軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第431話 家庭菜園計画 in ラグナロッツァ

「……と、いう訳で。本日の晩飯はネツァクで仕入れたばかりの砂漠蟹、その脚の炭火焼きとボイルの二種類を用意した。存分に食べ比べてみてくれ」

「「「いっただっきまーす!」」」

その日の晩は、ライトにレオニス、ラウル、マキシの四人で食卓を囲んだ。

ラグナロッツァの食堂のテーブルの上には、ライトの胴体はあろうかという焼き蟹と茹で蟹がデデーン!と置かれている。

部位で言えば前節、蟹の脚の中でも先端の方の細い部類であるが、それでもかなり大きい。

ラグナロッツァの屋敷に帰宅して早々、ラウルはネツァクで仕入れた砂漠蟹を使って料理を始めていた。外出から帰って一休みもせずに料理を開始するとは、実に働き者である。

だがラウルにしてみれば初めて入手した新しい食材だ、兎にも角にもまずは味を知りたかったのだろう。

蟹の美味しい食べ方といえば、刺身にしたり茹でたり焼いたり鍋にしても美味しい。

だが、まずは最もシンプルにしてポピュラーな『焼き』と『ボイル』。それこそが素材の本来の味を堪能できるというものである。

焼き蟹は脚を横置きにして上半分の殻が切ら取られていて、半剥き状態になっている。下の殻側を大型バーベキュー台ほどもある特大七輪で焼きながら、上半分の剥き身部分もラウルの火魔法でじっくり焼いたという。

焼いただけのシンプルな料理だが、実際にはかなり手間がかかっている。ラウル渾身の力作料理だ。

下側の殻と焼いた身の間には溢れんばかりのカニ汁が滲み出ており、香ばしい香りが漂ってくる。

茹で蟹はドラム缶ほどもある巨大な寸胴に湯を沸かし、三十分ほど殻ごと茹でたという。こちらは焼き蟹をほぼつきっきりで調理している合間に、お湯を沸かしたり蟹を沸騰した湯に投入したりマルチタスクで茹でたようだ。

こちらも茹でた後に殻をカットして、食べやすいように剥き身にしてある。食べる人のことを考えての処理だ。

見るからに美味しそうなぷりっぷりの身から、ほんのりと湯気が立ち上る。

四人とも砂漠蟹を食べるのはこれが初めてのことだ。

砂漠蟹の身は多少癖がある珍味系の味と聞いていたが、実際に食べてみると臭みもなく実に美味しい。ネツァクで最も有名な砂漠蟹職人として名高いルド兄弟から直接買い付けた品だからだろうか。

初めて味わう砂漠蟹の美味しさに、皆無口になりひたすらもくもくと食べ続けている。

塩、醤油、マヨネーズ、レモン汁、様々な調味料を用いて各々好きなように味変やアレンジを加えながら、砂漠蟹を心ゆくまで堪能する四人。

テーブルに出された砂漠蟹の全てを完食する頃には、皆満足しきっていた。

「ぷはー、ごちそうさまー……砂漠蟹、美味しかったー!」

「俺も砂漠蟹は初めて食べたが、氷蟹に負けないくらいに美味いもんなんだな!」

「本当ですね!僕も蟹なんてほとんど食べたことがないから、とっても美味しかったです!」

「いやー、ライトの誘いに乗ってネツァクまで砂漠蟹を買いに行って正解だったな!」

美味なるご馳走を堪能した四人、全員とも実にご機嫌である。

「あ、ねぇ、ラウル。砂漠蟹の甲羅と爪の殻はぼくにくれる? 食べるための身を外した後の、殻の部分だけでいいから欲しいんだ」

「甲羅と爪の殻な、了解。調理後に殻を洗って乾燥させとくわ」

「ありがとう、よろしくね!」

ライトとラウルの不思議な会話に、レオニスがこれまた不思議そうな顔で問うた。

「ライト、砂漠蟹を食べた後の殻なんてどうすんだ?」

「工作に使いたいの!大きな甲羅とかカニの爪とか、何か面白いことに使えそうでしょ?」

「工作かー。まぁサンドキャンサーの甲羅とか、すんげーデカい桶みてぇなもんだしなー」

レオニスの質問に、ライトはネツァクの砂漠蟹職人リカルドに言ったのと同じことを答えた。

うん、我ながら実に素晴らしい誤魔化し方だ!とライトは内心で自画自賛する。

それと同時に、レオニスにお願いするライト。

「あ、そういえばレオ兄ちゃんに一つお願いがあるんだ」

「ン? 何だ?」

「実はネツァクの冒険者ギルドの依頼掲示板に、砂漠蟹の殻の処理依頼ってのがたくさんあってね―――」

そこからライトは冒険者ギルドネツァク支部のクレノから聞いた話をレオニスに伝えた。

ネツァクでは砂漠蟹の殻の処理依頼がなかなか減らず、受付嬢のクレノも頭を悩ませていること。ライトとラウルは砂漠蟹の殻を入手したいけど、冒険者資格を持っていないからギルドの依頼を引き受けたくてもできないこと。

だから自分達の代わりに、レオニスにネツァクの砂漠蟹の殻処理依頼を受けてきてほしいこと、などなど。

「ふーん、なるほどねぇ……まぁネツァク支部としては、砂漠蟹の殻を実際にノーヴェ砂漠に捨てに行こうが行くまいが、とにかく殻処理依頼を引き受けて殻を持っていってくれさえすれば問題はないだろうな」

「うん。ぼく達は砂漠蟹の殻が欲しいだけだから、本当にノーヴェ砂漠に捨てに行く必要はないんだよね。でもって、今ネツァク支部の掲示板に貼り出されている殻処理依頼の半分程度をレオ兄ちゃんが引き受けてくれれば、クレノさんの助けにもなってきっと喜んでくれるんじゃないかな」

ライトの一番の目的は、砂漠蟹の甲羅や爪などの殻の入手である。

だが、それが実現できればネツァク支部にいるクレア姉妹七女クレノにとっても朗報になるだろう。

いつもクレア姉妹達に世話になっているライトとしては、彼女達の助けにもなれば、という思いもあった。

ライトの話に、レオニスも顎に手を当てながら考え込む。

「まぁなぁ、たまにはあいつらに俺の有能さを再認識させてやるのもいいが……」

「ていうか、お前ら、何でそんなに砂漠蟹の殻が欲しいんだ? ライトの方は、工作に使いたいってのはさっき聞いたが」

「ラウルまで一体何に使うんだ? 蟹の殻なんて食えもしないものを欲しがるとか、ラウルにしちゃ相当珍しいな?」

レオニスの尤もな疑問に、ラウルは例の計画をレオニスに打ち明ける。

「実は近々このラグナロッツァの屋敷の庭の一角に、家庭菜園用の温室を作ろうと考えているんだが。蟹の殻は肥料になる、とライトから聞いてな。ならば俺の家庭菜園計画に是非とも使いたいと思ったんだ」

「へー、蟹の殻が肥料になるんだ? そりゃ初耳だ。ライトもよくそんなこと知ってたな?」

「こないだラグーン学園の図書室で読んだ本に書いてあったんだ!」

「そうなのか……ラグーン学園の図書室ってのは本当にすげーとこなんだな」

ライトの知識の豊富さと、その知識の源であるラグーン学園の図書室にレオニスが感嘆する。

ちなみにラグーン学園の図書室の本で読んで知った、というのは方便で、実際には前世で得ていた知識である。

前世で母が「カニの殻は肥料になるのよー」と言いながら、家族皆で食べた蟹の殻を細かく砕いてガーデニングのプランターに撒いていた光景を見て知っていたのだ。

母さん、ガーデニング好きでよく庭の手入れしてたもんなー。蟹の殻をよく水洗いして、乾燥させてから金槌で大まかに砕いてミルサーで粉末に近いくらいに細かくしてから土に混ぜてたっけ……後でラウルに手順を教えてあげよう。

……母さん、あっちの世界で元気にしてるかな。父さんや妹と仲良く暮らしてくれているといいな。突然いなくなってしまった親不孝な息子でごめんよ……

心の中で、そんなことをつらつらと考えるライト。

前世の知識を手繰り寄せる度に、ふと前世の家族のことも思い出してはしんみりとしてしまう。

そんなライトを他所に、ラウルは家庭菜園計画のプレゼンをレオニス相手に展開していく。

「ま、そんな訳で家庭菜園を始めたいんだが。ご主人様よ、庭の改造を許可してくれるか?」

「家庭菜園か……ここの庭をどんな風に改造するつもりなんだ?」

「庭の三割くらいにガラスハウスをいくつか建てて、いろんな野菜を栽培する。他の三割は花や食用に使えるハーブなんかを植えて、小綺麗な庭園にする。残りの四割は馬車置き場等の予備として整地しておく。こんなところだ」

「んー……それならまぁいいんじゃね? よほどデカくなる木を植えたりするんじゃなけりゃ、近所迷惑にもならんだろうし」

ラウルの家庭菜園の具体的な計画を聞いたレオニス、さほど考え込むこともなくあっさりと了承した。

レオニスも基本的に世間体などキニシナイ!な性格なので、近所迷惑になりさえしなければOK!という考えのようだ。

レオニスの許可を得られたことに、ラウルはパァッ!と明るい顔になり喜ぶ。

「おお、大きいご主人様の許可を得られたぞ!そしたら明日から早速土作りを始めるとするか!」

「気の早いこって……つーか、ラウルよ、ガラスハウスのアテはあるのか?」

「……そういやライトにそういう便利なものがある、と聞いただけなんだが。はて、どこに製作依頼すればいいんだ?」

「温室なんてのは、王侯貴族が持つ代物だ。普通は野菜じゃなくて珍しい花や植物を愛でるために使うもんなんだがな。この貴族街にも温室持ちの邸宅は結構あるだろうから、ご近所さんに話を聞いてきてみな」

「そうか、そういうもんなんだな。じゃあ明日は土作りより先に、近所で温室の情報を聞き取り調査してくるか」

レオニスの指導に、ラウルは頷きながら素直に受け入れる。

有益なアドバイスは積極的に取り入れる、ラウルの長所のひとつだ。

「業者の他に、ハウスの大きさや建設費用なんかもちゃんと一通り調べておけよ? 温室なんて代物、間違っても一万Gやそこらで買えるような安い買い物じゃないからな」

「了解」

ラウルの家庭菜園計画がとんとん拍子に進んでいく。

ここラグナロッツァはサイサクス大陸随一の大都市であり、国家元首ラグナ大公が住まうアクシーディア公国の首都でもある。王侯貴族御用達のガラス製温室の業者も、探せばすぐに見つかるだろう。

温室の建設費用がおいくらするのか気になるところではあるが、それも調査すればすぐに分かることだ。

というか、首都ラグナロッツァのど真ん中、しかも貴族街にある邸宅で家庭菜園を営み野菜を栽培する―――よくよく考えたらとんでもなく贅沢な計画である。

だが、もとは平民出のレオニスと料理一筋の妖精ラウル。この二者が結束し手を取り合えば、それはいとも簡単に実現するであろう。

温室計画のことを楽しそうに話すラウルとレオニスを、ライトとマキシもまた嬉しそうに眺めていた。

「ラウルって、料理に繋がることだと本当に生き生きとしてるよねぇ」

「ええ、カタポレンの森に居た頃には考えられないくらいの笑顔ですよ、あれは」

「ま、ラウルが美味しい料理を作ってくれれば、それを食べるぼく達もその分幸せになれるけどね!」

「そうですね!」

「ぼくも何か手伝えることがあったら手伝おう」

「僕も休日にはラウルといっしょに庭園作りします!」

ライトとマキシもまた、まだ見ぬラウルの家庭菜園&素敵な庭園作りに携わることを今からとても楽しみにしていた。