軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第42話 新たな環境

「レオ兄ちゃん、今日はどこに買い物行ったの?」

「ん?ああ、今日は買い物に出かけたんじゃないんだ」

「え、そうなの?」

「まぁな、アルももうかーちゃんとこに帰ったし、前ほど大量の買い出しもしなくていいからな」

「ああ、そういえばそうだったね」

そうだった、ここ最近レオ兄がほぼ毎日買い出しに出てたのは、アルがたくさん食べるからだった。

「でも、そしたらどこか別のとこにお出かけしてたの?」

「ああ。お前の学校のことについてな」

「ぼくの、学校?」

初めて聞く話に、ライトはきょとんとした。

「ラグナロッツァにある学校の下見っつーか、見学?に行ってきたんだ」

「ぼくが通うための学校?」

「ああ、お前も前から学校に通いたいとか、人里に慣れとかないとって言ってたろう?」

「うん……」

「お前ももう8歳になるし、そろそろここら辺で学校に通い始めてもいい頃合いだろうと思ってな」

レオニスは、改めてライトをまっすぐ見つめる。

「お前だって、立派な冒険者になるって夢があるんだろう?」

「それならまずは人間として成長しなくちゃならん。そりゃ体力作りや狩りの経験を積むことも大事だが、如何に冒険者が己の腕ひとつで稼ぐ稼業だとしても人との繋がりを疎かにしていいもんじゃない」

「むしろ人脈も無しに大成なんざ絶対にできん。パーティーを組んだり冒険者ギルドの世話になったり、多くの人間と関わっていかなきゃならんからな」

まぁ確かに、言われてみればそうだ。レオニスのような基本ソロで活動できるような実力の持ち主であっても、依頼を受けたり素材の買い取りなどを行うには冒険者ギルドの仲介が必要だ。

それに、もし魔物大暴走などの大規模討伐案件が発生すれば、大勢の冒険者達と協力し合うといった場面も出てくるはずだ。

そんな時に、人見知りだの他人と関わりたくないだのと甘っちょろいことは口が裂けても言えない。

また、ライトはこの世界の一般常識というものをまだよく知らない。

レオニスの書斎に並ぶ本を読んではいるが、書物だけで得られる知識には限りがある。

そうした知識や常識などを学んでいくには、やはり学校に通い同年代の者達と交流を持つのが最適だろう。

「うん。ぼく、学校に行きたい」

「そうか、じゃあ来月からラグナロッツァの国立ラグーン学園の初等部に通うか」

「えっ、そんな急に?というか、そんな簡単に入学できるの?」

「ああ、問題ないぞ。ラグーン学園には貴族も通うが、平民にも広く門戸を開く名門校だ」

「そんな名門校に、両親のいないぼくが通ってもいいのかな……?」

「お前ね、何言ってんだ?お前には俺という立派な保護者がいるだろう?」

「うん、それはそうなんだけど……」

「『レオニスの養い子』を拒否る奴がいたら、俺が許さんからね?」

『レオニスの養い子』という言葉に、ライトはびっくりした。

確かに、今のライトは文字通りレオニスに養われている子そのものだが、レオニスはまだ独身なのに子持ちのような称号がついては彼にとって不名誉なことではなかろうか?

「それに、お前もう既にラグナロッツァで『レオニスの養い子』としてそれなりに有名だからね」

「えッ、何でそんなことに!?」

「そりゃお前、こないだ丸一日俺といっしょに買い物したり飯食ったり、冒険者ギルドにも散々出入りしただろ」

「いや、そりゃ確かにこないだレオ兄ちゃんといっしょにお出かけしたけど……たった一日だけのことだよ?」

「一日ありゃ十分だ」

「なにそれこわい」

レオ兄といっしょに街中歩くだけで、そんなに目立つの?注目されちゃうの?二つ名もどきまで付けられちゃうの?

ラグナロッツァって、一応アクシーディア公国の首都だよね?首都って、大都市だよね?なのに、何でそんなとんでもない速度で有名人になっちゃうの?

ド田舎のおばちゃん情報網よりすごくね?

頭の中でグルグル考えるライト。

全く以て寝耳に水もいいところである。

「なら、話は決まりだ。来月の9月からラグーン学園初等部1学年に通えるように、手続きしとくからな」

「ぼくの年だと、初等部の1年生になるの?」

「ああ。ラグーン学園てのは、年齢によって通う部が変わるんだ」

レオニスの説明によると、5歳から7歳が幼等部、8歳から10歳が初等部、11歳から14歳が中等部、15歳から18歳が高等部に通うのだそうだ。

ライトはもうすぐ8歳なので、学年的には初等部1年生に該当する。

経済的な事情や家庭の都合などにより、幼等部や高等部には通わない子も結構いるらしいが、ラグナロッツァに住む家庭の子供はよほどの貧民でなければだいたいは初等部から中等部までは進学するようだ。

「……分かった。レオ兄ちゃん、手続きよろしくね」

「おう、任せとけ」

「ところでさ、レオ兄ちゃん、ひとつ聞きたいんだけどさ……」

「ん?何だ?」

「このカタポレンの森から、毎日ラグナロッツァに通うの……?」

そう、いわゆる通学問題である。

ここカタポレンの森からラグナロッツァはかなり遠く、とても日帰りで往復できる距離ではない。

先日のラグナロッツァ行きの時は、冒険者ギルドの転移門を使わせてもらったが―――まさか、ライト一人の通学のために冒険者ギルドの転移門を毎日使わせてもらう訳にはいかないだろう。

「ああ、それなら大丈夫。もともとラグナロッツァにも俺の家あるから」

「そうなの!?」

「ごく稀にではあるけど、ラグナロッツァ周辺の依頼を数日泊りがけでこなさなきゃならん時もあってな」

「じゃあ、そこに住んで通うってことになるの……?」

「そうなるな。……ん?どうした、浮かない顔して」

ライトは、この森での生活が気に入っていた。

だが、ラグナロッツァの学校に通うとなると、ここから毎日ラグナロッツァまで往復で通うのは難しい。難しいというより困難、困難というより不可能なレベルである。

そしてレオニスは、カタポレンの森の警邏のためにここに住み続けなければならない。

もしライトがラグナロッツァの学校に通うために向こうの屋敷に住むとなれば、即ちそれはレオニスと別居しなければならない、ということになる。

「うん……この森から引っ越ししなきゃならないかと思うと、寂しくて……それに、森にいなきゃならないレオ兄ちゃんとも離れ離れになっちゃうし」

「ああ、何だ、そんなことか」

「そんなことって……レオ兄ちゃん、ちょっと酷くない?」

ライトはレオニスの物言いに反発し、頬を膨らませながらむくれた。

「ああ、すまんすまん、そんな意味じゃないんだ。わざわざ引っ越しなんてする必要はないぞ?」

「え?何で?ここからラグナロッツァに毎日通うなんて、絶対無理でしょ?」

「いや、無理ではないんだなーこれが」

……レオ兄、まさか、アルに会いに氷の洞窟まで行き来しろって言った時のように、ラグナロッツァの学校にもここから毎日走って通え!とかいう話じゃないよね。

それ、スパルタ云々のレベルじゃないよ?

そりゃ確かに、氷の洞窟行くよりかはラグナロッツァの方がまだ距離的には近いかもしんないけどさ。

そういう次元の話じゃないよね?

「この家とラグナロッツァの家を、転移門で繋げりゃいいだけの話だし」

はぁー、ラグナロッツァまで走って通えって無茶振りじゃなかった、良かったぁぁぁ…………って、全然良くなぁい!

「……は?え、ちょ、待、何、転移門?転移門で繋ぐって、今言った?」

「ああ、言った言った、それがどうかしたか?」

「どうかしたか?も何も……転移門って、そんな簡単に作れちゃうもんなの!?」

「いや、簡単ていうほど簡単でもないが、転移門を新たに設置するくらいなら俺でもできるからな」

「…………」

ライトの開いた口が塞がらない。

目もドライアイになるんじゃないか?と思われるほどに、大きく見開かれたままだ。

「……そういうのって、個人の勝手で作っていいもんなの?何かの罰則受けたりしないの……?」

「いや、転移門を作る事自体は別に罰則はない。ただし、新設する場合は所属ギルドに事前に申請して、その設置箇所もきちんと登録しなきゃならん。それを怠れば処罰されるが」

「そうなの?」

「ああ、転移門はその悪用を防ぐために無断設置は禁止されている。だが何かしらの公的ギルドに所属している者なら、正規の手続きを出してちゃんと登録の認証を受ければ問題はない。俺の場合だと、冒険者ギルドに申請することになる」

そう、動力源さえあればどこにでも行ける代物だけに、その取り扱いは何気に厳しい。

だが、公的なギルドに正式に登録することでそのギルドの管理下に置き、運用監視されることを容認すれば転移門の新規設置自体は認められるのだ。

「つーか、こことラグナロッツァの家を直通で繋ぐための転移門新設申請は、もう既に出して許可も下りてる」

「えッ、そうなの?いつの間に?」

「こないだまでアルの食糧爆買いするために、冒険者ギルドの転移門使い倒してただろ?その時に、転移門の新設申請を出したんだ」

「今後もしまたああいう必要性に迫られた時に、冒険者ギルドの転移門の世話になりっぱなしになるよりは、もういっそのこと俺の手元で全て済ませられる方がいいと思ってな」

「その方が周りにも迷惑かけないし、俺も気が楽だし」

「そもそも俺がすぐにラグナロッツァに駆けつけられるようになることは、冒険者ギルドから大いに歓迎されることはあっても邪険にされたり拒否られることなんざ絶対にないさ」

言われてみれば、先日までレオニスは毎日のようにカタポレンの森とラグナロッツァを冒険者ギルドの転移門を使って往復していた。

いくら動力源の供給者権限があるから問題ないとはいえ、あすこまで使い倒すくらいならもはや自宅に転移門を設置した方がよほど早いだろう。

「9月から新学期が始まるからな。それまでに、こことあっちを繋ぐ転移門の設置を済ませとくわ」

「あと、お前にもあっちの家の中とその周辺の案内、ラグーン学園までの道程とかも教えておかんとな」

「あ、学用品や制服も要るな?制服は9月の編入に間に合わんかもしれんが、注文だけはしとかんとな」

「さ、明日からまた忙しくなるぞー」

いつものように、何でもないことのように言うレオニス。

ライトの方はびっくりさせられてばかりなのが若干不満だが、この森から引っ越しすることなく新たに学校に通えるというのは悪くない話である。

それに、学校に通えば図書室にも行けるようになるだろう。先程まで誕生日プレゼントに本をねだろうと企んでいたが、どうやらその必要もなくなりそうだ。

レオ兄に散財させずに済むならば、それに越したことはない―――ライトは心から安堵する。

学校という新たな環境、そしてそれは新たな出会いをも予感させる。

その新たなる未来はすぐそこにある、そのことにライトの胸は期待と不安の入り交じる、謎の高揚感に満ちていた。