテーションで変えて休息を得ることで、団員や動物達の回復を図る。実に合理的な運営の仕方である。

チラシの裏側には、開催日程と演目の詳細が書かれている。

演目はプログラムAからCがあり、三種類存在するようだ。

午前の部と午後の部、一日二回の公演があり、ABCの順でローテーションを組んでいる。

「プログラムAは『曲芸師による華麗な空中ショー』、Bは『大型魔獣が繰り広げる驚愕の曲芸』、Cは『演劇仕立ての魅惑のスペクタクルショー』だってー」

「えー、どれも面白そう!」

「ホントだね、どれを選ぶか迷うねぇ」

「最終日だけは、ABC全プログラムのいいとこ取りミックススペシャルデーだって」

「さすがにそれは競争率激しそうだよねぇ」

「うん。ていうか、最終日は前売り券完売って書いてあるわ」

「そりゃ残念」

イヴリンが持つチラシをリリィ、ジョゼが覗き込んでワイワイと盛り上がる中、ライトとハリエットは始終ニコニコ笑顔で皆を見守っている。

それに気づいたジョゼが、二人に向かって問いかけた。

「ライト君やハリエットさんは、どれがいいって希望はないの?」

「うん、ぼくはどれでもいいというか、皆が観たいものでいいよ。ぼく、サーカス観ること自体が初めてだから、きっとどれを観ても絶対に楽しめると思うし」

「私もライトさんと同じです。私もサーカスは初めて観るものなので、皆さんと観に行くものなら何だって楽しいですもの!」

ニコニコ笑顔のまま、どれ観ても楽しいからどれでもOK!というライトとハリエット。

ライトはカタポレンの森から移住して半年程度のお上りさん、ハリエットは名門貴族の箱入り娘、それぞれ立場は違うが考えは似通っているようだ。

「何日がいいとかの、日付けの希望も特になし?」

「うん、今のところ最終日の鑑競祭り以外は他に出かける予定も入ってないし」

「私も伯父様達との視察や首都観光がありますが、皆さんと遊びに行く日だけは絶対に空けてもらいますので問題はありません」

「そっか、じゃあ僕達の方で行く日を決めるね」

ライト達の答えを受けて、ジョゼはイヴリンやリリィとあれこれ会議をしだした。

あーでもないこーでもない、どーでもないそーでもない、喧々諤々の意見バトルの後、最終的にはじゃんけんの一発勝負となっていた。

そうして最後に勝ったのはリリィであった。

「やったー!私の勝ちーーー!イエーーーィ♪」

「じゃあ、リリィちゃんイチ押しのBで決まりね!」

「あー、プログラムC観たかったなー」

「でもリリィちゃんの願いが叶うならBもいいよね、Bのプログラムも楽しそうだし!」

「そうだね、大型魔獣なんて滅多に見れないもんね」

リリィの希望はプログラムB『大型魔獣が繰り広げる驚愕の曲芸』、これに決定したらしい。

ちなみにイヴリンはA、ジョゼはCが希望だったようだ。

終始満面の笑みのリリィに、じゃんけんに負けたイヴリンもジョゼも最終的には納得し、それぞれ笑顔になる。

もともとリリィは、生まれついた家業により大型連休こそ絶対に休めない身の上。それだけ大きなハンデを持つ環境ということもあり、周囲もリリィの多少の我儘くらいは聞いてあげたいと思っているのだ。

「そうすると、Bが開催されるのは……五回あるね。どの日がいいかな、リリィちゃんは希望ある?」

「んーとねぇ、連休中のお手伝いの心の支えにしたいから、一番最後の七日目がいいな!」

「そうね、楽しみは後にとっておいた方がよりワクワクするものね!」

シリウス大サーカスの日程は、初日の午前の部がプログラムAから始まり、以後B、C、そして二巡目のA、B、Cと繰り返される。

その中でリリィの希望のプログラムBは、黄金週間の初日午後、三日目午前、四日目午後、六日目午前、七日目午後の五回に渡り開催される予定だ。

そのうちのどれがいいかとジョゼに問われたリリィは、迷わず後半の七日目が良いと言う。

その理由は『家の手伝いで働いている間の心の支えにしたい』という、実に涙ぐましいものであった。

そんな健気なリリィを元気づけるように、イヴリンも賛同する。

「じゃあ、シリウス大サーカスを皆で観に行くのは七日目、5月5日で決まりだね」

「リリィちゃん、おじさんとおばさんにもちゃんと伝えておいてね」

「もちろんよ!その日は絶対に皆とシリウス大サーカス観に行くわ!」

「ぼく、サーカス観るの初めてだからすっごく楽しみだな!」

「私も大型魔獣の曲芸なんて初めてですわ!……あ、皆さんに一応先に言っておかなければならないと言いますか、多分またうちの兄が私にくっついてくると思いますが……」

シリウス大サーカスを観に行く日も決まり、皆で喜んでいたところでハリエットがはたと我に返る。そしておずおずと、実に申し訳なさそうに兄の随行があるであろうことを予告する。

ハリエットのその言葉は断定形ではないが、おそらくというか間違いなくハリエットの兄ウィルフレッドが漏れなくついてくるであろうことを確信した言い方である。

そんな申し訳なさそうなハリエットに、他の四人は口々に己の意見を語る。

「ハリエットちゃんのお兄さんがついてくるくらい、別に全然大丈夫だよね?」

「もちろん。公国生誕祭のレインボースライムショーにもついてきてたもんね」

「逆にお兄さんが皆の保護者代わりになってくれて、ありがたいくらいだよ!」

「だよねー!子供達だけだとお父さんやお母さんも心配するけど、中等部にいるハリエットちゃんのお兄さんがついてきてくれるって言えば安心してくれるし」

「うんうん、リリィも全然気にしないから、ハリエットちゃんも気にしなくていいよ!」

他の四人はあっけらかんとしながら、ハリエットの兄の随行を受け入れる。

四人が快く受け入れてくれたことに、ハリエットの曇っていた顔が一気に明るくなった。

「皆さん、ありがとうございます……皆さんにそう言っていただけると、私もすごく嬉しいです……!」

「でも、ハリエットちゃんのお兄さんも心配性だよねー」

「ハリエットちゃんはウォーベック伯爵家の令嬢だからね、心配するのも仕方ないよ」

「うんうん。むしろ大量の護衛をつけて寄越さないだけ、ウォーベック家の方々は理解がある方だと思うなー」

「いいとこのおうちのお嬢様ってのも、それはそれでなかなかに大変なんだねー」

「……はぃぃ……」

シスコン兄を厭うことなく受け入れる話が、今度は伯爵令嬢であるハリエットの身の上を同情する話に変わる。

確かにハリエットは侯爵家の流れを汲む伯爵令嬢であり、普段の登下校も護衛を連れての馬車通学という厳重な警戒態勢を取っていることは知られている。

そんなお嬢様のハリエットが、市井のイベントに参加すること自体が珍しくも大変なことなのだ。

ハリエット自身もそれを重々理解しているだけに、皆の言葉に縮こまる。

しかし、もしこれが他の貴族令嬢なら護衛の三人や五人も引き連れて、ちょっとした集団でゾロゾロと練り歩くところだ。

周りとしてはそうならないだけでもありがたいことだし、むしろ兄一人で済む方が全然マシというものである。

恥ずかしそうに俯くハリエットの手を、イヴリンとリリィがガシッ!と掴んだ。

「でも、ハリエットちゃんも私達の友達だもんね!」

「そうそう!レインボースライムショーの時も、皆で楽しく観に行けたし!」

「今度のシリウス大サーカスも、ハリエットちゃんやお兄さんといっしょに観に行くのがとっても楽しみよ!」

「「ねーーー♪」」

イヴリンとリリィが、互いの顔を見合わせてニッコニコの笑顔で頷き合う。

常にシスコン兄がついてくることに、負い目を感じるハリエット。

そんなハリエットを心から励ますように、手をしっかりと握りしめるイヴリンとリリィ。そう、彼女達には階級の垣根などないのだ。

ラグーン学園にいる間は、貴族平民の身分差なく全員がラグーン学園生という同一の立場にある。

現理事長であるオラシオンの理念は、確実にラグーン学園の中で根付いていた。

イヴリンとリリィの言葉に、ハリエットは感激の面持ちで二人に礼を言う。

「イヴリンさん、リリィさん、ありがとうございます……」

「お礼なんて言われるほどのことでもないわ!それより、ハリエットちゃんもそろそろ私達の呼び方を変えてほしいなー」

「呼び方、ですか……?」

「そうそう!私達ももう二年生になったことだし、いつまでもさん付けのままだと寂しいなー」

「と、言いますと……」

「「ちゃん付けで呼んで♪」」

ハリエットの問い返しに、ペカーッ☆と輝く笑顔で呼び方の昇格をおねだりするイヴリンとリリィ。

太陽の如く眩しく輝く友の笑顔に、逆らえようはずもない。

イヴリン達の希望に、ハリエットも頑張って応えようとする。

「イヴリンちゃん、に、リリィちゃん……こう、ですか?」

「そうそう、それそれ!やっとハリエットちゃんと仲良くなれた気がするわ!」

「私達、これからもっともっと、ずーっと仲良しよ!」

「は、はい!私もイヴリンちゃんやリリィちゃんと、もっともっと仲良しになりたいです!」

キャーキャーと騒がしく狂喜しながら、ほぼ同時にハリエットに抱きつくイヴリンとリリィ。

ちゃん付けで呼び合うことで、それまでも仲良くしてきた彼女達の仲はさらに親しさが深まった感がある。

仲睦まじく戯れる三人の女の子達。その楽しげな姿を、ライトとジョゼも微笑みながら眺めていた。