軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第507話 新学期の始まり

ラグナ歴813年4月5日。

この日からライトはラグーン学園初等部二年生になる。

ライトの初めての春休みは昨日で終わり、今日からいよいよ二年生としての新学期が始まるのだ。

新学期初日の晴れやかな早朝。ライトはいつもと変わらずカタポレンの森を縦横無尽に駆け抜け、走り込み修行のついでに魔石を回収していく。

「おおー、魔宝石の魔力充填も結構順調っぽい?」

ライトの発案により始まった、ルビーやエメラルド、サファイア等の宝石の魔石化。

ライト達は従来品の水晶の魔石と区別するために、色付きの宝石を用いた魔石を『魔宝石』と呼ぶことにした。

現在は宝石の原石への魔力充填実験中であり、魔石回収担当であるライトも時折観察するようにしている。

ちなみに魔宝石用に新設した魔石生成用の魔法陣は五ヶ所。

現在はルビー、エメラルド、サファイア、ダイヤモンド、トパーズの原石を置いて充填中である。

「魔宝石の実験を始めてから、今日で十日目くらいだけど。パッと見ただけでも結構色が濃くなってる、ような、気がする」

「でもこれ、まだあと半月くらい充填しなきゃなんないんだよね……先は長いなぁ」

魔術師ギルドマスターであるピースの要請により、四週間充填したものをまずは用意することになった。従来品の倍の時間をかけて充填した場合、どれだけ魔力の貯蓄量や色合いが変化するか等を確認したいらしい。

それと並行して、他の既存の魔石生成魔法陣にも色付き宝石の原石を置き、二週間の充填品も準備中だ。

ちなみに現在魔力充填中の魔宝石類、ライトの目には全てが充填前より色が濃くなっているように見える。ルビーはガーネットの手前くらいの濃い赤に、エメラルドは濃緑に、サファイアも深い瑠璃色に、それぞれより濃い色合いになっている。

あと三週間くらい魔力充填を継続しなければならないが、この先どういった変化が起きるか今から楽しみである。

朝のジョギング修行を終え、家に帰宅したライト。

レオニスが用意してくれた朝食をともに食べ、早々にラグナロッツァの屋敷に移動する。

転移門のある部屋には、ラグーン学園の制服や鞄などの学用品一式が置かれている。

転移直後にその場ですぐに制服に着替え、鞄を持って一階に降りるライト。

階段を降りる間に、空に向かって万能執事の名を呼ぶ。

「ラウル、おはよーぅ」

一階の玄関ホールに着いた時に、己の名を呼ばれたラウルが音もなくその姿を現す。

「小さなご主人様、おはよう。おっ、今日からまたラグーン学園通いが始まるのか」

「うん、今日から二年生だよ!学年が上がると授業も増えるから、家に帰る時間は今までより少し遅くなると思うけど。まだ二年生だから、そんなに遅くはならないと思うー」

「そうか、じゃあこれからも学園から帰ってきたらおやつにしような」

「うん!楽しみにしてるね!」

ライトの制服姿を見て、今日からまたラグーン学園通いが再開されることを知るラウル。

ライトが特に何を言わずとも、ラウルの方から美味しいおやつをともに食べる約束をしてくれる。さすがは万能執事である。

「あ、今日は半日で終わるからお昼いっしょに食べようね」

「おう、ライトも気をつけて行ってこいよ」

「はーい、いってきまーす!」

ラウルに見送られながら、ライトは屋敷を元気に出ていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ラグーン学園初等部二年A組の教室。

下駄箱は二年生用のエリアに変わり、教室の場所も二階に移動になった。階段を登る分だけ前より移動時間かかるから、もう少し早めに登校してもいいかもなー、と思いつつ教室に向かうライト。

教室の扉を開くと、そこには始業式が始まる前の賑やかな風景が広がっていた。

「あッ、ライト君、おはよー!」

「おはよう!」

久しぶりに会う同級生達と挨拶を交わすライト。

ラグーン学園初等部は三年制でクラス替えはないので、クラスメイトは一年生の時と全く変わらない顔ぶれである。

皆の元気そうな顔を見て、ああ、また学園生生活が始まるんだなぁ、と実感するライト。

ライトにとっては、前世と合わせて二度目の小学生ライフ。前世での諸々の失敗経験を活かしつつ、今度は上手く立ち回るぞ!と決意も新たに内心燃え盛るライト。

もっとも、前世の小学校と今世のラグーン学園ではだいぶ事情が異なるのだが。というか、異なるのは学校だけでなく、住む世界そのものが全くの別物である。

教室内で個々の机の位置はまだ決まっていないが、一学期の最初の一ヶ月間は廊下側からあいうえお順に座ると決まっているので、皆それに従い各自机についている。

ライトはあいうえお順で言えばかなり後ろの方になるので、窓側の真ん中あたりだ。ちなみにライトの後ろはリリィである。

「ライト君、おはよーう!昨日はうちにご飯食べに来てくれてありがとうねー!」

「リリィちゃん、おはよう!こちらこそ、昨日はラウルといっしょに美味しいお昼ご飯が食べれて良かったよ」

「またラウルさんといっしょにご飯食べに来てね!」

「うん、また向日葵亭に行くね!」

ライトより少し遅れて教室に入ってきたリリィが、自分の席につきつつ前の席に座るライトに挨拶してきた。

昨日ようやく果たした春休み中の約束、向日葵亭での食事。向日葵亭はとてもリーズナブルでメニューも豊富なので、リリィとの約束がなくともいつでも食事に行きたいと思うライトである。

そんな会話をしていると、ライトの席にハリエットがやってきた。

それとほぼ同時にリリィの席にも幼馴染のイヴリンやジョゼが来て皆に挨拶をする。

「皆さん、おはようございます」

「皆、おはよー!春休み中元気にしてたー?」

「リリィちゃん、ライト君、ハリエットさんもおはよう。皆二年生になってもよろしくね」

ライトが一年生の途中で編入学した時から、ずっと仲良くしてくれた友達たち。

春休み前と後の二週間程度で何がどうこう変わる訳でもないが、それでもこうして進級を迎えて学年が上がると皆少しだけ大きくなったように見える。

「皆、おはよう!ぼくの方こそ、これからもよろしくね!」

久しぶりに会う友の顔を嬉しそうに眺めつつ、元気に挨拶を交わすライトだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

始業式や連絡事項なども無事終了し、授業や昼食もないラグーン学園初日は早々に終了解散となる。

「皆気をつけて家に帰るんだぞー」

「「「はーい」」」

教室を出ていく学園生達に向かって声をかける、担任のフレデリク。クラス替え同様に担任教師の変更もないので、二年A組の担任は今年度もフレデリクである。

代わり映えしない面子というのは、刺激は乏しいが安心感はある。

ラグーン学園生活もまた始まったことだし、本格的な冒険者修行の方はまた少しお預けとなる。

だが、また三ヶ月もすれば夏休みになる。そしたらまた修行に遠征に頑張ればいいのだ。

それまでは平日はラグーン学園で勉学に励み、土日に素材採取やクエストイベントの進行を少しづつ進めていこう!

ライトは気分も新たにラグーン学園の門を潜り、ラグナロッツァの屋敷に帰っていく。

お昼ご飯をラウルと食べた後、早々にカタポレンの家に帰宅したライト。

せっかく午後の半日が丸ごと空いているのだから、こういう時にこそBCO関連の作業を何かしらしなくてはもったいない。限られた時間は有効に使わないとね!とばかりに、ライトはいそいそと出かける支度をする。

これからどこへ出かけるか、行き先は既に決まっている。

ラグーン学園の登下校中に、今日の午後の予定を懸命に考えて決めた行き先。それは転職神殿である。

ライトの自室には、転移門の魔法陣以外にもヴァレリアからもらった別物の瞬間移動システムがある。それを使えば、ディーノ村の山奥にある転職神殿にもひとっ飛びだ。

ライトはいつものようにアイテムリュックを背負い、転職神殿に瞬間移動した。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

『ライトさん、ようこそいらっしゃいました』

カタポレンの家から転職神殿に瞬間移動したライト。

転職神殿に突如現れたライトを、驚くことなく優しい笑顔で迎える巫女ミーア。さすが転職神殿の専属巫女、多少のことでは動じない精神力の強さである。

「ミーアさん、お久しぶりです!お変わりはありませんか?」

『ええ、おかげさまで何事もなく平穏な日を過ごしております』

ライトの挨拶に、ミーアが穏やかな笑顔で返す。

一番最初に出会った頃の、本当に透けて向こう側の景色が見えていた儚さはだいぶ薄れてきた。

廃墟と化したこの転職神殿で、たった一人で長年に渡る孤独に耐えてきたミーア。その孤独に押し潰され、存在意義が完全に消えてしまう前にライトがこの転職神殿に辿り着けたことは、本当に僥倖だったとライト自身も思う。

まだミーアの姿は若干透けているが、いつか実体を取り戻してちゃんと手を握ることができるくらいに回復してくれるといいな、と心の底から願うライトである。

一方『旧教神殿跡地』と呼ばれたこの場所には、跡形もなく破壊され尽くした神殿が野晒しとなったままだ。

ミーア同様に、誰にも顧みられることなくひっそりと朽ち果てていた転職神殿。物理的に破壊されているので、物理的に再建しない限り神殿の設備はどうにもならない。

だが、設備としてはボロボロでも、ここに巫女ミーアがいる限り転職神殿としての 役割(システム) は生き続ける。

BCOの主要コンテンツの一つである職業システム。六種の職業を極め、様々なスキルや魔法を習得するために今日もライトは転職神殿に通うのだ。

『ライトさんの方は、職業習熟度の推進は捗っていますか?』

「昨日までは春休みだったんで、ぼちぼち進んでます。と言っても、春休みだからあちこち遠出してて思うほど進んではいないんですけどね……」

『そうなんですか。でもこれからも、少しづつゆっくりでも進めていけばいいと思いますよ』

「はい、頑張ります!」

ミーアに励まされ、元気に応えるライト。

若草色の衣装を身にまとうエルフ風巫女からの励ましは、BCOシステムのことを誰にも話せないライトにとって何よりの活力源だ。

ヴァレリア曰く『埒外の人間』であるライトには、このサイサクス世界の根源であるBCOシステムについて堂々と話せる相手は二人しかいない。

一人は転職神殿専属巫女ミーア、もう一人は鮮緑と紅緋の渾沌魔女ヴァレリア。この二人だけが、サイサクス世界はBCOというゲームが舞台であることを知っているのだ。

誰にも明かせない世界の秘密を共有できる相手がいる、それだけでライトの心はかなり救われていた。

「あ、ところでですね、ミーアさん。今日は転職やレベルリセットではなくてですね、普段とは全然違う別のことをしに来たんですが」

『別のこと、ですか? それは一体何でしょう?』

ライトは背負っていたアイテムリュックを下ろし、中をガサゴソと漁りつつミーアに話しかける。

転職でもなければレベルリセットをしに来たのではない、というライトの言葉に『???』といった表情のミーア。

本来の用途以外に、一体何をしにライトはここに来たのだろう?

あ、あったあった、とお目当てのアイテムを見つけたライト。

ライトがアイテムリュックから取り出したのは、子供のライトの手のひらよりももっと小さい焦茶色の楕円形っぽい物質。

それは『使い魔の卵』だった。