軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第492話 ラウルのお料理教室 in オーガの里

ラキ家の厨房には、子供達が呼んだ母親達が集まっていた。

オーガの女衆が集まる中、最もラウルの講義が見聞きしやすい最前列にデデーン!と陣取っているのは、他ならぬ族長ラキである。

招集されたオーガのご婦人方が、おそるおそるラキに向かって問いかける。

「あのー……族長も厨房仕事をなさるので……?」

「もちろんだ!この度我がお招きしたラウル先生に、我が里に新たなる料理の極意を伝授していただくのだ。まずは長たる我がその極意を 確(しか) と見届けねばならん!」

「そ、そうですかぁ……」

「族長が厨房仕事にご興味があるとは、存じませんでしたわぁ……」

これからオーガの里に新技術がもたらされるのだ、それを長たる者が見極めるのは当然至極のことである。

もちろん皆その主張に何ら異議はない。単眼蝙蝠襲撃事件の際には、ラキは常に最前線で身を張っていた。

また、その後のオーガの里の防衛のためにナヌスの結界を張る際にも、ラキは率先して動いていた実績がある。

ただしその行動力が、よもや厨房にまで及ぶとはオーガのご婦人方も全く思っていなかったようだ。

ご婦人方の戸惑いの視線などものともしないラキ。

ラウルの横に立ち、ラウルの紹介をし始めた。

「皆の者、改めてご紹介しよう。こちらはラウル先生、我が里の大恩人であるレオニスとライトの知己であり、彼らの身の回りの世話を一手に引き受ける仕事をしておられる。言うなれば『家事の達人』だそうだ」

「ライトの話では、ラウル先生は特に料理の達人であらせられるという。先日お譲りした我が里の酒を大いに気に入ってくださり、本日は酒を用いた料理を我等に伝授しにここまでお越しくださった」

「これを機に、是非とも皆もラウル先生に美味しい料理の作り方を教わってもらいたい。そして皆の家族のために、今以上に美味しいご飯を作ってやってくれ」

「「「……はいッ!」」」

ラキの力の篭った演説にご婦人方も感じ入り、全員で元気な返事を返す。

厨房にはまだ火が入ってもいないというのに、燃え盛るオーラに満ち満ちていて既に熱気ムンムンである。

「ささ、ラウル先生からも皆に向けてお言葉をくだされ」

「ンー……俺は別に先生って柄じゃないんだが……」

「何を仰る!我等に料理をご指南いただくのだから、先生とお呼びするのが道理ですぞ!」

「まぁなぁ……料理教室の先生ってことなら当て嵌まる訳だしなぁ……しゃあないか」

ラキの下にも置かぬ先生扱いにラウルが戸惑うも、これから料理教室の先生役をすることは間違いない。これは先生呼びされるのも致し方ない、ということはラウルも認めざるを得ないのである。

ラウルは小さなため息をつきつつ、目前に大きく立ちはだかる壁の如く居並ぶオーガ達を見上げながら改めて挨拶をした。

「あー、今族長からご紹介に与ったラウルだ。今日は族長のお招きと里の酒を分けてもらった礼に、ここオーガの里に料理を教えに来た」

「多分今日一日だけじゃ全部は伝えきれないだろうから、この先も何度かここに来ることになると思うが。まぁよろしく頼む」

「料理に関して分からないことがあれば、気軽に聞いてくれ」

ラウルが一通り挨拶をし終えると、ラキを始めとしてこの場にいるオーガ達が一斉に頭を下げた。

「「「よろしくお願いしますッ!」」」

「ぉ、ぉぅ……」

何人もの人数が合わさった声は、怒号にも近い響きを伴ってラウルの身体をビリビリと揺らす。

さすが脳筋一族、男女の垣根なく根っからの体育会系集団である。

「じゃ、ぼちぼち始めるか」

挨拶や顔合わせを済ませたところで、ラウルの料理教室が始まった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「皆が集合する間に、族長の奥方から話を伺った。まずこの里では料理と言えば肉、肉以外だとせいぜい野草か山菜、茸くらいの食材しかないようだな」

「ええ、森の中で採れるものといえばそれくらいしかありませんし」

「肉や茸もいいが、それだけだと料理の幅が広がらんし種類を増やそうにも限界がある。ここはやはり、野菜が欲しいところだ」

「野菜……ですか? 野菜とは、一体どのようなもので?」

まずラウルは、オーガ族の食に関する問題点を上げる。

そもそもオーガ族は野に生きる狩猟民族であり、野菜や米などを農耕栽培で得るという習慣は一切ない。故に野菜がどのようなものであるかすら、彼らには全く分からないようだ。

しかし、料理の幅を広げるには野菜はなくてはならない存在であり、それら食材の乏しさはかなり深刻な問題だった。

「野菜とは、簡単に言えば食べられる植物のことだ。カタポレンの森に自生する野菜はほとんどないが、人族は様々な野菜を食べるために育てて料理に用いている」

「ほう、人族は食べるための植物をわざわざ育てるのか……」

「その実物をいくつかここに出そう」

ラウルはそう言うと、空間魔法陣から様々な野菜を取り出した。

じゃがいも、人参、玉葱、キャベツ、レタス、トマト、大根、カボチャ等々。人族が普段から口にしている、お馴染みの野菜達を次々と出していくラウル。

オーガ達はそれらを興味津々で眺めている。

「野菜って、こんなに種類があるんですかー」

「色とりどりの植物があるんですねぇ、初めて見ましたー」

「でも……私達オーガには、とても小さいですねぇ」

皆して野菜を眺める中、一人のご婦人がぽつりと呟いた言葉。それこそが最も難題であった。

それは、人族とオーガ族の体格差である。

魔物由来の肉ならともかく、野菜は基本的に人族に適した大きさのものばかりなのだ。

大玉のキャベツやカブ、お化けカボチャでさえオーガ族にとっては手のひらサイズだ。

しかし、それらはまだいい方だ。普通サイズのじゃがいもや人参、玉葱などは下手したら小指の爪程度で、調理するにも小さ過ぎてままならないだろう。

「そうだな。俺や人族のサイズはあんた達オーガ族には小さ過ぎるだろうな」

「だから今日のところは、あんた達でも扱いやすそうな大玉キャベツと巨大カボチャ、そしてジャイアントホタテを使った料理を作ろうと思う」

ラウルはそう言うと、かなり大きなキャベツと巨大なカボチャとジャイアントホタテを空間魔法陣から取り出した。

キャベツとカボチャはラウルが両腕で抱えるほどの大きさで、ジャイアントホタテは先日のエンデアンの海鮮市場で購入したものだ。

ラウルや人族の目から見れば巨大なそれらも、オーガからしたらようやくまともに扱えるちょうどいいサイズの大きさになる。

「まず、このカボチャというのは中に種があってだな。包丁で半分に割ってから、中の種をくり抜いて取り除き―――」

オーガ達が真剣な眼差しで見守る中、ラウルは初回の見本として全ての調理をテキパキと進めていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

そうしてラウルが料理を披露していくこと約小一時間。

三つの料理が完成した。

まず一つ目は『カボチャの煮物』、煮崩れ防止とまろやかな甘味を加える味醂が使われている料理だ。

ちなみに今回のカボチャの煮物には、味醂の代わりに最も風味が近い『鬼人族の酒・一級品』を使用している。

二つ目は『薄切り肉とキャベツのスープ』、キャベツは大玉をまるごと五個、肉はオーガ族が普段食べている肉を使用している。

こちらには肉の臭み消しと風味付けも兼ねて『鬼人族の酒・薬草酒』を少量加えてある。

最後の三つ目は『ジャイアントホタテの酒蒸し』、これぞ料理酒が最も活躍できる王道メニューだ。

蒸すための酒は『鬼人族の酒・特級品』をふんだんに使用した。ホタテの旨味と酒の旨味がたっぷり味わえる逸品である。

次々と出来上がっていくラウルの絶品料理に、オーガ達から感嘆の声が絶えない。

一通り出来上がった料理を前に、ラウルが高らかに宣言する。

「どれもこの里の酒を使った料理だ。とりあえず皆で試食してくれ」

ラキ家で普段使っているオーガサイズの鍋類を使用したので、量そのものはそれなりにある。

だがここにいるのは十人以上なので、全員が満足に食べられる量ではない。故に、味見用の小皿を借りて次々と盛っていくラウル。

もっとも小皿と言ってもそれはオーガのサイズの話であり、ラウルやライトからすれば特大の丼サイズなのだが。

オーガ達がラウルの手から順番に小皿を受け取り、次々と試食していく。

そしてそのどれもが絶品の美味しさで、口に含んだ瞬間からオーガ達の目が大きく見開かれていく。

「これは……何て美味しいの!?」

「肉を具にした汁物は私達もよく作るけど、お酒や味付けを変えるだけでこんなに味も変わるなんて……!」

「この酒蒸しって料理、最ッ高に美味しいんですけど!」

オーガのご婦人方が口々にラウルの料理を絶賛する。

もちろんその中には族長夫婦も含まれていた。

「あなた……お料理って、お酒を少しだけ入れたりひと手間かけるだけで、こんなにも違うものなのねぇ」

「ああ、これは本当に驚いた。酒一つでこれ程まで劇的に味が変わるとはな」

「ねぇ、あなた。これからは行商で、もっといろんな食べ物を探して手に入れてみるのはどうかしら?」

「そうだな。他の鬼人族で食用植物の扱いに長けた部族もいるかもしれんな」

ラキとリーネの会話は、何と行商改革にまで及んでいるようだ。

確かに今ここにない食材を、行商という手段を用いて外部から入手を試みるというのは非常に良い案だ。

オーガ達の好反応を見たラウルが、皆に向かって声をかける。

「今の三つ、試食してみてどうだった? 概ね良い評価は得られたっぽいが」

「どれもとっても美味しかったです!」

「特に汁物は、私達でも今日から作れそう。今晩早速家で作ってみます!」

「酒蒸しのように肉もお酒で蒸したりすれば、もっと美味しくなりますか!?」

オーガのご婦人方が興奮気味に感想を述べる。

彼女達の顔は皆驚きと輝きに満ちていて、料理における新たなる境地に興奮冷めやらぬといった様子だ。

「酒を料理に使うと美味しくなることは確かだ。だが、何にでも大量に使えば必ず美味くなるというもんでもない。何事も適量が肝心だ」

「そこら辺は各々や家族の好みで、使う酒の種類や量を見極めていくといい。いわゆる家庭の味ってやつだな」

「野菜や肉以外の食材に関しては、行商で見つけるなりオーガの里で新たに畑を耕して作るなり頑張って入手してくれ。もちろん俺も今後、酒との物々交換に応じて食材提供に協力するつもりではいる」

「「「「ありがとうございます!!」」」」

ラウルの言葉に、オーガ達が再び一斉に頭を下げて礼を言う。

最初の挨拶の時よりも、さらに気合いの入った礼の言葉。ラウルやライトの身体がまたもビリビリと揺れる。

「じゃ、今日のところはこれくらいでいいか?」

「ラウル先生、本当にありがとうございました。ライトからラウル先生が料理の達人ということは聞いておりましたが、これ程の腕前とは……我の予想をはるかに上回る腕前、感服いたしました」

「まぁ、俺の料理で喜んでくれる人達がいるなら幸いだ」

「ライトにラウル先生を連れてきてほしいと頼んで、本当に良かった。この奇跡の出会いに、我等一同心より感謝いたす」

今度は言葉なく、その場に跪き感謝の意を表すラキ達。

ラウルが作る料理の美味しさが余程衝撃的だったのだろう。

自分達が認めた素晴らしいものには敬意を払う、実に真摯で礼儀正しい体育会系脳筋一族だ。

だが、ラキ達には当たり前の行動でもラウルにとってはかなり大仰だ。

ラウルは慌てたようにラキ達に言葉をかける。

「ぉぃぉぃ、俺は別に王様とか皇帝とかじゃないんだから、そこまで畏まらんでくれ」

「いや、ラウル先生にはこれからも我等を導く師であっていただかねば……」

「ああ、もちろん料理の指導は変わらず請け負う。だがもうちょっと気楽に接してくれ。俺自身もともと礼儀とか無縁なんだ」

「そうですか……では、ラウル先生。今後とも我等を導いてくだされ」

ラキが立ち上がると、他のご婦人方もそれに倣い立ち上がる。

全員立ったら立ったでその巨躯の圧が半端ない。だがそれでもラウルからしてみれば、並み居るオーガ族達に膝をつき傅かれるよりは余程マシである。

「おう、料理の道は険しいぞ? これからもビシビシ扱いてやるからな、覚悟しとけよ?」

「望むところぞ。ラウル先生の見せてくださる新しい境地、我等全員心より楽しみにしておる故。存分に扱いてくだされ」

ラウルとラキ、どちらからともなく手を差し出し握手を交わす。

妖精族と鬼人族、新たな異種族交流が生まれた瞬間だった。