軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第411話 新たな職業

父母の家を出た後、ライトは家のすぐ裏にある山に入っていった。

ここを真っ直ぐ進んで行けば、巫女ミーアのいる転職神殿がある。だが今日はその前に、少し寄り道したいところがあった。

それは転職神殿のある場所より東側、場所的に言えばもうシュマルリ山脈の範疇に入る。

その辺りの山林に『咆哮樹』という樹木型の魔物が棲息しているのだ。

この咆哮樹からは、いくつかの素材が採れる。その中の一つ『咆哮樹の木片』が、今ライトが取り組んでいるクエストイベントで得たコズミックエーテルのレシピ作成に必要な原材料なのだ。

そう、今日のライトのディーノ村お出かけの二つ目の目的は咆哮樹の木片の採取である。

父母の家の裏山を東側に登っていくライト。急傾斜の山道ではあるが、カタポレンの森の中を日々駆け回る修行のおかげで森林歩きはかなり得意になってきた。

道無き山林を、ライトはひたすら東側に登っていく。

すると、次第に周囲の空気が何やら怪しくなってきた。そろそろ魔物が出てきて襲いかかってきそうな気配に、ライトもより慎重に進んでいく。

そしてそれは突然、ライトの横から聞こえてきた。

「キエエェェエェエエェッ!!」

耳を劈くような叫び声を発しながら、木の手足を持つ樹木がライトを襲う。幹には某ムンクの叫びのような、怖ろしげな 洞(うろ) の顔が浮かび上がっていて常に絶叫している。

そいつこそが、ライトが探し求めていた樹木型魔物『咆哮樹』である。

背丈はレオニスと大差ないくらいで、咆哮樹としてはかなり小型の部類だ。とはいえ、それでもライトにとってはかなり大きく見える。

咆哮樹は腕のような左右の枝を鞭のように 撓(しな) らせてライトに襲いかかる。

しかしこの程度でライトは怯まない。物理系必中スキル『手裏剣』を繰り出し、襲い来る咆哮樹の枝を次々と切り落としていく。

「キエエェェエェエエェッ!?!?」

あまりにもサクサクと枝を切り落とされた咆哮樹、このままでは左右の腕どころか天辺まで 丸刈(マルガ) リータにされる!と思ったのか、慌てて二足歩行ですたこらさっさと逃げ出した。

ライトは深追いせずに、その場に落ちた咆哮樹の枝を拾い集める。

「必要なのは『咆哮樹の木片』だから、切り落とした枝でも多分問題ないよね?」

ライトはその場でマイページを開き、今拾った咆哮樹の枝の一番小さいものを試しにアイテム欄に触れさせてみる。

するとその枝葉はアイテム欄にスーッと溶け込むように入っていき、アイテム欄の中に『咆哮樹の木片 1個』と表記された。

「よっしゃ、成功ー!」

お目当ての素材をゲットできたことに、ライトはガッツポーズしながら大喜びする。

「さて、そしたら大きな枝はいくつかに切り分けよう。小さくても大きくても木片として一個にカウントされるなら、小分けにした方が個数マシマシ増やせるもんね!」

ライトは左の腰に携えていたシルバーダガーを取り出し、咆哮樹の太い枝をスパスパと切り刻んでいく。

そう、木片とは木の切れ端のことを指す。切れ端というくらいだから、何も太い枝のままアイテム認識させなくてもいいのだ。

かといって、あまりに細かく切り刻み過ぎて木片と認識されないのも困るので、そこはケチり過ぎない程度の大きさになるよう適宜調整する。

おかげで今遭遇した一回だけで、アイテムとしての咆哮樹の木片は十五個分になった。

コズミックエーテルを一個作るには、咆哮樹の木片が五個必要だ。木片十五個あれば、コズミックエーテルを三個分作ることができる。

クエストイベントのお題クリアはこれで達成可能だ。しかし、なるべくならばコズミックエーテルはもっとたくさん作れるようにしておきたい。

何故ならば、どうせこの先のクエストで濃縮コズミックエーテルを作らねばならないはずだからだ。

そんな訳で、ライトはもう少し咆哮樹から木片を採取していくことにした。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「ふぅ、これだけあればしばらくは足りるかなー」

東側の山に登り続け、咆哮樹との遭遇五回目にして一休みするライト。

ゲットした咆哮樹の枝をこの場で全部切り分けるのは面倒かつかなり手間がかかりそうなので、一旦アイテムリュックに入れて家に持ち帰ることにする。

咆哮樹の生態として『山の上にいるものほど咆哮樹のサイズが大きくなる』という記述が魔物図鑑に書いてある。

実際ライトが遭遇した咆哮樹もそうだった。一番最初に遭遇したのが最も小さく、二回目、三回目と出くわす標高が高くなるにつれて咆哮樹もどんどん大きくなっていった。

本日最後の五回目の咆哮樹など、もはやオーガ族の族長ラキもしくは長老ニルと同じくらいの大きさだった。

ここよりさらに上に登っていけば、もっともっと大きな咆哮樹がいるに違いない。

だが、魔物の図体が大きくなればなるほど当然危険度も上がる。これ以上大きな咆哮樹と戦うのはさすがに危険かも、と考えたライトはさっさと下山した。

素材はもう十二分に確保したのだ、ここで変に欲をかいて怪我などしたらレオニスにも心配をかけてしまう。

周囲に要らぬ心配をかけぬよう、ライトは咆哮樹狩りを早々に切り上げて山の西側に移動していった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

再び父母の家の前に戻ってきたライト。

そこから改めて本日のディーノ村での三つ目の目的地、転職神殿に向かう。

転職神殿で何をするかと言えば、答えは一つ。『新しい職業に転職する』である。

このサイサクス世界に生まれたライトがようやく見つけた、転職神殿を用いた職業システム。

一番初めに選び就いた【斥候】、その最上位である闇系四次職【常闇冥王】の習熟度が先日ついにMAXになったのだ。

ライトが闇系四次職【常闇冥王】に転職したのが、去年の十二月半ば。そこから実に二ヶ月かけて職業を極めたのだ。

職業のランクが上がれば上がるほど、次のステップに進むための経験値も膨れ上がる。職業システムにおける最上位の四次職ともなれば、これ一つを極めるだけで月単位の修行が必要なのである。

ああ、ここまで本ッ当ーーーに長かった……つーか、四次職全部で十二種類あるってのに、一つを極めるのに五ヶ月近くかかるとか洒落ならん……このペースじゃ全部制覇するのに一体何年かかるんだ……まぁ今は学園に通ってて修行三昧できないせいもあるから仕方ないんだけど。それにしても、早いとこSP消費無しの無限スキルが欲しいなぁ。クエストイベント以外はろくにイベントこなせてないけど……ぐぬぬぬぬ。

そんなことを考えつつ、のんびりと山道を登っていくライト。

ようやく見えてきた転職神殿。そこには相変わらず破壊され尽くした、旧教神殿跡地としての無惨な姿が静かに横たわっていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「ミーアさん、こんにちは!」

『ライトさん、ようこそいらっしゃいました』

元気良く挨拶するライトに、嬉しそうに返事をする巫女ミーア。転職神殿の専属巫女ミーアは、今日も変わらず向こう側が透けて見えるホログラム状態だ。

そんな儚げな彼女だが、ライトと初めて会った時の今にも泣きそうな悲しげな表情はもうない。

『本当にお久しぶりですねぇ』

「はいー、四次職ともなるとなかなか習熟度が上がらなくて」

『勇者様も大変なんですねぇ』

「ホント大変なんです……ぼくまだ全然勇者じゃないですけど」

おっとりとした口調でライトと会話するミーア。

ミーアに言わせれば、ライトは相変わらず『勇者様』らしい。

だが、当のライトにしてみれば今の状態で勇者を名乗るなど烏滸がましいにも程がある。まだまだ足りないものだらけだが、最低でも全職業をマスターしなければ始まらない、とライト自身思っているからだ。

「でも、ようやく斥候の闇系四次職【常闇冥王】をマスターしたんですよ!」

『まぁ、おめでとうございます!では早速転職なさいますか?』

「はい、お願いします!」

『転職すると、レベルが1にリセットされます。所持金、装備品、アイテム、スキル、職業習熟度はそのまま持ち越されますので、ご安心ください』

『どの職業に転職なさいますか?』

「【求道者】でお願いします!」

ライトが四次職をマスターしたと知り、ミーアは喜びながら早速転職するかどうかを尋ねてくる。

もちろんライトは最初からそのつもりでここに来ているので、希望の職業を伝える。

一方ミーアはゲーム内でも必ず説明していた転職時の注意点を律儀に述べる。いや、これは律儀というよりもはや絶対的なマニュアルなのだろう。

ミーアは注意事項を一通り述べた後、ライトの職業変更の要望を聞き祭壇に向かう。

目を閉じて両手を組み合わせ両膝を折り跪き、祭壇に向かって敬虔な祈りを静かに捧げる。すると、巫女とライトの足元の床が淡く光り出し、徐々に強さを増していく。

初めて転職神殿を訪れてから、職業を得てランクアップする度にやってきたことと同じ流れである。

ライトは己の内に沸き起こる大きな力のうねりの流れに身を任せる。まだライトは一つしか四次職マスターしていないが、それでも何度経験しても不思議な感覚だ。

ライトを包んでいた淡い光が次第に消え、職業変更の儀式が完了したようだ。

素早さが高い斥候系の時には身体が軽く感じたが、魔法職である求道者になると今度は身の内に宿る魔力が心なしか増えているような気がする。ただし、その分物理系補正は低下しただろうが。

無事転職の儀を終えたライトとミーア。その場で一息つきながら軽い雑談を始める。

『今度は魔法職をお選びになったのですね』

「はい、魔法職の必中スキルを習得したくて【求道者】にしたんです。三次職まで進められれば必中スキル取れますし。……またすごく時間がかかりそうですけどね」

ライトが選んだ第二の職業【求道者】は魔法職で、様々な属性の魔法スキルを覚えることができる。

その中でも特筆すべきは求道者の光系三次職【水神楽師】の三つ目のスキル『氷水槍』である。

このスキルは放てば必ず敵に当たる、いわゆる必中技。ライトが既に得た斥候の必中スキル『手裏剣』と同等であり、その違いは攻撃属性が物理系か魔法系かだけである。

『時折レベルリセットすれば、習熟の修行も捗るのではないですか?』

「そうできたらいいんですけど……今ぼくが住んでいる家はこの神殿からものすごく遠くて、頻繁にここに通うのは難しいんですよねぇ」

『まぁ、そうなんですか……』

三次職ですら極めるのに時間がかかる、と苦笑しながら零すライトに、ミーアがレベルリセットのための転職を勧める。

素材集めのための魔物狩りなどで上がったレベルを1にリセットすれば、レベルアップによるSP回復の恩恵を再び得られる。

職業の習得度はSPを使用することで上がっていく。そのため、レベルが上がりにくくなったらリセットをする、これを繰り返すことで兎にも角にもひたすらSPを使い続けることが一番の早道なのだ。

もちろんライトとて、ゲームの知識としてそのことは熟知している。だが、今のライトの住環境を考えると現実的に難しかった。

ライトはこの旧教神殿跡地と呼ばれる場所に来るために、冒険者ギルドディーノ村出張所の転移門を使用している。その都度冒険者ギルドでクレアに会うので『何でディーノ村にこんなに頻繁に来るんですか?』などと怪しまれてもマズいのだ。

『そしたら、ヴァレリアさんに相談してみては如何ですか?』

「ヴァレリアさんに……ですか?」

『ええ、あの方なら何か良い案を出してくれるかもしれません』

「そうですね……どの道今日は四次職マスターして転職したから、ヴァレリアさんに会える日ですし」

かつてライトはこの転職神殿で冒険ストーリー中の重要なNPCであるヴァレリアと出会った。

そしてその時に彼女はこう言ったのだ。

「【常闇冥王】だけでなく、君が四次職をマスターする度にまたここで会おうじゃないか」

「君がここに来る度に、私は私の知る真実を君に伝えよう」

と。今日ライトがこの転職神殿に来たのは、新たな職業に変更するためだけでなくヴァレリアに会って彼女の知る真実を問うためでもあった。

『では、ヴァレリアさんを呼びましょうか…………って、あら? もうこちらに来ていらっしゃるようですね』

ミーアが空に向かってヴァレリアを呼ぼうとするが、ふと後ろを振り返る。

振り向いたミーアが向けた視線の先には、ヴァレリアが微笑みを浮かべながら立っていた。