軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第45話 スレイド書肆再び

「メイさん、今日はありがとうございました」

「いいえ、どういたしまして。今度またゆっくり遊びに来てね?」

「はい!その時には是非とも父さんや母さん、レオ兄ちゃんのお話を聞かせてください!」

「ええ、そりゃもういくらでもお話してあげるわ」

「楽しみにしてますね!」

ライトとメイ、二人してキャッキャウフフと楽しげに会話をしているが、ライトの横にいるレオニスは気が気でない。

「……おい、メイ、あんま余計なことは喋るなよ……」

「うふふ、ライト君はこれからラグナロッツァに暮らすんでしょ?何なら学校帰りにうちのお店に寄ってくれてもいいのよ?」

「……!!ライト、学校から帰る時は寄り道しちゃいけません!て学校で習うはずだからな!いいか、絶対に寄り道するなよ!」

メイの背後には、相変わらずキニシナイ!大魔神が降臨しておられるようだ。特にレオニスに対しては、その御威光は五割増しくらい発揮されているような気もするが。それも多分気のせいであろう。キニシナイ!

そんなメイを見て、レオニスは目に見えて焦る。対してメイは、心底呆れ顔でレオニスを見遣る。

「貴方ね……孤児院時代に、お使い中に寄り道どころか家出までさんざっぱら繰り返しといて、どの口がそんなふざけたこと吐かしてるの?」

「この口ね?この口が、起きたまま寝言ほざいてるのね?」

小柄なメイが爪先立ちで背伸びしつつ、レオニスの両頬を容赦なくムニムニと引っ張る。

世界一の凄腕と称される金剛級冒険者のほっぺたを、こうも遠慮なくムニることができるのは多分アイギス三姉妹くらいのものであろう。

「 あいおふう(なにをする) ー」

「ライト君、こんなおじちゃんは放っておいて、またお店に遊びに来てね?次は私の姉さん達にも会ってもらいたいから」

「はい、分かりました!」

レオニスのほっぺたが綺麗なお姉さんに存分にムニられるという、途轍もなく珍しい光景を見ることができて何気にご機嫌なライト。

実際、他のお姉さん達とも是非とも会ってお話したいと思っていたところだ。

「じゃ、またラグーン学園で必要な衣類や道具があったら、いつでも相談してね」

「ああ。また何か世話になるかもしれんが、そん時はよろしくな」

「今日はとても楽しかったです。ありがとうございました!」

メイは明るく朗らかに。

レオニスはメイにムニられて赤くなった頬をさすりつつ。

ライトは満面の笑みを浮かべて。

それぞれに別れの挨拶を軽やかに交わす。

制服を無事入手したライト達は、アイギスを後にした。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

次に向かうは教科書の購入、すなわちスレイド書肆のグライフの出番である。

メイ達の店と同じ大通りにあるので、移動は歩いてもほんの2、3分程度だ。

しばらく歩くと、早速見覚えのある立派な門構えが見えてきた。

「ごめんくださーい」

ライトは挨拶しながら、門扉を潜る。

すると、店の奥からすぐにグライフが出てきた。

「おや、ライトにレオニスではありませんか。こんにちは、ようこそいらっしゃいました」

「こんにちは、グライフ。先日は、素晴らしい本をありがとうございました」

「もう全てお読みになったのですか?」

「いえ、まだそこまでは……どれも分厚くて立派な本ですので」

「そうですか。まぁ、慌てて読まなければいけないというものでもありませんし、内容をじっくり味わいながら読書を進めるのもとても良いことですよ」

「はい、そうさせていただきます」

とても丁寧で立派な会話がにこやかな笑顔とともに交わされているが、これはグライフとレオニスの会話ではない。グライフとライトの会話である。

会話だけ聞いていたら、礼儀正しいビジネスマン同士のやり取りかと思われるような流れだが、紳士然とした優雅な執事に対するは紛うことなき小柄な7歳児。

何とも奇妙奇天烈な光景である。

挨拶も一段落したところで、今度はレオニスに向けてグライフが問う。

「して、本日の御用向きはどのようなものですか?」

「おう、今日はラグーン学園初等部の1年生用の教科書を買いにな」

「ラグーン学園初等部1年生の教科書、ですか?」

「そそそ、教科書。来月からライトが学校に通うことになってな」

「ほほう、それで新しい教科書を買いにきた、ということですね」

「そゆこと。教科書の取り扱い、あるよな?」

「ええ、もちろんありますよ。ラグーン学園初等部1年生用の教科書ですね、奥から出してきますので少々お待ちください」

「頼むな。俺達は待ってる間、ゆっくり本棚眺めてるわ」

「畏まりました。お二人とも、どうぞごゆっくり」

グライフが再び奥に移動した。

ライトはレオニスに聞く。

「ねぇ、レオ兄ちゃん」

「ん?何だ?」

「今日も本見たいし、こないだ見に行けなかった二階や三階も見て回りたいけどさぁ」

「うん」

「今日はまだしなきゃいけないことたくさんあるから、ゆっくりしてはいられない、よねぇ」

「うーん、そうだなぁ。今日はこの後、ラグナロッツァの家の中も見せておきたいところだしなぁ」

「だよねぇ……分かった、そしたらまた今度、ラグーン学園に入学して落ち着いてから来よう」

「そうだな、その方がいいだろうな」

そんな会話を二人でもしょもしょとしていると、グライフが何冊もの本を重ねながら手に持ち、ライト達のもとに戻ってきた。

「お待たせしました。こちらが、ラグーン学園初等部1年生用の教科書です」

「国語、算数、歴史、道徳、音楽、生活、基礎魔力、計7冊ですね」

「どれも全て新品ですよ」

新品の本7冊……またン百万円単位の買い物になるんだろうか?

ライトは若干プルプルと身体が震えてしまう。

「ん?どうした、ライト?」

「……またお値段うん十万G、しちゃうの?」

「いんや、教科書ってのは学校で使う教本だ。教育は重要な国家事業のひとつだからな、そこまでぼったくるもんじゃないさ」

「ええ、そうですよ、ライト。心配するほどのお値段ではないですから、安心してください」

「な?グライフもこう言ってるだろ?」

「ですが、レオニス」

「ん??」

突如グライフの纏う空気から穏やかさが消え失せ、どす黒いオーラがゆらりと発せられる。

「ぼったくる、とは聞き捨てならない言葉ですね」

「教科書以外の書籍は全てぼったくりである、ということですか」

「この私の前で、よくぞそこまで言い切りましたね。良い度胸です。レオニス、表に出なさい」

「…………!!!!!」

レオニスは己の失言にすぐに気づいた。

だが、何の気なしに口にしてしまったその言葉は、既に書物命のグライフの気を大いに逆撫でしてしまっていた。

レオニスとグライフ、二人の間には何やら不穏な空気が流れ始めていた。