軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第520話 黄金週間の予定

桜の花も散り、街並みの木々も葉桜や新緑が増えてきた頃。

とある日のラグーン学園の昼休みの風景。

この日は朝から雨がずっと降っていて、いつも昼休みは外で遊ぶ面々も教室で過ごしていた。

「んもー、雨なんてつまんなーい!」

「こればかりはしょうがないよ。それに、雨も時々振らないと水が足りなくなったら困るし」

「えー、そんなの水魔法で何とかすれば良くない?」

雨が降っていて外で遊べないイヴリンが、自分の机に座りながら頬を膨らませている。

そんなイヴリンをジョゼが宥めるも、イヴリンと同じく外で遊ぶ組のリリィもまた不満そうにジョゼに反論する。

「いいえ、人の手で出せる水の量なんて高が知れてますわ。大自然の力の前には、人の力など微々たるものです」

「そうだねー、だから雨も適度に降ってくれた方が全体的に見れば楽だよねー」

「そういうもんなのかなぁー」

「リリィも難しいこと分かんない!」

知性派筆頭のハリエットの論に、中身アラフォーのライトも賛成すると、イヴリンもリリィも何となくだけど雨の必要性を理解したようなしてないような感じになる。

ラグーン学園初等部二年A組の教室は、今日も平和である。

「あ、ねぇねぇ、そういえばさ、もうすぐ黄金週間だよね!皆は何か予定入ってるの? 私はねぇ、『黄金鯉のぼりの掴み取りチャレンジ』をしに行くんだー」

「僕は従兄弟と『五月病御祓いスタンプラリー』に回る予定だよ」

「私はプロステスの伯父様達とともに首都観光する予定ですの。伯父様は毎年黄金週間の時期に、家族皆で首都視察にいらっしゃるので、おもてなしがてらスタンプラリーなどを見て回るんです」

「私はいつも通りお店の手伝いよーーー……」

イヴリンがもうすぐやってくる黄金週間の話題を振ると、それぞれが予定を答える。

イヴリンとジョゼは黄金週間三大ビッグイベントに参加し、ハリエットはプロステス領主のアレクシス一家の首都視察の歓迎、そしてリリィはいつものように実家の宿屋兼定食屋のお手伝いである。

皆もうそれぞれに予定が入ってるんだなぁ、とライトはニコニコしながら友人達の話を聞いている。

そんなライトを見たイヴリンがライトに問うた。

「ライト君はまだ何も予定入ってないの?」

「ン? ぼく? えーとね、何かレオ兄ちゃんが鑑競祭り?ってのの後半? 黄金週間の最終日のオークションイベントに出品するらしくてさ。それを見に行くんだー」

「「「「…………」」」」

ライト以外の四人が、ライトの言葉を聞いて目を丸くしている。

四人から驚きの眼差しを受けたライト、慌てて皆に問いかけた。

「え、ちょ、何、ぼく何かおかしなこと言った?」

「鑑競祭りの後半に出品者側で出るって、すごくない?」

「うん、あれに出られる人って僕初めて見た」

「ぼくが出る訳じゃないよ? 観覧席には連れてってもらうけど」

「それでも十分すごいことですわ!」

「そうなの? ぼく、ラグナロッツァで黄金週間を過ごすのって初めてだから、よく知らないや……」

黄金週間三大名物のスタンプラリーや掴み取りチャレンジと違い、鑑競祭り第二部は事前審査が必要で飛び入り参加はできない。

そういう意味でも、鑑競祭り第二部に出られるのはごく一部の人間だけなのだ。

「黄金週間中って、スタンプラリーや掴み取りチャレンジ以外にも何か楽しいイベントとかあるの?」

「えーとねぇ、黄金週間中はあちこちに屋台が出るし、これからいろんなイベントチラシが出てくると思うよー」

「屋台かー、お祭りにはやっぱり屋台は欠かせないよね!」

「生誕祭の時ほどたくさんではないけどねー」

毎年恒例の三大ビッグイベントや屋台以外のイベントは、どんなものが出るかまだ分からないらしい。

きっとまたイヴリンやジョゼがいろんなチラシをかき集めて、皆に教えてくれるだろう。

「イヴリンちゃん、スライムショーのように私でも行けそうなイベントあったら教えてね!」

「うん、いろんなチラシを集めておくわ!」

「皆で行けるイベントがあったらいいねー」

「もし皆さんでイベント行くのでしたら、是非とも私も誘ってくださいね!その時だけは視察から抜け出てきますから!」

「ぼくも最終日の鑑競祭り以外の時間なら絶対に行きたいな!」

皆生誕祭の時のレインボースライムショーがよほど楽しかったのか、また全員でイベントを観に行きたいようだ。

約半月後に迫った黄金週間を、皆今から楽しみにしていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ライト達が黄金週間の話題で盛り上がっていた頃。

レオニスは魔術師ギルドに来ていた。

その目的は、鑑競祭りに出品する【火の乙女の雫】の鑑定依頼を出すためである。

馴染みの受付嬢に、早速相談するレオニス。

ピースの顔を見がてら直接頼んでもいいのだが、高額な呪符の作成依頼ならともかく鑑定依頼程度でギルドマスターの手を煩わせても申し訳ない、と思ったからだ。

「すまんが、稀少品の鑑定依頼を出したい。最近冒険者ギルド経由で鑑定依頼を出した【水の乙女の雫】と同等品なんだが」

「でしたらこちらの書類に必要事項をご記入ください。お品物を当方にてお預かりいたします」

「鑑定結果は何日くらいで出る?」

「そうですね、五日後にはお渡しできるかと」

レオニスと受付嬢がそんな会話をしていると、受付嬢がふとレオニスの背後を通った人物に声をかけた。

「あ、ニコラスさん、ちょうどいいところにいらっしゃいました。ちょっとよろしいですか?」

「ん? どうしたね、私に何か用かね?」

「こちらのレオニスさんが、稀少品の鑑定依頼を出したいそうで。先日のものと同等品らしいですよ」

「何ッ!? あれと同等品だと!?」

受付嬢の言葉に思いっきり食いつきながら、カウンター目がけてすっ飛んできたニコラス。

二人のやり取りを横で眺めながら、レオニスは『ニコラス? あの鑑定書の文末に署名捺印した人物が、確かそんな名前だったな』と思い出していた。

常磐色の瞳に濃灰色のセミロングの髪を後ろで一つに軽く結わえ、無精髭を生やした白衣の中年男性。年の頃は四十路半ばあたりか。

この人物こそ、先日レオニスが提出した【水の乙女の雫】を鑑定した魔術師ギルド第一研究室室長その人である。

つーか、この人歳の割にはえらく良い体躯してるな。魔術師ってよりどっちかってーとパワー型戦士に見えるが……ホントに魔術師か?

レオニスがそんなことを考えながらニコラスを眺めていると、それまで受付嬢と向かい合っていたニコラスがガバッ!とレオニスの方に向き直った。

「おお、君がレオニス君か!いつもお噂はかねがね聞いていたが、こうして直にお会いするのは初めてですな!」

「あ、ああ、初めまして、だな」

「ああ、失礼、私はニコラス・クラッセン、魔術師ギルドにて第一研究室室長を務めております」

「俺はレオニス・フィア、冒険者ギルド所属の冒険者だ」

溌剌とした快活な声でレオニスに挨拶をするニコラスに、若干圧され気味のレオニス。

だが、ニコラスは多少テンションが高めなだけで、悪い人ではないことはレオニスにも分かる。

故に二人はどちらからともなく握手を交わす。

「ささ、こんなところで立ち話も何ですし、よろしければ是非とも当方の研究室にてお話を伺わせていただきたい!」

「ああ、そうだな、そうしようか」

【火の乙女の雫】という、世にも珍しい稀少品の話をこんな人の出入りの多い場所でする訳にはいかない。ニコラスの申し出はそうした配慮によるものだ。

ニコラスの勧めに従い、レオニスは彼とともに第一研究室に移動した。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「この通り狭苦しい研究室でして、大してお構いもできませんがお茶をどうぞ」

「気遣い無用だが、ありがたくいただこう」

研究室に通されたレオニス、ニコラスが急いで淹れてきたお茶を一口二口啜る。

爽やかな香りのするハーブティーは、眠気覚ましのためのお茶だろうか。

勧められたお茶を飲んだ後、早速レオニスの方から話を切り出した。

「先日の【水の乙女の雫】の鑑定では世話になった。鑑定書に書いてあったあんたの適切な分析のおかげで、より有効的に活用できることになった」

「そうですか、それは何よりですな!……で? 先程のお話、それと同等品をお持ちとお聞きしましたが……」

「ああ、今度は【火の乙女の雫】を手に入れてな。それの鑑定書が必要なんだ」

「おお、【火の乙女の雫】ですか!これまた何という貴重な品を……エリトナ山まで出向いたのですか?」

今回の稀少品は【火の乙女の雫】だと聞き、思いっきり目を輝かせるニコラス。

ニコラスがエリトナ山の名を出したことに、レオニスは少しだけびっくりした顔になる。何故ならば、火の女王の住処がエリトナ山であるというのは基本的に冒険者が持つ知識だからだ。

ただの魔術師ならば、あまり知る必要のない知識。それを知っているのは、冒険者パーティーに所属する魔術師くらいのものである。

「あんた、魔術師ギルドの研究室室長ってことだが。もしかして、かつて冒険者だったのか?」

「ご明察。かつて白銀級冒険者として活動していたこともありました。もう二十年も前のことで、冒険者としては十年程度しか活動してませんがね」

「そうか、道理で良い体躯してる訳だ」

「二十年前に冒険者を引退してからは、第二の人生として魔術師を極めたい!と一念発起しましてな。二十年かけてようやく研究室を与えられる程度にはなりました」

やはりレオニスが推察していた通り、ニコラスはかつて冒険者として活動していたようだ。

ただ、その活動も二十年以上前ということだから、レオニスとは活動時期が被らない。故にこれまで互いの存在を知る機会が全くなかったのだ。

「ところで、【火の乙女の雫】の鑑定書は早急にご入用ですかな?」

「ああ、できれば早めに出してもらえるとありがたい。今度の鑑競祭りのオークションに水と火、二つとも出品することになったんでな」

「そうですか、あの雫は実用性よりも鑑賞用としての需要や価値の方がはるかに高いでしょうからね。賢明な判断かと思いますよ」

オークション出品のために鑑定書が要るということに、ニコラスは特に何かを物申すことはない。

稀少なものほど品物の真贋の鑑定は必要だし、その売り買いに際して鑑定必須なことも多い。

今回のレオニス同様に、鑑競祭りの出品のために鑑定依頼されるのもよくあることだからだ。

「受付嬢は五日後には鑑定書を出せると言っていたが、それで間違いないか?」

「ええ、五日もあれば出せますので、五日後にまたお越しいただければお渡しできるかと」

「そうか、ならばそれでよろしく頼む」

レオニスはそう言うと、空間魔法陣から一粒の【火の乙女の雫】をニコラスに手渡した。

レオニスから【火の乙女の雫】を受け取ったニコラスは、己の手のひらにあるそれを感嘆の眼差しで見つめる。

「おおお、これが【火の乙女の雫】……真なる火とは、やはり青白く輝くものなのですな……」

「では五日後にまた来るから、鑑定をよろしく頼む」

「は、はい!このニコラス・クラッセンにお任せください!」

黙っていたらいつまででも見惚れていそうなので、レオニスがクラッセンに一言声をかける。

無事【火の乙女の雫】の鑑定依頼を出し終えたレオニスは、ニコラスと再び握手を交わし魔術師ギルドを後にした。