軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第419話 神樹の誕生日

『ライトにまずお聞きしますが。貴方は神樹がどういうものであるか、知っていますか?』

「えーと……何百年、何千年と長く存在している大きな木で、高い知性と強大な魔力を持っている、ということくらいしか知りません、ごめんなさい」

『いいえ、謝ることなどありませんよ。そもそもこれまで神樹族と人族が交わることなどほとんどありませんでしたからね』

ユグドラツィに『神樹とは何ぞや?』と問われたライト、在り来たりな答えしか返せないことに恥じ入る。

とはいえ、ユグドラツィがフォローしたように人族の間では神樹という存在に対してそこまで詳しい情報はほとんど出回っていない。そもそも神樹の生息地自体、通常の人間では立ち入ることすら非常に困難な場所ばかりなのだ。

『神樹というのは、生まれながらにして神樹ではありません。特殊な場合を除き、基本的に最初はただの樹木です』

「え、そうなんですか?」

『ええ。生きとし生けるもの全てがそうですが、生まれたばかりの頃は脆弱な赤子から始まるものです』

「あー……言われてみれば確かにそうですね……」

ライトは最初から神樹族というものがあるのだと思っていたがが、どうやらそうではないらしい。

考えてみれば、今横にいるレオニスだって最初から大陸最強の冒険者だった訳ではない。レオニスにだって赤ん坊や幼児期といった可愛らしくも脆弱な時期があり、少年期から青年期を経て今に至るのだ。

しかしそうなると、次に気になるのは神樹の定義だ。

どうすれば神樹と呼ばれる存在になるのだろう。

「そしたら、ツィちゃんやシアちゃんはどうやって神樹になったんですか?」

『簡単なことですよ。何百年、何千年という長い年月を経ることが神樹に至る唯一の条件なのです』

「何百年、何千年……ツィちゃんは今何歳なんですか?」

『季節の巡りがあと五回も来れば、千回目になりますかねぇ』

「もうすぐ千歳ですか!……すごいなぁ」

神樹に至る条件はただ一つ。長い長い年月を経てなお壮健で生命力溢れていること。

その長い年月というのが何百年なのかまでは、ユグドラツィ自身には明確に分からないらしい。人族のように、歴史として後世に残すために書物に記録したりできる訳ではないので、それも致し方ない。

そしてユグドラツィがもうすぐ千年の時を経て千歳の誕生日?を迎えることに、ライトはただただ感動する。

千年の時を生きるというのは、どのようなものなのだろうか。長生きしてもせいぜい百年とちょっとくらいしか生きられない人族のライトには、到底想像もつかない長さだ。

「じゃあ、そしたら五年後にはツィちゃんの千歳の誕生日が来るんですね!その時には盛大なお祝いしましょう!」

『……お祝い、ですか?』

「はい!人族には自分が生まれた日を祝う習慣があるんです!……って、ツィちゃんの誕生日って何月何日だろ?」

ここでライトがはたと悩む。人族以外の生物で、一年を365日に細かく刻んだ暦などという習慣を使うことはない。

ここでもまた人族と非人族の習慣の違いが浮き彫りになる。

そんなライトを見たレオニスとラウルが、それぞれに助け舟を出す。

「まぁ細かい時期は分かんなくても、だいたいの時期さえ分かりゃいいんじゃねぇか?」

「そうだな。俺達妖精や八咫烏も生まれた時期の寒暖、人族が言うところの四季ってやつだな。それで生まれた時からの年数を数えて増やしていくしな」

「そっか、そうだよね。ツィちゃんは自分が生まれた時の季節は分かりますか? 温かい春だった、とか暑い夏だったとか、あるいは今のような寒い季節だった、とか」

レオニスとラウルが出した助け舟は、ライトにとっても十分納得できるものだった。

早速ライトはユグドラツィに生まれた季節を覚えているかを問うた。

『私が生まれた季節、ですか? そうですねぇ……どこまでも広がる蒼穹に真っ白い雲が映え、空気は暑かったように思います』

「じゃあ夏ですかね?」

『多分そうだったと思います。晴れ渡る天色の空―――そう、カタポレンの森の番人、貴方の瞳の色にそっくりですね』

「え? 俺? ぃゃ、何だか照れるなぁ」

ユグドラツィの記憶では、どうやら夏に生まれたようだ。

その澄み渡る晴れた空の色は、レオニスの天色の瞳を思わせるらしい。

突如己の瞳の色に言及されたレオニス、何やら頬を赤らめて照れている。ユグドラツィが語るような詩的な言葉に、冒険者たるレオニスが例えられたことなどあろうはずもない。

褒められるとしても『強い』『ガチ強い』『アホほど強い』などの腕力系で称えられた記憶しかないレオニス。

故にレオニスは何だかこそばゆくて面映ゆそうにしていた。

「じゃあ、五年後の夏にツィちゃんの千歳の誕生日祝いをしようね!」

「そうだな、夏ならライトも夏休みで動けるだろうしな」

「つか、盛大なのは五年後でいいが今年の夏にだって普通に祝ってもいいだろ。誕生日ってのは毎年祝うもんなんだろ?」

「「『…………』」」

ラウルの『毎年お祝いしてもいい』という発言に、思わず他の三者は黙り込む。ライトとレオニスは揃いも揃って目を丸くし、あんぐりと口を開けたままラウルの顔を凝視する。

突然訪れた静寂とライト達の異様な反応に、ラウルの方も若干焦りだす。

「え、何、何だ? 俺、何かおかしいこと言ったか?」

「……ううん、そんなことない!ラウルって、本当にすごいね!」

「ああ。ラウル、お前って本当に天才だな」

「ン? 俺が天才なのは料理方面だけだぞ?」

焦るラウルに、ライトもレオニスも心から感嘆し絶賛の言葉をかける。

そう、全く以てラウルの言う通りで、何も五年後まで待つ必要などない。ユグドラツィの誕生祝いなら、毎年したっていいのだ。

そんな簡単なことに思い至らなかったライト達は、ラウルのその素直さ、柔軟な考え方に心底尊敬し、敬意を表したのである。

ラウルもまた料理方面以外で褒められることはあまりないだけに、ライトとレオニスからの絶賛の理由が分からずきょとんとした顔をしていた。

『……ふふふ。貴方方には本当に驚かされてばかりですね』

ライト達の騒がしくも仲睦まじい様子を、ユグドラツィは心から嬉しそうに眺めていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ユグドラツィの誕生日祝いの計画が持ち上がったところで、ユグドラツィが改めて話をもとに戻す。

『先程のライトの話では、この世界には六本の神樹があると聞いた、ということでしたが。その者はかなりの情報通のようですね』

「はい、その人の先祖にドライアドと契りを交わした人がいたそうで。その人の一族は何代かに一度、先祖返りが生まれるとか何とか」

『ほう、ドライアドとの混血ですか。ならば神樹族について詳しいのも道理ですね』

ユグドラツィに神樹に関する情報源を問われ、ライトも素直に答える。

名や職業までは明かしてないが、肝心な部分はそこではないので問題ない。

『その者の言う通り、この世界に神樹と呼ばれる存在は六体います』

『カタポレンの森に住まうは、ユグドラシアとこの私ユグドラツィ』

『その他には、天空島に住まう天空樹ユグドラエル、地底に住まう冥界樹ユグドランガ、海底に住まう海樹ユグドライア、シュマルリ山脈に住まう竜王樹ユグドラグス』

『これが今この世に存在する神樹です』

「「「おおおお……」」」

ユグドラツィの話に、ライトだけでなくレオニスやラウルも感嘆の声を上げる。

おやつに関する労使交渉がきれいにまとまり、いつの間にやらライトとユグドラツィの神樹話をしっかり聞いていたようだ。

「レオ兄ちゃん、今のツィちゃんのお話聞いた!? 天空島や地底、海底、シュマルリ山脈にも神樹がいるんだって!」

「おう、聞いた聞いた。それら全部、いつか絶対に見に行きたいなぁ!」

「レオ兄ちゃんでもまだ見たことないの?」

「天空島には行ったことがあるが、俺が行ったのは神樹のある島じゃなかったな。地底は多分地底神殿の近く、海底はサイサクス大陸の最南端から行けるラギロア島の海底に神殿がある、と聞いたことはある」

「シュマルリ山脈の竜王樹は?」

「そこは野生の大型ドラゴンがうようよいるところだぞ……さすがの俺でも迂闊に近寄れん」

ライトがレオニスに他の神樹を見たことがあるか問うも、ライト同様見たことはないという。というか、レオニスの場合八咫烏の里のユグドラシアにもまだ直接会ったことがない。

そういう点では、ライトやラウル、マキシにすら一歩遅れを取っている状況だ。

だがその他の神樹、地底や海底、シュマルリ山脈の神樹のことは僅かながらも知っているらしい。さすがはレオニス、ベテラン冒険者として本領発揮である。

「じゃあ、ツィちゃんとシアちゃん以外の神樹で行きやすい順に並べると、どんな感じになりそう? 一番行きやすいのは海底っぽいけど」

「そうだなー、その中だと海底が一番行きやすいっつーかマシだろうな。次に地底、天空島、シュマルリ山脈の順か」

どれもこれも行くだけで壮絶に厳しそうだが、それらの場所を聞いただけでもワクテカ顔のライト。それはやはりライトの中に流れる冒険者としての血や、ゲーマー魂が疼くのであろう。

現実としては、それらの地に本当に赴くにはかなりの危険が伴うし、念入りな準備も要る。もちろんライトとてそうした諸々のことは重々承知している。

しかし、まだ見ぬ地に行きたい!と願い、思いを馳せることなら誰にでも許されるはずだ。人はそうした目標や高みを目指すことで、夢を叶える努力を積み重ねていくものなのだから。

「絶対に全部の神樹に会いに行きたいね!」

「ああ、俺の場合まず八咫烏の里にいるユグドラシアに会うのが先かな」

「あ、そうだね、レオ兄ちゃんはまだシアちゃんには会ってないもんね。そしたら今度、マキシ君の里帰りの時にレオ兄ちゃんもいっしょに行けばいいよ!マキシ君なら喜んで許してくれると思うし。ね、ラウル?」

「そうだな。マキシの父親、八咫烏の族長もレオニスのことを知っていたようだしな。問題ないんじゃね?」

天空樹や冥界樹に会う前に、レオニスの場合は大神樹ユグドラシアに会う方が先だろう。

以前ライトとラウルがマキシの里帰りについていった時に、族長のウルスもレオニスのことを『彼の御仁』と呼んでいた。実際に会ったことはなくても『カタポレンの森の番人』として噂には聞き及んでいたと思われる。

族長がレオニスに対して友好的ならば、レオニスが八咫烏の里を訪問しても何の問題もあるまい。

「ねぇラウル、マキシ君が次に里帰りするのはいつ頃かなぁ?」

「去年の年末に帰ったから、当分行かないんじゃね?」

「そうだねー、家族の皆とは和解できても他の八咫烏とはまだ微妙というか、溝深そうだったし……」

「ま、そこら辺はマキシに聞いてみるのが一番だな。マキシもアイギスで働いてることだし、休みの都合もあるだろう」

「うん、今日の晩御飯の時に早速聞いてみようっと!」

ユグドラツィの誕生日祝い、そしてまだ見ぬ神樹達。

ライトのこれからしたいこと、叶えたい夢がまたたくさん増えた日だった。