軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第417話 神樹の分体

ライトとレオニス、ラウルの三人はまずカタポレンの森の家に移動し、そこから神樹ユグドラツィのもとに向かう。

カイ作の木彫りのフォルがあるからという訳ではないが、今日はフォルとともにお出かけする。ライトの右肩に乗ってお出かけするフォルは、とても嬉しそうだ。

午後の日差しを受けながら、カタポレンの森を駆ける三人。カタポレンの森の地理を知り尽くしているレオニスを先頭に、ライトとラウルが後をついていく形で木々の間を素早く駆け抜けていく。

そうして三十分ほど駆けた先に、神樹ユグドラツィがいる場所に到着した。

ユグドラツィのもとに辿り着いた三人。

まずはユグドラツィと一番仲良しのライトが話しかける。

「ツィちゃん、こんにちは!お久しぶりです!」

『ライト、ようこそ来ました。お久しぶりですね』

「はい!今日はレオ兄ちゃんとラウルもいっしょに来てくれました!フォルもいます!」

『まぁ、そんな大勢で来てくれるなんて。とても嬉しいことですね』

ライトの挨拶に、ユグドラツィは本当に嬉しそうな声音で応えた。

そしてレオニスとラウルも、ライトに続きユグドラツィに向かって挨拶をする。

「よう、ツィちゃん。長らく待たせたな。今日は約束のものを持ってきたぜ」

「今日はレオニスとライトがツィちゃんのところに行くって話を聞いたから、俺もついてきたんだ。久しぶりだな、ツィちゃん」

『カタポレンの森の番人レオニス、妖精ラウル。貴方方の訪問もとても嬉しい。ようこそいらっしゃいました』

ユグドラツィの枝葉が風に揺れて、サワサワと軽やかな葉擦れの音が耳に届く。ライト達の訪問を歓迎するかのような爽やかな音色だ。

『約束のもの、というと、過日に分け与えた枝で何か作ったのですか?』

「ああ、俺の尊敬する超一流の職人に作ってもらった逸品だ。ツィちゃんも是非とも見てくれ」

ユグドラツィの弾むような問いかけに、レオニスが受け答えつつ早速アイギス製の品々を空間魔法陣から取り出す。

ライトにはタイピンを渡し、ラウルには大小二つのバングルを渡す。そしてレオニス自身はカフスボタンを手に持った。

それらの品々をユグドラツィにもよく見えるように、三人とも手に乗せて高く掲げるように差し出した。

「ツィちゃん、見えるか?」

『……ええ、よく見えますとも。どれも素敵な作品ですね』

「ツィちゃんの分体を、この四つの品につけたいと思う。俺はこのカフスボタン、ライトはタイピン、ラウルは大きいバングル、そしてここにはいないが八咫烏のマキシにも小さなバングルを持たせる予定だ」

『分かりました。ではその四つに私の分体を込めましょう』

ライト達が掲げて見せた品々を見たユグドラツィ、感激の面持ちのような何とも嬉しげな言葉を呟く。

そしてその四つに分体をつけたいというレオニスの願いを聞き届け、ユグドラツィがその力を分け与えた。

ライト達が持つアクセサリーが、ユグドラツィの注ぐ力によって淡い光に包まれる。

その光は柔らかな中にも強い力を感じさせる。手のひらの上に乗せた木製のアクセサリーが、じんわりとした熱を持ち熱くなっていく。

アクセサリーから発する光が一瞬パァッ!と強く発光した後、すうっと薄れゆくとともに熱も収まっていく。

光が完全に消えた頃に、ユグドラツィの優しい声が三人の耳に響いた。

『……これでその四つの品に私の分体が入りました』

『貴方方がそれらを身に着けている時、私も貴方方と同じ景色を見ることが可能になります』

『四つ同時に全ての景色を見続けるのは、さすがの私も疲れそうなので常時貴方方を見守るのは難しいですが……』

『貴方方が思いを込めながらその品に触れれば、その思いは私への呼びかけとなってすぐに私に伝わります』

『貴方方の見せたい景色、伝えたい思い、願い―――そうしたものを是非とも私にも見せてくださいね』

ユグドラツィの分体を分け与える作業は無事完了したようだ。

ユグドラツィのその言葉に、ライト達も喜ぶ。

「ツィちゃん、ありがとうございます!」

『いえいえ、これは私の方から望んだことですからね。礼を言うのは私の方ですよ』

「でもまぁ確かにな、四つ全部の景色を同時に見るのは混乱しそうだよなー」

『ええ。私も分体の目を通して外の景色を見ること自体、初の試みですので。追々慣れていくつもりですが』

確かにユグドラツィの言うように、四つの分体全部の視界を同時に見るのは大変だろう、とライト達も思う。

ユグドラツィは人間のように目玉が二つという訳ではないし、樹木だけにその意識を向ければ360°全方位眺めることもできそうではある。

だがそれでも、目の前に広がる景色とは違う光景が一気に四つも写し出されれば、如何に悠久の時を生きる神樹とて混乱しそうではある。

そんな風に労い合う人族二人と神樹の横で、空気を読まない妖精がここに一体。

「なぁ、ツィちゃん。これ、触った感触なんかも伝わるのか?」

『いいえ、分体と共有するのは主に視覚と聴覚で…………え? ちょ、待、何? 嘘ッ、ぃゃぁ、くすぐったぁいッ……』

ラウルがその手に持った大きいバングルを、指先でこしょこしょとくすぐるかのように撫でる。

ユグドラツィ曰く、共有するのは主に視覚と聴覚とのことだったが、こしょこしょとくすぐるように撫でると何故かユグドラツィ本体の方にもくすぐったい感覚が湧くようだ。

ユグドラツィの『ィャンッ』『アヒャッ』『キャハハハハッ』という、何とも可愛らしい哄笑が辺り一面に響き渡る。

神樹の上の方がワッサワッサと揺れ動きざわめく姿は、まるで身を捩りながら笑い転げているかのようだ。

常に穏やかで冷静沈着な神樹ユグドラツィが、大笑いしながらくすぐったがる。実に世にも珍しい光景である。

「ちょ、ラウル、ツィちゃんくすぐったがってるよ、やめてあげて?」

「おおそうか。いや何、触覚や痛覚もあるのか疑問に思ったものだから、ちょっと試してみたんだ。すまんな、ツィちゃん」

『……ハァ、ハァ、ハァ……お、大きな枝が、折れたり、した、時には、私にも、多少の、痛痒は、ありました、が……こ、このように、激しく、こそばゆく、感じる、こともある、とは……』

ユグドラツィがくすぐったがっているのを見たライトが、慌ててラウルを止める。

それでもラウルはシレッとしたもので、悪びれることなく素直にライトの言うことに従いバングルを撫でる手を止めた。

そしてくすぐられたユグドラツィ、くすぐったいと感じるのは長い樹生の中でもこれが初めてのことらしい。ゼェハァと息急き切ったような、何とも珍しいヘロヘロな声でユグドラツィ自身もかなり驚いているようだ。

「ラウル、お前ね、一体何してやがんのよ……ごめんな、ツィちゃん。ラウルってこんな奴なんだ」

「いやいやいやいや、そうは言ってもだな。分体を通してツィちゃん本体にも触覚や痛覚が伝わるかどうか、確認するのは大事なことだろう? 万が一分体が宿ったアクセサリーを落っことしたり破損した場合どうなるかを考慮しなきゃならん」

レオニスが改めてユグドラツィに謝るも、ラウルとしては納得いかないようでレオニスに反論する。

確かにラウルの言い分も尤もであり、一理ある。もし視界や聴覚だけでなく、触覚や痛覚まで分体を通して本体にそのまま伝わるようであれば、分体入りのアクセサリーをより慎重に注意深く取り扱わなければならない。

「ぃゃ、そりゃごもっともなんだが……だったらせめて、くすぐる前にツィちゃんに一言断るなり確認するなりしてから行動しような?」

「……おお、それもそうだな。ツィちゃん、断りも入れずにいきなり試した俺が悪かった、許してくれ」

『ぃ、ぃぃぇ、どういたしまして……ラウルはとても思慮深い妖精なのですね……』

レオニスから『そういうこた先に言ってからやれ、な?』的な忠告に、今度ばかりはラウルも納得して再度ユグドラツィに向けて謝罪する。

そんなラウルの気軽な謝罪を、ユグドラツィは若干まだヘロヘロ気味ながらも静かな口調で受け入れる。本当に心優しい慈悲深い神樹である。

『ですが……ラウルの言う通りですね。触覚や痛覚まで私に伝わるようでは、分体を持ち歩く貴方方にも余計に気を遣わせて負担を強いてしまうことでしょう』

『今のラウルの試みで、少なくとも触覚は伝わることが分かりました。これでは貴方方が持ち歩くのに差し支えがあるでしょうから、私の方で再度感度を調整します』

ユグドラツィはそう言うと、再びアクセサリーに力を注ぎ込み始めた。

今度はじんわりとした淡い光が長く続き、熱を帯びることもなく発光し続けた。ライト達はその柔らかな光をじっと見守り続ける。

しばらくして完全に光が消えてから、ユグドラツィがラウルに声をかけた。

『ラウル、先程のようにその腕輪を撫でてみてくれますか? ライトにレオニス、貴方方の手に持つ装飾品も突ついたり抓ったりしてみてください』

「了解」

「ぉ、ぉぅ、分かった、やってみる」

「は、はい……」

三人はユグドラツィに言われた通りに、バングルやタイピン、カフスボタンをそれぞれに撫でたり爪でカリカリと引っ掻いてみたりする。

しばらくそうしてみても、ユグドラツィは今度はうんともすんとも言わない。どうやらくすぐったい等の感覚は一切起きていないようだ。

『……今度は何ともありませんね。これで分体の方はもう大丈夫そうです』

「そうか、そりゃ良かった。万が一分体入りのアクセが壊れた時に、ツィちゃん本体にまで苦痛が伝わったら可哀想だからな」

『妖精ラウル、貴方の心遣いに感謝します』

「いや何、ツィちゃんのためになったら幸いだ」

ユグドラツィに感謝され、それをまた事も無げにさらりと受けるクールなラウル。

空気を全く読まない妖精の、セクハラ紛いの好奇心。それが一転して神樹からの感謝を得ることになるとは、一体誰が予想し得ただろうか。

だがしかし、触覚はともかく痛覚まで共有していては破損時のことを考えるとおちおち身に着けていられないのもまた事実だ。

ラウルの一見考え無しの無遠慮な行動は、そうした不具合を見事に発見して改善へと導いたのである。

「ラウルの空気を読まない考え無しの行動も、たまには役に立つこともあるんだな……」

「うん、ラウルってホントにすごいよね……ぼくには絶対に真似できないけど」

「ああ、俺もあれは真似できんわ……下手に真似してみたところで、あいつみたいに上手く事を運ぶ自信もねぇし」

傍若無人一歩手前に見える行動も、ユグドラツィの身を案じてのことだと思えばそこにはラウルなりの深い思い遣りが込められていることが分かる。

見た目はクールなのにその心根はとても愛情深い妖精を、ライトとレオニスはほとほと感心しながら尊敬の眼差しで見つめていた。