軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第456話 得難き友との奇跡の出会い

ラウルが意識を取り戻してから二日後の日曜日。

ライト、レオニス、ラウル、マキシの四人は神樹ユグドラツィのもとに出かけた。

ラウルの目が覚めてから一日しか休んでないけど、本当に大丈夫なの?と周囲は心配していたが。当のラウル曰く『エリクシルまで飲ませてもらったんだから大丈夫、全く問題ない』『あまり長く寝込み過ぎても身体に毒だ、適度に外の空気を吸いたい』とのこと。

まぁ本人がそう言うならいいか、もし何かあってもレオニスが担いで家に戻ればいいし、と他の三人も納得する。

ラグナロッツァの屋敷からカタポレンの森の家に移動し、そこからのんびりと歩いていく。

ピクニックよろしくユグドラツィとともに外で昼食を食べるため、正午より少し前くらいにユグドラツィのもとに到着する四人。

ユグドラツィを訪ねるのはアクセサリーに分体を入れてもらった時以来なので、三週間ぶりのことである。

「ツィちゃん、こんにちは!」

「ツィちゃん、お久しぶりです!」

『ようこそ。お待ちしておりましたよ』

ライトとマキシが真っ先に元気良くユグドラツィに挨拶をする。

それに応えるユグドラツィの声も弾んでおり、とても嬉しそうだ。

「よう、ツィちゃん。先日はうちのラウルが世話になったようだな。ラウルを助けてくれて、本当にありがとう。心から感謝している」

『いいえ、私の方こそ貴方方に礼を言わねばなりません。いつも素敵な景色を見せてくれてありがとう。ここから動けぬ私の代わりに、貴方方が見せてくれる景色―――そのどれもが常に新鮮で、驚きに満ちています。世界とは、こんなにも多彩な色で満ち溢れているのだということを……分体を通して私は知ることができました』

ライトとマキシに続き、レオニスがラウルを助けてくれたことへの礼を述べる。

そんなレオニスに、ユグドラツィもまた日頃の映像に対する礼を述べる。

彼ら四人がそれぞれに持つユグドラツィの分体、それらを通して本体に見せる景色。その全てが常にユグドラツィの心を踊らせるものだった。

そして最後にラウルが一歩前に出て、雄大なユグドラツィを見上げる。

カタポレンの森の静寂さの中、僅かに聞こえてくる葉擦れの音。さわさわとした心地良い音がラウル達を包む。

ラウルははるか上を見上げていた頭を深々と下げた。

「ツィちゃん。先日は俺が危なかったところを助けてくれてありがとう。ツィちゃんの呼ぶ声がなければ、俺は今こうしてここで皆とともに並び立つことはできなかっただろう」

『いいのですよ。あの時は私も無我夢中で……私の声がラウル、貴方に届いて本当に良かった』

「ツィちゃんは俺の命の恩樹だ。どれ程感謝してもしきれない」

『貴方方は私にとって得難き友。これまで千年近い時を経てもなお得ることのできなかった、大切な我が友……その友の危機を救えたならば、これ程の栄誉はありません』

ラウルの心からの礼に、ユグドラツィも優しい声音で応える。

分体を通して己の声を届けられるとは、ユグドラツィ自身も思ってはいなかったようだ。

あの時ラウルが身に着けていた 分体(バングル) から映る映像、下水道管内でポイズンスライム変異体に取り込まれたラウルの絶体絶命の危機。その場面を目の当たりにしながら、ユグドラツィは必死にラウルの名を叫び続けたのだろう。

ユグドラツィの『ラウルを救いたい!』という懸命な思い、その強い願いがラウルに届き魂を揺り起こす奇跡となって彼を救ったのだ。

『さぁ、ラウル、顔を上げてください。いつも自信に満ち溢れた貴方には、下を見るよりも前や上を向いている方が相応しい』

「……ありがとう。この恩はいつか、俺の一生をかけて必ず返す」

『恩ならば、もうたくさん返してもらっておりますよ』

「これからもっともっと返していくからな、期待しててくれ」

『ええ、期待しておりますよ』

ユグドラツィの催促に従い、深く下げていた頭を上げて再びユグドラツィを見上げるラウル。

神樹と妖精の、友としての絆が深まった瞬間だった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「さぁ、皆でお昼ご飯にしようよ!」

ライトの一言で、皆がそれぞれに動き出す。

レオニスは空間魔法陣を開いて四人分のテーブルと椅子を出し、ラウルはその上にストックしておいた料理を空間魔法陣から取り出して並べていく。

ライトはアイテムリュックから様々な水入りのバケツを取り出し、マキシとともに何やらブレンドしながらユグドラツィ用の食事?を用意している。

一通り用意ができた後、四人が食事をする前にまずはユグドラツィに各種ブレンド水を振る舞う。

今回はラウルを助けてもらった御礼をしに来たのだから、まずはラウルの命の恩樹?であるユグドラツィの食事を優先するのが当然である。

先程マキシと作っていた木製バケツ入りのブレンド水を、ライトが一つ一つ解説していく。

「今ここにあるお水は、全部ツェリザークの雪を解かしたものです。前回の試飲会で、ツェリザークの雪解け水が一番好評だったからね!」

「今回はそれらに、いろんな種類の魔力回復剤や強化剤を混ぜて、味付けしてみましたー!」

「ぼく達から見て右から順に、ハイエーテル、アークエーテル、セラフィックエーテル、闘水、退魔の聖水。そして一番左手には、あのエリクシル!【神の恩寵】とも呼ばれ、ラウルの怪我を完璧に治したあの幻の神薬を一滴垂らしております!」

ハイテンションで解説するライト。一体どこの実演販売士かと思わせるほどの熱意である。

今回も様々な趣向を凝らし、フレーバーをつけたブレンド水をたくさん用意したようだ。

熱気溢れるライトのプレゼンを眺めながら、他の者達は様々な反応を示している。

「味付けの水とか、ライトはいっつも面白ぇこと考えるよなぁ」 ←レオニス

「ツィちゃんの味の好みが分かりそうで、実に良い試みだ」 ←ラウル

「今度八咫烏の里に里帰りしたら、モクヨーク池の水を持ち帰ってツィちゃんに味見してもらおうかなー」 ←マキシ

『相変わらずライトは奇想天外なことを考えますねぇ……私のためを思ってしてくれることですから、それはとても嬉しいことですが』 ←ユグドラツィ

四者四様の感想が出る中、プレゼンを終えたライトが今度はその水を飲ませる係を指名してきた。

「じゃ、レオ兄ちゃんとラウルは手分けしてツィちゃんの幹に水をかけてあげてね!」

「右から順に一杯づつ、かける場所は間隔を空けて時間も少しずらしてあげてね。ツィちゃんが一つ一つ、ゆっくり味わえるようにね」

「まずはレオ兄ちゃんからお願いねー」

「「了解ー」」

ライトの指示通り、レオニスが一番右のバケツを持って飛びながらユグドラツィの幹にゆっくりと回しながら水をかけていく。

レオニスがかけ終わった後、今度はラウルが少し離れた幹に二杯目の水をかけていく。

これを交互に繰り返し、全部で六杯の水を順番にかけていった。

どの水をかける時にも上部から葉擦れの音がして、都度ユグドラツィが味わっている様子が伺える。

その中でもやはり一番反応が大きかったのは、一番最後のエリクシル入りの水だった。

「ツィちゃん、今日のお水の味はどうでした?」

『どれも滋養溢れる味わいでしたが……最後の水が段違いでした。あれ程の神気溢れる水は、生まれてこの方出会ったことがありません……あの衝撃的な味は、もはや魔力とか滋養とか普通の言葉では言い表しきれません。紛うことなき神気をまとった『神の水』です。あれこそが、幻の神薬【エリクシル】と呼ばれるものなのですか?』

「はい、そうです!エリクシル自体がとても貴重な品なので、毎回必ず飲ませてあげるのはちょっと厳しいですが……それでも一度はツィちゃんに、エリクシル水のお味を知ってもらいたかったんです」

『ありがとう。今日もまたとても貴重な体験をさせてもらいました』

ユグドラツィ曰く、やはりエリクシル入りの水が断トツで美味しかったらしい。『神の水』とまで称賛するくらいだ、余程の美味なのだろう。

やはり【神の恩寵】とは、このサイサクス世界における唯一無二の至高の存在なのだ。

そのことを、希釈水とはいえ直接味わったユグドラツィだけでなくライトもまた身に沁みて思い知り、ぽつりと呟く。

「あー、前にニルさんも言ってたけど、やっぱりエリクシルの威力ってのは回復効果だけじゃなくて味にも出るんだなぁ」

『ええ、最後の一杯で私の身長が1メートルは伸びた気がします』

「「「「…………」」」」

ユグドラツィの言葉に、四人は思わずユグドラツィの天辺あたりを見上げる。

だが悲しいかな、ユグドラツィの姿は雄大過ぎて本当に1メートル伸びたかどうか誰も判断がつかない。

全員口にこそ出さないが、内心『え? エリクシルって、樹木の成長促進効果もあんの?』と思いつつ首を真上にして見上げるも、残念ながら地上からでは何をどうしてもユグドラツィの天辺は見えない。

四人してぽけーっ……としばらく上を見ていたが、いち早く気を取り直したライトが満面の笑みでユグドラツィに話しかける。

「どれもツィちゃんに美味しく飲んでもらえて、すっごく嬉しいです!」

『いつも私のことを気にかけてくれてありがとう。さぁ、今度は貴方方の番ですよ。ゆっくり食事をなさい』

「はい!」

ユグドラツィがライト達を気遣い、四人でお昼ご飯を食べるように促す。

ライト達もその言葉に甘えて、早速昼食を摂ることにする。

四人は全員椅子に座り、合掌しながら食事の挨拶をした。

「「「「いっただっきまーす!」」」」

サンドイッチやバーガー類など、手軽な軽食を楽しむライト達。

大食漢のレオニスだけでなく、ラウルも食事をもりもりと食べている。この様子なら、ラウルの体調ももう心配は要らないだろう。

この四人で、こうして広々とした野外で食事を摂るのはいつ以来のことだろうか。もしかしたら初めてのことかもしれない。

実に楽しげに食事を摂るライト達四人の姿を、ユグドラツィは微笑ましく思いながら眺めていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「……さ、ぼちぼち日も暮れかけてきたし、そろそろ帰るか」

レオニスの一声に、それまでずっとユグドラツィと仲良く会話していたライトやマキシが振り返る。

三月に入り日の長さもだいぶ延びてきたとはいえ、歩いて帰る時間も考慮しなければならない。ここらがそろそろ帰り時だということを、ライトもマキシもきちんと理解した。

「ツィちゃん、もっともっとお話したいけど……また来ますね」

「僕もお仕事がお休みの日に、またラウルといっしょに遊びに来ますね!」

「おう、俺自身はカタポレンの森に良い思い出はほとんどないが、ツィちゃんのところなら何度でも遊びに行くぜ」

「俺も森の警邏でたまに立ち寄るからな、ツィちゃんも元気でな」

『ええ、いつでもいらしてくださいね。貴方方の来訪を、心より楽しみにしておりますよ』

それぞれが別れの言葉を口にし、ユグドラツィに語りかけていく。

神樹と妖精のみならず、人族や八咫烏も加わった多種族交流の輪。この場を一歩も動けないユグドラツィにとって、彼らとの出会いはまさに奇跡にも等しい宝物だ。

数多の得難き友を得た神樹ユグドラツィの心は、今日の空のようにどこまでも晴れ渡っていた。