軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第44話 おじちゃん呼ばわりと熱い抱擁

「お、ライト、よく似合うじゃないか」

「ライト君、サイズはどう?」

「はい、大丈夫です。少しゆったりしてますが、キツいところも緩すぎるところもないです」

「ライト君の年頃の子はすぐに大きくなるからね、成長分を見越して少し大きめくらいの方がいいのよ」

「じゃあ、この一式をくれ。代金はいくらだ?」

「そうね、制服上下一式と指定の靴と靴下、鞄と運動着、全て込みでお代は35000Gで」

「…………!!!!!」

ライトはその金額に驚愕した。

いやいや、確かに現代日本でも学校の制服とか高かったけど!!

35万円相当て!貧乏な平民だったら、尻込みして入学そのものを諦めることにもなりかねないよ!?

「……ライト君?今のお値段にびっくりしちゃった?」

ライトは無言のまま、こくこくと頷く。

「そもそも制服って丈夫に作る分だけお高いものだし、全部新品で買おうとするとどうしてもこの金額になっちゃうのよね」

「そしたら、お金のない貧乏な平民は、学校に通えないってことになりませんか……?」

「それは大丈夫。皆自分の兄弟のお下がりや近所の人に譲ってもらうものなのよ」

「そうなんですね」

ライトは安堵した。そうだ、俺の前世でも普通にお下がりとかあったもんな。

「だが、ライトにはそういうお下がりのアテもないし、譲ってもらえそうな人も周りにいないからな」

「そうそう。それに、レオなら新品一式を購入する甲斐性くらいあるでしょ?」

「まぁな、それくらいはいつでも買い揃えてやれるさ」

「そういうことよ、ライト君。君がお金の心配することはないのよ?」

「でも……ぼく、いっつもレオ兄ちゃんにしてもらうばっかりで……」

ライトは少し俯く。学校に通いたいと言ったせいで、またレオニスに負担をかけている、そう思っているようだ。

そんなライトに、メイはきゃらきゃらと笑いながら言う。

「そーんなこと、子供が気にすることじゃないわ!」

「そもそもこのおじちゃん、たーっくさんお金稼いでるんだから!」

「だから、今はこのおじちゃんに存分に甘えちゃえばいいのよ!」

「そして、ライト君が大きくなったら、おじちゃんに恩返しすればいいの。いわゆる出世払いってやつ?」

実に楽しそうに、おじちゃん連呼するメイ。

散々おじちゃん呼ばわりされたレオニスは、あんぐりと口を開けてしばらく呆けていたが、ようやく意識が戻ってきたのか慌てて反論しようとする。

「ちょ、メイ!俺はまだおじちゃんて歳じゃねぇ!」

「なーに言ってんの、このおじちゃんは。貴方だってライト君くらいの子供達から見たら、立派なおじちゃんよ?」

「お前ね、俺がおじちゃんならお前ら三姉妹はどうなると思……」

「あァん??」

メイの眼光が途端に鋭くなり、レオニスを睨みつける。

その鋭さは、鋭利な刃物以上の切れ味を発揮しそうな勢いだ。

レオニスは有能な冒険者なので、その危険度を瞬時に察知したようだ。

「……ぃぇ、何でもございません……」

「分かればよろしい」

眼光鋭くギラついたままのメイは、いつの間にか手にしていた裁ち鋏を元の位置にスッと戻した。

ライトはこの 蹂躙勃発未遂事件(やりとり) を見て、あれこれ察する。

どうやらこの店の三姉妹は、全員レオ兄より年上らしい。三姉妹の末妹のメイさんでさえ、父さんはグラン君、母さんはレミちゃん、レオ兄ちゃんはレオ呼びだもんな。

そしてレオ兄は、三姉妹には勝てないようだ。

……よし、自分も三姉妹には逆らうことなく従順にしておこう、そうした方が身のためだ。

特に年齢なんて絶対に、それこそ死んでも聞かないぞ。歳と体重の話は、レディーに対して禁呪以上の禁句だってこと、俺はちゃんと知っているんだからな!!

その秘密を暴くには、禁呪を用いる以上の覚悟とまさしく己の命を懸けなければならないのだ。

女性の歳と体重を知るためだけにリアルで命を懸ける気なんざ、俺にはさらッさらないからな!

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ひとまず落ち着いたところで、レオニスがメイに切り出した。

「じゃあ、そしたらこの制服一式や鞄は今日持ち帰ってもいいか?袖の直しやズボンの裾上げとかもしなくて良さそうだし」

「ええ、いいわよ。支払いは今日?それとも後日?」

「金は持ってきてるから、今すぐ現金払いで」

「了解。じゃあライト君、とりあえず制服脱いでくれる?綺麗に畳んで持って帰れるようにするから」

「はい、分かりました」

メイに着替えを促され、ライトは再び試着室に入った。

ライトの小さな背を見送りながら、レオニスとメイは会計をしながら再び雑談を交わす。

「ライト君、本当に良い子ね」

「ああ、何てったってグラン兄とレミ姉の子だからな!」

「……レオって、本当にグラン君のこと大好きよねぇ」

「??グラン兄を嫌いな奴なんて、この世にいるのか??」

レオニスが、心底不思議そうな顔をしてメイを見つめる。

「……うん、まぁ、そんな人いない、とは思う、けども、ね」

そんなレオニスに呆れたような声を洩らすメイ。

この二人も、何だかんだ言って仲が良さそうだ。

「……あの子も、いつかは冒険者になるの?」

「ああ。本人は冒険者になるって言ってるから、いずれはなるだろうな」

「……そうなんだ……」

「本人曰く、グラン兄よりも俺よりも、もっともっと強い冒険者になる!らしいぞ?」

「冒険者なんて、とっても危険なのに……」

メイが少しだけ顔を顰めながら呟く。

メイが言いたいことも、その気持ちも、レオニスには十分に分かっていた。

「そうだな。冒険者なんて命懸けてナンボの仕事だからな」

「…………」

「だが、そういう危険な使命を全うする者だっていなければ、この世に人間が安心して住める場所など得られない」

「…………」

「それにな……」

ずっと俯いたまま無言でレオニスの言葉を聞いていたメイは、ふと言葉が途切れたレオニスの方に視線を移した。

「ライトは、グラン兄の息子だ」

「あの人の血を引く実の息子が、冒険者になりたがらないなんて―――そっちの方がよほどおかしいだろう?」

メイは、その言葉を聞きハッとした。

メイもよく知る、グランという人物。

その人となりを思えば、レオニスの言うことも納得できることだった。

「……そうね、グラン君とレミちゃんの子なら、冒険者になりたがっても不思議じゃないし、それどころか当たり前のことにすら思えるわ」

「そうだろ?」

レオニスが明るく笑う。

その笑顔につられて、メイも少しだけ顔が綻ぶ。

「そういう貴方だって、グラン君に憧れて冒険者になったんだものね?」

「そういうこった」

レオニスは楽しそうに笑う。

そこに、ライトが着替えて試着室から出てきた。

「お待たせしてすみません、着替え終わりました」

ライトは手に持った制服類をメイに渡す。

試着室の中で折り畳んだのか、綺麗に揃えられていた。

「ライト君、お疲れ様。……ライト君って、レオといっしょに暮らしているのにとても几帳面なのね」

「ん?どういうことですか?」

メイの物言いに、ライトは不思議そうに聞き返す。

「レオってねぇ、孤児院生活時代はお片付けとか全くできなかったのよ?」

「ちょ、待、メイ、待て」

「もうね、整理整頓て言葉を聞いただけで、速攻で外に飛び出す子だったの。それこそ、掃除したら死んじゃう病なの?ってくらいに整理整頓や掃除が苦手でね?」

「そ、それは昔の話だ!!今は違う!!な、ライト、今は違うよな!?」

レオニスは慌ててライトの方を見ながら、必死に訴える。

ライトはしばし呆然としていたが、レオニスに声をかけられてハッとしつつも口を開く。

「うん、レオ兄ちゃんと暮らすおうちは、そんなに汚くないけど……」

「な?な?そうだよな??」

「……たまぁーに、洗濯物を溜め込んだり、服を脱ぎっぱなしにしたり、は、しますかね……?」

「!!!!!」

ライトの発言を受けて、レオニスに衝撃が走る。

レオニスの目が訴える。『裏切り者!!』という、言葉にならない魂の叫びが音もなく木霊する。

「でも、ぼくもそんなに几帳面てほどでもないですし」

「レオ兄ちゃんだって、服を脱いだままにするのは疲れて帰ってきた時だけで」

「今はお部屋の掃除や庭のお手入れなんかも定期的にしてて、そんなに散らかし放題するようなこともないし」

「なので、今のレオ兄ちゃんはそんなにものすごくだらしない人ってことはないですよ?」

ライトがレオニスのことを優しくフォローする。

その救いの手に、レオニスは思わず本気で涙ぐみかけた。

「そうだよな、ライト。ライトは俺を裏切るような子じゃないって、俺は信じてたぞ!」

レオニスが、思いっきりライトを抱きしめる。

歓喜の感情の走るがままに任せた熱い抱擁は、手加減というものが一切なされていない。

ライトの身体は、ミシミシペキパキポッキポキ☆とあちこちから不穏かつ愉快な音を立てるが、その熱すぎる抱擁はライトが抗う隙すら与えない。

「ちょ、ちょ、ちょっと、レオ!ライト君死んじゃうわよ!?」

「……ん?」

気がつけば、ライトは白目を剥いてぐったりとしていた。

魂も半分くらい抜けかけているかもしれない。

「うおっ、ライト!だだだ大丈夫かッ!?」

「んもう、ホンットに、あんたって子は……」

「ハイポ!いや、エクスポはどこだ!今日の荷物の中に持ってきてたっけか!?」

思わぬ事態に、慌てふためいて右往左往するレオニス。

レオニスのこんな間抜けな姿など、メイはこれまでに一度として見たことがない。

ライトにとってはとんだ災難だが、レオニスの思わぬ一面を見れて、ふふっと笑みを漏らすメイであった。