軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第531話 世界にとっての異物

レオニスの繰り出す魔法陣の美しさに、心底魅入られたライト。

翌日からラグーン学園での図書室通いがさらに足繁くなった。

昼休みは初等部の図書室、放課後は中等部の図書室に出向き魔法陣関連の本を探しては読む日々。

ラウルの煉瓦作りに協力するために、先日オラシオンに直談判して中等部の図書室への出入り権利をもぎ取ったライト。そのおかげで、魔法陣の予習も先んじてできるのは嬉しい誤算だ。

図書室にある魔法陣関連の本。その中にある挿絵や図解にある魔法陣を眺めては、ため息をつくライト。

そのため息には、様々な感情が含まれてれている。

まず一つ目は、単純にその美しさ、格好良さへの感嘆。

文字や模様が比較的少なめの初心者向けのものであっても、その整然とした構造は実に美しい。魔法陣そのものが『完成された美』であることをライトはまざまざと感じる。

二つ目は、魔法陣の習得への不安。

初心者向けのものでもそれなりに複雑そうに見えるのに、それより上のランクになればなる程壮絶に入り組んだものになっていく。

ライト自身はまだ魔法陣に関する理論を習っていないため、これらの複雑怪奇な魔法陣をどうやって起動するかなどは全く分かっていない。いずれ中等部に進学すれば、学園の授業で習い覚えられるのだろうが。

これ、もしかしてこの図柄を丸暗記せにゃならんの? 暗記に全く自信がない訳じゃないが、こんな複雑な図柄を丸暗記する自信はないぞ……うーん、今度レオ兄に魔法陣を覚えるコツとかあるか聞いてみよう……

そんなことを考えながら、ライトは魔法陣関連の本を捲っていくうちにふとあることを思い出す。

それは、転職神殿で出会ったヴァレリアのことだった。

『そういやヴァレリアさんも魔法陣使ってたよなぁ。あれもすっごく綺麗でカッコよかったけど』

『……ていうか、俺、そもそもこの世界の魔法陣使えるんかな? そこからして不明なんだよなぁ』

『BCO由来のスキルは問題なく使えるけど、それ以外は一切使えません!とかなったらどーーーしよ……落ちこぼれとかいうレベルじゃ済まなさそうだ』

『そこら辺も、ヴァレリアさんに聞けるものなら聞いてみたいけど……質問できるのは、四次職マスター一回につき一つだしなぁ』

『もうそろそろ【神霊術師】の習熟度もMAXになりそうだし、次の質問の吟味もしておかないとな』

思考があちこちに飛んでとっ散らかるライト。

まだ冒険者登録できる年齢に満たないライトは、実際に魔法陣を目にする機会はほとんどない。

だが、先日のレオニスの魔石生成用魔法陣以外にも魔法陣を見たことはある。それは、ヴァレリアがライトのために施した瞬間移動装置関連である。

あの時ヴァレリアは、転職神殿の敷地内に瞬間移動の基点の魔法陣を敷き、魔石にも同様の魔法陣を展開して魔石の中に閉じ込めていた。

その時に見た魔法陣も、実に壮大で見事なものだった。その大きさ、模様や図形の緻密さ、全てが圧倒的にして圧巻。ヴァレリアの後ろで見ていたライトは、言葉を失いながらヴァレリアの作業を見ていたものだ。

果たしてそれらと同じことを、埒外の者であるライトは習得できるのだろうか。

ヴァレリアがライトを評して言った『埒外の人間』という言葉がライトに重くのしかかる。

普段の生活では忘れているその言葉は、常に頭の片隅に潜んでいて決して消え去ることはない。ライト自身、その言葉に心当たりがあるのだから。

そしてライトがBCOのシステムに関して思考を巡らせた時など、ふとした拍子に蘇ってくるのだ。

そのことを思い出す度に、ライトは内心で不安に駆られる。

ヴァレリアが言う通り、サイサクス世界がゲームの世界であることを知っている自分は、この世界にとっては紛れもない異物なんだろう。

異物である自分に、平穏な人生って許されるもんなのかな。

間違ってもヴァレリア達が言うような、世界を救う勇者なんてものになるつもりは毛頭ないが、もし世界が異物を排除しにかかってきたらどうなるんだろう。考えたくもないことだけど。

そこまで真剣に考えながら、ライトが辿り着く先はいつも一つ。それは『キニシナイ!』である。

いや、冗談のように聞こえるかもしれないが、ライトは至って本気の大真面目である。

ライトとは立場が違うかもしれないが、同じくBCOのシステムを知るヴァレリアやミーアだってその存在を許されているのだ。ならば自分だってまだ当分は大丈夫だろう。

そもそもそんな先のことや見えない未来、対面したくてもできない 創造神(うんえい) の考えなんて、所詮ユーザー側である自分には知る術などないのだ。

だったら気にするだけ無駄というものである。

それは一見ただの現実逃避、もしくは問題の先送りのようにも思えるが、実際ライト自身の力でどうこうできるような代物ではないことは明白だ。

もし万が一、世界が俺を排除しにかかってきた時には、全身全霊全力で抗おう。そのためにも、何より俺自身がもっと強くなって力をつけなければ!

……でも、何事も起きないのが一番だけど。平和っていいよね。やっぱ平々凡々で穏やかな日々が一番だよ。ビバ日常!

普段は平穏、時々冒険、就活は円満、第二の異世界人生はこれでいきたい!是非ともよろしくおなしゃす!

ライトの懸念や不安は、こうしていつも誰に向けて祈るでもなく締め括られるのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

一方でレオニスはというと、週明けの月曜日早々に魔術師ギルドのピースのもとを訪れていた。

以前鑑定に出しておいた【火の乙女の雫】の鑑定書の受け取りと、魔宝石の魔力充填の成果を報告するためである。

いつものように顔パスで受付を通過し、ギルドマスター執務室に向かうレオニス。

執務室の中に入ると、そこには誰もおらず無人だった。

いつもなら書類の檻に囲まれたピースが机にいるはずなのだが、今日は執務室内のどこにもその姿が見当たらない。

だが、ピースが外出していて不在だとは受付嬢からは聞いていないので、魔術師ギルドの建物内にはいるはずだ。

レオニスが注文した浄化魔法の最上級呪符『究極』でも作成しているのか、あるいは別の仕事か研究でもしているのか。

いずれにしてもそのうち執務室に戻ってくるだろう、と考えたレオニスは応接ソファの椅子に座りながらのんびり待つことにした。

そうして待つこと約十分。執務室の扉が開き、ピースが帰ってきた。

「おにょ? レオちんでないの、やほーぃ♪」

「よう、ピース。お前いないから、ここで待たせてもらってたぞ」

「そかそか、そりゃお待たせしちゃってごめんねぃ。今ねー、レオちんからご注文いただいた浄化魔法の呪符を描きに出てたんだー。そのついでに今レオちんから預かってる【火の乙女の雫】を拝んできたのよー、ぃゃーありゃとっても良いもんだね!」

ウッキウキで非常に機嫌が良いピース。いつもならレオニスの顔を見る度に、即抱きついたりしがみついたりしてくるのだが、今日はそんな気配は全くない。

おそらくはデスクワーク以外の仕事をしていたせいだろう。

やはり適度な息抜き、ストレス発散は必要である。

「その【火の乙女の雫】の鑑定書は出てるか? あるなら今日受け取りたいんだが」

「あ、出来上がってるよー、ちょっと待ってねーぃ」

レオニスの問いかけに、ピースは自分の執務机に戻り引き出しをガサゴソと漁る。

ああ、あったあった、コレだ、と言いつつ封筒を出してきて、レオニスに手渡した。

封筒を受け取ったレオニスは、早速その場で中身を出して検める。

中にはレオニスが提出した【火の乙女の雫】が入った革の小袋と、鑑定結果が記された書類が入っていた。

鑑定書にざっと目を通していくレオニス。

「……ふむ、前回の【水の乙女の雫】の鑑定の時と基本的には全く同じか」

「そうだねー。水と火という属性の違いはあれど、どちらも属性の女王が生み出した産物だし。それぞれの属性の魔力がこれでもか!ってくらいに高濃度でギュウギュウ詰めなのが共通点だねー」

「ありがとう。これで鑑競祭りに二品目として出せる」

レオニスはピースに礼を言いつつ、鑑定書が入った封筒を空間魔法陣に仕舞い込む。

「それにしても、レオちんが鑑競祭りに出品者側として出るなんてねー。あまりにも意外過ぎて、小生その話を聞いた日は夜しか寝れなんだよ!」

「普通に夜寝てんじゃねーか……」

「てゆーか、乙女の雫を二種類も出品したらすごい金額になると思うけど……レオちん、大金が必要なことでもあるの?」

努めて明るく振る舞いながらも、心配そうに尋ねるピース。

鑑競祭りのことを教えてくれたクレアも、レオニスがオークションに出品したいと言い出したこと自体相当不思議がっていた。

ピースもクレアと同じくレオニスの性格は熟知している。基本金に執着しないレオニスだけに、そんなレオニスが大金を必要とするような事態にでも陥ったのか?と思ったようだ。

穿った見方ではあるが、友人を心配するが故と思えば理解できないこともない。

「あー、俺自身に金が要る訳じゃないんだ。オークションで得た金は、ラグナロッツァの孤児院の再建に全て使う予定でな」

「孤児院……ああ、そういうことね!そっかぁ、実にレオちんらしい理由で安心したよ」

「まぁな」

レオニスが孤児院出身ということは広く知られているので、レオニスの答えを聞いたピースもすぐに納得したようだ。

「てゆーか、レオちん、【炎の乙女の雫】は持ってないのん? 炎の女王には一番最初に会ったんでしょ?」

「あー、炎の女王から雫はもらってないな。そもそも炎の女王に会った時は、穢れに侵されてて瀕死の危篤状態だったからな……そんな状態で『雫くれ!』とか言えんよ」

「そりゃそうか。解呪してすぐにそんなこと言ったら、普通に外道認定されるよね」

「だろ?」

属性の女王を訪ねることになったきっかけは、炎の洞窟に住む炎の女王からの依頼だ。

炎の女王にも既に会っているのに、【炎の乙女の雫】は持っていないのか?とピースは思っていたようだ。

だが、浄化魔法の呪符で穢れを祓った直後に雫をねだるとか、鬼畜外道以外の何者でもない。

いくらレオニスが【角持たぬ鬼】という隠れた二つ名を持つからといって、そんな人の道を外れるような真似は絶対にしない。

「そしたら小生といっしょに炎の洞窟に行ったら、呪符のご褒美にいただけないか是非とも聞いてみようね!」

「ああ、そのために有給休暇を取るんだろ? ピースも仕事頑張れよ」

レオニスがクイッ、と親指で指したその先には、再び書類の山ができていた。

その光景を見たピースの目が半目になり、スーン、と表情が抜け落ちる。

先程まで好きなように、それはもう機嫌良くのびのびと呪符を描いていたというのに。再びデスクワークに追われる日々に逆戻りである。

「ぅぅぅ……レオちん、小生の代わりに判子押してよぅ……」

「馬鹿言え、魔術師ギルドの所属でもない俺がそんなことできる訳ねぇだろ」

「そんなこと言わずにッ!レオちん愛してるッ!」

「いや、お前に愛されてもこればかりはどうにもならん」

「うわぁぁぁぁんッ!」

魔術師ギルドのギルドマスター執務室に、ピースの絶叫が響き渡る。

組織の長たる者の務めとはいえ、毎日毎日書類仕事に埋もれてさぞ大変だろうとレオニスも思う。

なので、ここは魔術師ギルドの女性職員を見倣うことにした。

「まぁまぁ。その書類仕事が終わったらピースに美味しいおやつを出すように、俺の秘伝のスイーツを職員に預けておくから頑張れ」

「ぐすん……ン? 秘伝のスイーツて、何ナニ? どんなスイーツ?」

「うちの近所の貴族達もこよなく愛する極上のスイーツだ」

「貴族御用達の極上スイーツ……うん、小生今日もお仕事頑張る!」

レオニスが与えた褒美の品に、早速食いつくピース。やはりピースには美味しいおやつを用意するのが一番効くようだ。

ちなみにレオニスが言う秘伝のスイーツとは、ラウル特製カスタードクリームパイである。

先日の労使交渉で、レオニスがラウルに一個30Gで百個注文したやつである。

「じゃ、俺は帰る。ピースも仕事頑張れよ」

「うぃうぃ、レオちんまた来てねー!」

機嫌が戻ったピースを励ましたレオニスは、ギルドマスター執務室を後にした。