軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第41話 思い違い

アルがお母さんのもとに帰った日の晩。

ライトとレオニス、久しぶりに二人だけで過ごす晩御飯やお風呂はとても静かなものだった。

キングサイズよりも一回り大きなベッド。

いつもライトとアルとレオニスで川の字になって寝ていたのに、今日からはまた二人だけの日々に戻る。

アルがこの家に来る前は当たり前だったことが、今はとても寂しく感じる。

「アル、お母さんのところに帰って、今頃いっしょに寝てるのかなぁ……」

「さぁ、どうだろうなぁ」

「晩御飯ちゃんと食べたかなぁ……」

「かーちゃんといっしょなんだ、何かしらちゃんと食べてるさ」

「お風呂とかどうするんだろ……」

「川や湖で水浴びする程度じゃないか?」

広々としたベッドの中で、そんな取り留めのない会話が続く。

「ま、いつかは野生に帰るんだ。そんなに心配しても仕方がないさ」

「……うん」

「さ、もう寝な。『寝る子は育つ』っていうくらいなんだから、寝ないと大きくなれないぞ?」

「はぁい……」

昨日までのふわふわもふもふでなく、レオニスの厚い胸板なのがまた寂しさも 一入(ひとしお) に感じる。

だが、その胸板でもライトに温かさと安らぎを十二分に与えてくれる。

レオニスの胸元で、ライトはいつの間にかスヤスヤと眠ってしまった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

翌朝、ライトは目を覚まし背伸びをした。

今日は木曜日、鍛錬はお休みの休息日だ。

ベッドの中にはレオニスの姿はない。

おそらくは、森の見回りと街に買い出しに出かけているのだろう。

鍛錬は週に2日休みで、基本木曜日と日曜日を休息日にしている。

ちゃんと休みも取らないとね、ブラックな環境は心身を蝕むだけだからね!

ライトは書斎に移動し、先日スレイド書肆で購入した本を棚から取り出した。これは普段の座学としての読書ではなく、ライト個人の意思によるものだ。

魔法の理論や近代の歴史等々、ライトにとっては必須の勉学としてだけではなく、純粋に読んでいて興味深いものだったからである。

本を抱えて自分の部屋に移動し、机に向かい静かに本を読み始めた。

『はぁー、やっぱり魔法ひとつとっても俺の知るブレイブクライムオンラインの魔法とは全く違うな……もはや別物と言っていいくらいだ』

『個人のMP、いわゆる魔力を消費して発動させるところだけは同じだが……』

『そもそもこの世界における魔法とは、日常生活に活かし日々の生活をより豊かにしていこう、という目的のために使われていることが多い』

『地水火風の四属性魔法だって、俺にとっては攻撃や防御等いわば【冒険や討伐任務で生き延びるための手段】だが……』

『この世界では、地は道路や土木工事、水や火は家事炊事、風は乾燥や洗濯、掃除なんかで主に使われている』

いつものように、口には出さず脳内だけであれこれと考えを巡らせるライト。

手元の【近代魔法大全】をパラパラと捲りながら、無言のまま眺めている。

『いや、平和な時代ならそれでもいいんだ。というか、本来ならそういう方向に魔法を使うのが正しいし、その方がいいに決まってる』

『だが、この世界はお世辞にも平和とは言い難い。街から一歩外に出れば、魔物や山賊にかち合う危険性のある物騒さだからな』

『例外として、普段から攻撃魔法を使っているのは、治安を担う騎士団や警邏隊、魔物を狩るのが仕事の冒険者くらいのもんらしいが……』

『それにしたって、もうちょい攻撃魔法やバフデバフの補助魔法の類いがあってもいいんじゃないか?』

ライトが【近代魔法大全】という本を眺めながら、思いっきり口をへの字にして渋い顔をしている原因。

それは、この本にライトの知るスキル類がほとんど書かれていないことにあった。

かつてライトが慣れ親しんだブレイブクライムオンラインでは様々なスキルがあり、強力な攻撃スキルやバフスキル、デバフスキルを駆使して仲間とともに討伐や冒険をしていた。

だが、どういう訳かこの大全と名乗る本には、ライトの記憶にあるスキル類が全くと言っていいほど出てこないのだ。

『本当なら、現役バリバリ冒険者のレオ兄に聞くのが一番早いんだが……職業やスキルのことを聞いてもいいもんかどうかが分からん』

『俺の知識とかなり違う箇所多いし、その手の食い違いで地雷踏みたくないんだよなぁ……変に疑われて、あれこれ聞かれても答えに詰まるだけだし』

『なるべくならば、人に聞くより書物から知識なりヒントなりを得たいが……それでもどうしても分からなけりゃ、聞いてみるしかないか……』

この本の中で攻撃魔法として紹介されているのは【ファイヤー・アロー】【エア・カッター】【ウォーター・バインド】等ライトにとっては耳慣れない、この世界独自の初級魔法っぽいようなものしか載せられていない。

しかも、その名前や効果、属性、使い道などが簡単に紹介されているだけで、肝心の習得方法が記されていないのだ。

これではどうやって習得するのか、さっぱり分からない。

挙句には、ライトが求めるようやバフデバフ類―――自分の能力を強化したり、敵のステータスをダウンさせるような補助魔法類に至ってはひとつも見当たらないのだ。

それでは他に一体何が掲載されているのか?と言われれば、主に魔物が使ってくる魔法のデータが多かった。

それはそれで貴重なデータには違いないのだが、人間である自分が覚えられないような魔物特有の魔法では参考にならない。

ウン万Gも出して購入してくれたレオ兄にあまりにも申し訳なさすぎて、こんなこと口が裂けても言えないが―――これでよくも【近代魔法大全】などと名乗れたものだ、とライトは落胆する。

『つーか、こんなに攻撃魔法や補助魔法の種類少ないのに、一体どうやって魔物の討伐とかやってんだ……まさか剣技や体術頼み、とか言わないよな?』

『それともあれか、市販で出回るような書物には絶対に載せることなんて有り得ない、門外不出の秘伝的な扱いでもされてんのか?』

考察すればするほど、疑問が湧き上がる。

『いや、それよりももっと気になるのは、俺の知るスキル類がほとんど見当たらないことだ』

『回復スキルのキュアやキュアヒールなんかは、この本の中にも回復魔法として掲載されてはいるが……』

『これは、キュア系がスキルとしてではなく医療系魔法として認識されているせいか?』

そこでライトは、はたと気づく。

『もしかして―――俺の知るスキルと、この世界でいうところの魔法というのは……全くの別物、なのか?』

『魔法系スキルはMPを消費して行う行動だから、当然それらは魔法なんだとばかり思っていたが……』

『考えてみれば、スキルは魔法系攻撃ばかりでなく物理系攻撃だって豊富にあったし、バフデバフの補助系や回復系全てあった』

『そもそもスキルとは、 S P(スキルポイント) を使って繰り出す技の総称だ。発動に必須なのはSPであって、MPや魔力ではない』

『てことは……スキルとは魔法ではなく【スキル】という名の術で、この世界で使われている魔法とは根本的に全く違うもの、尚且つその存在が現状では全く認識されていないのだとしたら―――』

『これまでの書籍類に、スキルが全く出てこないどころかスキルという単語すら一度も出てこなかったことにも説明がつく』

それは、ライトの中だけで浮かび上がった仮説に過ぎない。

だが、ライトは今まで結構な量の書物を読んできた自負がある。レオニスの書斎にある本もかなり読んだ。

その自分が、こうまでスキルに関する情報を見つけられないのだ。ここまでくると、スキルという概念が世に普及していない、と考える方が自然であり、もはやそうとしか考えられなかった。

そこまで考えて、ライトは別のことに気づく。

『そうなると……ゲーム内で各職業のスキルで習得してきた、バフデバフ類。一体どうやって覚えりゃいいんだ?』

そもそも職業システムからして、未だにその謎は解けていない。だが、この世界には魔法がある。

故に、特定の職業に就かずともスキルは魔法で同等のものを覚えられるだろうから、それで代用すれば当分は大丈夫、と思い込んでいたライトにとっては、とんだ大誤算である。

『いや、ちょっと待て、これはマズい……』

『参ったな、職業システムで転職しなくてもこの世界にある魔法で同じ効果のものを探して、そいつを覚えりゃいいもんだとばかり思ってたが……どうやらそうはいかんようだ』

『これは―――職業システムの謎を先に解明せにゃならんか……どうもこの世界の魔法は攻撃魔法からしてほとんどバリエーションないっぽいし、何よりこのままじゃ攻撃魔法どころかバフデバフ類すら一向に習得できねぇってことになる』

ライトはそれまで見ていた【近代魔法大全】をそっと閉じ、目を伏せながら小さなため息をついた。

『職業か……また近いうちにレオ兄にスレイド書肆に連れてってもらわなきゃなぁ……』

『しっかし、本数冊でン十万Gとか恐ろしい……新車の自動車一台軽く買える値段じゃねーか』

『そんな代物、そうホイホイねだる訳にもいかんしなぁ……』

『だが、今はそういった書籍類に頼らなければ、俺はこの世界での知識や歴史、常識などを得ることができない……』

んー、どうしたもんか……と考え込むライト。

目を閉じながらしばしうんうん唸り続け、ハッ!と目を見開いた。

「!!!!!」

「そういやもうすぐ俺の誕生日じゃーん!!」

「ッしゃー、そしたら誕生日プレゼントで本を買ってもーらおっと!!」

「今度はお高い書籍が肥やしにならんように、グライフのとこで吟味に吟味を重ねて選ぶぞー!」

普通に考えて、誕生日プレゼントに新車相当を買ってもらう8歳児など、石油王の息子とかでもない限りは無理な話なのだが。

そんなことは考えもせずに、我ながら良いアイデアを思いついた!と小躍りしながら喜んでいる。

すると、そこにレオニスが帰ってきた。

「ん?どした?やけに燥いで嬉しそうだな??」

「あ、レオ兄ちゃん、おかえりなさーい」

「おう、ただいまー」

早速晩御飯の時にでも、誕生日プレゼントの相談をしよう!と企むライトだった。