軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第450話 レオニスの恩返し

その後レオニスは、マイラからラグナロッツァ孤児院の運営状況をさらに詳しく聞いていく。

今このラグナロッツァ孤児院には、約四十人の子供達がいるという。上はもうすぐ卒院の十四歳から下は四歳まで。

乳児が一人もいないのは、養子に引き取られることが多いからだという。特に幼少期の記憶が残らない低年齢児ほど、養子の需要は高いのだそうだ。

そして、約四十人の子供達の世話をする大人の専属職員は、何とマイラ一人きりだという。

もう一人か二人いてもいいはずだが、先程の話に出てきた前任者の横領事件が響いて未だに人員を増やしてもらえないままなのだそうだ。

それでも今まで何とかやってこれたのは、手のかかる乳児が一人もいないことと、年長者の子達が積極的にマイラの手伝いをしてくれるおかげだという。

子供達の人数などを考慮した結果、レオニス個人の寄付金は当面の間は月五万Gを納めるということになった。

最初のうちはマイラもその金額の多さにびっくりし、固辞しようとした。だがそこはあくまでも当面の間というのを強調するレオニス。

貴族からの寄付金が復活するまでの繋ぎだから、で押し通してマイラを納得させた。

レオニス自身が孤児院育ちだったから、食べ盛りの時分に満足に食べられず空腹を我慢する辛さはよく分かっていた。

だからこそ、ラグナロッツァ孤児院の現状を見過ごすことなどできなかったし、マイラも「子供達にひもじい思いをさせないでやってくれ」というレオニスの言葉に折れたのだ。

他にも聖なる餅の寄進数を月二百個に増やすなど、次々と支援策を打ち出していくレオニス。

今出来ることを一通り話し合い、だいたいまとまった頃に廊下側からパタパタ、という軽い足音が聞こえてきた。

と思ったら、執務室の扉がバターン!と結構な勢いで開かれた。

「シスター、レオニス兄ちゃん、おやつができたよ!」

「皆で食べるために食堂に運んでるから、早く来て!」

年中組の子供二人が、息急き切って執務室に飛び込んできた。

皆で食べるおやつが出来上がったので、マイラとレオニスを呼びに来たのだ。

満面の笑顔で駆け込んできた二人の子供に、マイラがやれやれ、といった顔で応じる。

「これこれ。人がいる部屋に入る時は、必ず先に扉をノックしなさいっていつも言ってるだろう?」

「あっ……ごめんなさい!嬉しくてつい忘れちゃった!」

「次からは忘れないようにね、気をつけるんだよ」

「「はーい!」」

マイラからの優しい注意に、子供達も反省しつつ元気な返事を返す。

そんな穏やかなやり取りを見たレオニスが、思わず感心したように呟く。

「おお……シスターも随分と丸くなったもんだなぁ。ディーノ村にいた頃だったら、今のは間違いなく速攻で脳天チョップが飛んできてたわー」

「おや、レオ坊、何か言ったかい?」

レオニスの呟きを聞き逃さなかったマイラ、キラリ☆と輝く笑顔の口元に優雅に手を添える。だがその指先を綺麗に揃えた優雅な手の形は、紛れもなく手刀である。

懐かしくも見覚えのあり過ぎるその手の形に、レオニスは思わず己の脳天を両手で隠す。

「……ぃぇ、何も言ってませんですことよ?」

「そうかい、そりゃあ良かった。さぁ、じゃあ私達も食堂に行こうかね」

「うん!シスターもレオニス兄ちゃんも、早く食堂行こー!」

「おう、待て待て、そんな慌てるな」

「早く早くー!」

マイラが席から立ち上がり、まだ脳天を隠しながら座っていたレオニスも子供達に手を引っ張られて早く来るように促される。

年中組の子のワクワクした明るい笑顔を見ると、レオニスやマイラの顔も自然と綻ぶ。

元気な子供達に急かされながら、二人は執務室を出て食堂に向かっていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

レオニス達が食堂に到着すると、そこにはライト達ミサンガ編み組も既に食堂にいて席についていた。

「あっ、レオ兄ちゃん!レオ兄ちゃんの席はこっちだよー!」

食堂に入ってきたレオニスに、ライトが早速声をかけた。

子供達は普段の食事の時に座る場所がそれぞれ決まっていて、各々の席についている。

ライトやレオニス、ラウル、三人の分の席は、食堂の隅に配置されていた。それらはラウルが空間魔法陣から取り出したテーブルと椅子である。

全員が揃ったところで、全員合掌してマイラの掛け声を待つ。

マイラは自分の席を立ち、食堂全体に響き渡る凛とした大きな声で挨拶をした。

「いただきます」

「「「いただきます!」」」

挨拶の後は、皆勢いよくおやつを食べ始める。

今日のおやつは『聖なる餅のお団子入りあんみつ』である。

たっぷりの粒あんに角切りの寒天、聖なる餅のお団子が乗り、桃やさくらんぼなどの果物類も華やかな彩りを添える。

ちなみにこれらの材料は全てラウルの持ち出しだ。

子供達とともにした作業は、聖なる餅を焼いて茹でて一口サイズに切ったり、既に冷やして固めてある寒天の角切りカットなどである。

粒あんや果物類のシロップ漬けも、ラウルが空間魔法陣の中にストックしていたものを提供している。そこら辺を一から作っていたら、それこそ何時間どころか何十時間もかかってしまうからだ。

「あんみつって初めて食べるけど、すっごく美味しいー!」

「昨日の大福も美味しかったけど、このあんみつも大福に負けないくらい甘くて美味しい!」

「お餅のお団子、大好き!」

聖なる餅のお団子入りあんみつを、夢中になって食べる子供達。あちこちからその美味しさを絶賛する声が絶えない。

あっという間に食べ終えた子供達が、ラウルの周りを取り囲む。

「ラウル先生、美味しいおやつを作ってくれてありがとう!」

「今度はあんこの作り方を教えて!」

「あっ、そしたら寒天の作り方も知りたい!」

「ラウル先生、今度はいつお料理を教えてくれる?」

「僕も将来ラウル先生のように、美味しい料理を作れるようになりたい!」

料理の先生であるラウル、子供達に大人気である。

男子人気が高いのがレオニスで、女子人気が高いのがライトならば、男女問わず人気が高いのはラウルである。

それ即ちラウルが一番の人気者ということであり、人心掌握においては胃袋を掴める者が最強なのだ。

「これこれ、皆、ラウルさんもまだ食べてるんだから、食事の邪魔をしちゃいけないよ。皆自分の食器を片付けておいで」

「「「はぁーい」」」

ラウルのおやつタイムを邪魔しないように、マイラが子供達に注意しながら片付けを促す。

子供達もマイラの言に素直に従い、食器の片付けに向かう。

「シスター、気を遣わせてしまってすまんな」

「いいえ、こちらこそラウルさんにはいつも美味しい料理を作ってもらって本当に感謝しているよ。ありがとうね」

「いや、俺も子供達と料理するのは楽しいし、ここでの材料費も全てご主人様が持ってくれるから何の問題もない」

「何ッ!?……ん、いや、まぁいいか。俺もここで皆といっしょにご馳走になってるしな」

マイラからの感謝の言葉に、ラウルも快く応じている。

その返事の中で、シレッと材料費負担を丸投げされたレオニス。ラウルからの唐突の名指しに思わず一瞬驚くも、これも孤児院の食費援助の一端と思えばレオニスに否やはない。

ライト達もおやつを食べ終え、借りた食器類を下ろし洗って返す。

おやつの後は、再び子供達とのふれあいの時間だ。

まずはレオニスが子供達に向かって話しかける。

「十歳以上の子は、もうジョブ適性判断は受けたか?」

「もう受けた子もいるし、まだの子もいるよー」

「よし、じゃあ十歳以上の子は全員ここに集まれ。皆が将来ここを卒院した後に、どんな仕事に就くのがいいか一人一人考えながら皆で相談しよう」

「「「はーい!」」」

「まだ十歳になってない子は、ライトやラウルと遊んでてくれ。二人とも、頼めるか?」

「「了解ー」」

レオニスはマイラとともに年長組の進路相談、ライトとラウルは年中組と年少組の遊び相手をすることになった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

窓から見える空がすっかり茜色になり、孤児院の建物や周囲の家々の壁も夕焼け色に染まる頃。

年長組の進路相談も終わり、ライト達も帰る頃合いになってきた。

寄進する聖なる餅二百個を食糧庫に収め、一番最初の寄付金五万Gも市場で使いやすい大銀貨五十枚にしてマイラに渡した。

今日すべきことは全てやり終えたレオニス。ライト達とともに帰り支度を始める。

礼拝堂の入口の扉の前には、ライト達を見送るためにマイラを含めて孤児達全員が出てきていた。

「レオ坊、今日もたくさん世話になったね」

「いや、俺の方こそここに来るのが遅くてすまなかった。これからは、もし何か困ったことが起きたらすぐに俺に連絡してくれ。冒険者ギルド総本部に言伝をくれれば、いつでも駆けつける」

「ラウルさんもライト君も、いつも子供達と遊んでくれて本当にありがとう」

「ぼくも皆といっしょに遊べて楽しかったです!」

「俺も子供達と料理するのは楽しいから気にしないでくれ」

マイラがライト達三人に、心から感謝の言葉を述べる。

マイラの後ろに控えていた子供達も、皆それぞれが前に出てきてライト達を取り囲む。

「レオニス兄ちゃん、今度はまた冒険のお話をいっぱい聞かせてよ!」

「ラウル先生、また美味しいお料理の作り方を教えて!」

「ライト君、ミサンガ編みの練習用にもらった毛糸、大事に使うからね!」

名残惜しさが尽きないのか、いつまでも取り囲み続ける子供達。

マイラがそっと子供達とライト達の間に入り込み、優しい声で語りかける。

「……さ、そろそろお兄ちゃん達もおうちに帰らなくちゃならないからね。皆離れなさい」

「……うん……」

「じゃあね、レオ坊。また次に会える日を楽しみにしているよ」

「ああ、シスター達も元気でな」

「また来てね!絶対だよー!」

暮れゆく夕陽に向かって歩いていくライト達。

その背が見えなくなるまで、マイラや子供達はずっと見送っていた。