軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第529話 魔石生成用魔法陣の増設

ツェリザークでの濃密な土曜日を過ごした翌日の日曜日。

朝のルーティングを終えたライトは、レオニスとともに朝食を摂っていた。

「レオ兄ちゃん、今日は一番最初の魔宝石を回収してきたよー」

「おお、もうそんなに経つか」

「うん、今日でちょうど丸四週間になるからね」

「じゃあ後で二週間のものと比べてみるか」

朝イチの魔石回収で、今日は魔宝石の四週間ものを回収してきたライト。

今から四週間前に幻の鉱山で採掘をし、その時にライトが何気なく発した『水晶以外の宝石で魔石を作る』という案を現在検証中なのだ。

朝食を食べ終えて食器類を片付けた後、二人はそれぞれ一度自室に戻ってから再び居間にて集う。

ライトはウエストポーチを持ってきて、本日回収分の魔石を取り出しテーブルの上にザラッと無造作に置いた。

無色透明な水晶に、カタポレンの森の魔力がこれでもかと詰まった虹色の魔石。いつもの見慣れた魔石の中に、他の色付きの魔宝石がちらほらと入り混じる。

ライトは魔石以外の魔宝石だけを集め、レオニスに手渡す。

ライトから魔宝石を受け取ったレオニスは、一つ一つを手に取りじっくりと眺めている。

その間ライトは、レオニスが自室に保管していた二週間チャージの魔宝石を手に取って眺める。

「んー、色はそこまで大きく変わらないっぽい?」

「そうだなぁ……四週間ものの方が少しだけ濃い気はするが」

「手に持った感じはどう? 何か違うところある?」

「んーーー……四週間ものの方が高魔力なのは間違いないが、どれほど違うかまでは分からん」

レオニスが二つのルビーの原石を右手と左手に持ち、見比べている。

色は二週間ものの方が明るく、もともとの宝石の色を倍に濃縮したような色だ。それに比べて、四週間ものの方は二週間ものをもう少し濃くした色になっている。

「そしたら三週間ものも作ってみる?」

「一応作ってみるか……研磨後の宝石での充填品とも比べなきゃならんし、結構やること多いな」

「研磨後の宝石は、この原石の魔宝石と入れ替えで置いてきたよー」

「おお、さすがだな。そしたら今日は、魔石生成の魔法陣をいくつか増やしてくるかな。この先まだまだいろんな実験しなきゃならんだろうし、現状じゃ魔法陣の数が足らん」

レオニスは、今から魔石生成の魔法陣を増設しに出かけると言う。

魔宝石という新たな試みを軌道に乗せるには、これからまだたくさんの実験や検証を行わなければならない。充填の日数はもとより、宝石の大きさの違いによる充填の差異や宝石ごとの充填量の比較もしなければならない。

そして、何より一番のネックとなるのが充填期間の日数だ。

魔法陣一つにつき、充填できる石は基本的に一つ。通常より小粒の水晶の場合、二つ置いて同時に充填することもあるが、そうしたケースは稀だ。

宝石にカタポレンの森の魔力を充填している間は、当然のことながら他の石は置けない。

二週間や四週間もの長い期間が必要な作業を複数こなしていくには、今まで用いてきた魔法陣だけでは絶対に足りないことは明らかだった。

「あ、そしたらぼくもレオ兄ちゃんについていっていい? 新しい魔石生成の場所を知っておきたいし、魔法陣を作るところも見てみたい!」

「おう、いいぞ。んじゃいっしょに行くか」

「うん!」

ツェリザークに出かけた次の日はゆっくり休みたいから、と土曜日に出かけたライト。

ゆっくりと休む予定だった日曜日も、結局はこうして何だかんだと出かける予定が入ってしまう。

だが、当の本人は『魔法陣作るところを見たい!』という知的好奇心から動いているだけなので、苦にもならないようだ。

朝食を食べ終えて食器類を片付けた後、二人は支度を整えて早速出かけていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

二人は魔石用の魔法陣が設置されていない、家から最も近場に向かう。

ここ最近ちょくちょく魔石用の魔法陣を増設したので、家の近場はもう新設できる場所がほとんどない。魔法陣同士の間隔をそれなりに空けておかなければ、魔力の奪い合いになって充填効率が落ちるのだ。

稲作などの農業じゃないが、間引きのような適度な間隔が魔石の生成にも必要なのである。

故に家から結構離れた場所まで行かなければならないが、これはこれでライトの走り込み修行が増量できて好都合である。

「ここら辺まで来ればいいかな。さて、ここで問題を出そう。ライトならどこに魔法陣を作る? ここがいいな、と思った場所を指してみな」

「んーーー……少し見て回ってもいい?」

「ああ、いいぞ。多少時間がかかってもいいから、お前が『ここだ!』と思う場所を見つけてみろ」

レオニスが出してきたクイズに、ライトは果敢に挑戦する。

試験のような時間制限はないようなので、ライトは周辺を散策しながらじっくりと観察する。といっても、所詮は森の中なので、ものすごく複雑な地形をしている訳ではないのだが。

既存の魔石生成用魔法陣は、木の切り株や比較的平らな石の上だったり、あるいはレオニスが作ったであろう簡易的な祠などを利用して設置されている。

そうした前例を基に考えながら、森の中を見て回るライト。ゆっくり歩きながら、上下左右満遍なくつぶさに観察していく。

しばらく観察した後、ライトはレオニスに己の意見を告げる。

「ンーーー、ぼくだったらこの岩?に置くかな」

ライトが指差した先には、小さな岩があった。

ライトの頭一つ分くらいの大きさほどのそれは、一見石のように見える。だが地面にガッツリ埋まっている様子からして、石ではなく岩だ。

地面の下のどのくらいまで埋まっているかは分からないが、少なくとも多少の風が吹いたところでびくともしないだろう。

実際レオニスがその岩の前に屈み、右手に取って持ち上げようとするも動く気配はない。

「目の付け所がいいな。この辺なら、俺でもこれを選ぶだろう」

「じゃあ、正解?」

「おう、正解だ。という訳で、早速ここに魔法陣を置くぞ」

ライトの選択は正解だったようだ。

魔石生成用の魔法陣を置く場所、その選定基準はいくつかある。

まず一つ目は『不動であること』。

野外という環境にある以上、雨風という自然の天候に四六時中晒される。多少の雨風で崩れたり壊れたりするような、脆い場所は不適切なのだ。

二つ目は『目安となりやすいこと』。

魔法陣を設置したはいいが、次に魔石を回収しに行った時にどこに置いたか分からないようでは話にならない。ただでさえ似たような木々が生い茂る森の中、ぱっと見てすぐに『ここに魔法陣がある』と分かる特徴がある場所でなければならないのだ。

主にこの二つを満たせば、魔法陣の設置場所としては合格だ。

後は他の魔法陣との距離を保てればOKである。

ちなみにどうしても適切な場所が見つけられない場合は『木を一本切り倒して切り株を作る』という、かなり強引な手段を取ることもできる。

もちろん切り倒した木はその後何らかの形で有効活用するが、それでもなるべくならば回避したい最終手段である。

レオニスは小岩の前で立ち上がり、ライトに向かって声をかける。

「じゃあ今からこの岩に魔法陣を置くぞ。よく見てな」

「うん!」

ライトは急いでレオニスの少し斜め後ろに移動し控える。

レオニスの一挙手一投足を見逃さぬよう、真剣に見入るライト。

レオニスは徐に右手を前に翳し、魔法陣を宙に展開させる。

レオニスの手のひらの前、小岩の真上に一点の光が湧き、そこから音もなく一気に円形状の魔法陣がブワッと浮き出てきた。

その真円の魔法陣は、直径で1メートルくらいあるだろうか。

魔法陣の中には幾重もの円や、文字とも記号ともつかぬ模様のようなものがびっしりと描かれており、これぞ魔法陣!といった展開図である。

その魔法陣を、今度は縮小させるレオニス。

魔法陣を15cmくらいに凝縮させたら、小岩の上で水平に寝かせてから手を下に下ろしていく。

手が下りる動作に合わせるように、水平になった魔法陣も下がっていく。

そうして魔法陣が小岩の上に完全に被さった後、レオニスが翳したその手を握りしめるように閉じれば魔石生成用の魔法陣の設置完了だ。

普段から職業システムやらレシピ作成やら、クエストイベントやら使い魔システムであれやこれやと忙しなく暗躍しているライトだが、実のところ魔法陣というものには前世今世ともにとんと縁がないまま生きてきた。

そんなライトにとって、今目の前で展開されている光景はまさに心躍るファンタジー世界だった。

「……よし、これで設置完了だ」

それまでずっと、レオニスの後ろで固唾を呑みながらその作業を邪魔しないよう、じっと静かに見守っていたライト。

レオニスの完了宣言を聞き、ようやく動いていいと思ったのか一気に歓声を上げた。

「おおお……レオ兄ちゃん、すごい!魔法陣カッコいい!綺麗!」

「そうか? ン、まぁな、まだライトの年齢じゃラグーン学園で習ってないか」

「うん。魔法の基礎的な授業はあるけど、実践は中等部になってからだって聞いたよ」

「そうか、じゃあ今から二年は先の話なんだな」

目をキラッキラに輝かせながら、レオニスが展開した魔法陣を大絶賛するライト。

興奮気味に褒め称えるライトに、レオニスは照れ臭そうにはにかむ。

レオ兄って、いっつも脳筋脳筋言われがちで実際その通りなんだけど、ただの脳筋じゃないんだよね!

こんなに繊細で綺麗な魔法陣を扱えるなんて、本当にすごい!

ぼくもレオ兄みたいな【繊細なる脳筋魔法紳士】になりたい!

ライトはそんなことを考えながら、レオニスを尊敬の眼差しで見つめる。

考えていることは何気に失敬な成分が多めだが、ライトのレオニスへの尊敬は嘘偽りない本物である。

「ぼくも早く魔法陣が使えるようになりたい!」

「そうだな、そしたらラグーン学園での勉強ももっともっと頑張らないとな」

「うん、頑張る!」

「さ、そしたら次の設置場所探しに行くぞー」

「はーい!」

未だ興奮醒めやらない様子のライト。そんなライトの頭をくしゃくしゃと撫でながら、レオニスが微笑みながら励ます。

次の魔法陣設置場所を見つけるべく、移動しながら森の中を観察するライト。

先程魔法陣を設置した場所から、ある程度離れた場所で今度は木が倒れて折れたであろう切り株のなり損ないを見つけたライト。

喜び勇んでレオニスに声をかける。

「あっ、レオ兄ちゃん!この木の折れたところなんてどう?」

「お、いいじゃないか。そしたら根元を切って平らにして魔法陣を置くか」

「やったー、また採用されたー!」

「ライトは良い場所をすぐに見つけるなぁ、なかなかに良い目を持ってるぞ」

「ホント!? そしたらぼく、中等部に入ってすぐに魔法陣が使えるようになるために、今から魔法の勉強をもっともっと頑張る!」

またも自分の見立てが採用されたことに、生き生きとした表情で喜ぶライト。

未来を見つめる子供の眼差しの何と眩しいことか。

そんなライトの輝かしい姿を、そのすぐ横で見つめるレオニスの胸には様々な思いが去来する。

ただでさえ普段から賢いライトのことだ、きっと俺よりもはるかにすごい冒険者になるに違いない。

グラン兄……兄貴の子は、こんなにも将来有望な子に育ってくれてるぞ。ただの育ての親の俺ですら、その成長がこんなに嬉しいんだから、グラン兄達が生きていてくれたらきっと―――いや、絶対に『俺達の自慢の息子だ!』とか言いながら、ライトを育てていただろうな……

グラン兄、そっちでレミ姉といっしょにライトのことをずっと、ずっと見守っててくれよ―――

外では喧嘩っ早かったが、孤児院仲間にはずっと甘かったグランに、そんなグランを窘めつつも結局は自身も皆に甘かったレミ。彼らが孤児院にいた頃の、二人の優しい笑顔がレオニスの脳裏に浮かぶ。

瞼に浮かぶライトの父母達に、その息子ライトの加護をただただ願うレオニスだった。