軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第428話 見事な職人技

昼食を食べ終えて、ネツァクの街に向かうライトとラウル。

今日ネツァクに行く目的。それは今から二週間前に、砂漠蟹職人のルド兄弟に注文した砂漠蟹を受け取るためである。

ライトはネツァクに向かう道中で、昨日の目覚めの湖での出来事をラウルに話して聞かせていた。

「それでねー、今度目覚めの湖で皆で湖底神殿散策ツアーに出かけるんだー」

「ほう、そりゃまた楽しそうな計画だな」

「ラウルもいっしょに行く?」

「んー……いや、今回は遠慮しとこう。マキシが休みの時にでもまた誘ってくれ」

「そっかー、分かった。じゃあラグーン学園が春休みになったら、またマキシ君も誘ってたくさんお出かけしようね!」

「おう、そうしてやってくれ」

ラウルも湖底神殿散策ツアーに誘ってみたが、今度でいいと答えるラウル。

そういえば、一月の生誕祭以来マキシ君と全然お出かけできてないなー。アイギスの定休日は水曜日だから、ぼくの休日と全然合わないし……ラウルはマキシ君の大親友だから、マキシ君抜きであちこち遊びに出かけるのは少し気が引けるのかも―――ライトはラウルの心中を察する。

実際その通りで、マキシがアイギスで働くようになってからライトといっしょに出かけることがほとんどできなくなっていた。ラグーン学園生であるライトの休日は土日祝日であるのに対し、販売業であるアイギスの休日が全く合わないのだ。

休日の合わない者同士がいっしょに出かけることは至難の業だ。特にマキシはアイギスで働くようになってまだ日も浅く、好きな時に休日を申請できるような立場ではない。

こればかりはどうしようもないことだが、その分春休みになったらマキシ君の休みの日にたくさん遊ぼう!と決心するライト。

「そしたら、湖底神殿散策ツアーで食べるお昼ご飯やおやつの用意をよろしくね。レオ兄ちゃんもお昼ご飯多めに作っておいてくれって言ってたから、材料費はレオ兄ちゃんに請求していいよー」

「了解。レオニスの金で存分に贅沢かつ豪華なピクニックメニューを作ってやるか」

ライトの料理作成依頼に、ラウルもニヤリとしながら快諾する。

そんな話をしているうちに、冒険者ギルド総本部に到着したライトとラウル。

いつものようにクレナのいる受付窓口に並び、順番待ちをする。

「クレナさん、こんにちはー」

「あら、ライト君にラウルさんじゃありませんか。こんにちは、本日もどこかにお出かけですか?」

「はい、今日はネツァクに行くんです」

「クレノのいる街ですか。お気をつけていってきてくださいねぇー。……あ、時にラウルさん。ちょっとお話があるのですが、よろしいですか?」

「ン?」

ちょいちょい、と手招きしながらラウルの名を呼ぶクレナに、呼ばれたラウルは不思議そうな顔をしつつ受付窓口に近寄る。

ゴニョゴニョ……モニョモニョ……とラウルに何やら耳打ちするクレナ。その耳打ちに、ラウルの方もふむ、ふむ……と小さく相槌を打っている。

「……承知した。品物はまた帰りに受け取るから、いつでも受け取れるように用意しといてくれ」

「ご了承いただき、ありがとうございますぅー。夕方にはお渡しできるように準備しておきますねぇー」

二人の謎の密談?は無事成立したようだ。

その後二人は転移門を利用し、ネツァクの街に移動した。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ネツァクの街に到着したライトとラウル。

目的地であるルド兄弟の家に向かいながら、ライトは早速ラウルに先程のことを尋ねる。

「ねぇ、ラウル。さっきクレナさんと何のお話してたの?」

「ン? ああ、あれか。あれはな、とても高度な取引話だ」

「取引話って……冒険者ギルドの受付嬢と一体何の取引してんの?」

ラウルの実に怪しい物言いに、ライトが若干ドン引きしている。

だが、聞けば何のことはない、先日まで販売されていた期間限定品ぬるチョコドリンクの話だった。

クレナもぬるチョコドリンクが大好きで、散々買い溜めしているのはライトやレオニスも目撃して知ってはいた。

どうやらその買い溜めのうちの何本かをラウルに無償で譲る、という話だったようだ。

「ていうか、ラウル、いつの間にクレナさんとそんなに仲良くなってたの?」

「仲良くって程でもないが……まぁこないだまで俺もぬるチョコドリンクを買いに、毎日午前と午後の一回づつ冒険者ギルド総本部に通ってたからな」

「え。午後はともかく午前中も買いに行ってたの?」

「おう、散歩も兼ねてな」

午後はライトがラグーン学園から帰宅した後、二人してぬるチョコドリンクを買いに行ってたが。まさか午前中にもラウル一人で買いに行っていたとはライトも知らなんだ。

料理や食材に関しては、とことんフットワークの軽い妖精である。

「でも、何でクレナさんがラウルにぬるチョコドリンクを譲ってくれることになったの?」

「生誕祭の時の礼だとさ。ほれ、生誕祭の初日と三日目に大量の差し入れを持っていっただろ?」

「あー、あの時のお礼ってことかー……」

「ご主人様と他の皆様方にもってことで、かなり大量の差し入れを渡したからな。俺が毎日足繁く通って買っていたぬるチョコドリンクを譲ってくれるのも、あの姉ちゃんなりの気遣いなんだろう」

生誕祭の際に、金剛級冒険者の責務として冒険者ギルド総本部に詰めていたレオニスへの差し入れ。

食べるのは主にレオニスだったが、レオニスだけでなくクレナや他の冒険者の人達にも食べてもらえるように、というライトの指示でかなりの量を持っていった。

材料費こそレオニス持ちだが、それら大量の差し入れ料理を手間暇かけて作ったのは他ならぬラウルである。

美味しい料理を一手に作り、ライトとともに届けてくれたラウルにも是非とも礼を、というクレナの心遣い。

ライト達もぬるチョコドリンクを買うために、冒険者ギルド総本部に足繁く通っていた。その際売店でクレナと会う率がかなり高かったが、まさかクレナがラウルへのお礼のために買っていたとは露ほども思わなかった。

「クレナさんって、本当に義理堅いねぇ。でも、あの時の差し入れのお礼をしてもらえるなんて、思ってもいなかったから嬉しいね」

「ああ。善いことをすれば己に返ってくるってのは、本当のことなんだな」

クレナなりの気遣いに、真相を知ったライトは心がほっこりと和む。

ラウルもまた思わぬ恩返しを受けて、何だか嬉しそうだ。

情けは人の為ならず、てのはこういうことなんだなー、とライトは歩きながら実感していた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ほっこり良い話をしながら、のんびりと目的地に向かって歩いていくライトとラウル。

店も民家もなくなっていき、見覚えのある建物が見えてきた。

それは二週間前に訪れた、ルド兄弟の住む家である。

「ごめんくださーい」

ライトが玄関の引き戸を開けながら、中に向かって声をかける。

そのまま玄関でしばらく待っていると、奥から人が出てくる気配がする。

そうして出てきたのはルド兄弟の弟、リカルドだった。

「はいはーい……おお、こないだのお客さんじゃねぇか、いらっしゃい!」

「こんにちは。注文しておいた砂漠蟹を受け取りにきたんですが……どうでしょう、今日持ち帰ることはできますか?」

「おう、お客さんの分も確保できてるぜ!」

「ありがとうございます!ラウル、良かったね、今日持って帰れるって!」

「おう、楽しみに待ってた甲斐があったな」

出てきたリカルドに砂漠蟹の注文状況を聞くと、ライト達が注文した分は確保できているという。

ライトのイベント進行兼美味しい食材確保の計画が順調に進んでいることに、素直に喜びを表すライト。

「支払いの前に、まずはお客さん達に渡す砂漠蟹の現物を見てほしい。生け簀側の方に回ってくれるか?」

「もちろんです!」

「玄関出て左側から生け簀側に回れるから、そこから来てくれ」

リカルドの指示通りに、建物右側にある柵の扉から裏側に回るライトとラウル。

生け簀側には、二週間前に見た『砂漠蟹の砂抜き用生け簀』の光景が広がっていた。言うなれば、生け簀牧場といったところか。

その生け簀牧場のとある場所にリカルドが立ち、ライト達に向かって手招きしている。どうやらそこにライト達の注文の品があるようだ。

ライト達はリカルドのもとに向かう。

「ほら、これがお客さん達用に用意した砂漠蟹だ」

「おおお……なかなかに立派なサンドキャンサーですね……」

「これでも大きさは中くらい程度だ。ちなみにこいつより大きいのは……あっちとかアレだな」

大きめに見える生け簀の中で、のんびりぐでーんと寛ぐサンドキャンサー。ほとんど温泉に浸かる蟹にしか見えない。

サイズとしても結構大きめに思えるが、これでも中くらい程度だとリカルドは言う。

そのリカルドがそれより大きめだ、と指差した方向を見るライトとラウル。視線の先には、確かに今目の前で寛ぐ砂漠蟹よりも明らかに大きな砂漠蟹がいた。

遠目に見ても大きいと分かるくらいだ、間近で見ればさぞや巨大サイズに違いない。

「こいつも砂抜きや外骨格の洗浄は済んでいる。いつでも持って帰ってもらえる状態に仕上げてあるぜ」

「ありがとうございます!……って、これまだ生きてますよね? どうやって締めるんですか?」

「おう、お客さんがこいつでいいと了承してくれたら、今ここで締めるが……どうする?」

リカルドからの問いに、ライトはラウルの意見を求めた。

「ラウルはどう? ぼくはこの砂漠蟹で十分満足だけど」

「おう、俺もこいつで十分だ。何の問題もない」

「……だそうです。リカルドさん、締めてもらえますか?」

「おっけー。んじゃお客さん達は少し離れたところにいてくれ」

リカルドは一度ライト達をその場から遠ざける。

魔物であるサンドキャンサーはまだ普通に生きているため、間違ってもライト達の方に襲いかかっていかないように、というリカルドの配慮である。

ライト達が結構な距離で離れたのを確認したリカルド、腰に佩いていたレイピアを鞘からすらりと抜いた。

鋭い針のような優美な刀身がキラリと輝く。

リカルドはレイピアを構え、何やらブツブツと唱える。何かの魔法の詠唱のようだ。

詠唱が唱え終わった瞬間、サンドキャンサーが浸かっていた生け簀の水が一本の筋のように上空に巻き上がり、奥の平原の方に飛ばされたではないか。

一瞬にして生け簀の真水が空っぽになるという、奇術やマジックショーも真っ青な出来事にライトやラウルだけでなくサンドキャンサーまでポカーンとした顔になる。

だが呆気にとられたのは数瞬のことで、怒り狂ったサンドキャンサーがリカルドの方に向かって突進してきた。

それまでそいつは温泉に浸かるかのように真水の生け簀で寛いでいたのだ、極上の生活空間を奪われて怒り心頭になるのも分かる気はする。

そしてリカルドの方はというと、襲いかかってくるサンドキャンサーのみぞおちをレイピアで一気に刺突した。

下から斜め上に向かって、レイピアの長い刀身全てをサンドキャンサーのみぞおちに食い込ませる。

そこからさらに奥に捩じ込むように、数回レイピアの柄を回転させるリカルド。

しばらくするとサンドキャンサーは仰向けに倒れ込み、全く動かなくなった。完全に仕留めたようだ。

「おおお……あんな大きいサンドキャンサーを一撃で仕留めるなんて……職人さんの技術って本当にすごい!」

「あれは活きた蟹の締め方と同じだな。見事な腕前だ」

「へー、そうなの? ラウルがそう言うなら間違いないね!」

ライトとラウルはサンドキャンサーが完全に動かなくなったのを見てから、その腕前を絶賛しつつリカルドのもとに近づいていく。

「お客さん、料理をすると言うだけあって詳しいな。その通り、サンドキャンサーの神経はこのみぞおちの部分に集中しててな。一突きにして一気に殺すことで、暴れて手足がバラバラになるのを防ぐんだ」

「へー、そうなんですね!」

「さて、お客さんの要望通りに締めるだけは俺が締めたが……」

リカルドがラウルの知識に感心しながら、ライト向けに蟹の締め方のコツを解説する。

ライトは前世も今世も料理には詳しくないので、そうした知識を教えてもらうことはかなり楽しいらしい。

そして簡単な解説を終えたリカルドが、ラウルの方に向かって問うた。

「このまま空間魔法陣に仕舞って持って帰るか? あるいはここで捌いておきたいなら、うちの解体作業場を貸すこともできるが」

「何? 解体用の場所を貸してもらえるのか? ならば是非ともここで解体していきたいが」

「おう、場所代は要らないぜ。俺もお他人様が砂漠蟹を解体するところを見てみたいからな」

何と、リカルドがここの解体作業場を貸してくれるというではないか。

中くらいの大きさとはいえ、このサンドキャンサーは前世でいうところのミニバン自動車程の大きさだ。ラグナロッツァの屋敷の台所も広々としてはいるが、それでも砂漠蟹の解体作業するには少々手狭だ。

砂漠蟹専用の解体作業場で解体させてもらえるなら、その方が絶対にいいに決まっている。

「じゃあお言葉に甘えて、ここの作業場を借りさせてもらおう。ライト、帰りが少し遅くなるかもしれんがいいか?」

「もちろん!ぼくもラウルが砂漠蟹を解体するところを見たい!」

「決まりだな。じゃあ砂漠蟹は後で俺が運ぶから、お客さん達は先にこっちに来てくれ。解体作業場に案内する」

ラウルの砂漠蟹解体ショーが開催決定したところで、リカルドがライトとラウルを先に解体作業場に案内しようとする。

だが、ラウルはそんな気遣いなどお構いなしに砂漠蟹をヒョイ、と持ち上げて肩に担いだ。

「砂漠蟹は俺がこのまま持っていくから、解体作業場に案内してくれ」

「ぉ、ぉぅ……一人で砂漠蟹を担げるくらいの力持ちでないと、良いとこのお屋敷の執事ってのは務まらんのだな……」

自分の背丈ほどもある大きな砂漠蟹を、いとも簡単に軽々と担ぎ上げるラウル。

そんなラウルの驚異的な力を目の当たりにしたリカルド、砂漠蟹を見上げながらただただ驚くしかない。

そしてリカルドの中の執事像がますますおかしな方向に向かっているようだ。

「じゃ、二人とも俺についてきてくれ」

リカルドが先頭を歩き、砂漠蟹を担ぎ上げたラウルとライトがその後をついていった。