軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第523話 春の雪原

ラグナロッツァの屋敷のガラス温室建設が順調に進む中、その様子をライトもまたつぶさに見ては喜んでいた。

ライトがラグーン学園から帰宅すると、職人達が温室の建設仕事をしている。毎日少しづつ、温室の形が出来上がっていくのを見守るのがとても楽しい。

ライトは門扉から玄関までの間に、仕事をしている職人達に「お疲れさまです!」「お仕事頑張ってくださいね」などと必ず声をかけながら屋敷に入っていく。

職人達も「ありがとうございます!」「はい、頑張ります!」とライトの声援に答えながら、ライトが屋敷に入っていくのを微笑ましく見送る。

見送った後で、職人達は皆口々に「賢い坊っちゃんだなぁ」「貴族の子にしちゃ俺達平民にも礼儀正しくて良い子だよな」とライトを褒め称える。

もっとも、ライトは貴族ではなく平民なのだが。

ここは貴族街の邸宅なので、このエリアに住んでいるのは貴族というガッチガチの固定観念が人々の間にあるのだ。

そんなある日のこと、ラグーン学園から帰宅していつもよのうにおやつを頬張るライトにラウルが提案してきた。

「なぁ、ライト。今度の土曜日か日曜日に、ツェリザークに行かないか? 土日はガラス温室の工事も休みだし、夏になる前にもう一度ツェリザークの雪を採っておきたいんだ」

「ツェリザーク? いいねー、いっしょに行こうか。ぼくもツィちゃんにあげる雪をもっと確保しておきたいし。……あっ、そしたらアルにも会いに行きたいな!」

「アルって何だ? ライトの知り合いか?」

ラウルの提案に、ライトもノリノリで乗ってきた。

ツェリザークと言えば、氷の洞窟や雪の他にもアル親子が氷の洞窟近辺に住んでいる。

ライトも久しくアルに会っていないので、ツェリザークに行くなら是非ともアル親子にも会いに行きたいところだ。

だが『アルに会いたい』と聞いたラウルが、きょとんとした顔でそれが何者かを聞いてきた。

そう、ラウルはアル親子にはまだ一度も直接会ったことがないのである。

「あ、そっか、ラウルはアルに会ったことはなかったっけ。前にも話したことがあると思うけど、アルってのはぼくのカタポレンの友達で銀碧狼なんだ。前にカタポレンの家で一ヶ月くらいいっしょに過ごしてたんだ」

「そういや前に『銀碧狼の親子に会いに行く』とか言って、フェネセン達と出かけたことがあったな。その時の親子か」

「そうそう、それそれ。あの時も、ラウルに手土産として唐揚げを頼んだよね。アル達もラウルの唐揚げ、とっても美味しいって気に入って食べてたよ」

「そうか、そりゃ良かった。にしても、銀碧狼とはまた珍しいもんと友達なんだな」

うん、プーリアほど珍しくはないと思うけどね!とは思っても口にはしないライト。見た目は子供、中身は大人である。

「そしたら土曜日と日曜日、どっちがいい? 俺はどっちでもいいので、ライトの都合の良い方に合わせる」

「んー、そしたら土曜日がいいかな。雪も採ってアルにも会って、結構忙しくなりそうだし。できれば次の日ゆっくり休みたいな」

「分かった、じゃあ土曜日に行こう」

「そしたらアル達へのお土産も用意しなくちゃ!ラウル、唐揚げをたくさん作っといてくれる?」

「了解」

次の週末の予定が決まった瞬間だった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

そして来たる土曜日。

ライトは朝のルーティンワークを早々に終え、ラグナロッツァの屋敷でラウルと早めの朝食を摂っていた。

「ラウル、ツェリザークにはどうやって行く? ウィカを呼んで黄泉路の池に飛ぶこともできるけど」

「そうだなぁ……俺としては冒険者ギルドの転移門で行きたいところなんだが」

「そうなの? ツェリザークの冒険者ギルドの依頼掲示板でも見たいの?」

「それもあるが、ぬるシャリドリンクの行く末が気になる」

「あー、あのぬるシャリドリンクね……うん、確かにあれからどうなったかは気になるね」

コストで言えば、ウィカに協力してもらって黄泉路の池から行き来する方がいいのだが。ラウルとしては、冒険者ギルドの転移門を使ってツェリザークに行きたいらしい。

その立ち寄りたい理由がぬるシャリドリンクと聞き、ライトは納得した。

ツェリザーク名産品である氷蟹の旨味エキスがたっぷり入った、冒険者ギルドツェリザーク支部の売店のみで販売しているぬるシャリドリンク。

限定品と銘打つわりには微妙なその味は半ばネタと化し、罰ゲーム用の飲み物として使われる有り様だった。

そんな不遇の品に、料理のお出汁としての価値を見い出したのがラウルである。

販売不振と評判の悪さから、廃番一歩手前という噂をレオニスから聞き『こんな旨いものを生産中止なんてとんでもない!そんな暴挙、俺は絶対に認めんぞ!』と立ち上がったラウル。

自らツェリザークに赴き、ギルド併設の酒場食堂で実演販売のようにぬるシャリドリンクを使った料理をツェリザークの冒険者達に振る舞った。

その結果、その日のギルド売店ではぬるシャリドリンクが飛ぶように売れたのは記憶に新しい。

あの怒涛のデモンストレーションから約三ヶ月。

それからツェリザークに行く機会がなかったので、その後のぬるシャリドリンクがどうなったかは誰も知らないのだ。

ラウルが身命を賭す勢いで売り込んだ、ツェリザーク名物のぬるシャリドリンク。果たしてその絶体絶命の危機を救えたのだろうか。

ラウルが旨味調味料として愛して止まない品の、その後の行く末はライトとしても大いに気になるところである。

「じゃあ、冒険者ギルドの転移門でツェリザークに行こうか」

「ああ、そうしてもらえると助かる」

「久しぶりのツェリザーク、楽しみだね!」

朝食も食べ終え、準備万端整えた二人は冒険者ギルドに向かって出かけていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「うはぁー、まだ全ッ然寒い!」

「おおお……四月も半ばだってのに、まだ普通に息が白くなるぞ……」

冒険者ギルドツェリザーク支部に移動し、早速街の外に出たライトとラウル。

城壁内部も結構な肌寒さだったが、城壁の外はさらに寒かった。気温で言えば、ラグナロッツァの一月や二月の気温と大差ないくらいの寒さに感じる。

それもそのはず、城壁の外はまだ一面白銀の世界だ。雪こそもう降ってはいないが、前に降って積もった分がまだ解けずにそのまま残っている。

ライトはそれまで外していた頭のフードをすっぽりと被り、マントに魔力を通して温かさを得る。

今日ライトが着てきたのは、アイギス特製のリバーシブルマントである。

もともとは炎の洞窟での調査用に作ってもらった品だ。炎の洞窟の熱さに耐えられるだけでなく、内側の凍砕蟲糸の生地を表にすれば耐寒仕様のマントにもなる。

寒暖どちらにも使える、実に優れた特別仕様のマントなのだ。

ちなみにラウルは身体の周りに魔力をまとわせているので、そこまで寒さは感じない。今日のツェリザークの寒さ程度なら、まだギリギリ許容範囲内だ。

ただし、これ以上寒くなると身にまとわせる魔力量も多く必要となり、必然的に魔力消耗が激しくなるのでさすがに着衣を多めに着込む必要が出てくるが。

「ラウルはあまり着込まなくてもいいから、身軽そうでいいなー」

「まぁそうは言ってもな、これ以上寒いのはさすがに何か着なきゃキツいがな」

「そういえば、アイギスで冒険者登録祝いのコートをもう注文したんだっけ? 早く出来上がるといいね!」

「ああ、黄金週間が終わった頃には仕上がるって話だから、今から楽しみだな」

「出来上がったらぼくにも見せてね!」

「もちろんだ」

ラウルの冒険者登録祝いのコートが出来上がったら、冒険者ギルドの依頼をこなす以外にも今日のようなお出かけ時に活用できるだろう。

ラウルやレオニスからは『アイギスで天空竜の革を用いた黒のコートを注文した』という話しかライトは聞いていない。なので、どんなコートが仕上がるかは全然まだ知らない。

ちなみにレオニスとラウルが危うくペアルックになるところまった、という話はライトにはしていない。そんな話をライトに明かしたところで一体誰得?である。

そんな他愛もない話をしているうちに、そろそろ採取に手頃そうな雪原になってきた。

「よし、そろそろ雪狩りを始めるか」

「うん!……あ、ちょっと待ってね、今からアルの居場所を探知する魔導具を着けるから……」

ライトはそう言うと、マントのポケットに忍ばせておいたイヤーカフを右耳に着ける。

これはフェネセンがライトとアルのために、双方に持たせてくれたものだ。これがあれば、ライトの方からアルがどこにいるのかが探知できるのだ。

イヤーカフ耳に着けた後、フェネセンが言っていたように『マップ』と念じる。すると、目の前にホログラムのような地図がふわっと開いた。

その地図を眺めると、北西方向にアルと思しき緑の点が浮かんで見えた。

「ここから北西の方向にいるみたい。まずは北西に進んでいこうか。ぼくがアルのいる方向に向かって歩いていくから、ラウルは少し後ろについてきてね」

「了解」

「あ、今日は魔物避けの呪符は使わないから、もし魔物が出てきたらラウルにお任せするのでよろしくね」

「おう、任せとけ」

今日もライトの指示に迷うことなく従うラウル。これではどちらが大人か全く分からない。

だが、ライトとラウルはこれでいいのだ。二人の間には揺るぎない絆があるのだから。

「さ、じゃあ雪や素材になりそうなものをガンガン採取していこーう!」

「おー!」

四月になっても未だ白い、ツェリザーク郊外に広がる雪原。

ライト達にとってはお宝がぎっしり詰まったも同然の、見渡す限り広がる雪野原を意気揚々と進んでいった。