軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第493話 四者会談

ライト達がラウルに見守られながら、のんびりと遅めの朝食を摂っていた頃。

レオニスは冒険者ギルド総本部にいた。

五日前に向かったラグナ教エンデアン支部での再調査の結果を受けて、マスターパレン他関係者を集めて今後の方針を打ち合わせするためだ。

ギルドマスター執務室にいるのは三人。レオニスの他に、いつもラグナ教再調査に同行しているオラシオンと、エンディ大教皇の名代であるホロ総主教。

この日パレンは午前中に先約があって不在中で、三人はパレンの帰還を待っている、という状況だ。

ちなみにホロはいつもの総主教の出で立ちではなく、ごく普通の小綺麗な服を着ている。総主教の衣装で冒険者ギルドに出入りするのは、かなり悪目立ちしてしまうためだ。

普段の荘厳な衣装のイメージが強いせいか、普通の服を着ていると一見誰だか分からない。お忍びで街を出歩くにはもってこいである。

三人は執務室の応接セットのソファに座り、マスターパレンが帰ってくるまで話をしている。

「先日のエンデアンの再調査、お疲れさまでした。本日のこの話し合いも、本来ならばエンディ大教皇が来なければならないところなのですが……生憎どうしても外せない用事がありまして。僭越ながら、私が名代として遣わされた次第です」

「気にすんな。大教皇ともなれば、あれやこれや予定がびっしり詰まってるだろうしな」

「ええ、大教皇様にはくれぐれもお身体ご自愛ください、とお伝えしてください」

本来ならこの場にエンディ大教皇も来て話し合いに加わるべきところなのだが、生憎予定があって来られないらしい。

そのことをホロが謝罪するが、レオニスもオラシオンも気にする様子は全くなく、むしろ大教皇の身を案じるくらいだ。

大教皇の継兄であるオラシオンはともかく、レオニスまでもが理解を示すのは珍しい。

様々な経緯により、ラグナ教には良い印象など全くないどころか毛嫌いすらしていたレオニス。

そのレオニスがラグナ教関連でこうも柔和な態度になってきたのは、度重なる再調査で顔を合わせ続けたせいだろう。

ラグナ教も昔と違って、エンディが大教皇に就任して以来今では入信を強要することは一切ないという。そうした改革を行ってきたエンディの、真摯で真面目な人柄に何度も触れてきたことでレオニスも一個人としてのエンディを認めたのだ。

「お心遣い、痛み入ります。お二方にはいつも深いご理解とご協力をいただき、どれほど感謝してもし足りません」

「私の場合、大教皇様…エンディは弟、家族ですからね。弟の窮地を救うべく手を差し伸べるのは、兄として当然のことです」

「俺もまぁあの場に居合わせたからな。それに、一冒険者としても魔族の首都潜入は看過できん。魔族や魔物の脅威から人々の生活を守るのは、冒険者としての務めでもある」

三人は先程パレンの第一秘書シーマが出してくれたお茶を啜りながら、軽く雑談している。

ここでふとレオニスがホロに問いかける。

「そういや総主教、あれから魔の者達はどうしてる? 相変わらず元気にしてるか?」

「ええ。以前事情聴取にお越しいただいた研修用施設にて、日々我等の監視のもと元気に過ごしておりますよ。私が主催する『木彫り教室』でも、皆メキメキと腕を上げてましてね。最近では、講師たる私よりも上手な者まで出てきているくらいでして……フフフ……」

「ぉ、ぉぅ、そうか……」

ラグナ教が悪魔潜入事件の証言者として、今でも神殿内で軟禁している魔の者達。

彼らが『えりぃと様』と呼ぶ、かつて人に擬態してラグナ教各支部の幹部として君臨していた悪魔達。

それらの悪魔幹部とは全く違い、自らを『下っ端の雑魚キャラ』と呼ぶ魔の者達はとても陽気で気の良い者達ばかりだ。

そんな魔の者達の行く末を、レオニスも気にしているのだろう。

とはいえ、軟禁と言っても実際には世俗から隔離されているだけで、研修用施設内では結構自由気ままに過ごしているらしい。

手慰みに皆で始めた木彫り教室も大盛況?のようで、ホロの話によると神殿内の売店に土産物として商品棚に並べるまでになっているらしい。

そして魔の者達の木彫りの腕の上達ぶりに、才を追い越されたホロが何気に若干落ち込んでるっぽいのが伺える。質問したレオニスとしては、何とも気まずい空気である。

時期的に考えると、木彫り教室が始まって三ヶ月くらいが経過しているはずだ。

三ヶ月で講師より上達するとは、その者に余程木彫りの才能があったのか、あるいはホロの腕前がまだまだ未熟なのか。

いずれにしても、立つ瀬のないホロである。

「でもまぁ、行く宛のない彼らの心の安寧にもなっているようですし。木彫りをしながら穏やかな日々が過ごせるのは彼らにとって、またそれを見守る私達にとっても非常にありがたいことです。これも慈悲深きサイサクス神の思し召しでしょう」

「事件が解決した後も、あいつらが安心して過ごせるようになるといいんだがな……」

「そうですね……こればかりは私達が決められることではないので、如何ともし難いところですが……」

魔の者達の処遇、先の見えない未来のことを思うと、三人とも気が沈む。

アクシーディア公国の国家元首であるラグナ大公の意向は『魔の者はすべからく処分するべし』である。

これに従えば、魔の者達は事件解決後には問答無用で全員処刑ということになる。

だが、悪意の欠片もない魔の者達を何度も見てきていると、どうしたって情が移ってしまう。

普段顔を合わすことのないレオニスやオラシオンですら、彼らの行く末を思うと胸が痛むのだ。軟禁と監視という名のもと、魔の者達と毎日接しているホロ他ラグナ教の神官達の心痛は如何ばかりか。

重たい空気に包まれるギルドマスター執務室。

すると突然入口の扉がカチャリ、と音を立てて開いた。どうやらマスターパレンが帰ってきたようだ。

「ただいま戻った。……おお、三人とも長らく待たせてしまったかな」

扉を開けて入ってきたのは、うさ耳カチューシャを頭に着けて全身イースターエッグに扮したマスターパレンだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「いやぁ、待たせてしまって申し訳ない。ラグナ宮殿への出仕が予定以上に長引いてしまってね」

「……ぉゃ、茶菓子がないではないか。おーい、シーマ君、私の茶と茶菓子を持ってきてくれたまえ」

爽やかな笑顔で皆と同じソファに座るパレン。

今日のパレンは、首から膝まですっぽりと覆われた卵である。

イースターエッグがモチーフなので、卵には様々な模様が描かれている。

首や手足は卵の外に出ており、まるで卵から手足が生えているようだ。ちなみに手にはギザギザ柄のアームカバー、足にはボーダー柄のタイツを穿いている。

どちらもイースターエッグの定番模様を模しているのだ。

そして頭に着けているうさ耳カチューシャは、白いうさぎの耳。耳の内側はピンクで定番カラーである。

そして土台には色とりどりの花があしらわれていて、ヘッドドレスのようにとても可愛らしい品だ。可愛い女の子が着ければ、さぞかし映えることだろう。

あまりにも素晴らしく奇抜な出で立ちのパレンを前に、オラシオンとホロは目がまん丸&点になりながら無言でパレンを凝視している。

ラグナ教のお偉いさんであるホロはともかく、オラシオンはかつて冒険者だった身。パレンの奇抜な装い癖は、普通に知っているはずなのだが。

冒険者稼業から去ってから久しいためか、あるいはラグーン学園理事長という教育者として通常の感性に戻ったせいか。ホロ同様度肝を抜かれてしまっている。

そんな中、もちろんレオニスだけは動じない。顔色一つ変えることなくパレンのファッションを眺めている。

あー、今日の装いはアレか、時期的にイースター関連か。

首から膝まですっぽりと卵に扮するなんて、今日はいつにも増して奇抜だな!あの卵、一体何の素材で出来てんだろ? ちゃんとソファに座れているあたり、柔らかいのかな。

卵の殻?も何気に結構凝ってるよな。ギザギザ柄に水玉模様、繊細なレース模様に花やハート、いろんな柄が描き込まれていてすんげー華やかだ。

つか、いっつも不思議なんだが。スキンヘッドにカチューシャって、どうやって留めてんだ? ツルッ!と滑らんもんなのか?

マスターパレンのスキンヘッドには、滑り止め機能でもついてんのか?

シーマがお茶や茶菓子を持ってきてテーブルに置いたりしている間、レオニスは涼しい顔で本日のパレンのファッション評を脳内で展開している。

さすがレオニス、もはや卵のコスプレ程度では動じない。まさに『鋼の精神』ならぬ『金剛の精神』である。

そんな三者の反応を他所に、パレンは本日の議題を早々に切り出す。

「さて、本日皆に集まってもらったのは他でもない。最後の聖遺物についてだ」

「秘匿されていた三つの聖遺物―――杖に腕輪に、エンデアンで新たに見つかったのは三叉槍だったか? これらは皆の尽力により無事回収できた」

「残るはラグナ教神殿に祀られている大剣、唯一つとなった訳だが……これをこの先、一体どうやって攻略していくかが問題だ」

「まずはその所有権を有するラグナ教の意向をお伺いしたい。ホロ総主教殿、そちらではどのような考えでおられるのかね?」

真面目な顔で語るパレンの涼やかな糸目がキラリと鋭く光る。

ラグナ教の悪魔潜入事件以来、悪魔が潜んでいた拠点の再調査により三つの聖遺物が発見された。

その聖遺物は、廃都の魔城の四帝の真の本体に辿り着くためのアイテムであることが判明している。

それらをどこでどのように用いるかまではまだ分からないが、兎にも角にもそれらを四つ、全てを人類側が手に入れなければならない。

残る一つである【深淵の魂喰い】は、古くからラグナ教の神殿に祀られている。

これを今後どのようにして聖なる状態に戻し、人類側が入手するかが鍵なのだ。

そしてこの【深淵の魂喰い】だけは、様々な面で他の聖遺物と違いがある。

まず聖遺物として公表されており、その存在を末端の平民までが知っていること。そして最初から負の状態として存在していること。人々の祈りをもって浄化を促す、という名目で大々的に祀られていること等々。

あらゆる面で、これまで秘匿されてきた他の聖遺物とは事情が異なっていた。

長年【深淵の魂喰い】を管理してきたラグナ教。

彼らの意見はどのようなものであるか、今回の代表者であるホロに尋ねるパレン。

話を振られたホロは、我に返りしばし沈黙する。

そして徐にその口を開いた。

「正直なところを申しますと―――我々の中でも意見が二分しております」