作品タイトル不明
第480話 鬼人族の酒
ライト達に遅れること約三時間後。レオニスがラグナロッツァの屋敷に帰宅した。
レオニスは冒険者ギルド総本部に帰ってきたその足で、マスターパレンに再調査結果を報告してきたらしい。
その日の夜は、そのままラグナロッツァの屋敷でエンデアンの海産物を晩御飯にいただくことにしたライト達。
ラウルが早速新鮮な海産物を調理をしている間に、ライトは居間でレオニスからラグナ教での出来事を聞いていた。
「へー、エンデアン支部に秘密の地下室があったなんて驚きだね」
「ああ、あれだけ大規模な地下室を八十年も前から作り続けていたとか洒落にならん。奴等が人知れず長い期間をかけて人族の領域を侵蝕してきていたんだ、と改めて実感したよ」
「で、これが四つ目の聖遺物なんだね。綺麗で立派な三叉槍だね」
「こいつには【愚帝】が憑いていて、魔の状態は二本で一対の鉤爪だった」
レオニスが空間魔法陣から取り出した第四の聖遺物、黄金色に輝く三叉槍を眺めながらおそるおそる触れてみるライト。
他の聖遺物同様、聖なる状態なので魔力を吸われる感覚はない。
ライトも聖なる状態の聖遺物を見るのはこれが三回目なので、少しは慣れてきたようだ。もっとも、魔の状態だったら絶対に近寄りたくないが。
「一旦ライトに預けるから、カタポレンの森の家に帰ったら聖遺物用のアイテムバッグに仕舞っておいてくれるか?」
「うん、分かったー」
レオニスから三叉槍を預かったライトは、早速足元に置いておいたアイテムリュックに仕舞い込む。
レオニスがラグナ教再調査の際に入手した聖遺物は、新たに聖遺物専用として作ったアイテムバッグに全て保存している。
そしてそのアイテムバッグはカタポレンの森の家、レオニスの書斎の一角に常に置かれていた。
「お待たせー。晩飯できたぞー」
「ただいまー」
ラウルが晩御飯ができたことを知らせる声と、マキシのただいまの声が重なる。
ちょうどいいタイミングでマキシが帰宅したようだ。
「マキシ君、おかえり!」
「あっ、ライト君にレオニスさん。今日はエンデアンに行ってたんですよね、皆さんも無事帰ってこれてよかったです!」
「おう、マキシもアイギスでの仕事ご苦労さん」
「今日はラウルといっしょにエンデアンでたくさんのお魚や貝を買ってきたんだ!マキシ君もいっしょに晩御飯食べようね!」
「はい!そしたらすぐに着替えてきますね!」
仕事から帰ってきたマキシを温かく迎えるライトとレオニス。
マキシがアイギスに勤めるようになってから、そろそろ二ヶ月になろうとしている。
その日の夜はエンデアンの海の幸に舌鼓を打ちながら、マキシのアイギスでの仕事の話を聞くなどして、四人で楽しい晩餐のひと時を過ごした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日の水曜日。
この日のレオニスは、朝に行う森の警邏以外は完全休日にすることにした。
普通の依頼ならともかくラグナ教での再調査、特に廃都の魔城の四帝との直接対決ともなると、如何にタフなレオニスでもかなり心身を摩耗するらしい。
一方ライトは、カタポレンの森の自室で昨日レオニスから預かった第四の聖遺物を眺めていた。
「これが【愚帝】が憑いていた三叉槍か……【愚帝】といえば鉤爪使いなイメージだから、三叉槍ってのは意外だな」
「でもまぁエンデアンは海に面した港湾都市だし、そのエンデアンに安置されるなら三叉槍は最も相応しい形状ではある、よな」
「とりあえず詳細を見てみるか」
ライトは【詳細鑑定】で三叉槍を鑑定した。
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【 不懼(ふく) の聖槍】
光と闇を行き来する狭間の槍。
勇猛果敢を象徴している。
廃都の魔城の四帝【愚帝】の本体のもとに辿り着くために必要なアイテム。
四帝のもとに辿り着くには、光の聖なる状態でなければならない。
闇の状態【専横の鉄拳】と表裏一体。
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「【専横の鉄拳】、か……四帝の【愚帝】に相応しい名だな」
ライトの生産職スキル【詳細鑑定】で出てきた詳細内容を読みつつ、ひとりごちるライト。
槍の形状は三叉だが、銘は聖槍の名を冠しているようだ。
詳細を一通り見たライトは、聖槍を聖遺物専用アイテムバッグに収納すべくレオニスの書斎に向かう。
書斎には誰もいない。レオニスは朝の森の警邏を終えた後、再びベッドに戻って一眠りしている。
やはり昨日のエンデアンでの対【愚帝】戦の疲れが抜けないのだろう。それだけ激しい戦闘を繰り広げたんだな、とライトは思いながら寝室を覗き、寝相の悪いレオニスがはだけた布団をそっと掛け直す。
書斎の棚の引き出しに仕舞われた、革製のバッグ。レオニスが聖遺物の消失を防ぐために、新たに拵えた聖遺物専用のアイテムバッグである。
フェネセンと共同開発して世に出した品と同じく、天空竜の革と超特大の魔石で作られている。
万が一にも動力源切れにならないよう、虫干しも兼ねて時折レオニスが外に出して日に当てているのをライトもたまに見かけている。
ちなみにこのアイテムバッグに登録された使用者は三人。レオニス、ライト、そしてラウルだ。
使用者権限の書き換えは、今のところ術式の構造を熟知したレオニスにしか行えない。だが、いずれはライトやラウルにもその手順を教えるつもりだ。
廃都の魔城の四帝を完全に殲滅させるには、何としても聖なる状態の聖遺物を引き継いでいかねばならない。
そのためにはレオニス一代限りではなく、何代も先の子々孫々まで伝えられる仕組みを構築しなければならないのだ。
そしてそのことはライトもよく承知している。
「廃都の魔城の四帝との因縁……レオ兄と俺の手で決着がつけられればいいな……」
「……いや、絶対に何としても決着をつけるんだ」
黄金色の三叉槍を両手に握りしめながら、仇敵の殲滅を新たに誓うライト。
それからライトは聖槍を聖遺物専用アイテムバッグに収納し、バッグの定位置に戻してからレオニスの書斎を後にした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
午後になり、ライトはラグナロッツァの屋敷に移動した。
一昨日オーガ族のラキから分けてもらった『鬼人族の秘酒』をラウルにおすそ分けするためだ。
屋敷に移動したライトは、早速空に向かって万能執事の名を呼びかける。
「ラウル、いるー?」
ライトの呼びかけに応じ、すぐさま音も無く現れるラウル。
「小さなご主人様、お呼びか?」
「ラウル、昨日はお疲れさま。疲れは残ってない? 大丈夫?」
「ああ、ライトもお疲れさま。俺は全然疲れてないぞ、買い物も十分堪能したし、向こうでこなしたひと仕事も余裕だったしな。むしろ昨日のエンデアンは楽しいことばかりで、疲れる理由なんざ微塵もなかったわ」
「そっか、それは良かった」
昨日エンデアンで大仕事をこなしてきたレオニスと違い、ラウルは日帰り旅行を存分に楽しんだようだ。
しかも市場で使ったお金を冒険者としてひと仕事こなし、すぐさま補填するという、なかなかに高度な離れ業をやってのけるラウル。
さすがは万能執事、その辣腕ぶりにますます磨きがかかっていく。
「で、今日はどうした? 今からどこかに出かけるのか?」
「ううん、今日はどこも出かけないよ。昨日散々出かけたしね」
「そりゃそうだな」
「今日はね、ラウルに渡したいものがあるんだ」
「ン? 俺に渡したいものって、何だ?」
ライトは背負っていたアイテムリュックを下ろし、ガサゴソと漁りつつ数本のポーション瓶を取り出した。
「これね、一昨日オーガの里に行った時におすそ分けしてもらったお酒。ラウルのお料理に使えるかな、と思ってさ」
「オーガの作る酒か? そりゃまた何とも珍しいもんを手に入れたもんだな」
ラウルが瓶を手に取りながら、興味深そうに眺める。
ライトがオーガの里で酒をおすそ分けしてもらった時にはバケツに入れてもらったので、そこから改めてポーション瓶に詰め替えたのだ。
「何かね、オーガ族もいろんなお酒を作ってるらしくてね。五種類くらいもらったんだー」
「おお、そんなにたくさんの種類を作ってるのか。オーガ族も結構器用というか、酒飲み多いんだな」
「今出した五本の瓶は、全部お酒の種類が違うんだ。ぼくはまだ子供でお酒飲めないから違いは分からないけど、良かったらラウルの方で研究してみてね」
「ありがとう、酒は料理にもよく使うから助かる。早速今から味や風味を研究してみることにするか」
ライトから思わぬおすそ分けをもらったラウル、嬉しそうに微笑みながらライトに礼を言う。
料理が大好きなラウルにとって、料理に使えるアイテムをもらえることはとても嬉しいことだ。特に新しい調味料となり得る珍しい酒ともなると、いろいろと研究し甲斐があるだろう。
ちなみにこのオーガ族謹製の五種類の酒、ライトのアイテム欄に入れてもそれぞれ種類が異なる。
『鬼人族の酒・一級品』『鬼人族の酒・特級品』『鬼人族の酒・乙類』『鬼人族の酒・薬草酒』、そして『鬼人族の秘酒』である。
ライトが求めていたのは『鬼人族の秘酒』だったのだが、よもやもらった五種類の全部が全部違うアイテムと判別されるとは夢にも思わなんだ。
とはいえ、この細分化もいつか何かの役に立つかもしれないので、洗浄済みのポーション瓶に詰め替えてアイテム欄にストックしておく。
たとえ使い道の少なそうなアイテムでも、いつか日の目を見るかもしれないからね!それにアイテム欄に入れておく分には邪魔になることもないし。
アイテム欄、万歳!アイテムリュック、万歳!
そんなことを考えながら、せっせと鬼人族の酒を瓶詰めしていたライト。なかなかにまめな性格である。
「あ、それでね、ラウル。このお酒をおすそ分けしてもらう時に、オーガ族の族長のラキさんから『酒の調理での使い方を知りたいから、是非とも一度料理人を連れてきてほしい』ってお願いされてるんだけど、どうかな? ラウル、近いうちにオーガの里にぼくといっしょに遊びに行ってくれる?」
ライトからもらった酒の瓶を、ラウルがいそいそと空間魔法陣に仕舞う傍ら、ライトがラウルにお願いをした。
それはラキから酒をおすそ分けしてもらう際に出された条件『 料理人(ラウル) をオーガの里に連れてくる』という件だった。
「オーガの里に、か? もちろんいいぞ。オーガ族に酒を使った料理の作り方を教えろってことだろ?」
「うん。オーガ族の料理って焼き物が多くて、料理方法とかあまり豊富じゃなさそうなんだよね」
「だったらなおのこと俺の出番だな。オーガ族にも俺の料理の美味さを伝授して、本当に美味しい食事というものを広めてやろうじゃないか」
「ありがとう、ラウル!」
ライトの頼みを即時快諾するラウル。
己の料理の腕を振るうことを惜しまないラウルの、何と頼もしきことよ。実に頼もしいラウルの返事に、ライトは明るい笑顔とともに礼を言う。
「で、オーガの里にはいつ行くんだ? ライトが春休み中に行くのか?」
「そうだねー、いつ行くかはまだ全然決めてないけど、春休みのうちに行っておいた方がいいかなー」
「俺もまた近いうちに、ネツァクで砂漠蟹の殻処理依頼をいくつかこなしてくるつもりなんだ。それと重ならなければいつでも行けるぞ」
「分かった、じゃあ早いうちに日を決めるね。あ、砂漠蟹の殻の甲羅や爪はまたぼくにちょうだいね!」
「了解ー」
ラウルがラグナロッツァの屋敷を空けることは基本的にあまりないのだが、近々ネツァクで仕事をしてくると言う。
家庭菜園計画の要である温室購入を、一日でも早く実現させたいのだろう。目標に向かって邁進するラウル、その直向きな姿はライトも見習いたいところだ。
ラウルに各種鬼人族の酒を渡し、オーガの里にともに行く約束を無事取り付けたライト。
今日の仕事はこれで終わり!とばかりに、カタポレンの森の家に帰っていった。